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第54話 リリース
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それはまたはっきりと夢だと分かる不思議な夢だった。
目の前には無数の光が流れ、冷たいデジタルの輝きが視界を埋め尽くしていた。
無重力の中、青や緑のラインが電流のように走り、脈打つパルスが電子音のように響いている。
数値や記号が視界の端でちらつき、データの粒子が波となって自分の周りを流れていた。
自分がどこにいるかも、なぜここにいるのかもわからない。
ただ、電子の海を漂い続ける。
それが夢だと理解できるほど、この光景は幻想的で冷ややかな美しさに満ちていた。
すると突然、何かに吸い込まれるように自身がどこかの空間へと収束していく。
真っ暗になったと思ったその次には、どこからかカメラを通してその映像を見ているかのような不思議な光景が広がっていた。
「それでは治験は問題なく進んだということで、新作のリリースは予定通り近日中に行うということで異論はありませでしょうか?」
カジュアルな服装をしたショートカットの女性が確認を取る。
はっきりとした目鼻立ちをした美人な女性だった。
それに対して会議に出席している者たちは黙って頷く。
「予想売上はいくらくらいかね?」
以前、明晰夢で見た男が問いかける。
確か遠野CEOと呼ばれていた男だ。
「あくまで現時点でのマーケティングに対するフィードバックと、メタスコアによる予想になりますが……」
そう前置きをしてピリッとしたスーツに身を包み、髪をオールバックに決めてメガネをかけた男性が答える。
男は会議の場で一人だけスーツで、そのスーツも紫色という異様な出で立ちだった。
「細かい計算の導出は省きます。興味があるかたはマーケの共有フォルダの異世界シリーズの所へ資料をおいていますのでそちらを参照ください。予想売上はネガディブで500億になります」
会議室からどよめきが起こる。
「500億って……本当にネガディブでそれかね?」
「はい、メタスコアが公開されてからの宣伝広告の反応が激変しました。もちろん良い方にです。正式リリース前に98なんてメタスコア過去に類をみないですから。今、宣伝広告予算の増額の稟議を緊急で上げていますが、おそらく全世界的なヒットになると思われます」
出席者たちの表情から、興奮が会議室をさざ波のように流れているのが分かった。
「じゃあポジティブな売上はいくらなんだ?」
「2000億は超えるだろうと試算されております」
歓声とともに会議室から強い拍手が沸き起こる。
しばらく間をおいて拍手が鳴り止んだ後に遠野が話し出す。
「素晴らしい。宣伝広告予算増額の稟議は早急に承認するから、是非とも売上の最大化を目指して取れる手立てはすべて取ってくれ。全社的にもそちらのプライオリティーを上げるように指示は出す。500億でも我が社としては過去最高売上で、2000億ともなると世界的に見ても過去作含めて類をみない売上だろう。世界中の誰もが知る、マ◯オやゼ◯ダなんかと肩を並べる歴史的な傑作になれるかもしれん。私個人としては、現場でディレクターをやっていた時からそういうゲームを手掛けることが夢だった……」
遠野は感慨深げに一度下を向いた後に再度、みんなに向き直る。
「……それもこれも如月博士が開発したゲームAIエンジンのおかげだ。心より御礼を申し上げる」
如月博士に向かって立ち上がって頭を下げる。
それに伴い会議室からはまた拍手が起こった。
如月はその会議の場では場違いと思えるほど若かった。
服装もTシャツにGパンと随分とラフな格好だ。
彼は片手を上げて拍手に応えた後に返答する。
「僕は利益分配だけ適切にしてもらえればいいです。後は口を酸っぱくしていってますが、万が一にも情報漏洩はないように気をつけていただければ」
「もちろんゲームのAIエンジンのマスターコードは我が社としても最高機密です。それこそ核兵器並みといっても過言ではない最高レベルのセキュリティで扱わせてもらってます」
「それはよかった」
そこへまた別の男性が割り込む。
「如月博士への利益分配率は5%でしたっけ? もうこれで億万長者ですね、実に羨ましい! 如月誠一という名前も歴史に残りますよ」
「確かにいくらかお金は入るでしょうが、僕は資金があれば研究に注ぎ込んでしまうので、たぶん後には残りませんね」
「またまた……」
男は|如月博士の返答に反応に困るという様子を見せた。
そこを遠野が引き取る。
「それでは、そろそろ時間なのでこの会議は終了にしよう。先程もいったように全社的に広報・宣伝広告のプライオリティーを上げて最優先で対応をお願いします。では以上」
出席者たちは散開していく。
そんな中、俺の視点はどういう訳か如月博士を追っていった。
如月博士はビルの階を変えて、個室の中へと入っていく。
おそらく業務で専用であてがわれている個室だろう。
個室内にはラックがあり、そこにサーバー機と思われるマシンが何台も置かれていた。
彼はそれとは別の、机の横のメインPCと思われる端末を起動する。
画面はすぐに立ち上がり、ログインしてからWebブラウザを立ち上げていくつかのニュースを確認した後、カレンダーアプリからビデオチャットを開いた。
ビデオチャットの画面には彼と同年代と思われる者たちがすでに集まっていた。
目の前には無数の光が流れ、冷たいデジタルの輝きが視界を埋め尽くしていた。
無重力の中、青や緑のラインが電流のように走り、脈打つパルスが電子音のように響いている。
数値や記号が視界の端でちらつき、データの粒子が波となって自分の周りを流れていた。
自分がどこにいるかも、なぜここにいるのかもわからない。
ただ、電子の海を漂い続ける。
それが夢だと理解できるほど、この光景は幻想的で冷ややかな美しさに満ちていた。
すると突然、何かに吸い込まれるように自身がどこかの空間へと収束していく。
真っ暗になったと思ったその次には、どこからかカメラを通してその映像を見ているかのような不思議な光景が広がっていた。
「それでは治験は問題なく進んだということで、新作のリリースは予定通り近日中に行うということで異論はありませでしょうか?」
カジュアルな服装をしたショートカットの女性が確認を取る。
はっきりとした目鼻立ちをした美人な女性だった。
それに対して会議に出席している者たちは黙って頷く。
「予想売上はいくらくらいかね?」
以前、明晰夢で見た男が問いかける。
確か遠野CEOと呼ばれていた男だ。
「あくまで現時点でのマーケティングに対するフィードバックと、メタスコアによる予想になりますが……」
そう前置きをしてピリッとしたスーツに身を包み、髪をオールバックに決めてメガネをかけた男性が答える。
男は会議の場で一人だけスーツで、そのスーツも紫色という異様な出で立ちだった。
「細かい計算の導出は省きます。興味があるかたはマーケの共有フォルダの異世界シリーズの所へ資料をおいていますのでそちらを参照ください。予想売上はネガディブで500億になります」
会議室からどよめきが起こる。
「500億って……本当にネガディブでそれかね?」
「はい、メタスコアが公開されてからの宣伝広告の反応が激変しました。もちろん良い方にです。正式リリース前に98なんてメタスコア過去に類をみないですから。今、宣伝広告予算の増額の稟議を緊急で上げていますが、おそらく全世界的なヒットになると思われます」
出席者たちの表情から、興奮が会議室をさざ波のように流れているのが分かった。
「じゃあポジティブな売上はいくらなんだ?」
「2000億は超えるだろうと試算されております」
歓声とともに会議室から強い拍手が沸き起こる。
しばらく間をおいて拍手が鳴り止んだ後に遠野が話し出す。
「素晴らしい。宣伝広告予算増額の稟議は早急に承認するから、是非とも売上の最大化を目指して取れる手立てはすべて取ってくれ。全社的にもそちらのプライオリティーを上げるように指示は出す。500億でも我が社としては過去最高売上で、2000億ともなると世界的に見ても過去作含めて類をみない売上だろう。世界中の誰もが知る、マ◯オやゼ◯ダなんかと肩を並べる歴史的な傑作になれるかもしれん。私個人としては、現場でディレクターをやっていた時からそういうゲームを手掛けることが夢だった……」
遠野は感慨深げに一度下を向いた後に再度、みんなに向き直る。
「……それもこれも如月博士が開発したゲームAIエンジンのおかげだ。心より御礼を申し上げる」
如月博士に向かって立ち上がって頭を下げる。
それに伴い会議室からはまた拍手が起こった。
如月はその会議の場では場違いと思えるほど若かった。
服装もTシャツにGパンと随分とラフな格好だ。
彼は片手を上げて拍手に応えた後に返答する。
「僕は利益分配だけ適切にしてもらえればいいです。後は口を酸っぱくしていってますが、万が一にも情報漏洩はないように気をつけていただければ」
「もちろんゲームのAIエンジンのマスターコードは我が社としても最高機密です。それこそ核兵器並みといっても過言ではない最高レベルのセキュリティで扱わせてもらってます」
「それはよかった」
そこへまた別の男性が割り込む。
「如月博士への利益分配率は5%でしたっけ? もうこれで億万長者ですね、実に羨ましい! 如月誠一という名前も歴史に残りますよ」
「確かにいくらかお金は入るでしょうが、僕は資金があれば研究に注ぎ込んでしまうので、たぶん後には残りませんね」
「またまた……」
男は|如月博士の返答に反応に困るという様子を見せた。
そこを遠野が引き取る。
「それでは、そろそろ時間なのでこの会議は終了にしよう。先程もいったように全社的に広報・宣伝広告のプライオリティーを上げて最優先で対応をお願いします。では以上」
出席者たちは散開していく。
そんな中、俺の視点はどういう訳か如月博士を追っていった。
如月博士はビルの階を変えて、個室の中へと入っていく。
おそらく業務で専用であてがわれている個室だろう。
個室内にはラックがあり、そこにサーバー機と思われるマシンが何台も置かれていた。
彼はそれとは別の、机の横のメインPCと思われる端末を起動する。
画面はすぐに立ち上がり、ログインしてからWebブラウザを立ち上げていくつかのニュースを確認した後、カレンダーアプリからビデオチャットを開いた。
ビデオチャットの画面には彼と同年代と思われる者たちがすでに集まっていた。
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