ダブルワークは異世界で ー日本のサラリーマンは異世界でも働きます!ー

猫谷ササミ

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異世界キャンプ

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 移動した先は目の前に湖が広がっており、森の中なにあるのか、対岸を含めた周りが樹々に囲まれてる。

 湖畔までは大体、100メートルぐらいか。

 ただ、太陽は既に沈んでしまったのか、はたまた木々に遮られているのか、先ほどの草原よりも薄暗いので、私達はランタンに灯りを灯した。

「ここには魔物の気配も無いので大丈夫でしょう」

 と言いつつ、ガイア様はついっと手を軽く横に振ると、ドドドッと下から突き上げてくる様な地響きと共に周りに3メートル程の高さのある土の壁が現れ、周りを取り囲む。

「「おぉ~!?」」

 あまりの出来事に、驚嘆の声しか出ない我々を置き去りにして、ガイア様は湖の反対にある森に指を向けると、先ほどと同じ様に地面からドドドッと地響きの後、地面から間欠泉の様に水が吹き出した。

「ちょうど地下に温泉の水脈があったので掘っておきました。ついでにこれはサービスで……」

 今度は吹き出している温泉の周辺からメキメキやらベキッなどの木が折れ、倒れる音とそこに居たのであろう野鳥達が一斉に飛び出した。

 何事かとガイア様を見ると、吹き出した温泉を中心に直径10メートル、深さ2メートル程の池を作ったとの事。

 更に、そこから湖までの間を繋ぐ様に幅1メートル、深さ50センチ程の側溝まで作ってくれた。

 因みに、ここ迄の作業時間は約10分、本人は椅子に腰掛けたままという。

 我々はあまりの出来事に、ただただ茫然とするしかなかった。


◇◇◇◇◇◇


 一連の作業?に費やした数十分で、辺りは完全に暗闇に包まれ、ガスランタンが煌々と照らす以外の光源は無く、空には双子星が青白い光を放っている。

 エスティナ様とガイア様は一旦帰るというので、全員でお見送りをする。

「ごめんなさいね、私が付いていくと言わなければこんなに遅くなる事もなかったのに」

「いえいえ、コチラとしては安全な場所と温泉まで提供して頂けたのですから、本当にありがたいです」

 そう言いながら、佐藤さんがお神酒と称して買って来てくれた日本酒をお土産として手渡す。

 結局、何の話も出来なかったが、ガイア様は近日中に顔を出すとの事だし、エスティナ様は朝に再度来訪するそうなので、本格的な話し合いは明日となった。

「本日はありがとうございました」と我々は深々とお辞儀をすると、「それでは」と、ニコリと微笑むガイア様はエスティナ様と共に姿を消した。


◇◇◇◇◇◇

「行きましたか……」

「行きましたね……」

 90度のお辞儀を戻して、深々とため息を吐く。

「皆さんお疲れ様でした」

「お疲れ~」

「お疲れさん」

 それぞれお辞儀を戻しながら、お互いの労を労いつつ各々席に着いた。

「それにしても、温泉にこの壁には驚きました」

 私は周りの壁に視線を向けるが、そこには先の見えない漆黒しかない。

「壁はどの範囲まであるのか確認しないとな」

「温泉もどうなってるか見てみないと」

「まぁ、それはそれとして、取り敢えずメシにしません?」

 高木さんと内田さんが明日の予定を話し合い始めたところで、佐藤さんが途中まで温めていたレトルトパックの温め直しを始める。

 そんな佐藤さんをみて、そうするかとばかりに各自晩ご飯の準備を開始した。


◇◇◇◇◇◇


「あの日本人達、面白いわねぇ」

 お神酒と称してお土産に貰った日本酒をグラスで飲みつつ、ガイアはエスティナに話しかけた。

 惑星アリスにおけるガイアの役割は惑星本体の管理であり、地上に存在する植物、生物に関しては惑星の維持に必要なだけで、特段影響がない限り基本放置であるが、そんな彼女でも、アリスに住う人々の間では「大地母神して信仰の対象となっている。

 そんな彼女からしたら、昼間のエスティナや自分に対する人間味ある対応が新鮮で仕方なかった。

「彼らの国には八百万の神々がいるそうで、何にでも神様が宿っていると考えがあるそうです。そのため、アリスの人々とは考え方が違うのでしょうね」

 エスティナも日本酒をちびちび飲みながら、媚び諂う事なく適度な距離感で接してくる日本人達に悪い印象は抱いていない。

「それで、お姉さまはあんな事をされたのですか?」

 エスティナが指摘したのは、転移後に行った防壁の設置と温泉の採掘の事だ。

 ガイアは管理するだけで、人間に手を貸す事は無い。ましてや、頼まれてもいない事を率先して行う事は絶対にあり得なかった。

「えぇ、彼らの人柄が気に入ったわ。媚び諂う様な事もしないし、力を悪用しようとする狡猾さも無い。今頃は温泉を如何に活用するかを話し合っていると思うわよ?」

 今回の日本人転移計画について、一番に心配してくれたガイアが、グラス片手にクスクスと笑っている姿にホッとしたエスティナはグラスに口をつけた。
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