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最終章 決戦

【六十七】終焉(弥助)

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あの戦いから一年、俺は丘の上の墓へと来ている。突然現れて散々俺と弥生の心を乱した父親佐助。会ったらこの手で殺してやろうと思っていたのに、捉えた後に才蔵師匠と共に現れた佐助は別人のように落ち着いた顔つきになっていた。右京と戦っていた俺の前に現れた佐助は、自らが施していた左京の呪印を解除した後、安倍晴明の元へと向かった。
正気に戻った左京と、姫達を連れて安倍晴明と戦っていた小太郎殿の元へと駆けつけると、佐助は晴明を後ろから羽交い締めしており小太郎殿が佐助もろとも剣を突き立てた所だった。

安倍晴明の絶命と共に、周りを取り囲んでいた式神達がヒラヒラと空に舞い上がり、左京と姫様の呪印は光を放ち消え失せた。

そして、剣が佐助に到達した瞬間
奴はこちらを見て、少しだけ微笑み
『やすけ、やよい、…すまぬ…』
と口を動かし倒れそのまま
起き上がる事はなかった。

あんなにも、あんなにも憎いと思った父親…最期まで悪役でいてくれたならこのような感情を持つこともなかったであろうに。何故謝ったのだ?俺と弥生は暫く涙が止まらなかった。


『おや、お主もきておったのか。あれから一年とは月日の流れとは早いものよのぉ。』

持ってきた三つの猪口に酒を注ぎ、墓前に供え一つを黙って渡された。

「師匠、俺はあの日佐助が謝ってきたことが許せませぬ。あんな事をされなければ、奴はただの憎き敵として俺の中で終わっていたというのに…何故死してなお俺を苦しめようとするのでしょうか。」

『”親子の愛とは…拙者には縁遠く…この期に及んで、漸く気付くものなり”佐助は小屋の中でそう呟いておった。親からの偏った愛情しか受けて来なかった奴にとって、家族を作るという事程、難しい事はなかったはず。愛され方を知らずに過ごし、初めて愛し愛された女を殺めてしまってから奴なりに苦しむところはあったのかもしれぬな。可哀想なやつじゃが、あやつを許すわけではない!お主はまだ若い、ゆっくりと自分なりに整理していけばよいと思うぞ?佐助の事を忘れるもよし、この先の人生できっと答えは出るはずじゃ。おや?お主泣いておるのか?』

「ば、馬鹿なことを!」

立ち上がり、復興に着手した暁城を眺める振りをして目から零れ落ちてくる水滴を拭った。あの、城を襲った悲劇の日とは違い空には美しい満月が輝いている。

『おやおや、酒の匂いがするのぉ?ワシも混ぜてくれるかの?』

『あ、弥助殿!こんなところにいたのですね!忍頭が何も言わずに出かけるなんて!気を引き締めてくださいませ!あれ?お酒ですか?お華も頂きますー! 』

『弥助!私たちをのけ者にするなんて許さないわよ!ねぇ、弥生?ひどいと思わない?』

『本当、弥助兄さんは昔から空気が読めませんからねー?あ!殿と奥方様もこちらに向かっているみたいですよ?』

才蔵師匠は最後の戦闘で片腕を失った事から忍を引退し、俺は後継者として城の忍頭を務める事となった。お千代殿を失い途方に暮れていた水月の面々を迎え入れる事で、城の忍衆の実力はここらの国一番を誇る程のものへと成長し再建中の国ではあるが、奇襲を受けることもなくなった。

もう居なくなった父親の事で悩む必要はない。俺の周りにはこんなにも支えてくれる仲間たちがいる。俺は幸せだ。それでいいのだ。

『おぉ、殿と奥方様のおなり~
皆頭を垂れるのだ!!』

場から笑いが起こり城主夫妻がやってきた。

『才蔵師匠、殿と呼ぶのは表向きの時だけにしてくださいといつもお願いしているでしょう?全く…弥助よ、俺も手を合わせてよいか?』

花を手向け、静かに手を合わせている左京と千鶴殿。戦後に結婚した二人と灘姫様の三人が現在の暁国を治めている。陰として産まれ、悪の道に進もうとしたが踏みとどまることのできた左京とそれを陰ながら支えてきた千鶴殿。そんな二人に助言する形で国政に参加している灘姫様は、一度城を出て様々な経験を積んだこともあり民衆の生活を一番に考えながら国の損得も考えるという凄腕の策士となられていた。

『おい、左京よ、お主も早く飲まぬか!千鶴殿もいかがかの?』

『小太郎殿、私が妻の分まで頂きます故!千鶴は勘弁して頂きたい。その…お腹に赤ん坊を授かっているのがわかったのです…』

左京の発表に、浮き足立つ面々。

『酒じゃ!祝い酒じゃ!!
城の酒を全部持って参れ!!』

最初ここに来た時の哀愁は何処かに消え見事に祝賀の雰囲気が制した城の見える丘の上。
この出来事から半年後、千鶴は無事に元気な子達を産んだ。そう、双子の女の子を。

この女児達の行く末はまた別のお話。




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みんなの感想(1件)

あさのりんご

楽しませていただきました。流れるような文章が、素敵です。時代の雰囲気が伝わって来ました。これからどうなるのか、気になります。

十文字心
2022.05.30 十文字心

夢野凛様
初めまして!沢山の作品の中からお読み頂き、コメントまでありがとうございます。お楽しみ頂けるように最後まで更新頑張ります(^^)

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