両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜

コレゼン

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第3章 暗黒世界編

第33話 暗黒世界

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 気がつくとそこは真っ白な世界。
 地面も空も白い。
 突然の見知らぬ風景と場所に驚く。
 一体どこだここは?

 俺は確か……そう、いつものように依頼を今日もこなして、そして寝床に入って寝たはず。
 という事はここは夢か?

 ほっぺたを引っ張ってみる。
 うん、普通に痛い。
 それに夢だとしたら現実感が強すぎる。
 触覚、視覚、いづれも現実感覚だ。

「……ランス……ランス……」

 どこからか俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
 俺はビクッとする。

「誰だ?」

 聞き覚えのない声だ。
 俺は質問で返答する。
 警戒感が強まる。

「よかった、うまく繋がれたみたい。ちょっとまって下さいね」
「繋がれた? 一体どういう事……」

 俺が問いただそうとすると目の前に突然美しい女性が現れた。
 白のドレスにその肢体を包み、金髪の長髪に透き通るような白い肌。
 なんとも形容がしがたい程の美しさだ。

「誰だ……? あんた?」

 見覚えのない人物だ。
 こんな美人、今まであっていたら絶対に覚えているはず。
 ただ彼女は俺のことを知っているみたいだ。
 美人相手という事で俺の警戒ゲージは急激に下がった。

「私はアテネです。…………お気づきになりませんか?」
「アテネ? ……いや、ごめん、分からないや」
「神聖教徒協会の……と言えば、分かりますかね……」

 神聖教徒協会のアテネ…………まさか……女神アテネ様?
 そう言えば、女神像はこんな姿形だったような気もするが……。

「女神様? という事はこの真っ白な世界はどこかの異空間……?」
「はい、あなたに伝えたい事がありましたのでこの夢世界に誘導させてもらいました」
「伝えたい事?」

 そう俺が疑問を呈すると女神は両手を何もない空間にかざす。
 するとそこに現実世界の風景が簡易スクリーンのように現れた。

「現実世界を覆う黒雲と闇の力が増した事により魔物の強さが上がった事と凶暴化。これらはいずれも原因がまだ分かっていません」

 女神はスクリーンに映し出された現実世界を眺めながら話す。
 神様でも分からない事があるんだな。

「この現状を打開する手段として光の力を強める必要がありますが、残念な事に世界の我々光の勢力の心臓部とも言うべき世界樹。それすらも今、闇の勢力の手に落ちてしまっています」

 世界樹は今いるカラカス地方から南東方向の海を隔てた別大陸にある聖域だった。
 すぐ近くにエルフの里があり、古くよりエルフたちによって世界樹は守れているはずだったが、そこすら闇の勢力に侵食されてしまっているのか。
 思ったよりも事態は深刻なようだ。

「ランス、世界樹まで行って、闇の勢力を打ち倒し、世界樹を闇の勢力から解放してください。それができればこの世界を覆っている黒雲を、世界樹を中心とした光の力で打ち払えるかもしれません」
「そのお願い自体はいいんだけど…………なんで俺に?」
「………………」

 女神は俺のその質問にはすぐには答えず、空間に写していた現実世界のスクリーンを消した。

「それについては、近々あなたにその理由を伝えるものが現れるでしょう。それでは頼みましたよランス……」

 そういうと女神は徐々に半透明になり、消えていく。

「お、おい! 近々理由を伝えるものが現れるって……」

 肝心の理由が聞けていない。
 俺は必死になってそれを引き留めようとするが。
 気がつくとそこは宿屋のベットの上で、俺は無意識に起き上がり右手を前方に伸ばしていた。
 夢世界の中でそうして引き留めようとしていたのと同じように。

 俺は少しの間、ボーっとする。

 ドタドタドターーッ!

 何者かが宿屋の階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
 時刻はまだ朝も早い。迷惑だなー、一体誰だろうと思っていると――

「ランスさん! 魔物が領内に侵入しました! 討伐お願いします!」

 一人の女性が俺の部屋のドアを開けて慌てた様子で言う。
 急いでいるのは分かるがノックくらいはして欲しい。
 俺は剣を携え現場に急行する。




「ああ、ランス急行してくれたのね、ありがとう。みんな被害状況は?」

 俺は魔物の血がついた剣を宙で一振り、二振り。
 交差させるように振った後に鞘へと剣を収める。

 後は駆けつけたクリスティンが討伐の後処理、被害状況など取りまとめてくれるだろう。
 俺は冒険者ギルドへ討伐の報告をしに行く事にする。


 世界が黒雲に覆われた、その翌日。
 黒雲の原因が分からず、世界中の人々が不安に思っていた中。
 世界中で大災害と呼ばれるスタンビートが一斉に発生した。

 そのスタンビートによりエデンバラ王国は滅亡する事になった。
 俺たちも交戦はしたが、あまりにも多いその魔物の数に焼け石に水。
 魔物自体も暗黒世界の闇の力により前よりも強くなり、凶暴化していたのもきつかった。
 王国の軍隊は全滅。逃げ遅れた人々を含め多くの人命が失われた。
 そんな王都は今では魔物の巣となってしまっている。

 そんな状況で俺たちはカラカス都市へと避難。
 カラカス都市もスタンビートの被害を受けてはいたが、王都に比べるとましなレベルで魔物たちも王都と違い、領内に留まるという事はなかったみたいだった。

 だがカラカス地方の領主、ジェラルド = エデンバラを中心とした王侯貴族は、スタンビートにより皆その命を落としていた。
 指導者がいなくなったカラカス地方に戻ったクリスティンは最上位貴族という事で指導者として活躍する事になる。
 クリスティンはその手腕を発揮し、世界が暗黒世界に変わっておよそ3ヶ月程が経過した今では、カラカス都市は近隣のセーフゾーンとして機能していた。

 道端には暗い目をした浮浪者たちが散見される。
 大災害の後、多くの人が仕事を失ったり、身近な大切な人を失う事によって、生きる希望を失った人々を多く生んだのだった。
 空を見上げると世界は黒雲に包まれている。
 本来太陽の光に照らされているこの時間帯であっても薄暗いこの現状。
 このままでは穀物も中々育たないだろう。
 なんとかしないと人々の心も体ももたなくなる。


 冒険者ギルドに着く。

 朝早くにも関わらず多くの人で賑わっている。
 この盛況ぶりには理由があった。

 今までは護衛をつける必要がなかったが商路も暗黒世界になった為、魔物が活発化し護衛つける必要が出てきた。
 また今まで魔物はほとんどが森や自分たちの住処近辺だけを行動範囲としていたが、凶暴化しており、自ら領内に入ってきて危害を及ぼす魔物なども発生している。
 そんな事が要因で冒険者は今、一番必要とされ、また一番足りていない職業となっていた。

「リース、領内に侵入した魔物討伐してきたよ」
「あっ、ランスさんお疲れさまです。ダークサーペントの討伐ですね。それでは報酬はこちらになります」
「ありがとう、それじゃ」

 軽く挨拶を交わして、さて、じゃあ朝食でもとりにいこうかと思ったその時。

「おい、ランス」

 そこには暗黒世界後、世界の状況を確認するために旅立っていたベイリーの姿があった。
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