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新しい生活

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母さんと話が噛み合わない、なんで?

俺の仕送りはイヴに貰っていたみたいだけど、イヴに預けていた手紙は貰っていないようだった。
なんで、イヴは俺の手紙を届けなかったんだろう。

俺は普通に元気かどうか聞くくらいしか書いていない。

母さんも手紙をイヴに渡しているらしい、でも俺には手紙は渡されていない。
なにか書いてあったのか聞いたら、俺がいない間に大きく進展したらしい。

俺が送った仕送りと両親の頑張りで借金が返せたみたいだ。
マティアスのいた時とは違い、貧困街から出れるから普通の仕事も出来る。
だから返せたんだろう、そうじゃなきゃ貧困街だけでは焼け石に水だからな。

それで貧困街から平民街に引っ越す事が出来たらしい。

「じゃあ今は平民街にいるの?」

「そうよ、新しい生活が始まったのよ」

貧困街の時とは違って、昔のような明るさが戻ってきたみたいだ。

俺は両親と共に住みたいと言った、住む場所がなくなったし…また一人暮らしが出来る資金が貯まるまでの間でいい。

母さんは事情を聞かず微笑んで、受け入れてくれた。

母さんの荷物を持って、新しい家に一緒に向かった。
似たような家が並んでいて、近所の人達と母さんは挨拶していた。
俺も母さんの真似をして挨拶をする、ご近所付き合いがいいんだな。

素朴だけど、落ち着く家だな…父さんは仕事でいないらしい。
使用人をしていたから家事は得意だから、これから母さんを楽させてあげようと思った。

荷物はないから身一つで来たから母さんに不思議がられたから、誤魔化すのが大変だった。
それに、イヴの上着を着ているからそれもあるよな。

「その服、イヴ様に借りたの?返さないといけないんじゃない?」

「うん、父さんの上着貸してくれる?」

「いいわよ、父さんの部屋はそこよ」

母さんが指を差した方向はリビングの奥にある廊下の一番奥の部屋だった。

部屋に入って、イヴの上着を脱ぐと暖かな温もりはなくなり寂しさを感じた。
イヴと距離を置くって自分で決めたのに、そんな事考えちゃダメだ。

ぼろぼろのシャツも脱いで、父さんのクローゼットから白いワイシャツを取り出した。
やっと紋様が隠せて、イヴの上着をギュッと抱きしめる。

母さんに「この上着返してくる」と言って家を出た。
平民街を歩いていたら、曲がり角で誰かにぶつかった。

「うわっ!」

「……っ」

油断していたから受け身も取れず、そのまま尻もちをついた。
イヴの上着は抱えていたから、汚れずに済んだ。

でも、同じくぶつかった人も座り込んでしまっていて慌てて立ち上がった。

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」と声を掛けた。
腰まで髪が長いから女の人かと思ったが、声は男のように低かった。

目が包帯で覆われていて、前が見えないみたいだけど……そうなのかな。

「大丈夫、君は?」

「俺は大丈夫です、立てますか?」

「一人で大丈夫だよ」

そう言って、その人は壁に触れてゆっくりと立ち上がった。
俺は何かあった時のために名前と家の場所を教えた。
するとその人は俺に頭を下げて、そのまま歩いていってしまった。

杖もないし、しっかりと歩いているから目が見えないようには見えなかった。

俺もイヴのところに行こうと平民街を急いで出た。
イヴがいる確率が高いのはやっぱり城だろう、イヴの新しい家でもあるし…

城の門の前に立って、門番にイヴに会いに来た事を伝えた。
でも、門番は俺を怪しい人と思っているのか首を横に振った。

「イヴ様は忙しいんだ、さっさと帰れ!」

「…え、あ…じゃあこれを渡して下さい」

あんな事を言ったばかりだし、イヴも俺に会いたくないだろう。
門番に睨まれて、これ以上怪しまれたら騒ぎになってしまう。

頭を下げて、そそくさと走ってその場を離れた。

何もなくなった手のひらを見つめて、後ろを振り返り城を見上げた。
イヴと別れたわけじゃない、一緒に住まないだけだ。
なのに、なんでこんなに不安に思うんだろうか。

その日、俺は両親と久々の夕飯を食べて空いた部屋をもらった。
唯一手元に残った耳飾りを机に置いて、何もない机を見つめた。
いつもあった水晶型の通信魔導機でイヴと繋がっていた。

何もない机をゆっくりと撫でて、机に顔を付けた。

その日、俺は一睡も寝る事が出来なくて…常に眠たい状態だった。

ボーッとしながら朝食を食べる俺を母さんは心配してくれた。

俺も依存していたって事なのかな、我慢しないと…

「大丈夫?今日はゆっくりと休む?」

「ううん、早く新しい仕事探さないと…」

「無理しないでね」

母さんの優しさに胸が締め付けられる思いだった。

俺がここにいると両親も危なくなる、早くここを出ていかないと…
それに、俺は自分の身を守るために強くならないといけない。

だとしたら、仕事は体力が付くようなものがいい。

前の仕事場は貧民堕ちして辞めてしまったから、戻れない。

家を出て平民街を出て、広場の真ん中で足を止める。

イヴではない数人の騎士が歩いているのが見えた。

確かに騎士団なら体力は付くだろうが、魔力が弱い騎士団なんて断られるよな。
別のところを探そうと歩いていたら、酒場が見えた。
まだ酒場は開く時間ではないが、店主のおじさんが重そうに樽を外に運んでいる。

腰をさすっていて、俺はおじさんのところに向かった。

「あの、手伝います」

「えっ!?いやぁ…でもなぁ…」

「俺、ここで働きたいんです!!」

おじさんが運んでいた樽を持とうと思って、力を込めた。
しかし、樽は全くびくともしなくて一生懸命運ぼうとした。

気持ちだけが先走ってしまい、体力が全然追いつかない。

そしておじさんは「無理しなくていいぞ」と言っていた。
でも、ここで働きたい…そうアピールするために頑張った。

やっと指定された場所に運んだ時には全身筋肉痛で息を荒げた。

「はぁ…はぁ」

「大丈夫か?」

「だい…じょうぶ…です!」

「他の仕事を探した方が…」

「お願いします!ここで働かせて下さい!」

そう言うとおじさんは数日間お試しで雇ってくれると言ってくれた。
その間に限界が来たり、使い物にならなかったら新しい仕事を探す事を約束した。
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