上 下
34 / 68
第四章 内偵

【三十三】作戦(左京)

しおりを挟む
『さて、ここならゆっくりと話せるであろう。千鶴よ長らくの潜入ご苦労であったな。それで、何か情報は掴めたのか?』

『痛み入ります。はい、近いうちに冥国大名がこの集落へと立ち寄り佐助と合流後、姫を連れて恐山へと向かうつもりのようです。その下調べを行う冥国の隠密部隊も既に入り込んでいると思われます。』

『なるほど、小太郎の読みは当たっていたわけじゃな。奴も先日ここにきてその話をしておったわ。弥助とやらが、もうすぐここに姫を探しにくると申しておったが…』

お千代と呼ばれた老婆の話を聞き、背筋が伸びた。ここへ弥助がくるということはきっと俺が残した手紙を才蔵師匠の墓で見つけ、動き出したのであろう。会って詫びを入れたい気持ちもあるが、今はそんなことをしている場合ではない。どうするのが正解なのだろうか…弥助の中で俺は、師匠や城の人々を傷つけ殺めた最も憎き存在であることは間違いない…誤解を解く前にここで出会ってしまってはきっと話がややこしくなってしまうな。

『それよりも…お主は左京か?』

突然、話を振られ心臓の鼓動が早くなった。

「はい、そうでありまする。あの…小太郎殿とは、才蔵師匠の師匠であられるという風魔小太郎殿の事でしょうか?」

『そうじゃ、あいつから話は聞いておる。才蔵のことも全てな。お主、梵字の呪印に苦しんでおるのじゃろ?それを解除しないことには姫を手に入れても、もう一人が出てきたらまた連れ戻されての繰り返し。小太郎も恐山へと向かった故、そのうち才蔵と合流するのではないかの。お主らはこれからどうするつもりなのじゃ?』

「はい、拙者は姫を一度取り逃した件で佐助殿に怪しまれております。ここは、一度姫を連れて佐助殿の所へと向かい、裏切っていないことを見せつけてから共に恐山へと入山し、隙を見て姫を才蔵師匠の元へと送り届けようかと思っております。」

『なるほど、佐助は容赦のない奴じゃから裏切りがバレてしまうと恐らくお主ら二人の命は無い。姫へ全てを話しその様に動くのが一番かもしれぬな。ここへ後から来る弥助にはお主らの話しはしないでおくとしよう。色々説明するのも面倒だしな。ただ、来週にはまた新月がやってくる。それまでに二人協力して何としても姫を才蔵と小太郎の元へ還すのじゃ。』

『お千代様、承知致しました。
全力を尽くしまする。』

話が終わる頃にはすっかり日も暮れて夜の帳が降りていた。我々忍びにとって、もっとも見つかりにくく動きやすい時間だ。お千代殿と茶屋の女衆に礼を言い、姫が潜伏しているという茶屋へと向かう。

途中、通りに潜んでいた隠密部隊の忍びを捕まえ、集落横の小村に大名の命を狙う忍びがいるらしいという嘘の情報を与え、先に潜伏していた隠密部隊を追い払うことに成功。俺と千鶴は隠密部隊の代わりとして”四季”に潜入し姫とその協力者である弥生の姿を確認することができた。姫を連れ去るのは大名が来た時の喧騒に紛れるのが一番であろうとの千鶴の提案で、動線の確認や準備だけ整えておくことにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時雨太夫

歴史・時代
江戸・吉原。 大見世喜瀬屋の太夫時雨が自分の見世が巻き込まれた事件を解決する物語です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

麒麟児の夢

夢酔藤山
歴史・時代
南近江に生まれた少年の出来のよさ、一族は麒麟児と囃し将来を期待した。 その一族・蒲生氏。 六角氏のもとで過ごすなか、天下の流れを機敏に察知していた。やがて織田信長が台頭し、六角氏は逃亡、蒲生氏は信長に降伏する。人質として差し出された麒麟児こと蒲生鶴千代(のちの氏郷)のただならぬ才を見抜いた信長は、これを小姓とし元服させ娘婿とした。信長ほどの国際人はいない。その下で国際感覚を研ぎ澄ませていく氏郷。器量を磨き己の頭の中を理解する氏郷を信長は寵愛した。その壮大なる海の彼方への夢は、本能寺の謀叛で塵と消えた。 天下の後継者・豊臣秀吉は、もっとも信長に似ている氏郷の器量を恐れ、国替や無理を強いた。千利休を中心とした七哲は氏郷の味方となる。彼らは大半がキリシタンであり、氏郷も入信し世界を意識する。 やがて利休切腹、氏郷の容態も危ういものとなる。 氏郷は信長の夢を継げるのか。

証なるもの

笹目いく子
歴史・時代
 あれは、我が父と弟だった。天保11年夏、高家旗本の千川家が火付盗賊改方の襲撃を受け、当主と嫡子が殺害された−−。千川家に無実の罪を着せ、取り潰したのは誰の陰謀か?実は千川家庶子であり、わけあって豪商大鳥屋の若き店主となっていた紀堂は、悲嘆の中探索と復讐を密かに決意する。  片腕である大番頭や、許嫁、親友との間に広がる溝に苦しみ、孤独な戦いを続けながら、やがて紀堂は巨大な陰謀の渦中で、己が本当は何者であるのかを知る。  絡み合う過去、愛と葛藤と後悔の果てに、紀堂は何を選択するのか?(性描写はありませんが暴力表現あり)  

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...