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第3話 国王エンドを目指す(転生者の勇者視点)

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「くそっ、なんなんだ、あのクソ邪魔モブ野郎は!!」

 飾り用の壺に投げつけた剣が当たって割れる音が響く。
 アルフレッドは椅子に勢いよく腰掛ける。

 今日あそこで魔物を討伐することで王女と懇意になれるはずだった。
 モブ雑魚のグレイスが依頼された警護を本来、未来の勇者である自分が依頼されるはずだったのだ。

 転生前の人生は順風満帆だった。
 日本の最高学府を卒業後に官僚となり、その後キャリアを順調に積んだ後に政治家へと打って出た。
 見事当選して地方の首長となり、そこで知名度を上げた後にはいつか国政へと進出するつもりであった。
 なぜ異世界に転生したのかは、前世の最期を思い出せない。
 確かパワハラだと上級国民の私に恐れ多くも歯向かってきた下級国民がいたことは覚えているのだが……。

 転生先がゲームのブレイス・オブ・ワールドの中の世界であることはすぐにわかった。
 公務の合間や余暇にそのゲームを楽しんでいたからだ。
 主人公で勇者のアルフレッドに転生できたことを知った時にはテンションが上がった。
 アルフレッドは勇者の主人公というだけあって、ゲーム中で選択できる登場人物の中では最強だったからだ。
 これで異世界での俺の将来と地位は盤石で揺るぎないものになった。
 やはり持てる者は転生しても持てる者へとなるのだ。
 そう思っていた矢先に最初のイベントでつまづいてしまった。

「グレイスとか言ったな、あのクソモブ野郎! 俺に向かって偉そうに盗み聞きはよくないだと? 最高学府を卒業した俺にどんな教育を受けているのかだと? あいつには本来のシナリオにないくらいの地獄を見せてやるからな!!」

 前世では地方の首長として大鉈を振るい、自身に批判的なものや追従しないものについては徹底的に排除してきた。
 精神疾患での休職者が多い? 自殺者が多い?
 そんな声が聞こえてくることがあったが、そういった批判をするものは物事に本質を捉えられていない。
 つい最近でも官庁のシステムを刷新する時には、開発担当したシステム会社に限界以上に圧力をかけてやったわ!
 それが我々上級国民の利益になるのだ。
 改革には犠牲はつきもので、いくらでも替えがきく下級国民の微々たる犠牲にわざわざ目を向ける必要は一切ないのだ!

 ブレイス・オブ・ワールドには複数のエンディングがあるが、その中に国王エンドというものがある。
 それはエリーゼ王女を妻に迎え、自身は国王となってその後の国を導いていくエンドだ。
 俺は当然それを目指すつもりでいる。
 最高学府を卒業して最高の知能と知性を誇り、下級国民たちを指揮、指導する立場でもあった官僚出身の私に最も相応しいエンドだろう。
 遅れた異世界の国民たちを頭脳明晰な俺が導き、指導してやるのだ。
 俺が王になった暁には我が王国の国民はきっと涙を流して私に感謝するはずである!
 
 その為には、今回のイベントが非常に重要だったのだ。
 それをあのクソモブ野郎が!!

 ドンッ!!

 壁を殴りつけた音が宿に響く。

 俺の計算を乱すもの。俺の意見に逆らうもの。
 そういった者はすべて不穏分子で、粛清対象だ。
 
 グレイスの野郎は一体どうしてくれよう?
 
「…………」
 
 奴とは次、1ヶ月後くらいに邂逅するイベントがあるはずだった。
 街の女性に痴漢行為をしている所に俺が通りがかり、それを咎めて戦闘になるのだ。
 確か、グレイスはコピースキルでユニークスキルもコピーできると思っていて、俺のユニークスキルがコビーできずに結果、無様に敗れるはずだった。
 
 それを除いても戦いには難なく勝てるはずだ。
 何せこちらは勇者であっちはモブの雑魚キャラだ。
 
 ただ勝つだけでは気がすまない。
 あいつの評判を地に落ちるものして王女の護衛任務を併せて奪いたい。
 何かいい考えはないか……。
 
 アルフレッドは部屋で一人しばらく考え込む。
 静かになった部屋の窓辺に一羽の小鳥が舞い降りた。
 
 そういえば奴と邂逅する前に魔族と接触するイベントもあるはずだ。
 魔族は敵だが、中には話が通じる者も入る。

 妙案みょうあんを思いついたアルフレッドはニヤリと笑う。

 敵といっても利害が対立しているからこそ敵になるのだ。
 お互いの利害が調整できれば敵であっても味方に変えることは可能。
 これは前世で政治家をやっていた私が最も得意とするところだ。

 戦いに敗れた後のグレイスが奸計かんけいにかかり、必死に抗弁こうべんする様を想像すると思わず笑みがこぼれる。
 下級国民が上級国民たるエリートの私に逆らうとどうなるか、思い知らせてくれるわ!
 一瞬の気の迷いなどと決して言い訳はさせない!!

「くっくっく……」

 アルフレッドは望む未来の到来を待ちきれずに、部屋で人知れず小さな笑い声を上げた。
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