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第33話 門前払い
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「随分と待たされるな」
「そうね……」
エリーゼの素性は明らかにしてる。
ゲームではこの後、郷を救った大恩がある人の子息が現れたということで、祭りのような歓待がされるはずだった。
俺の頭の中ではすでにもてなされるはずのご馳走で頭が一杯だ。
ここまで来るのにかなり登った。
登山の時の山頂で食べるご飯って最高なんだよな。
体力的には余裕だけど、流石に腹は減る。
すると、おそらく僧であろうポニーテールに黒髪の長髪をまとめ、和服にも似た僧服を着た若い娘が息を切らしながら現れた。
スラリとしたスタイルをしているが、よく見ると胸のボリュームは大きく、美しい凛とした顔立ちをしていた。
「はあはあ……大変お待たせしました! ナディア様のご子女の来訪ということで、どちらがナディア様のお子様でしょうか?」
俺たちは顔を見合わせた後に、エリーゼが手を上げる。
彼女は感激した様子でエリーゼの手を両手で掴む。
「よくぞお越しいただきました! 私はシオンといい、過去ナディア様に救っていただいた人間の一人になります!」
「え、ええ……それはよかったです」
エリーゼは若干戸惑いながら答える。
「エリーゼの母さん凄かったんだな」
「うーん、かなり破天荒な母ではあったみたいね。なにしろ、カルディア王国から王族の身分を捨てて飛び出した人だからね。平民になって世界中を巡ってる途中で、たまたまお父様に見初められたのよ。そんな人生送ってる人は中々いないでしょ」
「大噴火が起こったあの大災害の日以降、ナディア様の氷結スキルと支援がなければこの郷は壊滅してました! 私の実家も焼け落ちましたが、ナディア様のご支援のお陰で再建することができました。感謝してもしきれません!」
「いえいえ、母はそもそもラグナ郷に恩義があってそれを返しただけと言ってましたよ」
「そうなんですか? ……だとしてもナディア様はラグナ郷の国母といってもいいようなお方! ささ、こちらへお入りになってゆっくりしていってください。歓迎させていただきます!」
「それはちょっと待て」
シオンが俺たちを中に引き入れようとしたその時、恰幅のいい一人の男が現れた。
「リョウゲン様、何か問題でも?」
「問題大有りだ。ナディア様のご子女はいいとしてもう一人の男はなんだ?」
リュウゲンと呼ばれた男は偉そうにシオンを問いただす。なんか嫌な感じだ。
シオンは質素な僧服を着ているが、リュウゲンは何かの儀式にでも着るような綺羅びやかな僧服を着ている。
それにより彼が高位な僧であることは予想できた。
「え……まあ、確かにご紹介に預かってませんでした。自己紹介をしていただいてもよろしいですか?」
「これは挨拶が遅れました。私、オルデア王国カイマン公爵家三男のグレイス・カイマンと申します」
俺は貴族風にお辞儀しながら挨拶をする。
「これはご丁寧にどうもありがとうございます」
シオンは深々と俺に頭を下げた後にリュウゲンと向き合う。
「とのことです。それでは歓迎させていただきますね」
「ばっかもーん!!」
リュウゲンは突然鼓膜が破れるかのような大声でシオンを叱りつける。
うるせえな、そんな大声出さなくても聞こえるよ。
「その男がオルデア王国でなんと呼ばれてるか知っているのか?」
「い、いえ知りませんが?」
おいおい、まさかこんな遠い所まで俺の高名は伝わってるのか?
「変態令息だ! 領内の婦女子に痴漢行為や嫌がるようなことをしまくってそう呼ばれてるらしい。仮にも公爵家の三男だぞ? 醜聞を広めるとそれだけで罪に問われかねないのにも関わらず、そいつは変態令息の異名を我が物としているらしい! そんな者を我がラグナ教の総本山である神聖な僧院に入れられるか!」
リュウゲンはすごい剣幕でまくしたてる。
「で、ですがエリーゼ様は郷の大恩がある方のご子女ですよ? ナディア様に少しでも恩をお返しするのはラグナ郷の悲願だったはず。せめてエリーゼ様だけでも……」
「私だけというのなら結構です。私とグレイスは一心同体の旅の道連れ。それにグレイスは変態令息と呼ぼれていた時からは随分と変わりました。残念ですが、今回はご縁なかったということで帰らせていただきます」
エリーゼは毅然としてそういうと登ってきた登山道を降りていく。
え、そういう感じで進むの?
ご馳走にはありつけない感じ?
「エ、エリーゼ様ぁ!」
「止めろ! 自分で断ってるんだ、引き止める必要はない!」
リュウゲンはシオンを手で制する。
「あなたは恩義というものを感じないのですか!? 郷の多くの人間の命を救ってもらったという大恩があるのに! ナディア様のご子女にこんな扱いをしたとギョクレイ大僧正に報告しますよ!」
「ふん、あの子どもジジイにか? 勝手に報告しろ! どうせ今はまだ星詠みの最中だろうが!」
「大僧正に向かってなんて口の聞き方を……いくら大僧正に次ぐ副僧正だからと言って言葉が過ぎますよ!」
ラグナ教の位は大僧正、副僧正、僧官、教士、守人の順になっているはずだった。
「うるさい! そのうち、あの子どもジジイにとって変わってやるから楽しみにしてろ。その時には……」
リュウゲンはシオンを上から下まで舐め回すように視線を送る。
シオンは悪寒を感じて、自身を抱きかかえるように防御姿勢になる。
リュウゲンは舌なめずりしながら述べる。
「お前はいつかわしの手元に置いて可愛がってやるから楽しみしてろ。くっくっく…………それよりもだ、ゴミクズ野郎。お前はいつまでそこで突っ立ってるつもりだ? さっさと失せやがれぇ!!」
裂気と言われる気をリュウゲンは俺に発する。
ラグナ教の僧たちは多かれ少なかれ竜の血を与えられて竜ドーピングがされており、位が高位のものほど与えられる竜の血の割合が多いハズだった。
リュウゲンのその瞳は竜ドーピングの影響で、いつの間にか緋色に染まっている。
流石は副僧正。ただの気なのに吹き飛ばされそうになる凄まじい気だった。
「ふん、言われなくても帰るよ」
俺は踵を返してエリーゼの後を追う。
それにしてもリュウゲンなんて副僧正いたっけかな?
俺の記憶にあるゲームの登場人物にその名はなかった。
どうやらシナリオ改変の影響で予測できない展開になっているようだ。
俺は空いたお腹をさすり、後ろ髪引かれながらその場を後にした。
その時――
「……あいつが言った通りだったな」と、ぼそりと小声でリュウゲンが人知れず呟いた。
「そうね……」
エリーゼの素性は明らかにしてる。
ゲームではこの後、郷を救った大恩がある人の子息が現れたということで、祭りのような歓待がされるはずだった。
俺の頭の中ではすでにもてなされるはずのご馳走で頭が一杯だ。
ここまで来るのにかなり登った。
登山の時の山頂で食べるご飯って最高なんだよな。
体力的には余裕だけど、流石に腹は減る。
すると、おそらく僧であろうポニーテールに黒髪の長髪をまとめ、和服にも似た僧服を着た若い娘が息を切らしながら現れた。
スラリとしたスタイルをしているが、よく見ると胸のボリュームは大きく、美しい凛とした顔立ちをしていた。
「はあはあ……大変お待たせしました! ナディア様のご子女の来訪ということで、どちらがナディア様のお子様でしょうか?」
俺たちは顔を見合わせた後に、エリーゼが手を上げる。
彼女は感激した様子でエリーゼの手を両手で掴む。
「よくぞお越しいただきました! 私はシオンといい、過去ナディア様に救っていただいた人間の一人になります!」
「え、ええ……それはよかったです」
エリーゼは若干戸惑いながら答える。
「エリーゼの母さん凄かったんだな」
「うーん、かなり破天荒な母ではあったみたいね。なにしろ、カルディア王国から王族の身分を捨てて飛び出した人だからね。平民になって世界中を巡ってる途中で、たまたまお父様に見初められたのよ。そんな人生送ってる人は中々いないでしょ」
「大噴火が起こったあの大災害の日以降、ナディア様の氷結スキルと支援がなければこの郷は壊滅してました! 私の実家も焼け落ちましたが、ナディア様のご支援のお陰で再建することができました。感謝してもしきれません!」
「いえいえ、母はそもそもラグナ郷に恩義があってそれを返しただけと言ってましたよ」
「そうなんですか? ……だとしてもナディア様はラグナ郷の国母といってもいいようなお方! ささ、こちらへお入りになってゆっくりしていってください。歓迎させていただきます!」
「それはちょっと待て」
シオンが俺たちを中に引き入れようとしたその時、恰幅のいい一人の男が現れた。
「リョウゲン様、何か問題でも?」
「問題大有りだ。ナディア様のご子女はいいとしてもう一人の男はなんだ?」
リュウゲンと呼ばれた男は偉そうにシオンを問いただす。なんか嫌な感じだ。
シオンは質素な僧服を着ているが、リュウゲンは何かの儀式にでも着るような綺羅びやかな僧服を着ている。
それにより彼が高位な僧であることは予想できた。
「え……まあ、確かにご紹介に預かってませんでした。自己紹介をしていただいてもよろしいですか?」
「これは挨拶が遅れました。私、オルデア王国カイマン公爵家三男のグレイス・カイマンと申します」
俺は貴族風にお辞儀しながら挨拶をする。
「これはご丁寧にどうもありがとうございます」
シオンは深々と俺に頭を下げた後にリュウゲンと向き合う。
「とのことです。それでは歓迎させていただきますね」
「ばっかもーん!!」
リュウゲンは突然鼓膜が破れるかのような大声でシオンを叱りつける。
うるせえな、そんな大声出さなくても聞こえるよ。
「その男がオルデア王国でなんと呼ばれてるか知っているのか?」
「い、いえ知りませんが?」
おいおい、まさかこんな遠い所まで俺の高名は伝わってるのか?
「変態令息だ! 領内の婦女子に痴漢行為や嫌がるようなことをしまくってそう呼ばれてるらしい。仮にも公爵家の三男だぞ? 醜聞を広めるとそれだけで罪に問われかねないのにも関わらず、そいつは変態令息の異名を我が物としているらしい! そんな者を我がラグナ教の総本山である神聖な僧院に入れられるか!」
リュウゲンはすごい剣幕でまくしたてる。
「で、ですがエリーゼ様は郷の大恩がある方のご子女ですよ? ナディア様に少しでも恩をお返しするのはラグナ郷の悲願だったはず。せめてエリーゼ様だけでも……」
「私だけというのなら結構です。私とグレイスは一心同体の旅の道連れ。それにグレイスは変態令息と呼ぼれていた時からは随分と変わりました。残念ですが、今回はご縁なかったということで帰らせていただきます」
エリーゼは毅然としてそういうと登ってきた登山道を降りていく。
え、そういう感じで進むの?
ご馳走にはありつけない感じ?
「エ、エリーゼ様ぁ!」
「止めろ! 自分で断ってるんだ、引き止める必要はない!」
リュウゲンはシオンを手で制する。
「あなたは恩義というものを感じないのですか!? 郷の多くの人間の命を救ってもらったという大恩があるのに! ナディア様のご子女にこんな扱いをしたとギョクレイ大僧正に報告しますよ!」
「ふん、あの子どもジジイにか? 勝手に報告しろ! どうせ今はまだ星詠みの最中だろうが!」
「大僧正に向かってなんて口の聞き方を……いくら大僧正に次ぐ副僧正だからと言って言葉が過ぎますよ!」
ラグナ教の位は大僧正、副僧正、僧官、教士、守人の順になっているはずだった。
「うるさい! そのうち、あの子どもジジイにとって変わってやるから楽しみにしてろ。その時には……」
リュウゲンはシオンを上から下まで舐め回すように視線を送る。
シオンは悪寒を感じて、自身を抱きかかえるように防御姿勢になる。
リュウゲンは舌なめずりしながら述べる。
「お前はいつかわしの手元に置いて可愛がってやるから楽しみしてろ。くっくっく…………それよりもだ、ゴミクズ野郎。お前はいつまでそこで突っ立ってるつもりだ? さっさと失せやがれぇ!!」
裂気と言われる気をリュウゲンは俺に発する。
ラグナ教の僧たちは多かれ少なかれ竜の血を与えられて竜ドーピングがされており、位が高位のものほど与えられる竜の血の割合が多いハズだった。
リュウゲンのその瞳は竜ドーピングの影響で、いつの間にか緋色に染まっている。
流石は副僧正。ただの気なのに吹き飛ばされそうになる凄まじい気だった。
「ふん、言われなくても帰るよ」
俺は踵を返してエリーゼの後を追う。
それにしてもリュウゲンなんて副僧正いたっけかな?
俺の記憶にあるゲームの登場人物にその名はなかった。
どうやらシナリオ改変の影響で予測できない展開になっているようだ。
俺は空いたお腹をさすり、後ろ髪引かれながらその場を後にした。
その時――
「……あいつが言った通りだったな」と、ぼそりと小声でリュウゲンが人知れず呟いた。
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