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貧困街
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「ユーリ、仕事先からこっちに来たの?」
「え?なんで?」
「貧民堕ちした家族は別に暮らしていても、名前を知られるとここに連れてこられるのよ」
そうか、俺はなんでも屋の事務所にいるから先輩達は俺の名前を知っている。
貧民を庇うと自分まで危害が及ぶから俺を庇う事はしない。
グリモアの家の家族情報は騎士が握っているから勤め先も全て調べられている筈だ。
見逃される場合もあるが、それはこの国にいないとか運良く職業を変えていたら足はつかないのかもしれない。
なんでも屋の事務所にもきっと騎士が来ていた。
でも、俺の前に騎士は現れなかった…学校も…なんでだろう。
イヴの家で雇われたからか?イヴはなんでも屋の事務所と正式に契約を交わしていないという事か?
イヴが全部すると言っていたから全て任せてしまった…今までそれで不自由はなかった。
俺が今まで何も知らなかったのは、イヴが守ってくれたからなのか。
学校には来る筈だけど、一度も騎士は見た事なかった。
この国の人が大勢通う学校で、たった一人を探す労力は使わないという事なのかもしれない。
教師でさえ生徒の名前なんていちいち覚えていないし、俺の場合は選択授業だ…今日受ける生徒の名簿があるわけではなく、自由参加だから探すのはさらに困難だ。
授業を受けていないサボる生徒もいるし、学校は外したのだろう。
貧民堕ちをする騎士だが、そこまで真面目ではない。
俺は手紙を送ったけど返事が来なくて、前の家に向かったらこうなった事を説明した。
「そう…ごめんなさい、手紙を送ったのだけど引っ越していたのね」
「俺ももっと早く母さんに知らせておけば」
イヴの家にいる事は言わずに、引っ越したとだけ言った。
何故、突然貧民堕ちしたのか…聞きたかった。
決して裕福ではなかったが、父さんの稼ぎだけで食っていけるほどのお金はあったのに…
それを母さんに言うと、母さんは目線を下に向けて一つ一つ話してくれた。
父さんは人が良くて、人望もそれなりにあった。
商売をしているといろんな人に出会うわけで、ある日父さんは借金を背負った。
自分が使った金ではなく、30年以上仲良くしていた親友の肩代わりだ。
そして親友は父さんに借金を押し付けて国から出て行った。
父さんとの友情よりも、自分を大切にした結果だった。
よくある話だが、まさかこの世界の自分の家族がこうなるとは思わなかった。
両親は借金のせいで貧民堕ちをして、ここで稼いで少しずつ借金を返しているそうだ。
正直、貧困街で仕事をするより普通の街に出て仕事をした方がすぐに返せる。
俺も使用人の仕事を頑張って返す、家族の借金は俺も無関係ではない。
そう提案するが、母さんは首を横に振っていた。
「ダメなのよ、この街に入った者は出る事が出来ない」
「…どういう事?」
「街の入り口に結界があるのを知ってる?その結界は雷の魔法陣で魔力レベルが3じゃないと通れないのよ」
魔力レベルが3…騎士しか通れない理由が納得出来た。
高魔術を持つ人が少ないと言われている魔術は雷使いだ。
他の魔術ならレベル3は平民にもそれなりにいる。
でも雷の魔術は戦闘に特化した魔術と言われていて、騎士の中でも一握りしか雷の魔力レベルが3以上はいない。
そしてレベル5はイヴ…聖騎士と魔騎士しかいないと言われている。
だから自由に出入り出来るのは騎士だけ、本当に貧困街は隔離されたところのようだ。
「でも街で貧困街の人を見かけた事があったよ」
「たまに抜け出す人がいるみたいよ、どうやってかは知らないけど……でもあの街では家がない者に仕事は与えられないし、騎士に見つかったら酷い目に合わされて貧困街に戻ってくる、その人は二度と街には出ないそうよ」
そうだったんだ、知らなかった…貧民堕ちをする人にはいろんな事情がある、俺の家族のような事情も少なくはない筈だ。
だからこの街が独立して一つの国を作り出しているそうだ。
この街から出れないなら、イヴに知らせる事も出来ない。
きっと貧困街を管理している騎士がいる筈だ…イヴは聖騎士だから知らされていなくても不思議ではない。
でも、必死に貧困街から逃げ出したのにわざわざ街で罪を犯して捕まるような事をするだろうか。
まだまだなにかあるのかもしれない、ここにいたらきっと分かってくる。
母さんが何度も謝ってきたが、俺は既になってしまったものは受け入れなくてはいけないと思っている。
ここで嫌だと喚いても何も始まらない、だったら馴染む事から始めないと…
ここでも仕事があるなら、俺は貧困街のなんでも屋をやる…母さんの話によればそういう仕事をしている人はいないらしい。
母さんは情報屋という人が貧困街にいる事を教えてくれた。
その人はこの街に一番詳しくて、困った事があったらその人に聞いた方が分かると言っていた。
両親もまだここに来たばかりだから、詳しくは知らないらしい。
「わかった、聞いてみるよ」
「リラさんっていう人で、そばかすの…」
「あ、俺その人にさっき会ったよ…ここに案内してくれたのもその人なんだよ」
まさか彼が情報屋だとは思わなかった、彼なら分かるから後で訪ねてみよう。
イヴに連絡する手段がなにかないかな、直接会う事が出来なくてもなにか…
母さんに水晶型の通信機を貸してほしいとお願いしたら首を横に振られた。
それは嫌というわけではなくて、売ってしまったと言っていた。
貧困街では魔導機が全て使えなくて、ガラクタなんだそうだ。
魔導機が使えない、生活に一番必要なものなのに…
ほとんどの人は畑を作って自給自足の生活をしているらしい。
風呂も自分で水の魔術と火の魔術を使っている。
ずっと魔導機のある生活をしていたから、魔導機がない生活に慣れるには時間が掛かるだろう。
街を見て回りたくて母さんに出かけてくると言って家を出た。
伝書鳥もいないかな、イヴさんに帰るって言ったのにこれじゃあ誤解されてしまう。
外にはリラがいて、俺を見ると大きく手を振っていた。
「どうだった?ユーリの家族だった?」
「うん、ありがとう…リラのおかげだよ」
「へへっ!俺に何でも聞けよ、この街に関しては情報通なんだぜ!」
リラの頼もしい言葉に頷いて、街を見て回りながらいろいろ聞く事にした。
まずは伝書鳥の扱っているお店はあるか聞いてみた。
伝書鳥でなくても外と連絡が取れればそれでいい。
でもリラは首を横に振っていて、イヴと連絡する手段はなさそうだ。
何故魔導機が動かないのか、上を見ながら教えてくれた。
上には魔法陣がある、あれのせいで空は見えないし魔術も妨害されて貧困街は隔離状態になっているらしい。
「俺はいつか、ここを抜け出すんだ…ここにいる奴らは皆そう思っている」
「……俺も出たい」
「あぁ、一緒に逃げ出そうぜ!」
イヴに会いたい、会えないと分かった瞬間に俺の中でその気持ちが大きくなっていった。
「え?なんで?」
「貧民堕ちした家族は別に暮らしていても、名前を知られるとここに連れてこられるのよ」
そうか、俺はなんでも屋の事務所にいるから先輩達は俺の名前を知っている。
貧民を庇うと自分まで危害が及ぶから俺を庇う事はしない。
グリモアの家の家族情報は騎士が握っているから勤め先も全て調べられている筈だ。
見逃される場合もあるが、それはこの国にいないとか運良く職業を変えていたら足はつかないのかもしれない。
なんでも屋の事務所にもきっと騎士が来ていた。
でも、俺の前に騎士は現れなかった…学校も…なんでだろう。
イヴの家で雇われたからか?イヴはなんでも屋の事務所と正式に契約を交わしていないという事か?
イヴが全部すると言っていたから全て任せてしまった…今までそれで不自由はなかった。
俺が今まで何も知らなかったのは、イヴが守ってくれたからなのか。
学校には来る筈だけど、一度も騎士は見た事なかった。
この国の人が大勢通う学校で、たった一人を探す労力は使わないという事なのかもしれない。
教師でさえ生徒の名前なんていちいち覚えていないし、俺の場合は選択授業だ…今日受ける生徒の名簿があるわけではなく、自由参加だから探すのはさらに困難だ。
授業を受けていないサボる生徒もいるし、学校は外したのだろう。
貧民堕ちをする騎士だが、そこまで真面目ではない。
俺は手紙を送ったけど返事が来なくて、前の家に向かったらこうなった事を説明した。
「そう…ごめんなさい、手紙を送ったのだけど引っ越していたのね」
「俺ももっと早く母さんに知らせておけば」
イヴの家にいる事は言わずに、引っ越したとだけ言った。
何故、突然貧民堕ちしたのか…聞きたかった。
決して裕福ではなかったが、父さんの稼ぎだけで食っていけるほどのお金はあったのに…
それを母さんに言うと、母さんは目線を下に向けて一つ一つ話してくれた。
父さんは人が良くて、人望もそれなりにあった。
商売をしているといろんな人に出会うわけで、ある日父さんは借金を背負った。
自分が使った金ではなく、30年以上仲良くしていた親友の肩代わりだ。
そして親友は父さんに借金を押し付けて国から出て行った。
父さんとの友情よりも、自分を大切にした結果だった。
よくある話だが、まさかこの世界の自分の家族がこうなるとは思わなかった。
両親は借金のせいで貧民堕ちをして、ここで稼いで少しずつ借金を返しているそうだ。
正直、貧困街で仕事をするより普通の街に出て仕事をした方がすぐに返せる。
俺も使用人の仕事を頑張って返す、家族の借金は俺も無関係ではない。
そう提案するが、母さんは首を横に振っていた。
「ダメなのよ、この街に入った者は出る事が出来ない」
「…どういう事?」
「街の入り口に結界があるのを知ってる?その結界は雷の魔法陣で魔力レベルが3じゃないと通れないのよ」
魔力レベルが3…騎士しか通れない理由が納得出来た。
高魔術を持つ人が少ないと言われている魔術は雷使いだ。
他の魔術ならレベル3は平民にもそれなりにいる。
でも雷の魔術は戦闘に特化した魔術と言われていて、騎士の中でも一握りしか雷の魔力レベルが3以上はいない。
そしてレベル5はイヴ…聖騎士と魔騎士しかいないと言われている。
だから自由に出入り出来るのは騎士だけ、本当に貧困街は隔離されたところのようだ。
「でも街で貧困街の人を見かけた事があったよ」
「たまに抜け出す人がいるみたいよ、どうやってかは知らないけど……でもあの街では家がない者に仕事は与えられないし、騎士に見つかったら酷い目に合わされて貧困街に戻ってくる、その人は二度と街には出ないそうよ」
そうだったんだ、知らなかった…貧民堕ちをする人にはいろんな事情がある、俺の家族のような事情も少なくはない筈だ。
だからこの街が独立して一つの国を作り出しているそうだ。
この街から出れないなら、イヴに知らせる事も出来ない。
きっと貧困街を管理している騎士がいる筈だ…イヴは聖騎士だから知らされていなくても不思議ではない。
でも、必死に貧困街から逃げ出したのにわざわざ街で罪を犯して捕まるような事をするだろうか。
まだまだなにかあるのかもしれない、ここにいたらきっと分かってくる。
母さんが何度も謝ってきたが、俺は既になってしまったものは受け入れなくてはいけないと思っている。
ここで嫌だと喚いても何も始まらない、だったら馴染む事から始めないと…
ここでも仕事があるなら、俺は貧困街のなんでも屋をやる…母さんの話によればそういう仕事をしている人はいないらしい。
母さんは情報屋という人が貧困街にいる事を教えてくれた。
その人はこの街に一番詳しくて、困った事があったらその人に聞いた方が分かると言っていた。
両親もまだここに来たばかりだから、詳しくは知らないらしい。
「わかった、聞いてみるよ」
「リラさんっていう人で、そばかすの…」
「あ、俺その人にさっき会ったよ…ここに案内してくれたのもその人なんだよ」
まさか彼が情報屋だとは思わなかった、彼なら分かるから後で訪ねてみよう。
イヴに連絡する手段がなにかないかな、直接会う事が出来なくてもなにか…
母さんに水晶型の通信機を貸してほしいとお願いしたら首を横に振られた。
それは嫌というわけではなくて、売ってしまったと言っていた。
貧困街では魔導機が全て使えなくて、ガラクタなんだそうだ。
魔導機が使えない、生活に一番必要なものなのに…
ほとんどの人は畑を作って自給自足の生活をしているらしい。
風呂も自分で水の魔術と火の魔術を使っている。
ずっと魔導機のある生活をしていたから、魔導機がない生活に慣れるには時間が掛かるだろう。
街を見て回りたくて母さんに出かけてくると言って家を出た。
伝書鳥もいないかな、イヴさんに帰るって言ったのにこれじゃあ誤解されてしまう。
外にはリラがいて、俺を見ると大きく手を振っていた。
「どうだった?ユーリの家族だった?」
「うん、ありがとう…リラのおかげだよ」
「へへっ!俺に何でも聞けよ、この街に関しては情報通なんだぜ!」
リラの頼もしい言葉に頷いて、街を見て回りながらいろいろ聞く事にした。
まずは伝書鳥の扱っているお店はあるか聞いてみた。
伝書鳥でなくても外と連絡が取れればそれでいい。
でもリラは首を横に振っていて、イヴと連絡する手段はなさそうだ。
何故魔導機が動かないのか、上を見ながら教えてくれた。
上には魔法陣がある、あれのせいで空は見えないし魔術も妨害されて貧困街は隔離状態になっているらしい。
「俺はいつか、ここを抜け出すんだ…ここにいる奴らは皆そう思っている」
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