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最終章 決戦

【六十二】決起(お華)

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安倍晴明が部屋で暴れていたことから、混乱が生じたのか、特に追っ手がくるわけでもなく千鶴姉さんを連れた私は、麓まで無事に下り水月へと辿り着くことができた。

『お華姉さん、ご無事で何よりです…って千鶴姉さん!!これはどうなされたのですか…?』

「詳しくは千鶴姉さんの手当をしてからだ、救護の準備を頼む。」

布団に寝かせ応急処置を施されている間も目を覚まさない千鶴姉さん…息はしているが時折、うぅううううぅと苦しそうな呻き声をあげている。

それにしても、お千代様はどうなっただろうか…最後に見せた笑顔が頭にこびり付いて離れない。

『お華姉さん、あの…お、お千代様は…』

この水月には、来たばかりの娘も含めて現在も十名ほどが生活している。歳も若く、まだまだ一人で生きていけるような知識や経験がない娘も少なくない…。現在のここの年長者は千鶴姉さんであり、次が私…。千鶴姉さんが目覚めるまでは事実を伏せておくことにした。

「お千代様はね私たちを護る為に今、一人で戦ってくれている最中なのよ。千鶴姉さんが怪我をしてしまったから、私が先に連れて帰るように申し付けられたというわけ。大丈夫、貴方達の居場所を奪わせるようなことは、私が絶対にしないから安心しなさい!」

務めて明るく振舞ってはみたが、彼女達の不安そうな表情が消えることはなかった。

『お、お華…?うぅ、わ、私はどうしてここに…?確か安倍晴明の城へと行ったはず…』

頭を抑えながら、ゆっくりと千鶴姉さんが起き上がりこの場にいる状況に混乱している様子…

「千鶴姉さん!よ、よかった!!大丈夫ですか?まだ起きてはなりませぬ…」

駆け寄って表情を確認してみたが、目はしっかりとこちらをみている。頭が痛むのか時折、顔をしかめているがそれ以外はいつもの千鶴姉さんのように見受けられた。

『お華…話を聞かせてくれ…』

人払いをし、二人きりになった室内で私は恐山での出来事を語ることにした。

「私も、どういった経緯でそうなったのかは分かりませぬ…。しかし、私とお千代様が行った時に千鶴姉さんは、確実に操られておりました…それをみた私達は動揺し、お千代様は姉さんを助ける為に最後の手段と言っていた行動に出たのです…そして、混乱に乗じて私が姉さんを連れてここまで逃げてきた…という事で、お千代様が存命なのかどうかもわかりませぬ…まだ、他の水月の者達にはこの事を伝えておりません。」

『……そうか…お華にも迷惑をかけたな…。私は冥国の忍びと、左京と共に安倍晴明の元へと状況報告をしに向かっていたのだが、その途中で弥助と弥生が現れたのだ。闘うフリをしながら左京と姫、弥助達を逃がし生き残った冥国の忍び一人と共に恐山を登った。そして、安倍晴明の前で状況報告をしようとした刹那、目の前で冥国の忍びの首が飛び、安倍晴明に私の裏切りを指摘され、言う事を聞かないとこの男のように今すぐ首が飛ぶ事になると脅された…。それからの記憶は全く無い…』

肩を落とし、泣く事を我慢している様子の千鶴姉さんを抱きしめ二人で痛みを分かち合う。

「千鶴姉さんは、何も悪くありませぬ!私たちに出来ることは、お千代様の意志を受け継ぎこの水月を護ること。お千代様の安否は気になりますが、お千代様が命を賭けても護りたかったものを私達で護る。二人で協力すれば出来ないことはないと思いませぬか?安倍晴明はきっと暁国へ向かうはずです。あちらには小太郎殿達も到着している故、皆で迎え撃ちましょうぞ!」

「ふふ、そうだな。悩んでいても敵は待ってくれぬしな。お華が居てくれてよかった。私達でこの水月を護り抜く!お千代様がいつ帰ってきてもいいようにしないとな。」

こうして私達は、水月に居た娘達全員を裏道から幸景殿の古寺に避難させ、暁国へと向かった。
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