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第37話 帰りの馬車

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「それであの吸命樹ヤグドラシルを倒したのは、どんな魔法なの?」

 アデルは俺に体を密着させながら聞いてくる。
 フェリシアは近くでシエナを抱きながら、こちらを様子を眉をピクピクさせながら伺っていた。

「あれは災厄の雨カタストロフィックレインって言って」
「うんうん」

 アデルは自身の手を俺の手に重ねてきた。

「ちょっとぉ!」
「何よ!」

 フェリシアの物言いが入る。

「体、密着させすぎなんじゃない? ユウに魔法聞きたいだけならそんなに近づく必要はないでしょ!」
「別に良いじゃない。ユウは嫌? こうやって体密着させるの……」
「いや、別に嫌じゃないけど……」

 アデルは俺の腕を取り、その大きな胸を押し付けてくる。
 思わず鼻の下が伸びそうだ。
 その様を見た、フェリシアは白い目をしている。

「聞いた? あんたみたいな貧相な体じゃなくて私の方が良いって!」

 そんなことは言ってない。

「誰が貧相な体よ!」
「シエナ、お姉ちゃんとフェリシア、どっちの方が胸が大きい?」

 シエナは純粋な目でフェリシアとアデルを見比べる。
 そして躊躇せずに答える。
 
「アデルお姉ちゃんの方が大きい!」

 たぶん俺が同じ回答をするとしばかれるだろう。

「ほら、こんな小さな子でも分かることよ」
「ぐっ……」

 フェリシアは自身の胸部を押さえる。

「おねえちゃん……シエナ、お姉ちゃんの小さい胸も好きだよ!」
「…………ありがとう、シエナ。でもお姉ちゃん別に胸は小さくないから、そこは間違えないようにね?」
「……はい」

 フェリシアの圧を感じたのかシエナは大人しく同意する。
 その様子を見て、アデルは口を押さえて声を出さないように笑っている。
 フェリシアは額に血管を浮かせて、血圧はかなり高くなっていそうだった。

「それで魔法の名前は災厄の雨カタストロフィックレインだったかしら?」
「ああ、そうだ」
「それも聞いたことないのよ。あれも相当魔力を消費するでしょ?」
「う、うん、まあね……分かるの?」

 アンリミテッド魔法は軒並み魔力消費量は高い。
 レベル100程度なら、全魔力を使っても発動できないくらいじゃないだろうか。

「分かるわ。多分私の全魔力を投入してもあの魔法は発動できない。っていうか、発動できる人間が一体世界に何人いるのかっていうレベルの魔力消費量よ。…………ユウ、あなた一体どこで魔法習ったのよ?」
「いや、独学だけど」
「独学?」
「うん、独学」

 魔法なんてレベルが上がれば勝手に覚えるもんじゃないのか?

「聞いたことがないから、ユウが魔法創造したのかと思ったけど違うの? 知識がなかったら魔法創造なんてできないし。じゃあ、一体どうやって……」
「…………」

 レベルが上がったから勝手に覚えましたとは言えないな……。
 アデルもフェリシアも信用できそうだけど、俺のレベルは異質すぎる。
 漏れれば、下手すると国家単位で警戒対象になるだろう。
 そうなれば動きにくいし、なにより目立ちたくない。

 少なくとも俺を追放した奴らに復讐を果たすまでは。

「良いわよ、言いたくなかったら別に言わなくても。でもユウがフェリシアがいうように強い男だっていうことは分かったわ。私、強い男が好きなのよね」

 いつの間にかアデルは魔術師のローブを脱ぎ、胸元をはだけさせている。

「あー、暑くなったわね」
「暑くなってない」

 アデルはフェリシアのツッコミを無視する。
 そして、彼女はまた体を密着させてくる。
 いや、嬉しんだけどさ。

「離れなさい、アデル!」

 やっぱりツッコミ入るよね。
 
「まさか、ユウ。ああいう貧相な体の方がタイプとかはないわよね」
「胸が大きればいいってものじゃないわ!」
「お牛さんは胸がおっきいよ」

 自体を把握していないシエラが言う。
 
「シエラ、お姉ちゃんをお牛さんと一緒にしないようにね」

 アデルは顔を引くつかせながらシエラに注意する。
 そこでフェリシアが火に油を注ぐ。

「そう! シエラ、お牛さんに失礼だからね!」

 俺は吹き出しそうになるが、アデルに般若のような顔を向けられて直ぐに平静を保つ。
 
「何が牛に失礼よ! 私に失礼でしょ!」
「いいじゃない牛で! 本能のまま動いて、人間らしく頭使わないんでしょ!」
「あんたに言われたくないのよ!」
「なによ!」
「なによ!」
「まあまあ」

 俺がそう言った後に「まあまあ」とシエラが真似して言う。
 そこでヒートアップした二人の争いは一旦収まった。 
 
「……で、ユウは帝都に戻ったらどうするわけ?」
「うん…………特に決めてないけど、まとまったお金が入るからちょっと旅でも出ようかなって思ってる」
「え? ユウ、うちを出ていくの?」
「ずっとお世話になるわけにもいかないでしょ?」
「全然居てくれていいよ! 空いてる部屋だし、なんならもっといい部屋用意することもできるよ? 一部屋で手狭だったら二部屋とか……」

 焦るように必死になってフェリシアは訴えかける。
 
「いや、十分快適に過ごさせてもらってるから。それに、旅に出るっていってもエスペリア王国に行って、すぐに戻って来るからさ」

 王国と召喚されたクラスメイトたちの情報収集をするつもりだった。
 
「……ほんと?」
「ああ、約束する」
「ちょっと、あんたたち一緒に住んでるの?」

 訝しげな表情でアデルは問う。

「うちの空いた部屋に泊まってもらってるのよ」

 なぜかフェリシアは得意気に言う。

「…………」

 アデルは少し考え込んだ後――

「……で、やったの?」

 その言葉を受けて、フェリシアは口を大きく開けて、「な、な、な……」とすぐに反応できない。

「その様子じゃまだ生娘のままみたいね。安心した」
「ちょっと、アデル! シエナも居るのよ!」

 シエナはキョトンとしてフェリシアに問いかける。
 
「お姉ちゃん、何かやったの?」
「し、シエナには……ま、まだ早いのよ……」
「シエナ、男と女はねえ――」

 フェリシアは我慢できなくなってシエナを抱いたまま立ち上がる。

「止めなさい! シエナはまだ子供なのよ!」
「やだーー、ユウ、脳筋女がこわーい。守ってー」

 アデルはそういうと俺の腕をまた双丘に押し付けてくる。
 そのまま俺たちは賑やかに、帝都への帰路を過ごしていった。
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