上 下
19 / 70

第19話 蒼星石

しおりを挟む
 元の世界へ戻ると、景色は元いた場所と変わりなく、通行人たちも何事もなかったように歩いている。
 手には先程手渡された『魅惑の響笛きょうてき』があった。
 なんだか変な感じだな。

 だけど、これで経験値稼ぎで最も重要なアイテムは手に入った。
 後、残すはもう一アイテム。これはあるダンジョンを特殊攻略する必要がある。
 そのために魔力ポーションのストックがいくつか必要だ。
 俺は魔力ポーションを手に入れる為に幻想商街に向かった。

 

 幻想商街に着くとそこには数多くの露店が軒を連ね、どこか現実離れした雰囲気を醸し出している。
 色とりどりの布で飾られた屋台には、魔法具や薬草、希少なモンスター素材が所狭しと並び、冒険者や魔術師が行き交う。

 この幻想商街。
 一般の店舗よりも安く商品を仕入れることもできるし、逆にぼったくられることもある。
 鑑定のスキルレベルが低い状態だと変な商品を掴まされる可能性があるので訪れることができなかった。
 だが今は鑑定のスキルレベルを上げて、真鑑定までできるので安心だ。

「ねえ、これいくら?」

 鉱石が立ち並ぶ露店で、こぶし大くらいある鉱石を指さして問いかける。
 その鉱石だけ仰々しいケースに入れられて、盗難防止かなにかの魔法がかけられているようであった。

「それは『蒼星石そうせいせき』ですね。最近の入荷品だから特別に見せてあげれますけど、1個金貨520枚の物凄い希少な鉱石ですよ」

 商人の男性は目を細めて笑みを浮かべながら答える。
 真鑑定を発動させ、鉱石を注意深く見つめると、視界にポップアップが現れる。

『精錬された人口鉱石:蒼星石そうせいせきの良くできた偽造品。熟練した錬金術師によって特別に精錬されている。市場価格:銀貨30枚』

(やっぱりか……この商人、偽造品を売りつけようとしているな)

「なるほど、すごい珍しい鉱石みたいだね。金額も妥当だ」

 商人は僅かに口角を上げる。

「でもあなたに蒼星石そうせいせきを購入できますか? 当店ではローン払いも受けつけておりますが、他にも良い鉱石が揃ってますよ」

 異世界でローン払いなんかあるのかよ、と心の中でツッコむが口には出さない。

「この鉱石が本物なら、購入は難しいでしょうね」

 商人はポーカーフェイスで表情を変えない。

「本物ですよ? 何を根拠に……」
「悪いが俺は鑑定スキル持ちでね。錬金術師が錬成した人工鉱石でしょこれ。価値は1個につき銀貨30枚。それなら払ってもいいですよ」
「…………」

 商人は少しの間、無言で黙り込んでいたが――

「……いいでしょう。それでお売りします。てか鑑定スキル持ちですか。よかったら商品の目利き手伝ってもらえませんか? もちろん報酬ははずみますよ」
「魅力的な提案だけど、他にやることがあるんでね。はい、お代はこれで。2個お願い」
「確かに」

 これで蒼星石そうせいせきの偽物を手に入れた。
 本物に比べたら二束三文の偽物をなんでわざわざ手に入れたか疑問に思うかもしれない。
 これにはもちろん理由がある。
 次はいよいよ本丸の魔力ポーションの露店に向かう。



 ポーションの露店に辿り着くと、薄汚れた衣服に身を包んだ奴隷の使用人が一人、黙々と商品の整理をしていた。
 彼の姿はどこか疲れ切っており、目には生気が感じられない。

 その横で、店主は豪華な衣装に身を包み、傲慢な態度で使用人に命令を飛ばしている。

「おい、手を止めるな! そのポーションをもっと丁寧に並べろ。少しでも汚れたら売り物にならないんだぞ!」

 苛立ち混じりの声で叱責するその男は、見下すような視線をこちらにも向ける。
 一方、彼は客が貴族だとわかると、途端に声を大きくして愛想を振りまいた。

「これはこれは、お目が高い! さすが貴族様、私どもの最高級ポーションを選ばれるとは。当店は平民の連中には分からない品質ですよ、はっはっは!」

 しかし、その笑顔が俺に向けられることはなかった。

「……ふん、ここは平民がウロウロするような場所じゃないんだがな。ま、貴族様のおこぼれを狙うなら、そこの安物ポーションでも見てるといい。だが、値切るような真似はやめてくれよ。君らのような身分の者に売るものじゃないんでね」

 なんだこいつ?
 こんな所で貴族特化の商売をしてるのか。
 貴族以外にはみんなこんな態度で接しているのかよ。

 露店に並べられた小瓶に入ったポーションの中から魔力ポーション(効果大)を手に取り鑑定する。

 『魔力ポーション:魔力ポーションの効果大。一瓶で魔力を100回復する:金貨5枚』

 効果大の魔力ポーションは流石に1個辺りの価格が高いな。
 これをいくらで売っているのか聞いてみよう。

「いくらですか、これ?」
「あ? ああ、そいつは魔力ポーションの効果極大で一つ当たり、金貨20枚だよ。てか、お前に払えんのかぁ?」
 
 俺は袋に入った金貨を見せる。
 すると商人は途端に態度を変える。

「これはこれはお目が高い! うちのポーションは一級品です! そちらは最上級の効果極大になります。是非、購入していってください!」

 嘘つけ効果大だろ。
 掌返しするにしても、恥も外聞もなさすぎだろこの人。
 商人を鑑定する。

 名前:オルド
 年齢:42歳
 職業:商人(詐欺師)
 レベル:10
 体力:10
 魔力:9
 スキル:市場操作Lv8、値付け術Lv21
 ユニークスキル:なし
 保有スキルポイント:12

(やはり、詐欺師か。鑑定スキルも持ってないし、好都合だな)

「えっ、効果極大ですか? ってことは回復値が300……すごいなあはじめてみた。でもちょっと1つ辺り金貨20枚はきついですねぇ……」

 俺はしらばっくれながら述べる。

「今なら特別に1個あたり金貨19枚でいいですよ。本日中のご購入という特別価格で提供させていただきます。実は商品の棚卸しが明朝ありまして」
「へー、金貨1枚分も値引いてくれるんですか。それはお得だなあ」

 内心ではやってるなあと思いながらも応える。
 今なら特別価格で購入を急かせるというのはセールスの常套手段だ。
 この手法は前世でも異世界でも変わりはないらしい。

 もちろんその手には乗るつもりはないし、その手を逆手にとってやる。

「あっ!」

 俺はその時わざと蒼星石そうせいせきが入った袋を落とす。
 袋から飛び出た蒼星石そうせいせきが商人の目に止まり、その目が大きく見開かれた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...