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第四章 内偵

【三十六】和解(灘姫)

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働いていた茶屋四季で、再び左京と再会した私は母上が生きているという話を聞き思考が停止した。今まで止まっていた時間が突然動き出し私を飲み込んでいく。納戸で左京が近づいて来たかと思った刹那、私は気を失い目が覚めると見知らぬ客室のような場所の布団に寝かされていた。

『左京、姫が目覚めたぞ?』

起き上がって室内を見渡すと、左京の他に目元以外を布で包まれたくノ一が腕を組んで立っていた。

『千鶴、俺は姫に話さねばならぬ事がある。誰かに聞かれては困る故、外で見張りを頼んでもいいか?』

『異論はない、しっかり誤解を解くんだな。』

くノ一が部屋を出ると、左京は近寄ってきて身につけていた武器を全て外し深々と土下座をしている。

『灘姫様、先程は手荒な真似をしてしまい誠に申し訳ございませぬ。しかしあの場所で弥助に会わせるわけにはいかなかったのです。全てお話します故、聞いて頂けますか?』

これ以上手荒な真似はしないということを表現したいのだろう。以前捕まった時は、どこか狂気じみた言動や行動が多かったように思うがそれも一見感じられない。気を失っている間に、多少ではあるが頭の中に考える余裕が出来てきたように思う。弥生と離れてしまった今、私は自分で見聞きし、この先進むべき道を決断しないといけないのだ。

「……わかりました、話を聞きましょう。」

そして左京はあの、忌々しい夜の出来事から今日までの事を丁寧に話してくれた。

『…という状況でございます。陰陽師と佐助殿を欺き、暁国を再建する為には、どうしても姫様のお力が必要なのです。』

頭の中を整理したつもりではあったが、想像以上の情報量に頭がついていかない。
左京は実は私の双子の弟で、母上は父上を見捨てその陰陽師と私たちと暮らすために城の滅亡に加担していた。そして、私を誘拐した左京のもう一つの人格、右京の話…どの話も衝撃的で聞く度に胸を抉られるような苦しい気持ちになった。

何より一番心を抉られたのは、左京の存在。私は産まれてからあの城の出来事が起こるまで、皆の者から無条件に愛され何不自由なく育ってきたが、実はその陰には左京がいて、私と同じ身分であるにも関わらず呪印に苦しみ茨の道を歩んでいたなんて…。この話を聞いて私は言い様のない心の揺らぎを感じ頭がグルグルと回っている状態だというのに、左京が真実を知った時に受けた衝撃はどれ程のものだっただろうか…。

居てもたってもいられなくなった私は、左京に駆け寄り、強く抱きしめた。

ん…?こ、これは……
私と左京が触れ合った瞬間に背中の部分が熱を帯びるのを感じた。そして、頭の中に

”貴殿達は一心同体、二人で力を合わせれば必ずこの苦難を乗り越えることが出来るでしょう。お互いを信じるのです。”

というどこかで聞いた事のあるような、懐かしい女性の声が響き渡った。左京を見てみると、何か困惑したような表情でこちらを見ていた。

「左京、…何か聞こえた?」

『…、右京が…やめろ、やめろ、そいつに近づくなと騒いでいました…もしかすると、姫様の近くに居ることで拙者の中の右京は抑えられるのかもしれませぬ。とにかく、姫様の身の安全は拙者と千鶴が保証致します、どうか話を合わせ力を貸して貰えませぬか?』

「勿論よ、二人で陰陽師を懲らしめて国を取り戻しましょう!私は都合が悪くなったら無言を貫くからよろしくね?」
 

コンコン

”左京、奥方様を連れた佐助がもうすぐこちらに到着するみたいだ。一晩ここで休んだ後に恐山へと向かうつもりだろう。とにかく気をつけろ”

本来であれば母上が生存しているという事実は喜ばしいこと…しかし左京の話を聞いた今、私は母上の顔をきちんと見ることができるのだろうか。不安が募り、心が曇っていく…
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