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魔騎士と少年
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「ユーリ、そこの野菜を取ってちょうだい」
「母さん、これ?」
「そうよ、美味しくなる魔法を掛けるのよ」
母さんにじゃがいもを渡すと、それを両手で包んで目蓋を閉じてなにかを呟くとじゃがいもが小さく発光した。
美味しくなる魔法というか、手のひらで小さな火の魔術を使って芋を蒸しているだけなんだけどね。
美味しくなるのは変わりない、俺は母さんが作る煮物が大好きなんだ。
生まれ変わってやりたい事その一、家の手伝いだ。
テレビで見て、ずっと病院暮らしで人にやってもらってばかりだったから憧れていた。
俺も誰かの役に立って、頭を撫でてもらいたい。
母さんに言われた食材を手渡して、野菜の皮を剥く。
「ユーリがこの味を覚えていつか大好きな人に作ってあげられるように、美味しいものを作りましょうね」
「うん!」
いつか誰かに、か……そんな日が来るといいな。
母さんと一緒に「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ」と声を合わせる。
まだ包丁を握る事が出来ないから、風の魔術で薄い皮を剥く。
俺の魔力レベルは全て1…天才でもなくよくいる魔導士の一人だ。
それでも軽いものなら浮かせられるし、ライターサイズの火を付けられるしコップ一杯の水を出せる。
今のところ気にした事は、近所に住む同じ歳くらいの子達は一つくらい魔力レベル2だからか、威張っていて俺の事を馬鹿にしている。
でも俺は全然劣等感なんて抱いていなかったから気にしない。
人は人、俺は俺でいいじゃないか!ないものねだりをしても手に入るとは限らないし…
だったら俺は俺なりに生きようと思う。
聖女と聖騎士の漫画の世界ならば、これが俺の物語だ。
「あら?足りないわ」
「どうしたの?」
「お肉を買い忘れたみたいなの」
「じゃあ俺が買ってくるよ!」
お肉の店の場所はいつも買い物に付き合っていたから覚えている。
外でのおつかいも何回かやっているから、お金を貰って母さんに手を振り出発した。
元気よく歩いていると、空が少し暗くなっていた。
雨が降りそうだ、その前に帰らないとやばいな。
早くお肉のお店に行こうと、足を早めた…雨が降りそうだからか出歩いている人が少なかった。
大きな噴水広場が国の中心になり、囲うようにいろんな店が密集している。
普段なら人が沢山いて、賑やかな街並みだが少し寂しい。
お肉や野菜を売っている店に入ると、いつもの優しいふくよかなおじさんが歓迎してくれた。
「おつかい偉いな!これ、おまけだ!今日採れた新鮮な果物だから美味いぞ」
「わぁ、ありがとうおじさん!」
いつも旬の果物をくれる優しいおじさんにお礼を言って、肉と果物が入った紙袋を抱えて歩く。
少しぽつぽつ雫が降り始めてきて、慌てて家に帰ろうと思った。
レンガの道に水溜りが出来ていて、避けながら進む。
水の魔力レベル3くらいあれば、体に纏い水を弾き飛ばして濡れずに歩けるんだけどな。
低レベル魔導士は大人しく傘でも差せばいいんだけどね。
でも家から出た時は雨が降るとは思っていなくて、急に雨雲が出てきたから傘は持っていない。
でもここから家は遠くないし、走れば何とかなるだろうと考えていた。
水溜りを踏みつけると、俺のように慌てて走っている少年がいた。
やっぱり俺みたいに傘を用意していないみたいで、何も手にしていなかった。
水溜りに足を滑らせて派手に転んでいた、あれは痛い。
足を止めて手助けをしようと思って近付こうとしたら、少年の上に跨る黒い影が見えた。
少年は逃げようと、必死に地面に爪を立てていたが大人と子供の力では子供は無力だ。
その人型の影の腕には、漫画で見た悪役の魔騎士の腕に浮かび上った刺青と同じものがあった。
まさか、あれが魔騎士?なんで……この国は聖騎士の加護があるんじゃないのか?
いや、それはこの世界が漫画の世界じゃない場合だ…漫画では魔物を引き連れた魔騎士がいた。
ここが漫画の世界なら居ても不思議ではない。
聖騎士の加護なんてこの国にはない、普通の人には魔物が見えないからいないと思われていただけだ。
漫画を読んでいた俺は知っていたけど、実際見れるとは思えなかった…漫画のユーリには魔物は見れなかった。
弱い魔導士は足手まといになる、だから何も出来ないならする必要はない。
目の前のもがいている少年だって運が悪かったんだ、今逃げれば俺は助かる。
俺だけが助かればいい…俺だけ……それはまるで漫画のユーリのようだ。
自分の事ばかり考えて、自分さえ良ければいい。
俺はそうはならないってずっと言い聞かせていたじゃないか。
この国を守るなんて大それた事は言わない、だけど…目の前の人くらいは手を差し伸べたっていいだろ!
紙袋の中から丸い果物を取り出して、おじさんに心の中で謝り…魔騎士に投げつける。
結構硬いリンゴのような果物だったから、当たったら痛い。
魔騎士に命中して、果物が跳ね返って俺の足元に転がってくる。
魔騎士は真っ黒な剣を倒れている少年に向けていたが、顔だけは俺の方を向いている。
目も口もない影だから表情は分からないが、恐怖で足が震える。
大丈夫、大丈夫だ…騎士のところに行けば誰か助けてくれる筈だ。
まずは魔騎士から少年を連れ出さないといけない。
紙袋の中を覗くと、もう一個果物がありおじさんに謝りながら投げつけた。
今度は魔騎士に当たる前に果物を切りつけられた。
魔騎士は少年から離れて、俺の方に近付いてきた。
俺は残りの荷物を紙袋ごと魔騎士に投げつけた。
母さんに怒られるだろうけど、人命救助が最優先だ!
話せば母さんならきっと分かってくれる筈だ。
魔騎士の隙をついて、俺は少年に向かって手を差し伸ばした。
「早く来て!!」
「………ぅ」
少年は俺に向かって手を伸ばし、ギュッと握りしめた。
すると、俺の腕に痛みが走り眉を寄せるが…我慢出来ない痛みじゃない。
少年を引っ張り、走り出すと後ろから魔騎士が追いかけてくる気配がする。
息を吐いて、苦しくなりながらも走って走って…止まる事なく走り続けた。
騎士団の寄宿舎は城のすぐ近くだった事を覚えている、漫画でよくエマがお忍びで遊びに来たからだ。
普段なら通行手形が必要だが、今は非常事態だ…何とか通してくれるかもしれない。
もうすぐ寄宿舎付近に到着すると思ったところで、急に後ろに腕を引っ張られた。
そしてそのまま酒屋の裏に入った。
こんな狭い路地、魔騎士が現れたら逃げ場なんてない。
でも、少年はしゃがんでいてここから一歩も動かない。
もしかして、俺が行き先を告げないから不安になったのか?
騎士団のところに行くだけだから大丈夫だと言おうとしたら、口を勢いよく少年の手で塞がれた。
動きを止めたら、魔騎士だろうか…鎧が歩くようなガシャガシャといったような音が聞こえた。
その音は俺達がいる路地を通らず、そのまま去っていった。
もしかして、目がないから俺達が音を出してないと場所が分からないのか?
漫画の魔騎士にそんな弱点あっただろうか、忘れているのかもしれない…さすがにセリフの一つ一つを覚えてはいない。
ホッと胸を撫で下ろして、少年を見ると少年は俺の口を塞いでいた手を外した。
綺麗な黒い瞳に黒い髪の俺より年上の少年だ。
何処かで見た事があるが近所にはいなかった、この子も漫画のキャラクターなのかな。
と思っていたら、額を地面にぶつけたから血が出ていた。
見た目は痛そうだけど、平気なのか?見た目以上にヤバいかもしれない。
「病院、病院に行こう!立って!」
「…い、嫌だ…病院は」
「そんな事言ってる場合じゃないって!」
「嫌だ!!」
強く言われて、そんなに病院が嫌なのかと驚いた。
太い注射を打たれるわけじゃないし、消毒は染みるだろうけどちょっと痛いの我慢すれば楽になる。
「母さん、これ?」
「そうよ、美味しくなる魔法を掛けるのよ」
母さんにじゃがいもを渡すと、それを両手で包んで目蓋を閉じてなにかを呟くとじゃがいもが小さく発光した。
美味しくなる魔法というか、手のひらで小さな火の魔術を使って芋を蒸しているだけなんだけどね。
美味しくなるのは変わりない、俺は母さんが作る煮物が大好きなんだ。
生まれ変わってやりたい事その一、家の手伝いだ。
テレビで見て、ずっと病院暮らしで人にやってもらってばかりだったから憧れていた。
俺も誰かの役に立って、頭を撫でてもらいたい。
母さんに言われた食材を手渡して、野菜の皮を剥く。
「ユーリがこの味を覚えていつか大好きな人に作ってあげられるように、美味しいものを作りましょうね」
「うん!」
いつか誰かに、か……そんな日が来るといいな。
母さんと一緒に「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ」と声を合わせる。
まだ包丁を握る事が出来ないから、風の魔術で薄い皮を剥く。
俺の魔力レベルは全て1…天才でもなくよくいる魔導士の一人だ。
それでも軽いものなら浮かせられるし、ライターサイズの火を付けられるしコップ一杯の水を出せる。
今のところ気にした事は、近所に住む同じ歳くらいの子達は一つくらい魔力レベル2だからか、威張っていて俺の事を馬鹿にしている。
でも俺は全然劣等感なんて抱いていなかったから気にしない。
人は人、俺は俺でいいじゃないか!ないものねだりをしても手に入るとは限らないし…
だったら俺は俺なりに生きようと思う。
聖女と聖騎士の漫画の世界ならば、これが俺の物語だ。
「あら?足りないわ」
「どうしたの?」
「お肉を買い忘れたみたいなの」
「じゃあ俺が買ってくるよ!」
お肉の店の場所はいつも買い物に付き合っていたから覚えている。
外でのおつかいも何回かやっているから、お金を貰って母さんに手を振り出発した。
元気よく歩いていると、空が少し暗くなっていた。
雨が降りそうだ、その前に帰らないとやばいな。
早くお肉のお店に行こうと、足を早めた…雨が降りそうだからか出歩いている人が少なかった。
大きな噴水広場が国の中心になり、囲うようにいろんな店が密集している。
普段なら人が沢山いて、賑やかな街並みだが少し寂しい。
お肉や野菜を売っている店に入ると、いつもの優しいふくよかなおじさんが歓迎してくれた。
「おつかい偉いな!これ、おまけだ!今日採れた新鮮な果物だから美味いぞ」
「わぁ、ありがとうおじさん!」
いつも旬の果物をくれる優しいおじさんにお礼を言って、肉と果物が入った紙袋を抱えて歩く。
少しぽつぽつ雫が降り始めてきて、慌てて家に帰ろうと思った。
レンガの道に水溜りが出来ていて、避けながら進む。
水の魔力レベル3くらいあれば、体に纏い水を弾き飛ばして濡れずに歩けるんだけどな。
低レベル魔導士は大人しく傘でも差せばいいんだけどね。
でも家から出た時は雨が降るとは思っていなくて、急に雨雲が出てきたから傘は持っていない。
でもここから家は遠くないし、走れば何とかなるだろうと考えていた。
水溜りを踏みつけると、俺のように慌てて走っている少年がいた。
やっぱり俺みたいに傘を用意していないみたいで、何も手にしていなかった。
水溜りに足を滑らせて派手に転んでいた、あれは痛い。
足を止めて手助けをしようと思って近付こうとしたら、少年の上に跨る黒い影が見えた。
少年は逃げようと、必死に地面に爪を立てていたが大人と子供の力では子供は無力だ。
その人型の影の腕には、漫画で見た悪役の魔騎士の腕に浮かび上った刺青と同じものがあった。
まさか、あれが魔騎士?なんで……この国は聖騎士の加護があるんじゃないのか?
いや、それはこの世界が漫画の世界じゃない場合だ…漫画では魔物を引き連れた魔騎士がいた。
ここが漫画の世界なら居ても不思議ではない。
聖騎士の加護なんてこの国にはない、普通の人には魔物が見えないからいないと思われていただけだ。
漫画を読んでいた俺は知っていたけど、実際見れるとは思えなかった…漫画のユーリには魔物は見れなかった。
弱い魔導士は足手まといになる、だから何も出来ないならする必要はない。
目の前のもがいている少年だって運が悪かったんだ、今逃げれば俺は助かる。
俺だけが助かればいい…俺だけ……それはまるで漫画のユーリのようだ。
自分の事ばかり考えて、自分さえ良ければいい。
俺はそうはならないってずっと言い聞かせていたじゃないか。
この国を守るなんて大それた事は言わない、だけど…目の前の人くらいは手を差し伸べたっていいだろ!
紙袋の中から丸い果物を取り出して、おじさんに心の中で謝り…魔騎士に投げつける。
結構硬いリンゴのような果物だったから、当たったら痛い。
魔騎士に命中して、果物が跳ね返って俺の足元に転がってくる。
魔騎士は真っ黒な剣を倒れている少年に向けていたが、顔だけは俺の方を向いている。
目も口もない影だから表情は分からないが、恐怖で足が震える。
大丈夫、大丈夫だ…騎士のところに行けば誰か助けてくれる筈だ。
まずは魔騎士から少年を連れ出さないといけない。
紙袋の中を覗くと、もう一個果物がありおじさんに謝りながら投げつけた。
今度は魔騎士に当たる前に果物を切りつけられた。
魔騎士は少年から離れて、俺の方に近付いてきた。
俺は残りの荷物を紙袋ごと魔騎士に投げつけた。
母さんに怒られるだろうけど、人命救助が最優先だ!
話せば母さんならきっと分かってくれる筈だ。
魔騎士の隙をついて、俺は少年に向かって手を差し伸ばした。
「早く来て!!」
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少年は俺に向かって手を伸ばし、ギュッと握りしめた。
すると、俺の腕に痛みが走り眉を寄せるが…我慢出来ない痛みじゃない。
少年を引っ張り、走り出すと後ろから魔騎士が追いかけてくる気配がする。
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もうすぐ寄宿舎付近に到着すると思ったところで、急に後ろに腕を引っ張られた。
そしてそのまま酒屋の裏に入った。
こんな狭い路地、魔騎士が現れたら逃げ場なんてない。
でも、少年はしゃがんでいてここから一歩も動かない。
もしかして、俺が行き先を告げないから不安になったのか?
騎士団のところに行くだけだから大丈夫だと言おうとしたら、口を勢いよく少年の手で塞がれた。
動きを止めたら、魔騎士だろうか…鎧が歩くようなガシャガシャといったような音が聞こえた。
その音は俺達がいる路地を通らず、そのまま去っていった。
もしかして、目がないから俺達が音を出してないと場所が分からないのか?
漫画の魔騎士にそんな弱点あっただろうか、忘れているのかもしれない…さすがにセリフの一つ一つを覚えてはいない。
ホッと胸を撫で下ろして、少年を見ると少年は俺の口を塞いでいた手を外した。
綺麗な黒い瞳に黒い髪の俺より年上の少年だ。
何処かで見た事があるが近所にはいなかった、この子も漫画のキャラクターなのかな。
と思っていたら、額を地面にぶつけたから血が出ていた。
見た目は痛そうだけど、平気なのか?見た目以上にヤバいかもしれない。
「病院、病院に行こう!立って!」
「…い、嫌だ…病院は」
「そんな事言ってる場合じゃないって!」
「嫌だ!!」
強く言われて、そんなに病院が嫌なのかと驚いた。
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