32 / 127
静かな怒り
しおりを挟む
イヴも騎士から腕を離して、俺の腕を掴んでいた。
騎士のような強い感じではなく、壊れ物を扱うように優しく触れられた。
イヴは小さくため息を吐いて、騎士達の方に振り返った。
「彼は俺の家の使用人だ、なにか用があるなら俺が聞く」
「せ、聖騎士様!その男は魔物と交流していたんです!魔物です!」
「聖騎士の俺がいいと言っているんだ、俺の見る目がないと言っているのか?」
「そんな、事は…」
「殺して気が済むなら殺せばいい、勿論俺を」
イヴは何を言っているんだ?俺の身代わりになるって言っているのか?
そんな事望んでいない!俺が原因なら俺が誤解を解くまでどうにかするしかない。
イヴの前に出ようとしたが、イヴに腕を前に出されて止められた。
腕が痛い騎士は何も言えず、周りの騎士がイヴに言っていたが怯んでいた。
イヴがどういう顔をしているのか、イヴの背中しか見えない俺には分からない。
イヴの言葉の一つ一つはとても重くて、従わせる力がある。
イヴの周りに黒いものが集まってきていて、またイヴが黒い影になりそうで足で払おうとした。
しかし、黒いものはイヴにしがみついて離れない。
まるで縋るように黒い腕をイヴに向かって伸ばしていた。
「聖騎士様、この魔物は…」
「チッ…」
「ひぃっ!!」
「俺がずっと傍にいる、それでいいだろ……それとも俺が信用出来ないのか?」
「そんな事は…」
「この話はこれで終わりだ、他になにかあるなら俺が相手になる」
イヴはそう言って、俺の手を掴んで歩き出した。
イヴが一歩歩くと魔物が破裂して血溜まりが出来た。
それでも魔物が寄ってきて、イヴが歩く道が赤いじゅうたんのように出来ていた。
イヴに握られた手は、氷のように冷たくて背中が寂しげに感じた。
家に帰ってきて、玄関で突然イヴに腕を掴まれた。
驚いてイヴの方を見ると、手の痣が出来ている腕を舐められた。
突然の事で、驚いていたらヌルッとした感触がしたと思ったら痛みが走った。
イヴに噛まれて、皮膚が破けて暖かな血が流れた。
「い、痛い…イヴさん…」
「我慢して、消毒してるから」
消毒の意味が分からず、俺の腕から流れた赤い血を綺麗に舐めとっていた。
軽く吸われると、ピリッと痛みが走り小さく声を出す。
傷を付けられたところが熱い。
イヴは目を細めて俺を見つめていて、視線が絡み合う。
なんでいきなりこんな事をするのか、戸惑っていたらさっきまであったはずの痣が綺麗になくなっていた。
イヴに腕を離されて、自分で見るとイヴが噛んで血が滲んでいるところ以外はいつもと変わらなかった。
イヴが治してくれたのかな、でも…傷を治すのにまた傷を作っても仕方ない気もする。
「何したんですか?」
「ユーリの体に俺の体液を流して、内側から治療しただけ」
「そう、だったんですか……だから噛んで」
「ふっ」
イヴは小さく笑うだけで噛んだ行為の話はしなかった。
噛むよりナイフで少し傷を付けた方が確実だと思うけど、イヴは自分の口に少し付いた俺の血を舐めた。
明らかに今朝のイヴとは違う姿のイヴに恐怖を感じた。
イヴが一歩前に出るのと同時に俺の足も後ろに下がる。
イヴは俺が後ろに下がるのが不思議でしょうがないという顔をしていた。
イヴは魔騎士になっているのか、それを聞きたかったが言葉に詰まる。
「…ユーリ、なんで外にいたの?今日ので分かった筈だ、外は危ない…ここにいれば俺が誰からも守ってあげられる」
「が、学校があって…卒業するには、休め…なくて」
「学校?……あぁ、忘れていた、ユーリはまだ学生だったのか」
イヴは俺の歳で卒業したから、俺が学生だという事を忘れていたそうだ。
20歳で卒業出来るのは異例なんだから、皆が皆そうだとは思わないでくれ。
イヴはなんで俺を外に出したくないんだ?使用人だから?
確かに今日は危なかったがいつもはちゃんと切り抜けられている。
今日のを見たら説得力が全くないが、学校もあるしずっといるわけにはいかない。
学校を言い訳にしない、ちゃんと使用人の仕事をする…それではダメだろうか。
「俺、ちゃんと働きます!いつも以上に……だから学校に」
「学校で何を学んでいるんだ?」
「え?…体力と勉学と戦闘力の授業を主に取っています」
「勉学と戦闘力は何を専攻している?」
「えっと、経営学と剣術です」
イヴは学校で何をしているのか気になるようでいろいろ聞いている。
きっとイヴは全部の授業を受けた事があるのだろう。
全ての授業を満点で卒業した伝説のように学校で語り継がれているから…
俺の努力はそんなものだと思うだろうけど、俺にとっては必要なんだ。
イヴはクスッと笑っていたから、きっと俺が思っている事は当たっているのだろう。
でも、イヴの口から出た言葉は俺の想像とは違った。
「ユーリがそんなに行きたいなら俺が全ての知恵をユーリに与える」
「え……それってどういう」
「ユーリの学んでいる授業は俺も知ってる、だから俺が教えられる…わざわざ学校にまで行って学ぶ事はない」
「でも、卒業出来ないと一人前のなんでも屋には…」
「ユーリは今俺のところにいる、不特定多数の相手をするなんでも屋じゃない」
イヴに腕を掴まれて、壁に押し付けられて身長差でイヴを見上げる。
俺を見下ろすイヴはまっすぐ俺を見ているが、光がないあの瞳だった。
俺の血のように真っ赤な瞳の中に俺が映っている。
イヴは俺に言い聞かせるように「ユーリは外に出る必要はないよ」と言っていた。
俺に仕事をさせたくなさそうだし、俺を閉じ込めてどうするつもりなんだ?
もしかして、漫画の通りだとしたらエマと取り合うライバルだった。
エマに会わせないために先手を取ったという事か?
確かにエマは漫画でもよく街をウロウロしているが、遠目でしか見た事はない。
一度も関わった事がない相手に惚れないように俺を閉じ込めるとは変な話だ。
でも前世でこの世界の漫画を読んだ事がある俺という不思議な存在もいるし、なにが居ても不思議ではない。
全知全能の神とまで言われている聖騎士だ、予知夢があっても不思議ではない。
もしかしたら予知夢で俺が間違いを起こして漫画の通りの世界になっているのかもしれない。
エマに関わらなければ俺には漫画の世界なんて関係ないと思っても、なにが起こるかなんて分からない。
イヴが俺をエマから離す事で、俺は安全な人生を歩めるのかもしれない。
こうやってイヴが漫画と違うのはきっとそういう事だったんだな。
イヴは俺を助けるつもりはないだろうが、結果的に俺は助かっている。
一人で頷いていたら、イヴは首を傾げていた。
「ユーリ?」
「イヴさん、気持ちは分かるけど…やっぱり俺は学校に行かなきゃいけないんです」
「…俺が教えるのに行く必要はない」
「俺は勉強をしに行くだけです、ついでに買い物をしてからこの家に帰る…寄り道はしない…それじゃあダメですか?」
「何も変わってない、危ない事には変わりがない」
「うーん、イヴさんが近くにいるのに危なくないですよ」
「………近く」
イヴはエマの騎士だから当然近くにいる、俺が近付く心配はないと思う。
でも学校でエマと会う心配もあるから悩ましい事だ。
そういえばエマはお姫様だから後ろによく護衛がいたなぁ。
漫画ではイヴが護衛していたのに違うのかと不思議だった。
イヴは聖騎士だからいろいろ忙しいだろうが、あくまで提案で「学校でエマ様の護衛もすれば安心ですね」と言った。
その瞬間、イヴは目を見開いて驚いていた…思いつかなかったと言いたげな顔だ。
「…そうか、そうすればいつも一緒」
「そうですそうです!」
イヴはとても嬉しそうな顔をして笑っていた。
そんなに好きなんだな、俺の前でエマへの感情を見せなかったから新鮮だ。
ちょっと羨ましいな、俺はこの歳になっても恋愛という恋愛をした事がない。
出会いもないからだけど、想われた事もない。
イヴは俺に対していつもまっすぐに見つめてくるから、時々…まさか俺を…?なんて思う時がある。
でも、こうしてイヴを見ていると俺への愛ではないと分かる。
男同士とかそういう偏見はないが、漫画ではエマと恋仲になるイヴが当て馬でライバルの俺を好きになるわけないよな。
何だろう、なんか変な感じだな…漫画通りに結ばれるならいい事だ。
俺には関係ない、俺は漫画とは別の道を歩むって決めてるんだから…
「イヴさん、そういうわけだから…学校に行ってもいいですか?」
「ユーリが帰ってくるところはここだから」
イヴに何度も念を押されて、頷くと満足そうにしていた。
話もまとまった事だし、夕飯を作ろうと思って先に着替えるために自分の部屋に向かった。
夕飯を食べ終わり、イヴは仕事があると家を出て行った。
一人家に残された俺は食器を片付けながら考える。
結局魔騎士の話は出来なかった、使用人の分際で深く聞くのは悪いかなと思って口を閉ざした。
イヴを見ていたら魔騎士に関してなにか見えてくるかもしれない、それで判断するしかないよな。
俺が学校に行くのは当然卒業の事もあるが、一人でこの家にいたくないからという理由もある気がする。
広い家で一人ぼっちはやっぱり寂しいと感じる、これは俺の甘えだ。
大人なんだから一人でいなくてはいけない時がある、でもそうならないように常に誰かの傍にいたい。
それは知り合いでも知らない人でもいい、声を掛けなくてもすれ違うだけでいい…それだけでいい。
今は家にたまにイヴが見に来てくれる、それだけで充分だ…もっと望んだらバチが当たる。
今頃イヴは城にある自分の家に帰っているのかな、明日来るか分からないけど朝食を作って帰りを待っていよう。
なんかこれじゃあ使用人というより、夫の帰りを待つ妻のようだと苦笑いする。
イヴに触れられると、普段人に触られ慣れていないからかドキドキしてしまうのは絶対に言えないな。
*視点なし*
「俺のユーリに傷を付けて、無事で終わると思ったか?随分おめでたい頭だな」
外灯を照らす魔術は真っ黒に覆われて、地面には大きな水溜りが出来ていて歩く度に水音が響いていた。
その姿も地面も背景も、全てが黒くてそれが余計に相手に恐怖を与えた。
聞き覚えがないが、頭がクラクラするほどの美しい低音の男だろうか…目の前に立っている。
持っている剣も黒くて、逃げ出したくても水溜りから無数の手が伸びていて大きな体は身動きが出来なかった。
きっと身動きが出来ても、この真っ赤な瞳に見られると誰も逃げ出せないだろう。
剣は振り下ろされて、男の腹を貫通して地面に突き刺さった。
「お前の全ての記憶、存在を消し去ってやる……お前の存在全てがユーリを汚した、ユーリに触れた……俺の、ユーリユーリユーリ」
黒い剣が燃えて、少し周りが明るくなり…黒い姿が見えた。
地面に倒れている騎士服を着た男は驚きで目を見開いていた。
しかし、口にする事がなく口からは真っ黒な液体が溢れていく。
じわじわと魂を燃やす炎は黒く、その瞳は冷たく何も映してはいなかった。
騎士のような強い感じではなく、壊れ物を扱うように優しく触れられた。
イヴは小さくため息を吐いて、騎士達の方に振り返った。
「彼は俺の家の使用人だ、なにか用があるなら俺が聞く」
「せ、聖騎士様!その男は魔物と交流していたんです!魔物です!」
「聖騎士の俺がいいと言っているんだ、俺の見る目がないと言っているのか?」
「そんな、事は…」
「殺して気が済むなら殺せばいい、勿論俺を」
イヴは何を言っているんだ?俺の身代わりになるって言っているのか?
そんな事望んでいない!俺が原因なら俺が誤解を解くまでどうにかするしかない。
イヴの前に出ようとしたが、イヴに腕を前に出されて止められた。
腕が痛い騎士は何も言えず、周りの騎士がイヴに言っていたが怯んでいた。
イヴがどういう顔をしているのか、イヴの背中しか見えない俺には分からない。
イヴの言葉の一つ一つはとても重くて、従わせる力がある。
イヴの周りに黒いものが集まってきていて、またイヴが黒い影になりそうで足で払おうとした。
しかし、黒いものはイヴにしがみついて離れない。
まるで縋るように黒い腕をイヴに向かって伸ばしていた。
「聖騎士様、この魔物は…」
「チッ…」
「ひぃっ!!」
「俺がずっと傍にいる、それでいいだろ……それとも俺が信用出来ないのか?」
「そんな事は…」
「この話はこれで終わりだ、他になにかあるなら俺が相手になる」
イヴはそう言って、俺の手を掴んで歩き出した。
イヴが一歩歩くと魔物が破裂して血溜まりが出来た。
それでも魔物が寄ってきて、イヴが歩く道が赤いじゅうたんのように出来ていた。
イヴに握られた手は、氷のように冷たくて背中が寂しげに感じた。
家に帰ってきて、玄関で突然イヴに腕を掴まれた。
驚いてイヴの方を見ると、手の痣が出来ている腕を舐められた。
突然の事で、驚いていたらヌルッとした感触がしたと思ったら痛みが走った。
イヴに噛まれて、皮膚が破けて暖かな血が流れた。
「い、痛い…イヴさん…」
「我慢して、消毒してるから」
消毒の意味が分からず、俺の腕から流れた赤い血を綺麗に舐めとっていた。
軽く吸われると、ピリッと痛みが走り小さく声を出す。
傷を付けられたところが熱い。
イヴは目を細めて俺を見つめていて、視線が絡み合う。
なんでいきなりこんな事をするのか、戸惑っていたらさっきまであったはずの痣が綺麗になくなっていた。
イヴに腕を離されて、自分で見るとイヴが噛んで血が滲んでいるところ以外はいつもと変わらなかった。
イヴが治してくれたのかな、でも…傷を治すのにまた傷を作っても仕方ない気もする。
「何したんですか?」
「ユーリの体に俺の体液を流して、内側から治療しただけ」
「そう、だったんですか……だから噛んで」
「ふっ」
イヴは小さく笑うだけで噛んだ行為の話はしなかった。
噛むよりナイフで少し傷を付けた方が確実だと思うけど、イヴは自分の口に少し付いた俺の血を舐めた。
明らかに今朝のイヴとは違う姿のイヴに恐怖を感じた。
イヴが一歩前に出るのと同時に俺の足も後ろに下がる。
イヴは俺が後ろに下がるのが不思議でしょうがないという顔をしていた。
イヴは魔騎士になっているのか、それを聞きたかったが言葉に詰まる。
「…ユーリ、なんで外にいたの?今日ので分かった筈だ、外は危ない…ここにいれば俺が誰からも守ってあげられる」
「が、学校があって…卒業するには、休め…なくて」
「学校?……あぁ、忘れていた、ユーリはまだ学生だったのか」
イヴは俺の歳で卒業したから、俺が学生だという事を忘れていたそうだ。
20歳で卒業出来るのは異例なんだから、皆が皆そうだとは思わないでくれ。
イヴはなんで俺を外に出したくないんだ?使用人だから?
確かに今日は危なかったがいつもはちゃんと切り抜けられている。
今日のを見たら説得力が全くないが、学校もあるしずっといるわけにはいかない。
学校を言い訳にしない、ちゃんと使用人の仕事をする…それではダメだろうか。
「俺、ちゃんと働きます!いつも以上に……だから学校に」
「学校で何を学んでいるんだ?」
「え?…体力と勉学と戦闘力の授業を主に取っています」
「勉学と戦闘力は何を専攻している?」
「えっと、経営学と剣術です」
イヴは学校で何をしているのか気になるようでいろいろ聞いている。
きっとイヴは全部の授業を受けた事があるのだろう。
全ての授業を満点で卒業した伝説のように学校で語り継がれているから…
俺の努力はそんなものだと思うだろうけど、俺にとっては必要なんだ。
イヴはクスッと笑っていたから、きっと俺が思っている事は当たっているのだろう。
でも、イヴの口から出た言葉は俺の想像とは違った。
「ユーリがそんなに行きたいなら俺が全ての知恵をユーリに与える」
「え……それってどういう」
「ユーリの学んでいる授業は俺も知ってる、だから俺が教えられる…わざわざ学校にまで行って学ぶ事はない」
「でも、卒業出来ないと一人前のなんでも屋には…」
「ユーリは今俺のところにいる、不特定多数の相手をするなんでも屋じゃない」
イヴに腕を掴まれて、壁に押し付けられて身長差でイヴを見上げる。
俺を見下ろすイヴはまっすぐ俺を見ているが、光がないあの瞳だった。
俺の血のように真っ赤な瞳の中に俺が映っている。
イヴは俺に言い聞かせるように「ユーリは外に出る必要はないよ」と言っていた。
俺に仕事をさせたくなさそうだし、俺を閉じ込めてどうするつもりなんだ?
もしかして、漫画の通りだとしたらエマと取り合うライバルだった。
エマに会わせないために先手を取ったという事か?
確かにエマは漫画でもよく街をウロウロしているが、遠目でしか見た事はない。
一度も関わった事がない相手に惚れないように俺を閉じ込めるとは変な話だ。
でも前世でこの世界の漫画を読んだ事がある俺という不思議な存在もいるし、なにが居ても不思議ではない。
全知全能の神とまで言われている聖騎士だ、予知夢があっても不思議ではない。
もしかしたら予知夢で俺が間違いを起こして漫画の通りの世界になっているのかもしれない。
エマに関わらなければ俺には漫画の世界なんて関係ないと思っても、なにが起こるかなんて分からない。
イヴが俺をエマから離す事で、俺は安全な人生を歩めるのかもしれない。
こうやってイヴが漫画と違うのはきっとそういう事だったんだな。
イヴは俺を助けるつもりはないだろうが、結果的に俺は助かっている。
一人で頷いていたら、イヴは首を傾げていた。
「ユーリ?」
「イヴさん、気持ちは分かるけど…やっぱり俺は学校に行かなきゃいけないんです」
「…俺が教えるのに行く必要はない」
「俺は勉強をしに行くだけです、ついでに買い物をしてからこの家に帰る…寄り道はしない…それじゃあダメですか?」
「何も変わってない、危ない事には変わりがない」
「うーん、イヴさんが近くにいるのに危なくないですよ」
「………近く」
イヴはエマの騎士だから当然近くにいる、俺が近付く心配はないと思う。
でも学校でエマと会う心配もあるから悩ましい事だ。
そういえばエマはお姫様だから後ろによく護衛がいたなぁ。
漫画ではイヴが護衛していたのに違うのかと不思議だった。
イヴは聖騎士だからいろいろ忙しいだろうが、あくまで提案で「学校でエマ様の護衛もすれば安心ですね」と言った。
その瞬間、イヴは目を見開いて驚いていた…思いつかなかったと言いたげな顔だ。
「…そうか、そうすればいつも一緒」
「そうですそうです!」
イヴはとても嬉しそうな顔をして笑っていた。
そんなに好きなんだな、俺の前でエマへの感情を見せなかったから新鮮だ。
ちょっと羨ましいな、俺はこの歳になっても恋愛という恋愛をした事がない。
出会いもないからだけど、想われた事もない。
イヴは俺に対していつもまっすぐに見つめてくるから、時々…まさか俺を…?なんて思う時がある。
でも、こうしてイヴを見ていると俺への愛ではないと分かる。
男同士とかそういう偏見はないが、漫画ではエマと恋仲になるイヴが当て馬でライバルの俺を好きになるわけないよな。
何だろう、なんか変な感じだな…漫画通りに結ばれるならいい事だ。
俺には関係ない、俺は漫画とは別の道を歩むって決めてるんだから…
「イヴさん、そういうわけだから…学校に行ってもいいですか?」
「ユーリが帰ってくるところはここだから」
イヴに何度も念を押されて、頷くと満足そうにしていた。
話もまとまった事だし、夕飯を作ろうと思って先に着替えるために自分の部屋に向かった。
夕飯を食べ終わり、イヴは仕事があると家を出て行った。
一人家に残された俺は食器を片付けながら考える。
結局魔騎士の話は出来なかった、使用人の分際で深く聞くのは悪いかなと思って口を閉ざした。
イヴを見ていたら魔騎士に関してなにか見えてくるかもしれない、それで判断するしかないよな。
俺が学校に行くのは当然卒業の事もあるが、一人でこの家にいたくないからという理由もある気がする。
広い家で一人ぼっちはやっぱり寂しいと感じる、これは俺の甘えだ。
大人なんだから一人でいなくてはいけない時がある、でもそうならないように常に誰かの傍にいたい。
それは知り合いでも知らない人でもいい、声を掛けなくてもすれ違うだけでいい…それだけでいい。
今は家にたまにイヴが見に来てくれる、それだけで充分だ…もっと望んだらバチが当たる。
今頃イヴは城にある自分の家に帰っているのかな、明日来るか分からないけど朝食を作って帰りを待っていよう。
なんかこれじゃあ使用人というより、夫の帰りを待つ妻のようだと苦笑いする。
イヴに触れられると、普段人に触られ慣れていないからかドキドキしてしまうのは絶対に言えないな。
*視点なし*
「俺のユーリに傷を付けて、無事で終わると思ったか?随分おめでたい頭だな」
外灯を照らす魔術は真っ黒に覆われて、地面には大きな水溜りが出来ていて歩く度に水音が響いていた。
その姿も地面も背景も、全てが黒くてそれが余計に相手に恐怖を与えた。
聞き覚えがないが、頭がクラクラするほどの美しい低音の男だろうか…目の前に立っている。
持っている剣も黒くて、逃げ出したくても水溜りから無数の手が伸びていて大きな体は身動きが出来なかった。
きっと身動きが出来ても、この真っ赤な瞳に見られると誰も逃げ出せないだろう。
剣は振り下ろされて、男の腹を貫通して地面に突き刺さった。
「お前の全ての記憶、存在を消し去ってやる……お前の存在全てがユーリを汚した、ユーリに触れた……俺の、ユーリユーリユーリ」
黒い剣が燃えて、少し周りが明るくなり…黒い姿が見えた。
地面に倒れている騎士服を着た男は驚きで目を見開いていた。
しかし、口にする事がなく口からは真っ黒な液体が溢れていく。
じわじわと魂を燃やす炎は黒く、その瞳は冷たく何も映してはいなかった。
45
お気に入りに追加
3,762
あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

聖獣騎士隊長様からの溺愛〜異世界転移記〜
白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)
BL
『ここ、どこ??』
蔵の整理中、見つけた乳白色のガラス玉。
手にした瞬間、頭に浮かんだ言葉を言った。ただ、それだけで……
いきなり外。見知らぬ深い森。
出くわした男たちに連れ去られかけた眞尋を助けたのは、青銀の髪に紺碧の瞳の物凄い美形の近衛騎士隊長、カイザー。
魔導と聖獣を持つ者が至上とされる大陸、ミネルヴァ。
他人の使役聖獣すら従えることができる存在、聖獣妃。
『俺、のこと?』
『そうだ。アルシディアの末裔よ』
『意味、分かんないって!!』
何もかも規格外な美形の騎士隊長の溺愛と、かっこよくて可愛いモフモフ聖獣たちに囲まれての異世界転移生活スタート!!
*性描写ありには☆がつきます
*「彩色師は異世界で」と世界観リンクしてますが、話は全く別物です

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる