少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

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再びの戦い

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アダムさんのマッサージはとても上手くて、痛みはもうなかった。

「ありがとうございます」

「じゃあお礼はキスだね」

「えっ!?それ以外で!」

「ふふっ」

アダムさんは俺が拒否すると、嬉しそうな顔をしていた。

変わった人だな、と思ってアダムさんを見つめる。
マッサージが終わって、一緒に外に出て改めて頭を下げてお礼を言った。

アダムさんは「また筋肉痛になったらおいで」と言っていた。

悪い人ではないんだけど、仲良くなれるかは今のところ分からない。
俺をからかわなければ、友達として仲良くしたいんだけどな。

俺は酒屋に向かい、アダムさんは俺が見えなくなるまで見守っていた。

慣れるまで昼間の仕事を手伝いながら酒の名前を覚える。
似たような名前でも、味が全然違うから覚えるのが大変だ。
昼間の仕事はお酒の樽を運んだり、店の掃除などをする。

早く夜も出来るまで、下積みをちゃんとしないと…

「んぐぐぐっ」

「おー、今日は昨日より少し上がったなー」

重い樽を時間掛けて持ち運んで、まだまだ昨日と変わらないなとため息を吐く。
腕が痛くなりつつも、また重い樽を運んで俺の仕事は開店間近まで続いた。

店主は俺が一日で辞めると思っていたみたいで、少しは根性があると言ってくれた。

昨日よりも酷い筋肉痛ではないけど、痛い事には変わりがない。
またアダムさんのマッサージを頼るしかないかな。
自分でもマッサージが出来たらいいのにな、と腕をもう片方の手で握る。

素人がやるものではなくて、鋭い痛みが走り手を離した。

空を眺めながら歩いていたら、なにかが見えた。
オレンジ色の空で、星はうっすらと浮いていたけどこんなにはっきりと星が光ったのが見えるのかな。

眺めていたら、その光はだんだん強くなり目を見開いた。

違う、これはただの星ではない…これは…

俺が避ける前に、誰かに腰を掴まれて横に引かれた。

俺がいたところに光は落ちて、広場に大きな穴がぽっかりと開いた。

広場では大きな騒ぎになり、何人か逃げ遅れた人が痛みで苦しんでいた。
なんだこれ、どうして…俺が狙われた、俺のせいで大勢が…

「ユーリ!大丈夫か!?」

「え、あ…」

気持ちが動揺して、パニックになりそうだったが声を掛けられて後ろを振り返る。
俺の腰を掴んでいるのは、一瞬アダムさんかと思った。

でも俺の名前を呼ぶ、イヴなんだとすぐに分かった。

大勢の足音が聞こえて、城からエマと数人の騎士がやって来ていた。
エマの聖女の力を使って、傷付いた人達を癒していて他の騎士達は国民達を避難させていた。

イヴは周りを見ていて、ある場所で動きを止めた。

俺もイヴが見ている方向を見て、建物の上にいる人影が見えた。
遠くでよくは見えないが、存在感が聖騎士だと言っていた。

その人物は俺達に背を向けて何処かに行ってしまった。

「イヴ、追いかけないでいいの!?」

「ユーリを置いていけない」

「俺は大丈夫だから」

「そんな腕で逃げられないでしょ」

イヴに言われてしまい、言葉に詰まって聖騎士がいた方を見た。
今から追いかければ聖騎士を捕まえられるのに…

自分の腕を掴むと鋭い痛みが走り、イヴに手を掴まれた。

泣いている子供がいて、イヴから離れてその子供のところに向かう。
親とはぐれてしまったみたいで、俺も一緒に探す事にした。

そしてイヴは騎士達のところに向かって、まだ攻撃がくるかもしれないから周りに警戒した。

母親はすぐに見つかって、俺は広場から離れた。

また来るならきっと俺を狙う筈だ、人が沢山いるところに居てはいけない。
これ以上、誰かを傷付けたくはない……でもイヴに言わずにこんな事したらイヴは俺を怒るだろう。

でも、イヴは今国民を守らないといけない…俺がイヴの代わりにどうにかしないと…
当然俺は死ぬつもりはない、ただ…俺は紋様があるだけで魔騎士じゃない…悪い魔騎士はいないんだと伝える。
あの時はまともな会話をする事が出来なかった。
でも、正義の騎士なら話を聞いてくれるかもしれない。

広場を見ながら歩いていたが、背中がなにかにぶつかった。

後ろを振り返ると、俺を冷たい瞳で見下ろしている聖騎士がいた。
手に光をまとっていて、俺はとっさに風魔法を使った。
俺の風魔法なんて聖騎士の髪が靡いただけだった。

転がるように避けて、筋肉痛で痛かったが…それでもしっかりしないといけない。
紋様がない方の腕の袖をちぎって、腕に巻きつけた。
これなら少しは力が出る筈だ、聖騎士は腰に下げていた剣を掴んでいて地面に落ちていた石を投げつけた。

石は俺の狙い通り手に当たり、聖騎士は剣から手を離した。
剣を使わせる事が出来なかったら、俺でも勝てるかもしれない。

「…剣を使わせなければ勝てると?」

「えっ…」

「顔に出やすい魔物だ、まるで人のようだ……だが、人のフリをしても魔物はただの魔物だ」

手に光をまとっていた、さっきよりも大きな光だ。
聖騎士の目が赤くなり、さっきより本格的に攻撃するつもりなんだ。

俺はその前に話をしなければいけない、彼に人の心があるなら…きっと…

俺が最初に魔騎士でも魔物でもないと言ったところで証拠がない。
むしろ、魔騎士である証拠なら紋様があるから言い訳が出来ない。

だから最初に彼が聖騎士であるという事を確認しなくては…

「なんでこんな事をするんですか!」

「聖騎士は魔物を根絶やしにする事が生きる意味、今の聖騎士はお前が味方になるように洗脳した腰抜けだ、任せてはおけない」

「イヴは……腰抜けなんかじゃない」

手を握りしめて、冷静にならなきゃ…と自分を落ち着かせる。

何も知らないくせに、イヴを悪く言う目の前の聖騎士に怒りが込み上げてくる。
イヴは腰抜けなんかじゃない、皆を守ろうと頑張っているんだ。

聖騎士を辞めるとか言っていた事もあったけど、イヴが頑張っているのを傍で見ていて知っている。

何の罪もない人を傷付ける目の前の男こそ、聖騎士を名乗る資格なんてない。

男の光の力はだんだん大きくなっていく、このくらい大きいと俺だけではなく周りの人達も巻き込んでしまう。

「聖騎士なのに、国民を傷付けるんですか」

「魔物を消すためには、多少の犠牲は仕方ない」

「人を何だと思ってるんだ!!そんなの聖騎士じゃない!」

「魔物が、聖騎士を語るな!!」

光は巨大な剣のようなカタチになり、俺に向かって振り下ろされた。
当たっていないのに俺を押し潰す圧を感じて、地面に足がめり込んで逃げられなくなる。

本当に魔物を倒すためなら手段を選ばないみたいだ。

歯を食いしばって、耐えていても限界は容赦なくやってくる。

ポタポタと地面に血が落ちていき、視界が見えなくなる。

その時、俺の後ろに誰かの気配を感じて俺を全身で包み込んでいるようだ。
でも男から目を逸らす事が出来ず、後ろを振り返れなかった。

俺の腕や血が流れた頭など、どんどん痛みが引いていった。
そして、光の剣の重さも少しだけ軽くなっていた。

俺を抱きしめる細い腕が見えて、まるでその腕は女性のようだった。

重さがなくなって、そのまま地面に座り込んだ。

男は驚いた顔をして「お前、その力は…」と言っていた。
俺の前には、騎士服姿の背中が見えてその人の名を呼んだ。

「イヴ…」

「ユーリ、俺から離れちゃダメだよ」

後ろを振り返るイヴの手には、男とは対照的な真っ黒なものにまとわれていた。
男の光の力を魔騎士の力で吸収したみたいで、聖騎士の力は互角だったが魔騎士の力は圧倒的に感じた。

俺の後ろにいた筈の気配は跡形もなく消えてしまっていた。

男は「魔騎士…」と呟いて、イヴは男の方を見た。

お互いに抱くのは確かな殺意と敵意、それだけだった。

俺一人が話し合いでどうにか出来るような人ではないと今更気付いた。

「聖騎士であるお前が魔騎士…だと?」

「この子は魔騎士に憧れて紋様を腕に描いただけだ、お前はそんな事も見抜けないほどの間抜けだったんだな」

「貴様ぁ!!」

「俺を殺したきゃやってみろよ、まぁ…老いぼれ聖騎士に俺がどうこうされるとは思わないけど」

イヴはわざと男を挑発するような言葉を言っていた。
俺がエマに言った言葉を言って、狙いを自分にするために…

男は剣を引き抜いて、剣に力を込めると眩い光を見せた。

イヴは俺に近付いてきて、唇が触れ合ってすぐに離れた。
触れていた時、なにかが俺の中に流れてきた感覚がした。

小さな声で「おまじない」とだけ言って、俺に最初に放った光の魔術を再び魔騎士の力で防いだ。
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