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最終章 決戦

【五十八】血筋(才蔵)

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なんじゃ?隙だらけじゃの…何か裏があるのか?長期戦はこちらに不利。どんな裏があろうともそれを超える攻撃でねじ伏せるまで。
鞘から抜いた刀を佐助の腹部めがけて横に切り込んだ。

「この程度の攻撃で、百戦錬磨のお主を殺れるとは思っておらんかったが、流石だ!佐助。」

腹を真横に切りつけようと振った剣は、佐助の服を切り裂きながら横に滑った。すんでのところで上体を後ろに引き刀を上手く躱したようだ。

『やれやれ、殺気だけは立派なものであったが、やはりお主は弱い。拙者がかつての友であるという気持ちが剣を鈍らせておるのだろう。才蔵…お主ごときに時間を費やす気は毛頭ない。』

「いやはや、ワシもごときと言われるまで落ちぶれてしもうたか…お主の言う通り、まだ何処かで信じたいと思う気持ちがあるのかもしれぬな…しかし、しかしだ猿飛佐助よ!ワシも暁国を長年護ってきたという誇りがあるのじゃ。君主を奪われて引き下がる程、落ちぶれてはおらぬ!たとえこの命に変えようとも、お前の命だけは是が非でも頂く!」

先程よりも、もう一歩踏込み首の頚動脈を至近距離で狙ってみるが、くないを盾にまたしても躱されてしまった。先程から響き渡るのは剣とくないが交える乾いた音ばかり、お互いが一歩も引かぬ戦いが続いている…。このまま長期戦に持ち込まれたら分が悪い…弥助達がここに到着するまでは何としても時間を稼ぎたい所じゃが…。

『空気をも切り裂くと恐れられた霧隠伝統の刀技も、やはり三日月無しでは最大限の力を発揮することは出来ぬようだな。三日月なきお主の刃が拙者に届くことはない!遊びはここまでだ、今度はこちらから本気でいかせてもらおうか?』

くないを懐に入れ、腰の刀に手を伸ばした佐助。先程までの隙は微塵も感じられないどころか強烈な殺気を放っておる…次の攻撃で下手すると終わりかもしれぬな…

「ふぅ…流石は孤高を好み殺戮を専門として生きてきた忍びじゃな…次の攻撃を受けるとワシも無傷ではすまされぬであろう故、一つお互いが死ぬ前に聞いておきたいことがある。」

『聞いておきたい事?』

佐助の構えが少しだけ緩んだ。

「…佐助よ、お主はワシの姉を
本気で愛しておったのか…?」

構えていた剣を一旦下ろし、下を向いた佐助。狼狽えたか?と思ったがすぐ様、顔を上げて不敵な笑みを浮かべている。

『そんな昔の感情は覚えておらぬな。聞きたいのはそれだけか?ならばこちらからいかせてもらう!才蔵、我が生涯で唯一の友よ…散れ!』

佐助渾身の一振りが、首をめがけて襲ってきた。何とか剣で押し返すが力が強く、滑った刃が左腕を傷つけ一筋の血が流れ始めた。

「……うっ、く、くっ…、お主が、ワシの事を友だとか柄にも無いことを言うから少し油断してしまったのぉ…まぁよい、たとえワシがここで倒れようとも、すぐにお主は、三途の川を渡ることになるであろうしな。三日月を携えて此処へとくる男、そやつは、今のお主も及ばぬほど強き男よ。』

猿飛佐助の息子でありながら、霧隠れの血を引くという、とんでもない血筋を持ち合わせてしもうた弥助と弥生…。弥助と弥生が自分の甥姪にあたるという事が判明したのは、姉上の死去から十年が経とうとした頃だった。

初めてここへきた時から、初見であるはずだというのに二人は、泣いていたり癇癪を起こしていても、ワシの顔を見ると何故か落ち着き笑顔に戻るといった事が多々あった。大きくなり自我が芽生えてもそれは変わらず、親はこの世にいないと告げられても、自暴自棄になったりすることも反抗することもなく、優しく素直な人間に育ってくれた。今考えると、二人は遠い記憶にある母親の影をワシに見ていたのかもしれないと思った。

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