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第五章 準備
【四十五】拒絶(左京)
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『左京よ、奥方と佐助が到着したようだ。』
「私と千鶴は下へ行って二人を出迎えてきます。姫様はここで、待っていてください。」
灘姫様とは入念な打ち合わせをしておいた。後は流れに身を任せるだけ。
「奥方様、佐助殿、長旅お疲れ様でございます。灘姫様の所へご案内致します。」
『左京、灘姫が?本当にここへ来ているの?私の可愛い子供達が漸く揃うのね!!早く、早く行きましょう!!』
居てもたってもいられないとはこの事。姫が居ると聞き、急いで中へ入ろうとする奥方様に声をかけた。
「奥方様、私は姫様に奥方様が存命である事、そして私と姉弟であるという事をお伝えしておりませぬ。どの様にこの状況をお伝えするつもりでしょうか?まさか父上を裏切ってこのような状況になっていると正直に話すつもりはないでしょうが…出過ぎた真似だとはわかっておりますが…姫様いえ、姉上の気持ちを一番に考えてお話くださいませ。」
姫は全てを知っている。演技もしてくれるだろうが、母親が現れるということは父上を裏切りこの様な事態となっているという俺の話が事実だったと姫は認めざるを得ない状況におかれる。奥方様には冷静になって姫に会って欲しいと思った。
『…左京、ありがとう。そうですね、私はあの子の父親を奪った最低な母親…。例え許されなくても、あの子には誠実に…しっかりと事実を伝えます。』
先程までの浮き足立った様子が収まり、精悍な顔つきになった奥方様。その様子を佐助殿は何も言わずに真顔で腕を組み静観していた。
「灘姫様、左京です。入室致しますね。」
合図をして先に部屋に入り姫の様子を見ると、青ざめた顔をしていた。眼を見つめ”大丈夫”と声を出さずに静かに伝える。姫は俺の口の動きを見て静かに頷き深呼吸をしていた。
『灘姫、灘姫なの??』
続いて入室してきた奥方様の顔を見て、姫の顔が引き攣っていく。
『え?母上…?すみません…言葉が出ませぬ』
現実を受け止めなければいけない事を悟ったのか姫はそれ以上その場で話すことはなかった。
『左京、佐助?姫と二人で話をしたいの。外に出ていてもらえますか?』
『御意。』
頭を下げて、佐助殿と一緒に退出する。奥方様を見た姫の動揺は計り知れない。演技ではなく本当に言葉が出なくなったのだろう…しかしここは信じて任せるしかない…
部屋を出て千鶴殿の元へと向かおうとした刹那、佐助殿が口を開いた。
『左京、よく姫を連れ出すことができましたね。今まで苦労したというのに、今回はすんなりと事が進んで驚いています。貴殿が裏切り者でなくて安心しましたよ?』
何か疑っているような口調に背筋が凍るのを感じた。言葉からは殺気も感じる…早く千鶴の元へと行きたいと思ってる俺の心を読むかのように、サッと移動して前に立ちはだかり先へと進めないようにしている佐助殿…何か余計な事を言った覚えもないが、明らかに疑っている様子だ。
「はい、今回は冥国隠密部隊と上手く連携して詳細な情報を手に入れる事ができました故、手を煩わせることもなく任務を遂行できました。私に千鶴殿をつけてくださった佐助殿のお陰でございまする。佐助殿、私の中に右京が居ることをお忘れではないですよね?右京がいる限り私は裏切る事などできませぬ。裏切るも何も佐助殿は私を新月のあの苦しみから解放してくださった恩人。恩には報いなければなりませぬ。」
『…なるほど。先日、恐山の麓で古い知人に会ったもので、少々疑い深くなっておりましてね。何故に隠居した老忍がこんな辺鄙な場所にいるのかと気になっていたのですよ。』
隠居した老忍?才蔵師匠が言っていた風魔小太郎殿のことか…まさか接触していたとは想定外だが、俺は小太郎殿に会ったこともない。ここはしらを切るしかないか。
「隠居した老忍…ですか?私にその様な知り合いはいませんが…佐助殿が警戒するようなお知り合いということは暁国に関係があるのでしょうか…?そういえば、姫を捕らえた茶屋には暁国のくノ一弥生も居ました故、ここからは気を引き締め直して任務に臨みます。」
『左京、左京はいる?』
奥方様が俺を呼ぶ声がして、この場から解放される安堵のため息が出そうになるのを堪えた。
部屋へ戻ると、姫は端のほうで泣いており奥方様から意図的に距離を取っているように見えた。
「話は終わったのですか?」
奥方様は姫に聞こえないように、
小声で話を始めた。
『はい、本当の事を全て話しました。やはり姫の傷心は酷いもので、私の顔は二度と見たくないと申しております…左京、私は…どうしたらいいのでしょうか…?』
それはそうであろう。沢山の人を傷つけ、自身も酷い環境に置かれてきた姫様。事前に知っていたとはいえ、本人から話を聞くのは心への負担も大きいだろう。
「奥方様、いえ、母上。貴方の覚悟はそんな物だったのですか?そんな半端な気持ちで事を起こしたのではないでしょう?全ては私と姫の為に起こしたこと。時間はかかるでしょうが誠心誠意伝えるのです。」
『左京の言う通りですね。とにかくここへ留まっていても話は先に進まないでしょう。すぐに恐山へと向かい、晴明殿に託しましょう。左京?姫のことは任せましたよ。』
「御意、姫の回復に努めます。」
こうして、別々の籠に姫様と奥方様を乗せて俺達は安倍晴明の待つ恐山へと出発した。
「私と千鶴は下へ行って二人を出迎えてきます。姫様はここで、待っていてください。」
灘姫様とは入念な打ち合わせをしておいた。後は流れに身を任せるだけ。
「奥方様、佐助殿、長旅お疲れ様でございます。灘姫様の所へご案内致します。」
『左京、灘姫が?本当にここへ来ているの?私の可愛い子供達が漸く揃うのね!!早く、早く行きましょう!!』
居てもたってもいられないとはこの事。姫が居ると聞き、急いで中へ入ろうとする奥方様に声をかけた。
「奥方様、私は姫様に奥方様が存命である事、そして私と姉弟であるという事をお伝えしておりませぬ。どの様にこの状況をお伝えするつもりでしょうか?まさか父上を裏切ってこのような状況になっていると正直に話すつもりはないでしょうが…出過ぎた真似だとはわかっておりますが…姫様いえ、姉上の気持ちを一番に考えてお話くださいませ。」
姫は全てを知っている。演技もしてくれるだろうが、母親が現れるということは父上を裏切りこの様な事態となっているという俺の話が事実だったと姫は認めざるを得ない状況におかれる。奥方様には冷静になって姫に会って欲しいと思った。
『…左京、ありがとう。そうですね、私はあの子の父親を奪った最低な母親…。例え許されなくても、あの子には誠実に…しっかりと事実を伝えます。』
先程までの浮き足立った様子が収まり、精悍な顔つきになった奥方様。その様子を佐助殿は何も言わずに真顔で腕を組み静観していた。
「灘姫様、左京です。入室致しますね。」
合図をして先に部屋に入り姫の様子を見ると、青ざめた顔をしていた。眼を見つめ”大丈夫”と声を出さずに静かに伝える。姫は俺の口の動きを見て静かに頷き深呼吸をしていた。
『灘姫、灘姫なの??』
続いて入室してきた奥方様の顔を見て、姫の顔が引き攣っていく。
『え?母上…?すみません…言葉が出ませぬ』
現実を受け止めなければいけない事を悟ったのか姫はそれ以上その場で話すことはなかった。
『左京、佐助?姫と二人で話をしたいの。外に出ていてもらえますか?』
『御意。』
頭を下げて、佐助殿と一緒に退出する。奥方様を見た姫の動揺は計り知れない。演技ではなく本当に言葉が出なくなったのだろう…しかしここは信じて任せるしかない…
部屋を出て千鶴殿の元へと向かおうとした刹那、佐助殿が口を開いた。
『左京、よく姫を連れ出すことができましたね。今まで苦労したというのに、今回はすんなりと事が進んで驚いています。貴殿が裏切り者でなくて安心しましたよ?』
何か疑っているような口調に背筋が凍るのを感じた。言葉からは殺気も感じる…早く千鶴の元へと行きたいと思ってる俺の心を読むかのように、サッと移動して前に立ちはだかり先へと進めないようにしている佐助殿…何か余計な事を言った覚えもないが、明らかに疑っている様子だ。
「はい、今回は冥国隠密部隊と上手く連携して詳細な情報を手に入れる事ができました故、手を煩わせることもなく任務を遂行できました。私に千鶴殿をつけてくださった佐助殿のお陰でございまする。佐助殿、私の中に右京が居ることをお忘れではないですよね?右京がいる限り私は裏切る事などできませぬ。裏切るも何も佐助殿は私を新月のあの苦しみから解放してくださった恩人。恩には報いなければなりませぬ。」
『…なるほど。先日、恐山の麓で古い知人に会ったもので、少々疑い深くなっておりましてね。何故に隠居した老忍がこんな辺鄙な場所にいるのかと気になっていたのですよ。』
隠居した老忍?才蔵師匠が言っていた風魔小太郎殿のことか…まさか接触していたとは想定外だが、俺は小太郎殿に会ったこともない。ここはしらを切るしかないか。
「隠居した老忍…ですか?私にその様な知り合いはいませんが…佐助殿が警戒するようなお知り合いということは暁国に関係があるのでしょうか…?そういえば、姫を捕らえた茶屋には暁国のくノ一弥生も居ました故、ここからは気を引き締め直して任務に臨みます。」
『左京、左京はいる?』
奥方様が俺を呼ぶ声がして、この場から解放される安堵のため息が出そうになるのを堪えた。
部屋へ戻ると、姫は端のほうで泣いており奥方様から意図的に距離を取っているように見えた。
「話は終わったのですか?」
奥方様は姫に聞こえないように、
小声で話を始めた。
『はい、本当の事を全て話しました。やはり姫の傷心は酷いもので、私の顔は二度と見たくないと申しております…左京、私は…どうしたらいいのでしょうか…?』
それはそうであろう。沢山の人を傷つけ、自身も酷い環境に置かれてきた姫様。事前に知っていたとはいえ、本人から話を聞くのは心への負担も大きいだろう。
「奥方様、いえ、母上。貴方の覚悟はそんな物だったのですか?そんな半端な気持ちで事を起こしたのではないでしょう?全ては私と姫の為に起こしたこと。時間はかかるでしょうが誠心誠意伝えるのです。」
『左京の言う通りですね。とにかくここへ留まっていても話は先に進まないでしょう。すぐに恐山へと向かい、晴明殿に託しましょう。左京?姫のことは任せましたよ。』
「御意、姫の回復に努めます。」
こうして、別々の籠に姫様と奥方様を乗せて俺達は安倍晴明の待つ恐山へと出発した。
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