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第13話 横取り

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「結婚発表が秘匿されておるなら、おぬしはなぜそれを知っておるのじゃ? 公爵令嬢と皇子の結婚。一般の者にはまず秘匿される情報じゃ」
「疑問は当然です。これから説明しますね」

 ゼインは目を鋭くして俺を睨む。

「つい最近のことですが、この近辺で強盗殺人が発生しました。発生したのは乗り合い馬車で、乗客すべてが首筋を斬られて絶命していました。そして、その犠牲者の中に一人の女性がいました。女性の名はローズ。彼女は公爵令嬢の使用人でした」

 みんな黙って俺の話を聞いている。
 俺はもうすっかり冷めた紅茶を一口、口にした後、続ける。

「ローズは密命を帯びていました。皇帝陛下と皇子に対しての正式な結婚の申込みの承諾の密書を届ける密命でした。ちなみに公式な結婚発表予定日は一昨日でしたが、まだこれは発表されていません」
「なるほど、そんなことがあったとはのう」

 俺はうなずき続ける。

「俺はマンハント依頼の聞き取りとして、犠牲者の一人である公爵家を訪問しました。捜査といえど、いち冒険者の訪問です。門前払いを食らう可能性は大いにありましたが、公爵家は私の聞き取りを許可しました。それはひとえに公爵令嬢、リディア嬢の強い思いがあったからです。彼女と使用人のローズの絆は強く、ローズの死を強く悼んでいました。そして犯人の捕獲、討伐を強く望んでいました。だからこそ、本来秘匿情報である結婚情報が俺に知らされ、結婚の発表自体も延期されたのです。まあ、執事からは情報を漏らせば死ぬと、遠まわしに警告は受けましたけどね」

 すべての情報が明らかにされた後、注目はゼインに集まる。

「別に相手が第5皇子のフェリクス様だというのは予測はつくだろ」
「いえ、所謂いわゆる政略結婚で秘密裏に進められていた為、予測がつくものではないらしいです」
「適当に言ったら、当たったんだよ」
「それはこの後に引き渡す衛兵に伝えてもらえますか? その言い訳が通用すればいいですけどね」
 
 ゼインは一度下を向いた後に、ニヤリと不適な笑みを浮かべながら顔を上げる。

「ふん、大人しくしとけば長生きできたものを。A級のマンハント依頼を成りたての冒険者が請け負うだと?」

 いつの間にか細目のゼインの両手には短剣が握られている。
 場に一気に緊張が走る。

「貧乏臭い乗客しかいねえから今回は見逃してやろうかと思ったが、残念だったな。お前ら皆殺しだ!」

 おぞましい殺気を全開にして、ゼインが左手に握られた短剣を俺の首筋に伸ばそうとした、その時のことだった――

 ゼインの胸からいきなり剣が生える。

「ぐぉっ!? な、いつの間に剣を抜いてやがったこのくそアマ! ぐふっ!」

 口から血を吐き出す。
 女性に背後から貫かれた剣によって、肺から出血しているのだろう。

「女だからって舐めすぎです。あちらのご老体と青年には注意をはらってましたが、私はノーマークでしたね!」
「ぐそぉ……俺様がこんなところで…………」

 がくりと力が抜けて絶命したことがわかる。
 女性はゼインから剣を抜き去ると、どこからか布を取り出し、剣についた血糊をきれいに拭き取った後に鞘へ納める。

「お見事! その瞬間まで僅かながらの殺気も漏らさず、仕留めたその手練。のうロイ、お前も見習わんとなあ」
「まあ、確かに今のはうまかったっすね」

 緊張感なく老体とロイは話す。
 少なからず人の殺害現場に居合わせたのだが彼らは流石、こういった修羅場に慣れているのだろうか。

 にしても、この女性は……。

「あの、人の獲物を横取りしないで欲しいんですけど」

 女性は驚いたような顔をして、抗議した俺を見つめる。

「えっと、ユウといいます」
「フェリシアよ。横取りってあなた本気であの男とやり合うつもりだったの?」

 先ほどまで深くかぶられていたフェリシアのフードは外され、その風貌は明らかにされていた。 

 彼女は思っていたよりも若く、もしかしたら同い年くらいかもしれない。
 艷やかなブロンドの長髪をたなびかせ、真っ白な白磁の陶器のような滑らかな肌艶をしている。
 胸の大きさは控えめだが、スタイルも容姿もよかった。
 はじめてその姿を見た時は、あまりの美しさにドキッとしたくらいだ。

「もちろん」
「正気? 感謝こそされ、文句を言われる筋合いなんかないわよ」
「君、俺の話し聞いてたかな? わざわざ公爵家に聞き取りとかいってるし、それ以外にも色々捜査とかしたんだけど!」

 捜査した結果、手がかりが見つからずに諦めて帝都に向かっていたことは話さない。
 乗り合いの馬車で偶然細目の男を見つけ、かまかけをした結果のことだった。
 だが今までの苦労とマンハント依頼の報酬の高さを考えると、あそこまで追い詰めた後に横取りされたのは素直に悔しい。

「あんたねえ、冒険者成り立てなんかでA級のマンハント依頼こなせるわけないでしょ! 私だってさっきのは不意をつけたらからよかったものの、正面からやり合ってたらどうなっていたか分からないんだから!」
「決めつけるなよ! 俺だってあいつを倒せたかもしれないだろ!」
「ふん、あなたが? もし、そうなら悪うございました!」
「なんだよ、その言い方は!」
「何よ!」
「まあまあ、そう言い争わんと」

 俺とフェリシアの間に、ご老体が割って入る。
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