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第14話 分からせる

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「うぉおおおお!!!!」

 内蔵されたエネルギーを爆発させるようにヴォルフに向かって一足で移動する。
 移動ざまに剣を振りかぶり、ヴォルフの大斧と身にまとった金色の鎧ごと上段から剣を振り下ろす。

 グゥワキィーーーーーーーーンッ!!

 まるでこの世のものとは思えないような金属音が響いた後――

 ヴォルフの大斧は両断され鎧は破壊されて剣の軌道の通り、ヴォルフ身体から鮮血が吹き出す。
 
「ヒィ、ヒィイイイーーーーーッ!!!」

 ヴォルフは顔面を蒼白させて情けなく悲鳴を上げた。

 俺は発動した『命奪めいだつの刃』によって体力は大幅に削られ、身体中にダメージを負って満身創痍であるが、それを悟らせないようにヴォルフの前に立つ。

「よくもまあ今まで、散々理不尽な理由でいじめてくれたな」
「ま、まあ、まてよグレイス! あれはちょっと悪ふざけしただけじゃねえか」

 ボゴッ!

 俺のストレートがヴォルフの顎に直撃して狙い通り外れる。
 
「あが……あが……」

 ヴォルフは顎が外れたことで喋れなくなっていた。

「父様、今回の戦闘で相手が死んでしまった場合はどうなりますでしょうか?」
「その場合は残ったものの勝利となる」
「かしこまりました――――だそうだ、ヴォルフ?」

 俺は自身の剣をヴォルフの首筋に当てる。
 状況を把握したヴォルフの股間部からシミが広がり、地面に液体が流れる。
 その目にはすでに涙が溜まっていた。
 公爵の子だと甘やかされて、特別待遇を受けてきた人間だ。
 修羅場などくぐってきていないし、精神的な負荷にはひどく弱いようであった。

 俺はかがんで地面に座っているヴォルフと視線の高さを合わせる。

「これで分かったか? 二度と俺に対して嘲るような言動をするんじゃないぞ!!」

 ヴォルフは必死に頭を上下に動かして、恭順の意を示す。
 俺はヴォルフの顎に今度はアッパーを入れることでその顎を入れる。

「ヒィイイ……。助け……頼む、グレイス助けてくれぇええええ!!」

 ヴォルフは泣きながら懇願する。

「後、降参する前に最後に俺に謝れ。今まですみませんでしたって」
「すみませんでした。俺が愚かで馬鹿でした。参りましたぁああああ!!!」

 ヴォルフはそう言った後に地面に突っ伏して泣き崩れた。 

「父様、これでよろしいでしょうか?」
「ああ。この戦いグレイスの勝利とする! グレイス……今までよく耐え、そして自らの力でそれを乗り越えたな。よくやった!」

 父は称賛の言葉と温かな眼差しを俺に向けてくれた。
 今までその態度を冷たいと感じたこともあったが、厳しく、そして温かく俺のことを見守ってくれていたようだ。

「ちょっと、セドリック、グレイスはやりすぎよ! もう少しでヴォルフが死ぬところじゃない! 罰を与えてぇ!!」

 正妻のイザベルがヒステリーを起こして甲高い声で叫ぶ。

「今回の戦いは騎士同士のお互いの命をかけた正当なものだ。グレイスの瑕疵かしは何一つとしてない!」

 セドリックは断固として宣言する。
 
「そ、そんな! 私の可愛いヴォルフがこんな目に合わされたのに!」
「黙れ! 言っておくが我がカイマン家の跡継ぎはヴォルフに決まっているわけではないからな。私が当主を継ぐに相応しい騎士としての人格と、強さを兼ね備えたと判断したものに後を継がせる!」
「そ、そんな……」

 セドリックの一喝によってイザベルはヘナヘナと地面にへたり込む。

「グレイス、お前には期待しているぞ。今後も精進せよ!」
「はっ! 父様のご期待に添えるよう精進いたします!」
「ふむ」

 セドリックは満足そうな表情を浮かべて屋敷の中へと消えていった。

 後には号泣しているヴォルフと、地面にへたり込んでいるイザベル。
 そして呆然と立ち尽くしているアイゼンのみが残されていた。

 俺も屋敷へと戻る。
 アイゼンとすれ違うときに、俺に敵意と憎しみの籠もった視線を向けてきた。

(やれやれ、まだ分からせが必要かもしれないな)

 俺はその視線を無視して、屋敷へと入る。
 すると待ち構えていたメイドたちが嬉しそうな顔をしてわっと群がってきた。

「グレイス様、お疲れ様でした! はい、タオルです!」
「お腹は空いておりませんか? 軽食でしたらすぐにでもご用意できます!」
「マッサージは如何ですか? お疲れを吹き飛ばします!」
「温かいお風呂のご用意もできております!」

 なんだなんだ!?
 ちょっと前と比べるとえらい変わりようじゃないか。
 
 それにやたらと彼女たちは体を密着させてくる。
 うん、腕に柔らかな双丘の感触を感じるな。
 うれしいが、この歓待ぶりはちょっと怖いくらいなんだけど……。

「あ、ああ、気づかいありがとう。でも、今は部屋で寝て回復したいよ。ご飯とかは起きてからでお願いしてもいい?」

 なるべく平静を装っているが足はガクガクで、一刻も早く部屋のベットに寝転がりたかった。

「かしこまりました! それではお目覚めになりましたら遠慮なくお声がけください」
「ああ、みんなありがとう。それじゃあね」

 俺はメイドたちにお礼を言い自室に戻る。
 それにしても一体どこで彼女たちの俺を見る目が変わったのかな?
 もしかして彼女たちもヴォルフのことを嫌っていて、俺が間接的に意趣返いしゅがえししたからそれで喜んでくれたとか……。

 ありえそうな話だ。
 っていうかあのテンションはきっとそうじゃないかな――――

 俺は部屋のベットにたどり着くと気絶するように眠りについた。
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