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後悔
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気がつくと、裕貴は老婆の店のテーブル席に座り、テーブルに突っ伏していた。
朦朧とする意識の中、顔を上げる。視界に出入り口のガラス戸が入る。
ガラス戸の向こうの外は暗く、それよりも黒い人影が、外からガラス戸に両手をつき、張り付いて裕貴を見ている。
顔は見えないのに、それが分かる。
分かると、何だか不快が体に充満してきた。
人影の正体を確かめるために、裕貴は席を立とうとした。その時、
「裕貴、起きて!母さんが!」
すぐ耳元で大きな声がして、一気に目を覚ました。
裕貴は、駅のベンチに座っていた。
集落を歩いて下る途中、たまたま行き当たったバスに乗り、町までやって来た。それから電車に乗るため駅まで来て、切符を買わずに待合のベンチに座って考え込んでいると、眠気に襲われ眠ってしまった。
ポケットからスマホを取り出して時間を確認すると、現在夜10時13分。駅に着いたのは8時半頃。かなり眠っていたようだ。
周囲には、誰もいない。この駅に止まる電車も、もう無い。
駅員が帰る支度をしながら、裕貴に声をかける。
「あの、もうここに停車する電車はありませんが、どちらへお帰りですか?」
「あ、すいません。少しだけ休ませてもらうつもりが、休んでいたら眠ってしまったみたいで。こんな時間まですいません。失礼します。」
「いえ。それではお気をつけて。」
互いにお辞儀をして、裕貴は駅の外へ、駅員は帰り支度を進める。
裕貴はバスターミナルを歩きながら、自分の顔に指を這わす。目尻は下がり、口角が上がっている。
「好きで被ってるワケじゃねぇよ。チッ。」
いつからか、苦手だった笑顔が他人の前では無意識に作れるようになっていた。
裕貴は周囲を見回し、小さなバスターミナルの向こうにある、かろうじて営業中のコンビニへ向かう。
集落へ行くバスももう無い。タクシーを呼べば簡単だが、集落へ戻る気も、実家へ帰る気も無い。何だか、全てがどうでもよくなっていた。
その時、ポケットの中のスマホが鳴る。[巡査(若)]と表示が出ている。数秒迷ったが、後が面倒なので通話をスワイプする。
「もしもし。」
「裕貴くん!?今どこ!」
かなり緊迫した声に、裕貴は一瞬怯む。何かあったと確信したからだ。
「え・・えっと、町まで下りて来てます。」
「町ぃ!?何でそんなトコに!」
「あの、どうかしたん・・・」
「店で銀子さんが倒れてるんだ!」
「・・・・・・・・!?」
全身の血の気が、一気に引いていくのを感じた。巡査がまだ何か喋っているが、裕貴の耳には届かない。
「タ、タクシー呼んですぐに・・・!」
そう伝える裕貴の目の前に、タクシーが現れる。運転席には見慣れた男性がいて、安堵の色をみせる。
「良かった、見つかって。事情は聞いてるね?」
「あ・・はい。」
「行こう。早く乗って。」
「はい。今西島さんが来てくれました。これから向かいます。」
「マジか?良かったぁ~!じゃあなる早だよ!?」
「了解です。」
裕貴は自動で開いた後部座席に乗り込み、スマホをポケットに捻じ込む。
裕貴が乗り込んだ瞬間にドアを閉め、西島は車を急発進させる。
「すいません西島さん。手間を取らせてしまって。」
「いや。」
相変わらず寡黙な人間だが、いつもより緊張を帯びているのが裕貴に伝わる。
裕貴も、頭を掻いたり、せわしなく窓の外をキョロキョロと見回し、不安を隠せない。
「・・・俺のせいだ。」
小さく呟き、裕貴は力が入らない両手を重ねて拳を作る。
「・・・向こうで巡査が今対処してくれている。今君に出来ることはない。難しいだろうけど、状況に対応出来るよう冷静を保つんだ。いつもの君らしく。」
西島の言葉に従うように、目を瞑りゆっくり呼吸しながら、巡査からの電話を思い返す。
「・・・夜は誰も来ない。巡査は・・どうして店に来たんでしょう。」
「通報があったそうだ。[すくいや]という店に立ち寄ったら、そこの主人が倒れているのを発見したと。着信番号は店の番号。電話口の男性の身元を確認する前に切ったそうだ。」
「・・・出ていく前は元気だった。持病があるとも聞いてないし・・・。電話口の人は、身捨てでしょうか。」
「分からない。車道を歩いていて、店から大きな物音がすれば、あの静かな道なら人の耳にも届く。身捨てとは限らないだろう。」
「ですね・・・。」
裕貴は、膝の上の握り拳を見つめながら、冷静になるために更に考えを巡らす。
すると、一つの違和感に気づく。
「・・・西島さん。通報者は店の名前を言ったんですか?」
「ああ。」
「この時間は真っ暗で看板は見えません。昼間でも発見しづらいし、見つけても汚れていて字は読めない。地元の人でも、名前はある1部の高齢者しか知らないし、身捨てには明かさない決まりがあります。それに、こんな時間に年寄りが出歩く姿を、俺は見たことありません。」
「・・・・・・・。」
「・・なんか、変です。その通報者。」
「急ごう。」
「お願いします。巡査に連絡しておきます。」
『後悔』
タクシーは、1時間も経たずに崖へ到着した。店の前には、パトカーが1台停まっている。
裕貴はタクシーから飛び出して、店に向かって走っていく。
「裕貴くん!」
「どいて下さい!」
「ちょ、待った待った!」
「まだ中には入れねぇ。現場保持だ。」
若い巡査と権三が、身を挺して裕貴の行く手を遮る。
「そんな事より婆ちゃんは・・・ッ!」
裕貴は苛つき、若い巡査の肩に手をかける。その時、
「裕貴。」
左横の暗がりから、声をかけられた。そちらへ目をやると、丸椅子に腰掛ける老婆と、その足下にはういろうがいた。
裕貴は、若い巡査から手を離し、老婆を見つめる。
「テーブルの足に蹴躓いて転倒したんだって。」
「はぁ!?」
裕貴は目を剥いて若い巡査に詰め寄る。裕貴のリアクションに気圧され、若い巡査はしどろもどろで答える。
「えぇ!?い、いやだって駆けつけたら倒れてるんだも~ん・・・。そ、それにいつもいる裕貴くんはいないしさぁ~。テンパっちゃうでしょ~普通?」
「・・・取りあえず医者に診せに行きます。」
「あ、さっき村の先生に診てもらったから大丈夫!額にコブはあるけど、体は異常なし。」
「・・・そうですか。」
「連絡したかったんだけど、ちょうど電波途絶えちゃったみたいで繋がらなかったし、本部呼んだり色々と手配しなきゃならなくってさ~・・・」
「・・・・・・・。」
裕貴は無言で、老婆に近寄る。相変わらず、ういろうに唸られながらも、気にせず老婆の前に立つ。
「・・・何で戻ってきた。」
「それより・・・何があったの。」
「いや・・何もねぇよ。あたしは、この通りピンピンしとるし。お前さんがいなくても・・・」
突然、裕貴の体が老婆に覆い被さるように倒れ込んできた。
「おい・・どうした。なんだい急に。」
老婆は珍しく狼狽えて、裕貴を押し戻そうとするが、裕貴は老婆の背に手を回して離れない。
「何かあったんだね。」
「・・・・・・・。」
「俺だって少しは分かる。俺がいない間に通報があって、来たらお婆ちゃんが倒れてた。なのに、皆俺に少しも疑いの目を向けてない。」
「・・・カリビトが来たんだよ。」
「・・・・・・・!?」
「お前さんの予想は少し外れた。どうやら、少しの間眠らせることが出来るらしい。」
「ごめん・・・俺のせいだ。俺が離れたから・・・ごめん・・・。」
「・・・ばぁか。いたところで、今回はお手上げだったさ。かえってお前さんはここにいなくて良かった。無駄な血を流す事態に転じていたかもしれん。」
「・・一瞬だけど・・・死んだかと思った。」
「このあたしが?へへっ、そうはいくかよ。まだまだ、死ぬワケにゃあいかねぇんだよ。」
老婆は裕貴の背に何とか右手を回し、子をあやすように軽く叩く。
巡査と西島は、その光景を目にして、無言で2人から離れる。
「・・お婆ちゃん。」
「ん。」
「・・俺、ここにいたい。」
「・・・・・・・。」
「いい・・・?」
「・・・ついに、化けの皮を剥いだか。」
「・・多分、剥がれてると思う。」
老婆は小さく笑い、体を離して裕貴を見上げる。
「おかえり、裕貴。」
「・・ただいま。」
裕貴は、少し潤んだ目で老婆を見下ろし、自然な柔らかい笑みを浮かべる。
老婆は、満足げに頷きながら立ち上がり、腰に手を当てる。
「よし!じゃあ裕貴。説明は後にして頼みがある。」
「え?」
「蒼汰に至急連絡取れ。」
「・・蒼汰?」
「おそらく無事だろうが、念の為だ。こっちへ来れそうなら来るよう伝えてくれ。」
「・・分かった。」
裕貴は状況がイマイチ飲み込めないまま、スマホを取り出す。
「巡査達にはまだ蒼汰の名が挙がったことは伏せてある。連絡ついたら、あたしにこっそり教えろ。」
裕貴は蒼汰の番号を電話帳で探しながら聞く。
「蒼汰が何か関わってるの?」
「ああ。ハッタリじゃあなさそうだったんでね。おーい巡査!せめて奥の部屋の荷物だけでも持ってきたいんだが・・・。」
老婆は店から離れ、巡査達を引きつけるように彼らへ近づく。そのスキに、裕貴は蒼汰に連絡する。
2度かけたが、すぐに留守電に切り替わる。
「・・もしもし、裕貴だけど。今夜中に折り返し連絡いれねぇと、お前の店にガサ入れが入ることになる。お兄ちゃんの言うこと、ちゃんと聞こうな。」
裕貴はメッセージを入れて切った。
「そろそろ本部が来る頃なんで、もうちょっと・・・」
「何だい。ケチくさい。ここはあたしの店だぞ。主人が何で入れねぇんだ。」
「ワン!」
「ホラ、ういろうもそう言ってんだろ。」
「う・・ういろう?」
「どこで拾って来やがったんだぁ?銀さん。」
「あ?知り合いの犬だよ。あたしの耳代わりだ。それどころか・・・」
「お婆ちゃん、あんまり困らせんなよ。」
「どうせ鑑識入れたって何も出ねぇよ。アイツはなかなか周到だ。」
「だとしても、指名手配犯が現れたんだ。本部に連絡して現場を見せるのが筋なんだよ。」
「あ~はいはいはい。何でもいいから、さっさと済ませとくれ。こうしょっ中店前でサツが騒いじゃあ、商売あがったりだよ。」
「はいはい、早急に片付くよう努力しますよ。」
「チッ。」
老婆は権三に舌打ちしてみせて、丸椅子へ戻る。その後を、ういろうと裕貴がついて行く。
「で、連絡ついたかい。」
「繋がらないから、かけ直すよう留守電入れといた。」
「シカトこいたりしないだろね。」
「多分。数年前までの蒼汰は俺の言うことはちゃんと聞く弟だったよ。」
「そんなに会ってないのか?」
「お互い住む世界が違うから。それより、まだ時間かかりそうだから説明してよ。」
「・・さぁて、お前さんが首を突っ込んでいいものかどうか・・・。」
「なんだよ、今更。」
「どうやら、カリビトはお前さんに会いたいようだ。」
「・・ふーん。」
「それと、伝言を頼まれた。蒼汰につきまとうなって伝えろと。」
「それって、蒼汰がカリビトにつきまとってるってこと?その反対じゃなく?」
「どうやら、そうらしい。」
「そこまで言っといて、関わるなっての?蒼汰が関わってんなら、尚更ほっとけねぇ。」
「カリビトとあたしらの思想は相反する。ヤツは、人間が死ぬのを見るのが楽しいと言った。次に会ったらどちらも無事で済むかどうか・・・あたしには見当もつかん。だから、どうしても関わるというなら、約束しな。」
「なに。」
「あたしたちの仕事は、すくいやだ。決して、人の命を奪っちゃいけない。ヤツと接触したら、自首の説得か通報して逮捕だ。一線は越えるな。」
「・・相手が襲いかかってきたら?」
「あたしは、人の命を奪っちゃいけないと言ったんだよ、裕貴。自首を説得する方法は、何も言葉をかけるだけじゃない。」
「ああ、なるほど。分かったよ、約束する。」
「ちょっとすいませーん。」
「ん。」
「権三先輩が、一応銀子さん達の家も確認した方がいいって言うんで、一緒に確認に来てもらえます?」
「パトカーでかい?流石に近所の目があるだろ。」
「いや~しかし、カリビトが付近に潜伏していたら、犯行抑止にもなりますし。それと、本部が到着しても何かと時間がかかりますから、その間自宅待機していた方が2人とも気楽だろうと、権三先輩の配慮っす。」
「・・まぁ、騒がしい中座ってるよりマシか。だがあたしから聴取しないのか?」
「本部の者には、自分達から話しておきますから。ぶっちゃけ・・・銀子さん達の事は、こちらとしてもあまり掘り下げて聞かれたくないもので・・・。ハハハ。上手く言っておきます!」
「ああ、なるほどね。なら、トンズラしよう。西島、まだいるかい?」
「はい。」
「悪いが、帰りがてら家まで送ってくれるかい。」
「分かりました。」
「え?いいっスよ俺が・・・」
「あんたは、権三としっかり打ち合わせしときな。本部が相手だろ?ちゃんと口裏合わせねぇと隙見せたら深読みされんぞ。」
「あ・・まぁ・・確かに。西島さんが一緒なら安心か。では自分は、全て終わったら迎えに伺います。西島さん、よろしくお願いします!」
若い巡査は、西島に敬礼し、権三のもとへ戻る。
西島は、2人とういろうを連れてタクシーで老婆の家へ向かう。
「わざわざすまなかったね。」
「いえ、仕事ですから。」
「どうもすいませんでした。」
「気にすることない。銀子さんも犬も無事だった。それで充分。」
「はい・・・。」
「カリビトも、お前さんと同じでういろうに嫌われとった。というより、ういろうは怖がってたよ。」
「怖がる?」
「それでも、あたしを守ろうとしてくれた。危険手当て出してやらんとな?」
そう言って、老婆は抱っこしているういろうの頭を撫でると、嬉しそうに舌を出す。
「勇敢だな。ありがとう。」
ういろうは、黙ってじっと裕貴を見つめる。裕貴が笑顔で手を近づけると、小さく唸り出す。
「ゥゥ・・・」
「いけると思ったけど・・やっぱり駄目か。」
「ハッハッハッ、まだまだダメだ。美代子にも連絡して、明日にでもういろうは帰そう。ちと、負担が大きすぎた。」
「明日は、俺がしっかり見張るよ。お婆ちゃんがさっき座ってた所、簾のおかげで車道からも崖に向かう道からも死角になりそうだし。」
「そうだな。」
裕貴と老婆が会話中、西島は何も言わず運転していた。普段から寡黙で、自分の職務以外に口を出すことが無い。今日は珍しく話した方だ。
老婆と話しながら、裕貴がミラー越しに西島に目をやると、微笑ましそうな表情を浮かべていた。
そして、その隣りの助手席には・・・。
老婆の家に到着すると、西島は車内から家の周りを確認する。先程と違い、鋭い視線を辺りに注いでいる。
そして、エンジンは切らず先に車の外へ出て、もう一度周囲を確認する。
それから、後部座席の扉を開いた。
「ありがとよ。」
「何か・・・SPみたいですね。西島さん。」
「[元]な。」
「え・・・マジですか?え?」
そう告げて、西島は先頭をきって老婆の家へ向かう。
玄関扉、縁側、裏庭を確認し、問題なしと老婆に頷いてみせる。
「そこまでしなくて平気だよ。ういろうが落ち着いてるだろ。」
「念には念をです。家の中でもご注意を。」
「あいよ。」
そう言って、老婆は鍵を取り出し、いつも通り玄関扉の鍵を開け、中に入る。抱っこしているういろうを降ろして、靴を脱ぐ。
その横を素早く靴を脱いで通り過ぎ、裕貴は全ての部屋の明かりを付けていく。
家の中も特に変わりはない。
西島も確認し、玄関へ戻る。
「では、これで失礼します。巡査にはこちらから報告しておきます。」
「少し休んでかないか。」
「いえ。」
「そうか。これ、よかったら坊主に。」
老婆は、スナック菓子を差し出す。西島は、少しためらう。
「しかし・・・」
「気にするな。友人の息子へちょっとした土産だ。そんなもん、誰だってやってんだろ。」
「・・はい。いただきます。」
そう言って、西島は庭に出て車へ戻る
。その後を追って、裕貴が庭に出てきた。
「あ、あの。」
「どうした。」
「ちょっと、伝えておきたいことがありまして。」
「・・・・・・・?」
「実は、前から気になっていたんですけど、西島さんの車の助手席に、三毛猫の男の子が乗っているんです。」
「・・・・・・・。」
「三毛猫って殆どがメスで、オスの三毛猫が生まれるのはごく稀なんです。」
「・・・そうなのか。」
「さっき車内で問いかけてみたんですけど、何も答えませんでした。でも、何だかいつも幸せそうに西島さんの車に乗っていて、何かいいなって思ってました。きっと、未練とか伝えたいことがあるからいるわけじゃなくて、西島さんと一緒にいたいからいるんだと思います。」
裕貴が笑顔で告げると、西島はうつむき加減で言う。
「・・・名前は無いんだ。」
「・・そうなんですか。」
「昔、道で弱っていたから、拾って病院へ連れて行こうとしたんだ。到着前に急な仕事が入って・・・そっちを優先した。そのせいで死んだんだ。」
裕貴は、かける言葉が浮かばず困惑する。
「その日、2つの命を失った。だから、悔いの無い行動を取るようにしている。」
「・・・すいません。」
「なんで謝るんだよ。アイツがまだあの車に乗ってるのか。それが分かって良かった。」
そう言って、西島は裕貴に笑いかけるが、裕貴は口にしたことを後悔して押し黙る。
「・・・・・・・。」
「良い力だな、裕貴くんの力は。死んだ動物が見えるなんて、どれ程辛いものなんだろうと思っていたが、使いようによっては、人も動物も幸せにできるんだな。」
「いえ、そんな大したことは・・・」
「もっと自信を持て。これはただの個人的願望だが、裕貴くんにはこの仕事を続けてほしい。」
「・・・・・・・。」
「じゃあ。」
そう言って、西島は運転席の扉を開ける。
「西島さん。」
裕貴に声をかけられ、西島は振り返る。
「西島さんて、寡黙な割に人たらしですね。」
「・・そうか?」
「だから、裕貴でいいですよ。おやすみなさい。」
そう一方的に裕貴は話を切りあげて、家の中へ入る。
残された西島は、笑みを浮かべながら首をかしげる。
「だからって何だよ。」
そして車に乗り込んで、シートベルトを着用してから、助手席のシートを見下ろす。
「じゃあ帰るか。ミケ。」
シートにいるであろうソレをそう名付けて、林道を下りていった。
朦朧とする意識の中、顔を上げる。視界に出入り口のガラス戸が入る。
ガラス戸の向こうの外は暗く、それよりも黒い人影が、外からガラス戸に両手をつき、張り付いて裕貴を見ている。
顔は見えないのに、それが分かる。
分かると、何だか不快が体に充満してきた。
人影の正体を確かめるために、裕貴は席を立とうとした。その時、
「裕貴、起きて!母さんが!」
すぐ耳元で大きな声がして、一気に目を覚ました。
裕貴は、駅のベンチに座っていた。
集落を歩いて下る途中、たまたま行き当たったバスに乗り、町までやって来た。それから電車に乗るため駅まで来て、切符を買わずに待合のベンチに座って考え込んでいると、眠気に襲われ眠ってしまった。
ポケットからスマホを取り出して時間を確認すると、現在夜10時13分。駅に着いたのは8時半頃。かなり眠っていたようだ。
周囲には、誰もいない。この駅に止まる電車も、もう無い。
駅員が帰る支度をしながら、裕貴に声をかける。
「あの、もうここに停車する電車はありませんが、どちらへお帰りですか?」
「あ、すいません。少しだけ休ませてもらうつもりが、休んでいたら眠ってしまったみたいで。こんな時間まですいません。失礼します。」
「いえ。それではお気をつけて。」
互いにお辞儀をして、裕貴は駅の外へ、駅員は帰り支度を進める。
裕貴はバスターミナルを歩きながら、自分の顔に指を這わす。目尻は下がり、口角が上がっている。
「好きで被ってるワケじゃねぇよ。チッ。」
いつからか、苦手だった笑顔が他人の前では無意識に作れるようになっていた。
裕貴は周囲を見回し、小さなバスターミナルの向こうにある、かろうじて営業中のコンビニへ向かう。
集落へ行くバスももう無い。タクシーを呼べば簡単だが、集落へ戻る気も、実家へ帰る気も無い。何だか、全てがどうでもよくなっていた。
その時、ポケットの中のスマホが鳴る。[巡査(若)]と表示が出ている。数秒迷ったが、後が面倒なので通話をスワイプする。
「もしもし。」
「裕貴くん!?今どこ!」
かなり緊迫した声に、裕貴は一瞬怯む。何かあったと確信したからだ。
「え・・えっと、町まで下りて来てます。」
「町ぃ!?何でそんなトコに!」
「あの、どうかしたん・・・」
「店で銀子さんが倒れてるんだ!」
「・・・・・・・・!?」
全身の血の気が、一気に引いていくのを感じた。巡査がまだ何か喋っているが、裕貴の耳には届かない。
「タ、タクシー呼んですぐに・・・!」
そう伝える裕貴の目の前に、タクシーが現れる。運転席には見慣れた男性がいて、安堵の色をみせる。
「良かった、見つかって。事情は聞いてるね?」
「あ・・はい。」
「行こう。早く乗って。」
「はい。今西島さんが来てくれました。これから向かいます。」
「マジか?良かったぁ~!じゃあなる早だよ!?」
「了解です。」
裕貴は自動で開いた後部座席に乗り込み、スマホをポケットに捻じ込む。
裕貴が乗り込んだ瞬間にドアを閉め、西島は車を急発進させる。
「すいません西島さん。手間を取らせてしまって。」
「いや。」
相変わらず寡黙な人間だが、いつもより緊張を帯びているのが裕貴に伝わる。
裕貴も、頭を掻いたり、せわしなく窓の外をキョロキョロと見回し、不安を隠せない。
「・・・俺のせいだ。」
小さく呟き、裕貴は力が入らない両手を重ねて拳を作る。
「・・・向こうで巡査が今対処してくれている。今君に出来ることはない。難しいだろうけど、状況に対応出来るよう冷静を保つんだ。いつもの君らしく。」
西島の言葉に従うように、目を瞑りゆっくり呼吸しながら、巡査からの電話を思い返す。
「・・・夜は誰も来ない。巡査は・・どうして店に来たんでしょう。」
「通報があったそうだ。[すくいや]という店に立ち寄ったら、そこの主人が倒れているのを発見したと。着信番号は店の番号。電話口の男性の身元を確認する前に切ったそうだ。」
「・・・出ていく前は元気だった。持病があるとも聞いてないし・・・。電話口の人は、身捨てでしょうか。」
「分からない。車道を歩いていて、店から大きな物音がすれば、あの静かな道なら人の耳にも届く。身捨てとは限らないだろう。」
「ですね・・・。」
裕貴は、膝の上の握り拳を見つめながら、冷静になるために更に考えを巡らす。
すると、一つの違和感に気づく。
「・・・西島さん。通報者は店の名前を言ったんですか?」
「ああ。」
「この時間は真っ暗で看板は見えません。昼間でも発見しづらいし、見つけても汚れていて字は読めない。地元の人でも、名前はある1部の高齢者しか知らないし、身捨てには明かさない決まりがあります。それに、こんな時間に年寄りが出歩く姿を、俺は見たことありません。」
「・・・・・・・。」
「・・なんか、変です。その通報者。」
「急ごう。」
「お願いします。巡査に連絡しておきます。」
『後悔』
タクシーは、1時間も経たずに崖へ到着した。店の前には、パトカーが1台停まっている。
裕貴はタクシーから飛び出して、店に向かって走っていく。
「裕貴くん!」
「どいて下さい!」
「ちょ、待った待った!」
「まだ中には入れねぇ。現場保持だ。」
若い巡査と権三が、身を挺して裕貴の行く手を遮る。
「そんな事より婆ちゃんは・・・ッ!」
裕貴は苛つき、若い巡査の肩に手をかける。その時、
「裕貴。」
左横の暗がりから、声をかけられた。そちらへ目をやると、丸椅子に腰掛ける老婆と、その足下にはういろうがいた。
裕貴は、若い巡査から手を離し、老婆を見つめる。
「テーブルの足に蹴躓いて転倒したんだって。」
「はぁ!?」
裕貴は目を剥いて若い巡査に詰め寄る。裕貴のリアクションに気圧され、若い巡査はしどろもどろで答える。
「えぇ!?い、いやだって駆けつけたら倒れてるんだも~ん・・・。そ、それにいつもいる裕貴くんはいないしさぁ~。テンパっちゃうでしょ~普通?」
「・・・取りあえず医者に診せに行きます。」
「あ、さっき村の先生に診てもらったから大丈夫!額にコブはあるけど、体は異常なし。」
「・・・そうですか。」
「連絡したかったんだけど、ちょうど電波途絶えちゃったみたいで繋がらなかったし、本部呼んだり色々と手配しなきゃならなくってさ~・・・」
「・・・・・・・。」
裕貴は無言で、老婆に近寄る。相変わらず、ういろうに唸られながらも、気にせず老婆の前に立つ。
「・・・何で戻ってきた。」
「それより・・・何があったの。」
「いや・・何もねぇよ。あたしは、この通りピンピンしとるし。お前さんがいなくても・・・」
突然、裕貴の体が老婆に覆い被さるように倒れ込んできた。
「おい・・どうした。なんだい急に。」
老婆は珍しく狼狽えて、裕貴を押し戻そうとするが、裕貴は老婆の背に手を回して離れない。
「何かあったんだね。」
「・・・・・・・。」
「俺だって少しは分かる。俺がいない間に通報があって、来たらお婆ちゃんが倒れてた。なのに、皆俺に少しも疑いの目を向けてない。」
「・・・カリビトが来たんだよ。」
「・・・・・・・!?」
「お前さんの予想は少し外れた。どうやら、少しの間眠らせることが出来るらしい。」
「ごめん・・・俺のせいだ。俺が離れたから・・・ごめん・・・。」
「・・・ばぁか。いたところで、今回はお手上げだったさ。かえってお前さんはここにいなくて良かった。無駄な血を流す事態に転じていたかもしれん。」
「・・一瞬だけど・・・死んだかと思った。」
「このあたしが?へへっ、そうはいくかよ。まだまだ、死ぬワケにゃあいかねぇんだよ。」
老婆は裕貴の背に何とか右手を回し、子をあやすように軽く叩く。
巡査と西島は、その光景を目にして、無言で2人から離れる。
「・・お婆ちゃん。」
「ん。」
「・・俺、ここにいたい。」
「・・・・・・・。」
「いい・・・?」
「・・・ついに、化けの皮を剥いだか。」
「・・多分、剥がれてると思う。」
老婆は小さく笑い、体を離して裕貴を見上げる。
「おかえり、裕貴。」
「・・ただいま。」
裕貴は、少し潤んだ目で老婆を見下ろし、自然な柔らかい笑みを浮かべる。
老婆は、満足げに頷きながら立ち上がり、腰に手を当てる。
「よし!じゃあ裕貴。説明は後にして頼みがある。」
「え?」
「蒼汰に至急連絡取れ。」
「・・蒼汰?」
「おそらく無事だろうが、念の為だ。こっちへ来れそうなら来るよう伝えてくれ。」
「・・分かった。」
裕貴は状況がイマイチ飲み込めないまま、スマホを取り出す。
「巡査達にはまだ蒼汰の名が挙がったことは伏せてある。連絡ついたら、あたしにこっそり教えろ。」
裕貴は蒼汰の番号を電話帳で探しながら聞く。
「蒼汰が何か関わってるの?」
「ああ。ハッタリじゃあなさそうだったんでね。おーい巡査!せめて奥の部屋の荷物だけでも持ってきたいんだが・・・。」
老婆は店から離れ、巡査達を引きつけるように彼らへ近づく。そのスキに、裕貴は蒼汰に連絡する。
2度かけたが、すぐに留守電に切り替わる。
「・・もしもし、裕貴だけど。今夜中に折り返し連絡いれねぇと、お前の店にガサ入れが入ることになる。お兄ちゃんの言うこと、ちゃんと聞こうな。」
裕貴はメッセージを入れて切った。
「そろそろ本部が来る頃なんで、もうちょっと・・・」
「何だい。ケチくさい。ここはあたしの店だぞ。主人が何で入れねぇんだ。」
「ワン!」
「ホラ、ういろうもそう言ってんだろ。」
「う・・ういろう?」
「どこで拾って来やがったんだぁ?銀さん。」
「あ?知り合いの犬だよ。あたしの耳代わりだ。それどころか・・・」
「お婆ちゃん、あんまり困らせんなよ。」
「どうせ鑑識入れたって何も出ねぇよ。アイツはなかなか周到だ。」
「だとしても、指名手配犯が現れたんだ。本部に連絡して現場を見せるのが筋なんだよ。」
「あ~はいはいはい。何でもいいから、さっさと済ませとくれ。こうしょっ中店前でサツが騒いじゃあ、商売あがったりだよ。」
「はいはい、早急に片付くよう努力しますよ。」
「チッ。」
老婆は権三に舌打ちしてみせて、丸椅子へ戻る。その後を、ういろうと裕貴がついて行く。
「で、連絡ついたかい。」
「繋がらないから、かけ直すよう留守電入れといた。」
「シカトこいたりしないだろね。」
「多分。数年前までの蒼汰は俺の言うことはちゃんと聞く弟だったよ。」
「そんなに会ってないのか?」
「お互い住む世界が違うから。それより、まだ時間かかりそうだから説明してよ。」
「・・さぁて、お前さんが首を突っ込んでいいものかどうか・・・。」
「なんだよ、今更。」
「どうやら、カリビトはお前さんに会いたいようだ。」
「・・ふーん。」
「それと、伝言を頼まれた。蒼汰につきまとうなって伝えろと。」
「それって、蒼汰がカリビトにつきまとってるってこと?その反対じゃなく?」
「どうやら、そうらしい。」
「そこまで言っといて、関わるなっての?蒼汰が関わってんなら、尚更ほっとけねぇ。」
「カリビトとあたしらの思想は相反する。ヤツは、人間が死ぬのを見るのが楽しいと言った。次に会ったらどちらも無事で済むかどうか・・・あたしには見当もつかん。だから、どうしても関わるというなら、約束しな。」
「なに。」
「あたしたちの仕事は、すくいやだ。決して、人の命を奪っちゃいけない。ヤツと接触したら、自首の説得か通報して逮捕だ。一線は越えるな。」
「・・相手が襲いかかってきたら?」
「あたしは、人の命を奪っちゃいけないと言ったんだよ、裕貴。自首を説得する方法は、何も言葉をかけるだけじゃない。」
「ああ、なるほど。分かったよ、約束する。」
「ちょっとすいませーん。」
「ん。」
「権三先輩が、一応銀子さん達の家も確認した方がいいって言うんで、一緒に確認に来てもらえます?」
「パトカーでかい?流石に近所の目があるだろ。」
「いや~しかし、カリビトが付近に潜伏していたら、犯行抑止にもなりますし。それと、本部が到着しても何かと時間がかかりますから、その間自宅待機していた方が2人とも気楽だろうと、権三先輩の配慮っす。」
「・・まぁ、騒がしい中座ってるよりマシか。だがあたしから聴取しないのか?」
「本部の者には、自分達から話しておきますから。ぶっちゃけ・・・銀子さん達の事は、こちらとしてもあまり掘り下げて聞かれたくないもので・・・。ハハハ。上手く言っておきます!」
「ああ、なるほどね。なら、トンズラしよう。西島、まだいるかい?」
「はい。」
「悪いが、帰りがてら家まで送ってくれるかい。」
「分かりました。」
「え?いいっスよ俺が・・・」
「あんたは、権三としっかり打ち合わせしときな。本部が相手だろ?ちゃんと口裏合わせねぇと隙見せたら深読みされんぞ。」
「あ・・まぁ・・確かに。西島さんが一緒なら安心か。では自分は、全て終わったら迎えに伺います。西島さん、よろしくお願いします!」
若い巡査は、西島に敬礼し、権三のもとへ戻る。
西島は、2人とういろうを連れてタクシーで老婆の家へ向かう。
「わざわざすまなかったね。」
「いえ、仕事ですから。」
「どうもすいませんでした。」
「気にすることない。銀子さんも犬も無事だった。それで充分。」
「はい・・・。」
「カリビトも、お前さんと同じでういろうに嫌われとった。というより、ういろうは怖がってたよ。」
「怖がる?」
「それでも、あたしを守ろうとしてくれた。危険手当て出してやらんとな?」
そう言って、老婆は抱っこしているういろうの頭を撫でると、嬉しそうに舌を出す。
「勇敢だな。ありがとう。」
ういろうは、黙ってじっと裕貴を見つめる。裕貴が笑顔で手を近づけると、小さく唸り出す。
「ゥゥ・・・」
「いけると思ったけど・・やっぱり駄目か。」
「ハッハッハッ、まだまだダメだ。美代子にも連絡して、明日にでもういろうは帰そう。ちと、負担が大きすぎた。」
「明日は、俺がしっかり見張るよ。お婆ちゃんがさっき座ってた所、簾のおかげで車道からも崖に向かう道からも死角になりそうだし。」
「そうだな。」
裕貴と老婆が会話中、西島は何も言わず運転していた。普段から寡黙で、自分の職務以外に口を出すことが無い。今日は珍しく話した方だ。
老婆と話しながら、裕貴がミラー越しに西島に目をやると、微笑ましそうな表情を浮かべていた。
そして、その隣りの助手席には・・・。
老婆の家に到着すると、西島は車内から家の周りを確認する。先程と違い、鋭い視線を辺りに注いでいる。
そして、エンジンは切らず先に車の外へ出て、もう一度周囲を確認する。
それから、後部座席の扉を開いた。
「ありがとよ。」
「何か・・・SPみたいですね。西島さん。」
「[元]な。」
「え・・・マジですか?え?」
そう告げて、西島は先頭をきって老婆の家へ向かう。
玄関扉、縁側、裏庭を確認し、問題なしと老婆に頷いてみせる。
「そこまでしなくて平気だよ。ういろうが落ち着いてるだろ。」
「念には念をです。家の中でもご注意を。」
「あいよ。」
そう言って、老婆は鍵を取り出し、いつも通り玄関扉の鍵を開け、中に入る。抱っこしているういろうを降ろして、靴を脱ぐ。
その横を素早く靴を脱いで通り過ぎ、裕貴は全ての部屋の明かりを付けていく。
家の中も特に変わりはない。
西島も確認し、玄関へ戻る。
「では、これで失礼します。巡査にはこちらから報告しておきます。」
「少し休んでかないか。」
「いえ。」
「そうか。これ、よかったら坊主に。」
老婆は、スナック菓子を差し出す。西島は、少しためらう。
「しかし・・・」
「気にするな。友人の息子へちょっとした土産だ。そんなもん、誰だってやってんだろ。」
「・・はい。いただきます。」
そう言って、西島は庭に出て車へ戻る
。その後を追って、裕貴が庭に出てきた。
「あ、あの。」
「どうした。」
「ちょっと、伝えておきたいことがありまして。」
「・・・・・・・?」
「実は、前から気になっていたんですけど、西島さんの車の助手席に、三毛猫の男の子が乗っているんです。」
「・・・・・・・。」
「三毛猫って殆どがメスで、オスの三毛猫が生まれるのはごく稀なんです。」
「・・・そうなのか。」
「さっき車内で問いかけてみたんですけど、何も答えませんでした。でも、何だかいつも幸せそうに西島さんの車に乗っていて、何かいいなって思ってました。きっと、未練とか伝えたいことがあるからいるわけじゃなくて、西島さんと一緒にいたいからいるんだと思います。」
裕貴が笑顔で告げると、西島はうつむき加減で言う。
「・・・名前は無いんだ。」
「・・そうなんですか。」
「昔、道で弱っていたから、拾って病院へ連れて行こうとしたんだ。到着前に急な仕事が入って・・・そっちを優先した。そのせいで死んだんだ。」
裕貴は、かける言葉が浮かばず困惑する。
「その日、2つの命を失った。だから、悔いの無い行動を取るようにしている。」
「・・・すいません。」
「なんで謝るんだよ。アイツがまだあの車に乗ってるのか。それが分かって良かった。」
そう言って、西島は裕貴に笑いかけるが、裕貴は口にしたことを後悔して押し黙る。
「・・・・・・・。」
「良い力だな、裕貴くんの力は。死んだ動物が見えるなんて、どれ程辛いものなんだろうと思っていたが、使いようによっては、人も動物も幸せにできるんだな。」
「いえ、そんな大したことは・・・」
「もっと自信を持て。これはただの個人的願望だが、裕貴くんにはこの仕事を続けてほしい。」
「・・・・・・・。」
「じゃあ。」
そう言って、西島は運転席の扉を開ける。
「西島さん。」
裕貴に声をかけられ、西島は振り返る。
「西島さんて、寡黙な割に人たらしですね。」
「・・そうか?」
「だから、裕貴でいいですよ。おやすみなさい。」
そう一方的に裕貴は話を切りあげて、家の中へ入る。
残された西島は、笑みを浮かべながら首をかしげる。
「だからって何だよ。」
そして車に乗り込んで、シートベルトを着用してから、助手席のシートを見下ろす。
「じゃあ帰るか。ミケ。」
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