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ハルフィリア視点2

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男は俺に向かって、剣を差し出していた。

頭を下げていて、これで戦えという事だろう。
ならばその期待に応えよう、私が平和に怠けたこの国の民を救おう。
現聖騎士に聖騎士のお手本を見せてやる。

バルコニーから出て、走った魔物の気配がする場所にまで行った。
魔物がいる場所に近付くと、変な奴が入り口を塞いでいた。

人間ではなく、これは機械か…ならば容赦は無用だな。
剣を振り上げて、斬りつけようとしたが魔術も使えるのか、普通の剣では無理なようだ。

ならばと人型の機械の頭を掴んで、氷の魔術で機械を凍らせた。
機能停止した機械は、魔術も消えて通れるようになった。

そのまま先に進むと、さっきまで魔物の気配がした場所に到着した。
魔物は何処にもいなかった、まるで誘導されたかのような気持ち悪さを感じる。

でも、外れというわけではない…微かだが魔物の気配を感じる。
何処に隠れていようとも、私から逃げられると思うなよ。

一つの窓の前に白い鳥が私に知らせるように止まっていた。

そうか、まだ君もいたのか…私と共に戦った白鳥しらとり
魔物がいる場所を知らせているのだろう。

私は白鳥がいた窓の前に、風の魔術で飛んだ。
そして、手のひらに聖騎士の力を込めた光の魔術を発動させて壁をぶち壊した。

部屋にいたのは、何処にでもいるような普通の男だった。
見た目だけで騙せると思うな、私はそんなに甘くない。

床に散らばったガラスを踏みながら魔物に剣を向ける。

魔物だと思っていたが、腕に目が行って驚いた。
それは魔騎士にある証と呼ばれるものだ。

こんな弱そうな奴が、魔騎士だと言うのか?

今の世の中はどうなっているんだ?弱い魔騎士と弱い聖騎士とは…

「お前が今世の魔騎士か」

「俺…は…」

「いや違うな、魔騎士がこんな弱い力なわけがない…でもその腕の証は危険だ、人に化けた魔物は排除する」

一瞬でも魔騎士だと思ったが、すぐに自分の考えを改めた。
魔物だろうが、腕の証があるだけで魔騎士になりかけなのかもしれない。
ただでさえ人の姿の魔騎士は人に危害を加えるという存在だというのに…

今すぐ排除してやると、剣を上に上げて力を注ぎ込む。
剣に白い氷の魔力が集まり、剣を覆った。

剣だけじゃない、全てを凍りつかせる力は聖騎士の力。
全ては魔物を殺すためのその力を今使ってやる。

壁も床も凍らせる、さすがに魔物までは凍らないか。
そこだけ、ただの人とは違うのだろうな。

でも、そんな事はどうでもいい…私がする事はただ一つ。

「私が、魔騎士を根絶やしに…」

剣を振り下ろした瞬間、氷の棘が無数に地面から突き立てていき屋敷全体を越えて外にまで氷で凍らせる。

これで逃げ場がない魔物はそのまま消えてなくなるだろう。
それが魔物の運命だ、存在全て魔物は否定される。
いたという事実がなくなる…それに同情するつもりはない。

目の前を見て、勝利は確定していたのに眉を寄せる。
何故ここにいるんだ、さっきまで広場にいたというのに…
私の邪魔をするつもりなのか、私はお前の代わりをしているというのに…

「何故、聖騎士のお前が魔物を庇うんだ」

私の氷の魔術は魔物に届く前に、聖騎士に止められた
いくら氷は炎に弱いとはいえ、私の氷を一撃で溶かすとなれば力は弱くはないみたいだ。

聖騎士は聖騎士と呼ぶには可笑しい顔をしていた。
平和ボケをしていると思っていたが、どうやら違うようだ。

目の前にいる私すらも映していない瞳に明らかな殺意と敵意。
私の事を殺す気で溢れていた、後ろにいる魔物ではなく…

私が聖騎士だと知っての行動なのか、それとも一般の国民にすらその顔を向けるのか。

私の言葉を無視して聖騎士は炎をまとった剣で斬りかかってきた。
剣を受け止めて、お互いの魔術がぶつかり合う。

同じ聖騎士同士、魔力は互角だが腕力の差は違う。
重さを感じる剣で、一瞬でも気を抜くと殺されるだろう。

「今世の聖騎士は平和ボケをしている奴だと思ったが、私の呼び名を受け継ぐだけはある」

「その声、耳障りだ…首から切り落としてやる」

「お前が狙う相手を間違えるな!」

聖騎士の相手は魔物の筈だ、それを間違えてはいけない。
瞳が黄色く染まり、光の魔術を全身で解放した。

このやり方は両手が塞がっていても出来るが、私にも負担になる。
でも、そんな事…私にとって大した事ではない。

聖騎士がその程度で終わるとは思っていない、やはりすぐに床に剣を突き立てて体勢を整えていた。
それでもまだ背中に魔物がいる状態で、その動きは美しさもあった。

飛ぶように体を跳ねさせて、男に向かって何度も振り下ろした。
それを剣で受け止めるので精一杯で、眉を寄せた。、

もう一度光の魔術を使っても結果は変わらないだろう。

だとしたら、別の手を使って聖騎士の動きを止めるしかない。

腰に手を当てる、これは昔私が戦っていた時に使っていた短剣だ。
今の戦友はこの短剣しか残されていないが、私を勝利に導いてくれる事を信じている。

「イ…ヴ…危ないっ!!」

「…っ、ユーリ!」

そうしていたら、魔物が余計な事を口にしていた。
聖騎士が味方になってくれると思っての行動なのか眉を寄せた。

余計な事を、聖騎士より先に魔物から始末しておけば良かった。

そう思って私も魔物の方を向いた、一瞬心臓が止まってしまいそうなほど驚いた。

なんで、なんで…そんな筈はない…絶対にそんな事…ありえない。

私は考えを断ち切るように聖騎士に向かって二本の剣を振り下ろした。
しかし、一瞬の動揺で上手くいかず簡単に受け止められた。

それだけではなく、片手で受け止められていて私の事を甘く見ているのが分かる。

聖騎士がもう片方の手に風の魔術をまとわせて私を吹き飛ばした。
私自身、こんな気持ちで万全には戦えず日を改めるつもりだった。
適当な場所で風の魔術を使って降りると、白鳥が飛んできた。

私を心配そうに見つめている白鳥に、何も答える事が出来なかった。

一瞬だけ、あの魔物が彼女の姿と重なって見えた。
そこで、私は皮肉な事に彼女の姿を思い出した。

そんなわけがない、だって彼女は聖女だったんだ…あんな魔物なわけがない。

そうだ、人の姿に変えられるんだ…相手が会いたい人物に姿を変えられるのかもしれない。

あの聖騎士もそうやってあの魔物に心を操られているのかもしれない。
だとしたらあの魔物は必ずこの手で殺さなくてはいけない。

今の聖騎士はダメだ、私が聖騎士に再びならなくてはいけない。

聖騎士だから動きを止めるだけで生かそうとしていたが、この男がその気なら私も手加減はいらない。
あの日彼女と誓った約束を今果たす時が来たんだ。

下を見ると、騎士達が大勢で崩壊寸前の建物の中に入っていった。
建物に背を向けて歩き出すと、あの男が立っていた。

「おかえりなさいませ」

「待ってはいない」

「さすが我らの聖騎士様、魔力が凄まじいです」

「……」

「それで、魔騎士は見つかりましたか?」

男の言葉がいちいち癇に障り、無視をして歩き出した。

魔力が強かろうと魔騎士を消す事が出来なければ無意味なものだ。

私は私のやり方で、魔騎士とあの魔物を消す…必ず…

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