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第1章 貴族興亡編

第42話 愛と闘争の果てに

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「やはり愛などというものを呪いでしかない! 愛を退避していたはずの私も結局はソフィへの愛にとらわれていた! だからこんな悲劇が起こってしまったのだ!」

「…………お前のソフィへの仕打ちを愛だとでもいうのか?」

「愛だ! あれが愛でなくて一体なんなのだ!」

「愛とは一種の思いやりだ。心の通じ合いだ。お前がいう愛は一方的な趣味趣向、好みの押し付けにすぎない。そんなものは愛ではない!」

「黙れ、黙れ、黙れぇえええ!! どいつもこいつも同じようなことをいいやがって、俺の愛は愛ではないだと? どこまでも限りない愛だ、愛でしか無い! 俺の最高傑作たちをことごとく台無しにしやがって…………。もういい! こうなったら最終手段、禁忌の禁忌をとってやるっ!!!」

 ドマーゾは一つの棚に走り、そこからガラス瓶の中の液体を一気に飲み干す。するとみるみる内に目が充血して、額からは血管が浮き出てきている。

「キッイーーッヒッヒッヒ…………これから俺は魔神となり、まずをお前たちを殺す。そして次はこの国、俺を追放した憎き王族が統治するこの国を滅ぼしてやる!」

「そ、そんな先生っ! 話が違います!」

 ずっと物陰に隠れていたルディが声を上げる。

「黙れぇ! 私を利用して公爵になった元奴隷商のクズ公爵家が! 私がそれを知らないとでも思ったのか? すべてだ、すべて滅びるがいい!!」

 ドマーゾの体がみるみるうちに巨大化していく。体の色も赤色へと変色していっている。

「ドマーゾ、私自身に命じる。眼の前の不敬者たちを殺戮し、ダガール王国を滅ぼせっ!! 限界を超えて力を発揮しろ!!!!」

 ドマーゾの瞳に光が灯る。角に翼を背中に生やし、筋骨隆々となって巨大化していっているその姿はすでに完全に人間ではない。

「逃げろ! ニーナ、ライラ、キュイ!!」

 ニーナたちは反論することなく急いでこの場から逃げてくれた。

 ドマーゾは最終的に広い地下空間の天井にその頭が届きそうなくらいの巨大化をした。この巨体を地下空間で相手をするのはやりにくい。

 俺は地上へ向ってマジックアローを放つ。地下空間の天井に地上への大穴が開く。俺は飛行魔法でその大穴から地上へ飛びだした。

「ドマーゾ、お前もついてこい!」

 ドマーゾは少ししゃがみこんだと思ったらで一飛びで地上へと降り立つ。

「こっちへ来い!」

 俺はドマーゾを念の為、少し邸宅から離れさせる。

「ぐぅるるるるるる……」

 俺の言葉が通じているのかいないのか。ドマーゾは唸り声を上げるだけだ。ドマーゾは最早人語を介していないのかもしれない。だが俺に対する敵意についてはビンビンに感じた。

「うううぅぎゃおおおおおおすーーーーーーッ!!!!」

 ドマーゾはそう咆哮を上げると口から光線を吐き出した。俺はそれを咄嗟にかわす。森林を越えた近くの小山にその光線は直撃し、凄まじい爆撃音とともに小山をキレイに消し去った。

 とんでもない攻撃力だ。

 次にドマーゾが聞き慣れない詠唱をしたと思ったら手に黒い長斧を出現させた。ドマーゾの巨体に即した大きさの巨大な高精度の魔法長斧だ。

 ドマーゾがその斧を左手で振りかぶったと思ったら、俺の体は一気に重くなる。右手は重力魔法を発動していたようだ。俺はドマーゾが振り下ろした長斧を必死でよける。

 なんとかぎりぎりでかわせた。俺にかけれれていた重力魔法も無効化する。

 ドマーゾが長斧を振りおろした先を見てみると、木々はなぎ倒され、地面には巨大地震が発生した後の地割れのような大きな亀裂が入っていた。ドマーゾがいっていた魔神となりこの国を滅ぼずという言葉は決してはったりなどではなかった。こいつは国を、そして世界をも滅ぼしうる本当の化け物だ。

「ニーナ、ライラ、キュイ! 全速力でなるべく遠くへ逃げてくれ!」

 遠目で退避していた彼女たちに声をかける。

「わかったわレオン! ソフィの仇をとってあげて!」

「任せたっすレオン! 私たちの無念も怒りもすべてレオンに任せたっす!」

「ぎゅぎゅゔゔゔゔゔゔッ!!!!!」

 みるみるうちにニーナたちはその場から高速で走り去っていく。連続で振り下ろされる長斧を俺はかわしつづける。ニーナたちはもう十分距離を逃げれたか……その姿がかなり小さくなったのを目の端で確認した時――――

「ぐぅわああああ!!!!」

 ドマーゾが発動した雷撃魔法が突然俺に降り落ちる。雷撃が降り落ちた俺の周囲は一瞬で黒焦げの焦土となっている。現在の高レベルに上げておかなければ今の一撃で絶命していただろうとゾッとする。

 こいつはどうやら長斧に集中させておいて無詠唱の速攻魔法ですきを作らせたり攻撃したりする戦方らしい。魔力は無尽蔵にありそうだ。

 俺は飛行魔法でドマーゾが見下ろせる位置をとる。火水雷風。魔法の主要四大元素と呼ばれ、世界の四大精霊によってそれぞれ強い力を与えられている魔法元素。110レベルに達した俺はその四大元素をまとめて圧縮して放出する究極のマジックアローを獲得した。

 ドマーゾは俺に長斧の斬撃波で次々と攻撃してきている。俺はそれをかわしながら四大元素均等に四方に溜める。

 どんどん四大元素は溜められていく。再度ドマーゾから雷撃魔法が発せられるが今度はそれをかわす。四大元素はまだ溜められていっている。余りの絶大な魔力に俺の四方に溜めた四大元素の辺りの空間が歪んだようになる。
 
 溜められた四大元素は俺のマジックアローの先の一点向けてに光線のように四方から抽出される。

 あまりに高濃度に圧縮されたその円球の魔力の塊は別々の属性が共鳴するかのようにキュィイーーーーーンっという音を放出している。

「ぐぅる?」

 ドマーゾがその異変に気づく。翼を広げて大空へ飛び立とうとする。今だ!

「ソフィの仇だぁ、思い知れぇえええ!! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

 俺はついに究極のマジックアローを発射する。
 
究極根源アルティメイトマージ!!』

 飛び立とうしたドマーゾをマジックアローが一瞬で捉える。

 まずは最初は光。
 嘘のような眩い閃光が周囲に発散され、次に音。
 それ自体で攻撃魔法と呼べるのではないかという程の爆音が響き渡る。
 そして最後には森の木々をすべてなぎ倒すかのような爆風が発生した。

 ………………。

 数秒が経過しただろうか。

 俺は恐る恐るその瞳を開く。目の前に広がるのはまるで大災害が発生したかとでもいうような光景だった。ドマーゾがいたところは周囲数百メートルに渡って大きな隕石が落下したかのようなクレーターが形成され、木々はそのクレーターの中心部からの爆風によって折れ曲がってしまっている。

 ドマーゾは俺の攻撃により跡形もなく消滅していた。

「へ、辺境の森でよかった…………」

 もしこれが市街戦だったらと思ったらゾッとする。究極ともいえるマジックアローは俺が想定するものを遥かに越えた威力だった。

 そして俺にどんでもない化け物のドマーゾを討伐できてソフィの仇を取れたという喜びと同時に、ソフィを失ってしまったという悲しみが襲ってくる。
 
 戦闘の緊張感から解放された安堵感とともに俺の頬からは涙がつたう。駄目だ、勝利の喜びなんかよりも何倍もソフィを失ってしまった悲しみの方が強い。

「ソフィ、仇はとったよ…………」

 俺は誰もいない空中で誰に聞かれるのでもなくそう呟いた。
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