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第六章 真相

【五十二】合流(弥助)

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「姫様、灘姫様!!」

『や、弥生!!』

目の前で再会を喜び抱き合っている灘姫様と弥生。この二人は本物の姉妹のような絆で結ばれている。弥生が気絶していた所為、少し時間はかかったが、水月へ到着すると二人は奥の部屋で休ませてもらっているところだった。

『おぉ、小童め、ようやく来たのか。』

「小太郎殿!小童は余計であります。小太郎殿こそ、どうしてこちらに?」

お千代殿と一緒に小太郎殿が現れ、二人の後ろには見慣れぬ忍びが立っていた。いや、この忍び…どこかで見たことが…?何にしても二人の知り合いとなれば敵ではなさそうだ。

『弥助よ、到着したばかりですまぬが佐助が既に暁国へと向かってしもうた所為、才蔵の事が心配じゃ。皆で情報を共有し、今までの状況を整理したいと思う。』

そして、共有された現在の状況。

暁国を襲うよう命じたのは、恐山に住む陰陽師の安倍晴明。隣国である冥国と手を組み冥国の領土を拡大しようとしている。暁国が完全に陥落した後は、自らが影の王として国を操るつもりであったが民の抵抗により、暁国領主の血を引く左京と灘姫を表に立たせることで民衆を納得させようとしている。

佐助は安倍晴明に雇われて、これらの任務を遂行しようとしており、現在才蔵と殿らしき人物の存在を確認する為、暁国へと向かった。

才蔵と幸景殿は現在暁国へ出向き、民衆の前に姿を現すことで民衆の結束を更に強固なものにしようとしている。

『さて、これから各々がどう動くかじゃが…左京と姫が安倍晴明に接触するのは避けたい。呪印の事があるからのぉ。お千代殿はどのようにお考えじゃ?』

『今、私の娘の一人が安倍晴明の元へ行っておる。報告を聞いて、奴も暁国へと向かうであろうな。くノ一としての力量は申し分ないが、もし私の命令で潜入させられている事が奴に知られてしもうた時の事を考えると、心配じゃ…人の命など、虫けら同然と考えているような男だからな。だから、私はお華と一緒に恐山へと向かおうと思っておる。』

話を聞いて、お千代殿の横に立っていた忍びが”うんうん”と頷いている。ん?お華とは?俺が先日世話になったくノ一のお華の事ではないのか?忍びの顔を、じっくり観察していると俺の視線に気づいたのかこちらを見て片目をつぶり笑ってみせた忍び…

こ、この笑顔は…あのお華殿だ…お、男だったのか…?胸の中に複雑な感情が渦巻いてきた…

『弥助よ、驚いた顔をしてどうしたのじゃ?あ、もしかして好意を抱いていたおなごが男だと気づいて動揺しておるな!!だからお主は小童だと言われるのじゃ。好きになった者の性別なんてどうでもよいじゃろ?男なら男らしく、全てを受け入れろ!』

こんな大事な時に…小太郎殿は…

「うるさい!酔いどれじじいは
黙っていてくだされ!」

『あ!躾がなっとらんと才蔵に言いつけるぞ!』

もう…完璧に面白がっている…

「もう、小太郎殿はいいです…それよりも、お千代殿とお華殿は、安倍晴明のところへ向かわれるのですね。では残りの者で才蔵師匠の元へ向かうという事でよろしいでしょうか?」

『うむ、それでいいじゃろう。我々は千鶴を救出次第そちらに向かう事にする。それでよいな、小太郎よ?』

『うーーん…お千代殿、ワシもそちらに行った方が良いと思うのだが…どうじゃろう…?敵の本陣に二人とは少し不安ではないかの?』

『お主に心配される程、腕は落ちておらぬわ!お華はきっと、そこにいる左京や弥助よりも強いぞ?小太郎よ、私はまだまだ死ねぬのだ。絶対に生きて戻る故、お主達こそやられるでないぞ?』

二人の間には俺には計り知れない程の深い絆があるのだと思った。小太郎殿はそれ以上何も言わず、お千代殿の言葉を受け入れた。
そして”よーし、弥助!景気付けに一杯やるぞ”と店から酒を拝借し、勝手に呑み出してしまった。小太郎殿も不安なのだろう…

出発は明日の早朝、それぞれの戦いが始まる。
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