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第12話 食事会

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 コンコンと自室のドアがノックされる音が響く。

「……どうぞ」
「失礼します。グレイス様、セドリック様より本日夜家族で食事会が開催されるから参加されるようにとのことです」
「分かった。伝言ありがとう」
「とんでもございません。失礼いたします」

 メイドはお辞儀をしながら扉をしめる。

 カイマン家では月に1度家族揃っての食事会が開催されている。
 兄二人とは顔を合わせているが、父のセドリックと正妻のイザベラとは一ヶ月ぶりだ。
 
 正直参加したくない。
 グレイスの記憶に食事会でいい記憶が全くなく、嫌な展開がある程度予想がつくからだった。
 というのも、 兄と正妻から俺に対して誹謗中傷を受けるのがカイマン家の食事会だからだ。

 まあその前に換金が済んだから装備の前払いをしにいくか。

 
 
 
「おい、ローン払いは受け付けてねえぞ」

 ガラハドは俺から受け取った小袋を手にとって言う。
 確かにその中に金貨700枚が入っていると思わないだろう。

「…………」
 
 俺は無言で小袋に視線を送った。

「ん?…………おう、白金貨かよ! これは失礼したな。1、2、3……合計で7枚あるからこれで金額分全部だな。良し、これでオーダーされた装備作ってやる。首を長くして待ってろよ!」
「分かった。納期はどれくらいになりそう?」

 ガラハドは少し考え込む。

「…………そうだな、今回の装備なら1~2週間くらいだな。実はもう材料は発注して揃ってんだ。お前は必ず金用意してくると思ってたからな! ただ正直少なくとも半年くらいはかかると思っていたが、僅か数日で用意するとはな。たいしたもんだぜ、おめえよ」

 俺は照れ隠しで頭を少しかきながら――
 
「じゃあ、1週間後くらいにまた来るよ」
「ああ、わしは早速鍛冶にとりかかるぞ!」

 そう言ってガラハドは嬉しそうな顔をして店の奥へと消えていった。


 
 
「グレイス」
「なんでしょう、お父様」

 無言でナイフとフォークの音だけが響く、室内で急に呼びかけられる。
 兄たちも正妻のイザベラも口を開かず、今日の食事会は少し雰囲気が違うようだった。

「冒険者救出の件、よくやった。ギルドから当家へ直接感謝状が届いたぞ。お前は当家の誇りだ!」

 今まで父から褒められた記憶がなかったので、驚きで一瞬固まってしまう。

「…………ありがとうございます。ただ、カイマン家の人間として当然なことをしただけです」
「それにお前、最近よく鍛錬をしてるみたいだな。いい心がけだ」
「何が起こるかわかりませんし、カイマン家の人間として恥ずかしくなようにしたいですから」

 父は俺の返事に無言で頷く。
 この父と俺のやり取りを面白くなさそうに顔をしかめてるのが、正妻と兄たちだった。

「お父様、グレイスなど所詮は外れスキル持ちの出来損ないに過ぎません。期待をかけるだけ無駄ではありませんか?」

 長男のヴォルフが意見する。

「才能の優劣を評価したのではない。私は心がけのことを言っているのだ」

 少しムッとしながら父は答えた。

 俺はヴォルフを鑑定で調べる。

 名前:ヴォルフ・カイマン
 年齢:20歳
 身分:カイマン公爵家長男
 レベル:22
 体力:38
 魔力:30
 スキル:重踏みlv18、重甲の構えlv13
 ユニークスキル:剛力lv12
 保有スキルポイント:12
 
 どうやら前に見た時と変化ないらしい。
 これなら準備していた兄対策でなんとかなりそうだ。
 ではそろそろ頃合いか……。

「お兄さん、外れスキルだと言われてるけど、俺はそんなに弱くないよ?」
「ああん!? てめぇグレイス、ちょっと父様に褒められたからって調子に乗ってんじゃねえぞぉ!」

 脳筋のヴォルフは瞬間湯沸かし器のように激昂して、口から食べ物のかすを飛ばしながら喚き散らす。
 
「いえ、別に調子には乗ってない。実際レベルはお兄さんを超えてるからね」

 俺はフォークでゆっくりと口にソテーを運びながら応える。
 レベルは25になっていた。

「俺のレベルを超え……? っつ、そんなレベルなんか上げたところで、てめえみたいな外れスキルだとどうしようもねえんだよ!」
「ヴォルフお食事が終わったら少し分からせて差し上げたら如何ですか? 勘違いした輩には体で教え込むのが一番ですからね」

 正妻のイザベルが冷徹な視線を俺に送りながら述べる。 
 いつもながら兄たちを煽り俺を攻撃してくる嫌な女だな。
 でもまあ、分からせはこちらも望むところだった。

「はい、母様! おい、グレイス、てめぇ久しぶりに稽古つけてやる。食事が終わったら中庭な!」
「兄さん、中庭を壊さないでくれよ。グレイスはぶっ壊してくれても構わないけどね」

 次男のアイゼンは俺に、ニヤニヤとした笑みを向けながら進言する。
 ヴォルフが負けるなどと夢にも思っていないようだった。

「分かった。それじゃその腐った性根を叩き直して上げるよ。兄さんたちを煽る、その薄汚れた女狐も同様にね」

 一瞬にして室内の空気が凍りつく。

「てめぇなんて言いやがった今!!」
「勘違いしやがって外れスキルのゴミ野郎がぁ!! 兄さんぶっ殺してやってください!!」
「庶子の分際でえらく勘違いしてしまっているようね。ヴォルフ、念入りに教育頼むわよ!」

 ヴォルフは怒りで顔を赤くしており、アイゼンとイザベルの敵意と憎しみに溢れた視線が俺に集中するが、俺はそれを無視して食事を進める。
 
 父の方をチラッと盗み見る。
 特にやり取りには反応を見せずに黙々と食事を進めている。
 いつもの通り、家族間のいざこざは静観するらしかった。

 父セドリックはレベル70を超えており、『龍剣の裁き』や『天の咆哮』といった激レア以上を強力なスキルを複数保有する、オルデア王国の中でも屈指の猛者である。
 今の俺ではとてもじゃないが敵わない。
 だが父に止められない限りは、思う存分できそうだった。
 
 美味しいはずの食事もこの後の戦闘のことを思うと、あまり味がしなくなった。
 俺は機械的に食事を進めて、ヴォルフとの戦いのイメージと闘志を高めていった。
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