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第28話 祝い

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【グレイスside】

「グレイス様、お帰りなさいませ!」

 屋敷に戻るとメイドたちが総勢あつまり、俺を待ち構えていた。

「あ、ああ。ただいま」

 今までにない経験で少し戸惑いながら応える。

「グレイス様、素敵でした!」
「流石はグレイス様です。勇者は強敵でしたが私はグレイス様を信じておりました!」
「グレイス様はカイマン領の希望です!」
「これでカイマン家の将来は安泰。セドリック様も安心だと思います!」

 メイドたちは次々と俺に群がり称賛の言葉を投げかけてくる。
 全く、少し前とは大きな違いだ。
 ここまでくれば屋敷のものたちの俺へのヘイトを気にする必要はないだろう。
 後は普段通り接するだけだ。

 屋敷の窓からは兄のヴォルフとアイゼンがこちらを眺めている。
 おそらく今回の決闘で俺が敗北することを望んでいたんだろう。
 二人とも苦々しい表情をしていた。

 そこで父セドリックが玄関を扉を開いて登場した。

「グレイスよ、よくやった。まさか勇者を打ち倒すものが我がカイマン家から出るとは。お前は私の誇りだ!」
「あ、ありがとうございます」
 
 父は感激した様子で俺の両肩を持ちながら称賛の言葉を送った。

「それでは食事にするか? 今日は祝いだ!」
「はい、腹ペコです」

 俺は父に促されて屋敷の中へと入る。

 ストーリーを順調に進められているようで嬉しいが、勝って兜の緒を締めよということわざもある通り、これから先の展開は未知数だ。
 そもそも悪役令息のグレイスが勇者アルフレッドに勝利するルートは存在しないからな。

 俺は祝いの席につく。
 長テーブルの上には所狭しとご馳走が並べられていた。

「今日は特別に贅を尽くした料理を揃えさせた。特別な日には特別なご馳走を食そう。お前の好物も揃ってる。さあ、食事にしよう!」
「はい、いただきます!」

 父の号令を合図に食事がはじまる。
 正妻のイザベルと二人の兄も食事の席についているが、三人とも無言で借りてきた猫のようにおとなしい。
 日常的に行われていた俺への暴言も今ではすっかりなくなっていた。

 俺はご馳走に舌鼓したつづみを打ちながら今後の展開を考える。
 予測されるルートはいくつかあるが、その中でバットエンドに繋がりそうなルートは潰す必要がある。
 まずは父セドリックの暗殺回避だ。

 実はカイマン領は一次産業が盛んで豊富な小麦が収穫できて、加えて牧畜も盛んだ。
 カイマン領から提供される食料はオルデア王国の3分の1以上が賄えるほどのもので、加えてレギオン王国とも隣接していることから、非常に地政学的に重要な領地であった。
 
 王国のクーデタールートに入ると、カイマン領という地政学的に重要な領地を治め、王国内でも強い力を有しているセドリックが真っ先に暗殺されてしまう。
 その後、カイマン領はレギオン王国からの侵攻を許して、占領されてしまうのだ。

 ここで友好な関係を築けている実力者の父を失うのは痛い。
 冷たい印象だった父だが、最近では情も移ってきてるしな。
 なので、なんとしても父の暗殺は回避したかった。

「グレイス様、水のおかわりは如何ですか?」
「ありがとう、いただくよ」

 新人メイドが俺のグラスに水を注ぐ。
 まだ大丈夫だろうが、こうした飲食物の中に毒が仕込まれるのだ。
 そして毒を仕込むのはゲームではメイドだった。
 そのメイドの素性自体は明らかにされていない。
 
 カイマン家のメイドは古株が多く、少なくても3年以上は働いているものが多い。
 彼女たちは忠誠心は比較的強くて、お金を握らされたとしてもそれだけで父を毒殺するとは通常考えられない。
 公爵殺しなんて嫌疑をかけられるだけで、人生が終わってしまうからな。
 
 可能性が高いのは最近入った新人メイドだ。
 彼女には監視の目をつけようと思っている。
 併せて父にも危険な動きがあることを伝えるつもりだった。

 これでクーデタールートに入ったとして、父の暗殺を防いだとしてもレギオン王国からの侵攻をどこまで抑止できるのかはわからない。
 だが人事を尽くして天命を待つつもりだ。
 そうすれば少なくとも後で後悔することはないからな。

「後で使用人たちにも祝いの食事を用意させているから、そのつもりでな」
「ありがとうございます!」

 父の言葉を聞き、メイドたちはすごく嬉しそうに笑顔で返事をした。

 ご馳走は小分けにされて次々と運ばれてくる。
 祝宴が続く中、俺は一旦考えることを放置し、目の前の食事を最大限楽しむことにした。
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