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第41話 実力差

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「落ち着きなさい!」

 ギョクレイ大僧正が一喝する。

「教士以下の位の僧は二次被害を避けるために退避! 僧官以上のものは竜ドーピングの上、ここに留まり戦いの行方を見守ること!」

 ほとんど僧たちは一目散にそこから逃げ出し、残った高僧たちはそれぞれ小瓶を取り出してその中身を飲み干した。

「いいじゃねえか、俺も無駄な殺生はしたくねえからな。ここの残ったものたちを皆殺しにすれば、ラグナ郷は落ちたも同然だ。竜様たちには後でいくらでも申し開きはできる。強者生存、強いものがすべてを決めるのが竜様の流儀だからな」
「その通りだ。結果は後で報告しにくるがいい、人間よ」

 まだ上空で漂っていた竜たちはそう告げると、自らの巣へと一斉に戻っていった。

「で、最初に死ぬのがお前でよかったのか?」

 リュウゲンは今度はシオンと対峙する。

「死なないけどね」

 シオンは戦闘態勢に入り、構えをとる。

「安心しろ。お前は殺さない。生かさず殺さずで俺の性奴隷の第一号にしてやるよ!」
「この外道がぁああああ!!!」

 シオンは青白く立ち昇る凄まじい烈気を放ちながらリュウゲンに飛びかかった。

 素早い体術でリュウゲンを翻弄し、次々と鋭い攻撃を繰り出す。

『竜烈波拳』 
 
 ラグナ教秘伝の必殺技でリュウゲンの身体に衝撃を与える。
 離れていても何かをぶつけられたような衝撃が伝わるほど強い衝撃だったが、リュウゲンは一瞬たじろいだだけでそれだけだった。
 
 シオンはその隙を逃さず、追撃を繰り出す。

『烈風脚』
  
 リュウゲンの腹部に大気を切り裂くような強烈な蹴りを加える。
 これにはリュウゲンも流石に表情を変えてその場に倒れ込む。

「どうだ、これが最高峰の竜ドーピングと武芸の力だ! 武芸を疎かにして政治力だけで位を上げた、リュウゲンお前には負けない!」

 シオンは息を切らせながらも自信に満ちた笑みを浮かべている。
 しかし、次の瞬間には倒れたはずのリュウゲンが静かに立ち上がり、恐るべき黒いオーラを纏い始める。

「ふん、それじゃあそろそろ反撃してやろうか」

 リュウゲンはそう言うとゆっくりと笑い始め、その笑い声は次第に狂気じみたものに変わっていく。
 そして、黒いオーラが増大し、周囲の空気を歪ませ始める。
 シオンは直感的に危険を察知し、距離を取ろうとするが、リュウゲンはすでにその動きを読んでいた。

「俺を舐めるなよ、小娘が! これが真の力だ!」

 両手を大きく振りかぶると、闇の波動を纏った拳を叩きつける。
 シオンは辛うじて防御態勢をとったが、凄まじい力に押されて一気に数メートル吹き飛ばされ、地面に激突した。
 必死で起き上がろうとするが、体の節々が痛みに悲鳴をあげ、起き上がれない。

「そ、そんな馬鹿な……!」

 その隙をついて、リュウゲンは瞬時にシオンの背後に回り込む。

「弱いんだよぉ!」

 リュウゲンは鋭い手刀を振り下ろし、シオンの肩口を攻撃した。
 攻撃が直撃したシオンは絶叫しながら地面に倒れ込む。
 リュウゲンは、その光景を見下ろしながら口元に冷酷な笑みを浮かべている。

「いい悲鳴を上げるじゃないか! もっと聞かせろ! もっと泣き叫べ!!」
「くそぉ! ナディア様をないがしろにするような、お前みたいな外道にやられるなんて! …………私は諦めない! 絶対に諦めないぞ!」

 シオンはその顔を上気させて、苦悶の表情を浮かべている。
 俺はシオンの最後まで勝負を諦めないその姿勢に若干の感動を覚えていた。

「これで終わりだぁ! お前の力など、俺の前では無力だ!」

 リュウゲンは勝ち誇ったように言い放ち、最後の一撃を加えようと拳を振り上げる。しかし、その瞬間――

「そこまでだ!」

 俺はリュウゲンとシオンの間に割って入る。
 勝負はもうあった。これ以上は一方的な虐待だ。
 
 リュウゲンは一瞬だけ表情を強張らせるが、すぐに狂気の笑みに戻り、俺を睨みつける。

「お前か、グレイス。俺の邪魔をする者はすべて排除してやる!」
「やってみろ!」

 俺はリュウゲンの懐に一瞬で潜り込み、その腹部に拳をめり込ませる。

「ぐぅおお…………」

 リュウゲンは口を開いて、両手で殴られた腹部を押さえる。
 その瞳には薄っすら涙が浮かんでいた。

 続けてフック、ストレート、回し蹴りと次々に攻撃を食らわせる。

「くそぉ! 見えない、攻撃がぁ。疾すぎて見えないぃいいい!!!」

 リュウゲンは圧倒的な実力差を前にして、一種の錯乱状態になる。
 俺はそんなリュウゲンに最後には、テンプルめり込むような強烈なフックを決める。
 彼は白目を剥いて、仰向けに地面に大きな音を立てて倒れ込んだ。

 魔族は確かに強い。
 だが、先程までのシオンとの戦闘を見る限り、リュウゲンの強さはせいぜい下位の魔族レベルの強さだった。
 今では魔王とでも対峙できるようなレベルの俺の敵ではなかったのだ。

 戦闘が終わり周囲に静寂が戻ると、遠目で戦闘の行方を固唾を飲んで見守っていたラグナ教の僧たちが次々と駆け寄り、俺を取り囲んだ。
 彼らの瞳には驚愕と称賛が溢れ、誰もが一斉に口を開いて俺を褒め称え始めた。
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