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第35話 苦手なもの

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【グレイスside】

「来たかった場所って……ここ?」
「そうだけど……」

 俺たちは今、魔物も出現する湿地帯の近くにいた。
 湿地帯は霧が立ち込め、湿気で重たい空気が漂っている。
 地面はぬかるんでおり、足元にまとわりつく泥が歩きにくい。薄暗い中、奇妙な草木が不気味に揺れている場所だ。
 出かける時はウキウキだったエリーゼの機嫌が目に見えて悪くなっている。
 
「どうしたの? さっきまであんなに機嫌がよかったのに」
「知らない! 自分の胸に手を当てて聞いてみたら?」

 エリーゼはぷんぷんしながら言う。
 俺は実際に自分の胸に手を当てて聞いてみたけど、何も回答は返ってこなかった。

「……何してんの?」
「いや、だから自分の胸に手を当てて聞いてみたんだけど」
「ぷっ……はいはい、分かりましたー」

 エリーゼは明後日の方向を向きながら応える。

 なんだ?
 まあ、少しは機嫌がよくなったみたいだからまあいいか。
 
 この湿地帯に来たのは欲しいスキルを保持してる魔物がいるためだった。
 そのスキルをコピーした後はエリーゼのレベリングをするつもりだ。
 この辺りの魔物であれば、俺がついていれば万が一もなく安全にエリーゼのレベリングをすることができる。
 彼女は先々聖女として目覚めて、聖女固有のユニークスキルも覚える有力な戦力になる。
 今のうちにレベルを上げてもらって損はない。
 
「じゃあ、この辺り魔物出るから下がってて。ちょっとコピーしたいスキル保持してる魔物がいるんだ」
「分かったわ」

 エリーゼは素直に俺の指示に従う。

 湿地帯を回っていく。
 するとひやりとした外気を感じるようになると、目当ての魔物をすぐに見つけることができた。

 人間のようなシルエットがぼんやり確認できる。
 ファントムミストは霧のように半透明な存在で、実体を感じさせない形態をしていた。

 敵もこちらに気づいたのか、辺りが霧に覆われる。
 そんな中、霧の刃ミストブレードが放たれる。
 俺はその攻撃をなんなく躱す。
 かなりレベル差がある敵だ。
 おそらく直撃してもほとんどダメージを負うことはないだろう。

 風操作スキルによって風を剣にまとわりつかせる。
 その状態で剣を振るうことで風を一気に解放する。
 
風の刃ウィンドカッター!!』

 攻撃がファントムミストに直撃すると、光の粒子となって霧散していった。

【ファントムミストからスキルポイント10を使用して、霧操作を取得できます。取得しますか? Yes or No】
  
 俺は迷わず【Yes】を選択する。

【ファントムミストからスキルポイント10を使用して、霧操作を取得しました】

 よし!
 この霧操作、単体でははっきりってゴミスキルなんだけど、スキル融合を使うことで有用なスキルを作成することができる。
 更に竜のイリスを使うことによって、かなり強い範囲攻撃をすることが可能になるのだ。
 善は急げだ。折角だから、さっさとスキル融合しとくか。

(スキル融合! 風操作 + 霧操作)

【スキルポイントを10消費して霧嵐ミストストームを獲得しました】

 この霧嵐ミストストーム単体ではひんやりした霧を広範囲に拡散できるだけで、それだけでははっきり言ってゴミスキルだ。
 だが、このスキルをイリスの能力と掛け合わせるを化けるのだ。

 後、霧操作とのスキル融合した時の有用なスキルは毒とかだけど、俺は今そのスキルを保持していなかった。

「じゃあ、次はエリーゼのレベリングをしようか」
「わ、私? ……そうね、いつまでもグレイスにおんぶに抱っこじゃダメだもんね!」
「なんかあったらすぐに加勢するから前に出てもらって……よし、じゃあ魔物を探そうか」

 今度はエリーゼを先頭に魔物を探索する。
 エリーゼはへっぴり腰でおっかなびっくりしながら進んでいる。
 これは最初は俺がサポートしないといけなそうだな。

 そうして少し湿地帯を進んだ所だった。

「あびゃびゃびゃいやぁあああああああああああ!!!!」

 エリーゼが大声で言葉にならない悲鳴を突然上げる。

「ど、どうしたの?」
「あぶほふじこふじこほげたまげた……」

 人語を忘れてしまう程にエリーゼは動揺している。
 彼女が指差す方法を見るとそこにはポイズングロックがいた。
 ポイズングロックは、濁った緑色の体をした巨大なヒキガエルのような魔物で、肌はブツブツした毒の腫れ物で覆われている。
 奴は黒ずんだ鋭い目がじっとこちらを見つめていた。

「……もしかして、カエルが苦手なの?」

 エリーゼはその瞳に涙を溜めながらうんうんと頷く。
 やれやれ、この調子じゃこの場所でレベリングするのは難しそうだ。
 折角だからポイズングロックは俺が倒して毒操作のスキルをコピーしてしまおう。

「分かった。じゃあ、俺に任せて」

 エリーゼは頷くと、ピューっと駆け足で後方のポイズングロックが視界に入らないほど遠くへ逃げた。
 そこまで離れられると、今度はエリーゼが他の魔物に急襲された時が厳しくなるんだけどな。
 まあ、それはちょっと後で指摘するか。

 こうして俺とエリーゼはこの先の攻略の為の準備を進めていたのだが、その時にラグナ郷がとんでもない騒ぎになっていることなど知る由もなかった。
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