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目覚め
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25*****
誰かの声が聞こえる、よく知っている声だ。
いつもは声に暖かさを感じるが、今は何処か寂しそうな声だ。
「…ユーリ、ユーリ」
「んっ……ぁ」
目の前に見えたのは、頬を濡らして心配そうに俺を見つめている母さんの姿だった。
母さんは俺が目を覚ました事に驚いて、後ろを振り返って声を上げていた。
後ろにいた人が俺の方に駆け寄り、同じように俺の名前を言った。
父さん、仕事に行ってた筈なのにもう大丈夫なのか?
他人事のようにそんな事を思っていて、今の状況が全く分かっていなかった。
周りを見渡すと、同じだけど見た事があるものがある。
それにこの独特な匂いは、ずっと嗅いでいたら頭がクラクラしてしまう。
病院だ、赤ん坊の頃に行ったきりだからあまり覚えていなかった。
そうだ、俺は魔騎士に襲われて怪我をしたんだ。
あの少年はいったい何処にいるんだ?安否を確認したい。
勢いよく起き上がると脳が揺さぶられてクラクラした。
両親に「安静にしていなさい」と怒られて、大人しく横になる。
父さんは騎士様に報告してくると、病室を出て行った。
騎士様?普通この時は医者を呼ぶのではないのか?
俺の他にベッドが五つあるが、何処もガラ空きだ。
入院患者がいないのはいい事だが、それと同時に彼もいない。
「母さん、なんで騎士なの?」
「ユーリを助けてくれたのは騎士様だったからよ」
「……そうだったんだ、俺の他に…男の子いなかった?」
「男の子?ユーリだけ倒れていたのよ」
母さんはずっと「大事にならなくて良かったわ」と言っていた。
俺しかいなかった?そんな筈はない、だって彼は確かに居た。
運良く逃げられたのか?魔騎士を目の前にして?
俺は子供だから、たとえ最悪な状況だとしても本人に直接伝えるわけないか。
父さんが呼んできた騎士様は、とても強面な見た目をしていた。
でも、俺を心配する顔や笑った笑顔が優しさを滲ませていた。
騎士様の後ろには医者もいて、俺は丸一日寝ていたと教えてくれた。
ずっと寝ていた感じはしなかったが、そんなに頭の打ち所が悪かったのか。
もう一日病院に泊まり、検査をしてから帰っていいと言われた。
「母さん」
「ん?どうしたの?」
「俺、おつかい出来なかった…ごめんなさい」
俺がそう謝ると、母さんは俺の事を思いっきり抱きしめた。
痛くて苦しかったが、全然嫌な感じではなかった。
むしろ、ここまで心配させてしまった…その愛情を感じる。
俺は、母さんの背中に腕を回してもう一度「ごめんなさい」と謝った。
魔騎士の話をしないといけないが、両親にこれ以上心配掛けたくないから両親が面会時間終了で家に帰ってから医者に話した。
でも医者は俺が頭を打った時に見た幻覚だと言って信じてくれなかった。
絵本の中の魔騎士と本物の魔騎士は違うのだと言われてしまった。
本物に出会ったら生きてはいられない、俺は水溜りに足を滑らせて転んだだけだと…
違う、アニメや漫画だけど俺は実物の魔騎士を見た事があるからあれは見間違えじゃない。
でも、そんな事を伝えても証拠はなくて頭の病気だと俺の入院が長引くだけだろう。
俺は口を閉して、目蓋を閉じ…眠る事にした。
医者が魔騎士の事を信じてくれないなら、彼が魔騎士に殺された事実もないのかもしれない。
もし彼が死んでいたら俺の話を少しでも耳を傾けてくれると思う。
でも冗談だと笑っているところを見ると、誰かが死んでいたらそんな顔はしないだろう。
彼が無事なら良かった、それだけが気になっていた。
だとしたらあの魔騎士はどうなったんだ?本当に幻だったのか?
それを確認する事は出来なかった、俺は雨に浸っていた代償でしばらく風邪で入院が長引いたからだ。
そして、おつかいは禁止されて俺は家の中で出来るお手伝いだけをする事になった。
家に帰ってきて、窓の向こう側を眺めると噴水広場が少しだけ見えた。
思い出すのはあの少年の事、名前も分からず…何処に住んでいるのかも分からない。
名前くらい聞いておけば良かった、頭の怪我…大丈夫かな。
「どうしたの?ユーリ」
「んー、この街でとびきりかっこいい子供知らない?」
「かっこいい………パン屋のササ君かしら」
「違うよ、あんなのじゃなくて…もっとこう、上品な」
「そういえば聖騎士様がもうすぐ10歳を迎えるみたいね」
母さんはすぐに話題を逸らして、頬を膨らませる。
聖騎士様か…すっかり忘れてた。
漫画の話は俺が居なくても勝手に進行していくだろう。
確かイヴとエマの出会いはイヴが10歳でエマが6歳の頃だった。
エマの誕生日にイヴが呼ばれて知り合うんじゃなかっただろうか。
俺は招待されるわけもない平民で、またエマの祝祭のように外から見るだけだろう。
変わらない日々が待っているんだ、俺はまだ生きている。
もしまた魔騎士が現れたら、漫画の通りに聖騎士様がなんとかしてくれるだろうから大丈夫だ。
「母さん、なにか手伝う事ない?」
「病み上がりでしょ?無理しないの」
「大丈夫だって、動かないと落ち着かなくて!」
俺はただのモブに戻るだけだ、もしかしたらいつか彼と再び会えるかもしれない。
この国にいる限り、必ず…会えるって信じてる。
誰かの声が聞こえる、よく知っている声だ。
いつもは声に暖かさを感じるが、今は何処か寂しそうな声だ。
「…ユーリ、ユーリ」
「んっ……ぁ」
目の前に見えたのは、頬を濡らして心配そうに俺を見つめている母さんの姿だった。
母さんは俺が目を覚ました事に驚いて、後ろを振り返って声を上げていた。
後ろにいた人が俺の方に駆け寄り、同じように俺の名前を言った。
父さん、仕事に行ってた筈なのにもう大丈夫なのか?
他人事のようにそんな事を思っていて、今の状況が全く分かっていなかった。
周りを見渡すと、同じだけど見た事があるものがある。
それにこの独特な匂いは、ずっと嗅いでいたら頭がクラクラしてしまう。
病院だ、赤ん坊の頃に行ったきりだからあまり覚えていなかった。
そうだ、俺は魔騎士に襲われて怪我をしたんだ。
あの少年はいったい何処にいるんだ?安否を確認したい。
勢いよく起き上がると脳が揺さぶられてクラクラした。
両親に「安静にしていなさい」と怒られて、大人しく横になる。
父さんは騎士様に報告してくると、病室を出て行った。
騎士様?普通この時は医者を呼ぶのではないのか?
俺の他にベッドが五つあるが、何処もガラ空きだ。
入院患者がいないのはいい事だが、それと同時に彼もいない。
「母さん、なんで騎士なの?」
「ユーリを助けてくれたのは騎士様だったからよ」
「……そうだったんだ、俺の他に…男の子いなかった?」
「男の子?ユーリだけ倒れていたのよ」
母さんはずっと「大事にならなくて良かったわ」と言っていた。
俺しかいなかった?そんな筈はない、だって彼は確かに居た。
運良く逃げられたのか?魔騎士を目の前にして?
俺は子供だから、たとえ最悪な状況だとしても本人に直接伝えるわけないか。
父さんが呼んできた騎士様は、とても強面な見た目をしていた。
でも、俺を心配する顔や笑った笑顔が優しさを滲ませていた。
騎士様の後ろには医者もいて、俺は丸一日寝ていたと教えてくれた。
ずっと寝ていた感じはしなかったが、そんなに頭の打ち所が悪かったのか。
もう一日病院に泊まり、検査をしてから帰っていいと言われた。
「母さん」
「ん?どうしたの?」
「俺、おつかい出来なかった…ごめんなさい」
俺がそう謝ると、母さんは俺の事を思いっきり抱きしめた。
痛くて苦しかったが、全然嫌な感じではなかった。
むしろ、ここまで心配させてしまった…その愛情を感じる。
俺は、母さんの背中に腕を回してもう一度「ごめんなさい」と謝った。
魔騎士の話をしないといけないが、両親にこれ以上心配掛けたくないから両親が面会時間終了で家に帰ってから医者に話した。
でも医者は俺が頭を打った時に見た幻覚だと言って信じてくれなかった。
絵本の中の魔騎士と本物の魔騎士は違うのだと言われてしまった。
本物に出会ったら生きてはいられない、俺は水溜りに足を滑らせて転んだだけだと…
違う、アニメや漫画だけど俺は実物の魔騎士を見た事があるからあれは見間違えじゃない。
でも、そんな事を伝えても証拠はなくて頭の病気だと俺の入院が長引くだけだろう。
俺は口を閉して、目蓋を閉じ…眠る事にした。
医者が魔騎士の事を信じてくれないなら、彼が魔騎士に殺された事実もないのかもしれない。
もし彼が死んでいたら俺の話を少しでも耳を傾けてくれると思う。
でも冗談だと笑っているところを見ると、誰かが死んでいたらそんな顔はしないだろう。
彼が無事なら良かった、それだけが気になっていた。
だとしたらあの魔騎士はどうなったんだ?本当に幻だったのか?
それを確認する事は出来なかった、俺は雨に浸っていた代償でしばらく風邪で入院が長引いたからだ。
そして、おつかいは禁止されて俺は家の中で出来るお手伝いだけをする事になった。
家に帰ってきて、窓の向こう側を眺めると噴水広場が少しだけ見えた。
思い出すのはあの少年の事、名前も分からず…何処に住んでいるのかも分からない。
名前くらい聞いておけば良かった、頭の怪我…大丈夫かな。
「どうしたの?ユーリ」
「んー、この街でとびきりかっこいい子供知らない?」
「かっこいい………パン屋のササ君かしら」
「違うよ、あんなのじゃなくて…もっとこう、上品な」
「そういえば聖騎士様がもうすぐ10歳を迎えるみたいね」
母さんはすぐに話題を逸らして、頬を膨らませる。
聖騎士様か…すっかり忘れてた。
漫画の話は俺が居なくても勝手に進行していくだろう。
確かイヴとエマの出会いはイヴが10歳でエマが6歳の頃だった。
エマの誕生日にイヴが呼ばれて知り合うんじゃなかっただろうか。
俺は招待されるわけもない平民で、またエマの祝祭のように外から見るだけだろう。
変わらない日々が待っているんだ、俺はまだ生きている。
もしまた魔騎士が現れたら、漫画の通りに聖騎士様がなんとかしてくれるだろうから大丈夫だ。
「母さん、なにか手伝う事ない?」
「病み上がりでしょ?無理しないの」
「大丈夫だって、動かないと落ち着かなくて!」
俺はただのモブに戻るだけだ、もしかしたらいつか彼と再び会えるかもしれない。
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