51 / 68
第六章 真相
【五十】追憶(お千代)
しおりを挟む
私と風魔小太郎は、水月がある集落の隣にある貧しい集落に生まれた。忍者一族に生まれた小太郎とすぐ近くに住んでいた私は、歳も差程変わらないことから姉弟のように仲良く過ごしていた。幼少期から小太郎の修行について回り、忍者の真似事をしたりもしていたが、小太郎にはいつも危険なことはしないで欲しいと言われていた。
小太郎が本格的に忍者の修行を始めたのは十歳になった頃。歳を重ねる毎に美しく成長した私は、他の集落の者が噂を聞きつけて求婚にくるほどのもので、諍いが起こることも度々あり家族を悩ませていた。その度に小太郎は、私の家へと出向いて子供ではあったが竹刀を振り回し助けてくれていた。
事が起きたのは私が十五歳を迎えた頃、その後の人生を決める決定的な出来事が起こった。求婚を断られた腹いせに、私の家族はある男に惨殺されたのだ。忍びを引き連れてやってきた男は、私以外の家族を殺めた後に呪いの言葉を吐いて去っていった。
”貴方を殺しはしない。貴方の判断の所為で家族が殺されたことを一生悔いながら生きるがよい”
男が去った後、騒ぎを聞きつけた小太郎がやってきた。惨劇を見た小太郎は只只涙を流し、私を抱き締めながら謝り続けていた。
騒動から暫くは、小太郎の家に身を寄せさせてもらった。私の自害を心配した小太郎が有無を言わさず連れ帰り一日中誰かの監視下に置かれた。事件には触れず、毎日修行の中で見つけた日々の出来事などを面白おかしく話してくる小太郎に、最初のうちは鬱陶しく思いそっとしておいてくれと冷たく当たっていた。
そんな日々が数ヶ月続いたある日、いつも訪ねてくる時間に小太郎が私の部屋に来ないことがあった。私は不安に押しつぶされそうになり、小太郎の部屋を訪れた。中には布団に寝かされ治療を受けている小太郎の姿があり、その姿を見た私は心臓を抉られたような衝撃を受けた。どうやら修行中に怪我をしてしまったようだ。
「小太郎!!」
『なんだ、…お千代か?泣きそうな顔をしてそんなにワシに会いたかったのか…?』
張りがない声で、憎まれ口を叩く小太郎を見て涙が止まらなくなった。
「…小太郎までいなく、なったら、わ、私は…」
『人を勝手に殺すでない…!こんな怪我寝たら治る故、心配するな…。』
その時、私は心に決めた。大切な人を失うのはもう二度と御免だ。私自身が強くなるのだと。そして、小太郎の父親に直談判し私はくノ一としての修行をつけてもらう事となった。
それから死に物狂いで修行を続けた私は、”くノ一界にお千代あり”と言われる程の実力を身につけ、名を上げていった。そして小太郎も私に負けじと修行に励み、”泣く子も黙る風魔小太郎”として国中に名を轟かす忍びとなった。
一人前となった私達は、別々の道を歩んでいた。しかし、ある出来事がきっかけでまた出会うこととなる。
それはその当時仕えていた君主の護衛任務についていた時、私は任務に失敗し瀕死の重傷をおって山の中で息絶えようとしていた。意識が朦朧とし、助けも呼べない状態で目を閉じようとした刹那、ある人物が通りかかった。
『大丈夫ですか?しっかりしてください…』
声が聞こえたが返事をすることも出来ずそのまま気を失い、気づいた時には見知らぬ場所の布団に寝かされていた。
「……うぅ、こ、ここは…」
『まだ起き上がらないでください。貴方は三日も眠り続けていたのですよ、漸く出血が止まった所であります。気がついたのであればもう大丈夫でしょうが、まだ暫く安静にしなくてはなりませぬ。』
私を助けてくれたのは、最景上人という高位の僧だった。沢山の修行僧に囲まれた最景殿はどんな人に対しても平等に接し、決して人を貶める様なことはしない裏表のない人格者であり、身元も分からぬ私を懸命に看病し、仏に祈りを捧げてくれた。
最景殿と寺の者の献身的な治療のお陰で半年程で私は歩けるまでになった。その後も順調に回復はしたものの腹に後遺症が残った私は子の産めぬ体となった。女としての機能を無くし落ち込んでいた私に寄り添い、最景殿はいつも”私という人間がどんなに素晴らしく生きているだけで尊い存在なのだ”という事を説いてくれた。
そんなお方に好意を持つのは至極必然であり、私は最景殿と結ばれた。家族を亡くしてからこれまでくノ一として大切な者を護る為に修行をし強さを求めて生きてきた私は、最景殿を手伝い、修行僧の世話をしながら穏やかに生活するようになった。
そんなある日、暁国の殿からある人物を極秘で預かって欲しいという伝令が届いた。殿からのたってのお願いという事で、寺にいた修行僧はほとんどが分院へと移動し、私と寺を維持するのに必要な数名の僧を残してその人物を受け入れた。その時に来られたのが、幸景殿であり幸景殿を連れてきたのが小太郎であった。
小太郎は寺に私がいた事にとても驚いていたが、昔と変わらない笑顔で私との再会を喜んでくれていた。そして、幸景殿が寺で生活するようになり、小太郎は時折様子を見に現れるようになった。
小太郎が本格的に忍者の修行を始めたのは十歳になった頃。歳を重ねる毎に美しく成長した私は、他の集落の者が噂を聞きつけて求婚にくるほどのもので、諍いが起こることも度々あり家族を悩ませていた。その度に小太郎は、私の家へと出向いて子供ではあったが竹刀を振り回し助けてくれていた。
事が起きたのは私が十五歳を迎えた頃、その後の人生を決める決定的な出来事が起こった。求婚を断られた腹いせに、私の家族はある男に惨殺されたのだ。忍びを引き連れてやってきた男は、私以外の家族を殺めた後に呪いの言葉を吐いて去っていった。
”貴方を殺しはしない。貴方の判断の所為で家族が殺されたことを一生悔いながら生きるがよい”
男が去った後、騒ぎを聞きつけた小太郎がやってきた。惨劇を見た小太郎は只只涙を流し、私を抱き締めながら謝り続けていた。
騒動から暫くは、小太郎の家に身を寄せさせてもらった。私の自害を心配した小太郎が有無を言わさず連れ帰り一日中誰かの監視下に置かれた。事件には触れず、毎日修行の中で見つけた日々の出来事などを面白おかしく話してくる小太郎に、最初のうちは鬱陶しく思いそっとしておいてくれと冷たく当たっていた。
そんな日々が数ヶ月続いたある日、いつも訪ねてくる時間に小太郎が私の部屋に来ないことがあった。私は不安に押しつぶされそうになり、小太郎の部屋を訪れた。中には布団に寝かされ治療を受けている小太郎の姿があり、その姿を見た私は心臓を抉られたような衝撃を受けた。どうやら修行中に怪我をしてしまったようだ。
「小太郎!!」
『なんだ、…お千代か?泣きそうな顔をしてそんなにワシに会いたかったのか…?』
張りがない声で、憎まれ口を叩く小太郎を見て涙が止まらなくなった。
「…小太郎までいなく、なったら、わ、私は…」
『人を勝手に殺すでない…!こんな怪我寝たら治る故、心配するな…。』
その時、私は心に決めた。大切な人を失うのはもう二度と御免だ。私自身が強くなるのだと。そして、小太郎の父親に直談判し私はくノ一としての修行をつけてもらう事となった。
それから死に物狂いで修行を続けた私は、”くノ一界にお千代あり”と言われる程の実力を身につけ、名を上げていった。そして小太郎も私に負けじと修行に励み、”泣く子も黙る風魔小太郎”として国中に名を轟かす忍びとなった。
一人前となった私達は、別々の道を歩んでいた。しかし、ある出来事がきっかけでまた出会うこととなる。
それはその当時仕えていた君主の護衛任務についていた時、私は任務に失敗し瀕死の重傷をおって山の中で息絶えようとしていた。意識が朦朧とし、助けも呼べない状態で目を閉じようとした刹那、ある人物が通りかかった。
『大丈夫ですか?しっかりしてください…』
声が聞こえたが返事をすることも出来ずそのまま気を失い、気づいた時には見知らぬ場所の布団に寝かされていた。
「……うぅ、こ、ここは…」
『まだ起き上がらないでください。貴方は三日も眠り続けていたのですよ、漸く出血が止まった所であります。気がついたのであればもう大丈夫でしょうが、まだ暫く安静にしなくてはなりませぬ。』
私を助けてくれたのは、最景上人という高位の僧だった。沢山の修行僧に囲まれた最景殿はどんな人に対しても平等に接し、決して人を貶める様なことはしない裏表のない人格者であり、身元も分からぬ私を懸命に看病し、仏に祈りを捧げてくれた。
最景殿と寺の者の献身的な治療のお陰で半年程で私は歩けるまでになった。その後も順調に回復はしたものの腹に後遺症が残った私は子の産めぬ体となった。女としての機能を無くし落ち込んでいた私に寄り添い、最景殿はいつも”私という人間がどんなに素晴らしく生きているだけで尊い存在なのだ”という事を説いてくれた。
そんなお方に好意を持つのは至極必然であり、私は最景殿と結ばれた。家族を亡くしてからこれまでくノ一として大切な者を護る為に修行をし強さを求めて生きてきた私は、最景殿を手伝い、修行僧の世話をしながら穏やかに生活するようになった。
そんなある日、暁国の殿からある人物を極秘で預かって欲しいという伝令が届いた。殿からのたってのお願いという事で、寺にいた修行僧はほとんどが分院へと移動し、私と寺を維持するのに必要な数名の僧を残してその人物を受け入れた。その時に来られたのが、幸景殿であり幸景殿を連れてきたのが小太郎であった。
小太郎は寺に私がいた事にとても驚いていたが、昔と変わらない笑顔で私との再会を喜んでくれていた。そして、幸景殿が寺で生活するようになり、小太郎は時折様子を見に現れるようになった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
異・雨月
筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。
<本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています>
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
高槻鈍牛
月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。
表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。
数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。
そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。
あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、
荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。
京から西国へと通じる玄関口。
高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。
あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと!
「信長の首をとってこい」
酒の上での戯言。
なのにこれを真に受けた青年。
とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。
ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。
何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。
気はやさしくて力持ち。
真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。
いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。
しかしそうは問屋が卸さなかった。
各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。
そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。
なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!
戦国乱世は暁知らず~忍びの者は暗躍す~
綾織 茅
歴史・時代
戦国の世。時代とともに駆け抜けたのは、齢十八の若き忍び達であった。
忍び里への大規模な敵襲の後、手に持つ刀や苦無を筆にかえ、彼らは次代の子供達の師となった。
護り、護られ、次代へ紡ぐその忍び技。
まだ本当の闇を知らずにいる雛鳥達は、知らず知らずに彼らの心を救う。
しかし、いくら陽だまりの下にいようとも彼らは忍び。
にこやかに笑い雛と過ごす日常の裏で、敵襲への報復準備は着実に進められていった。
※他サイトにも投稿中です。
※作中では天正七年(1579)間の史実を取り扱っていくことになります。
時系列は沿うようにしておりますが、実際の背景とは異なるものがございます。
あくまで一説であるということで、その点、何卒ご容赦ください。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる