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第四章 内偵

【二十九】不死(佐助)

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『なるほど…私が不老不死?ということですか。いいでしょう、少しだけ教えて差し上げましょう。結論から言いますと…答えは否。私は貴方が思っているよりも長く生き続けてはいますが、死なない訳ではないのです。初見の貴方に話せるのはここまでですが、私の元で働いてくれるというのであれば…そのうちカラクリを教えることがあるかもしれませんよ?信用してもらう為に、これだけ見せておきましょうかね?』

そう言って陰陽師は拙者に近寄り、手の甲を見せてきた。

「こ、これは…」

慌てて自分の手の甲を見て驚愕する。
顔面は同じくらいの歳だと思っていたが、手の甲に深く刻まれた皺。手は年齢を写す鏡という言葉もあるが、陰陽師のそれは年齢を重ねた皺とシミがくっきりと現れており同年代の手ではなかった。

『驚きましたか?私は年老いた自分の顔が嫌いでね、人前に出る時はこの姿に見えるように幻術をかけているのですよ。何、私の姿が若く見える…ただそれだけの術なので安心してくださいね?』

それから拙者は、晴明殿の元で働くようになった。未だに不老不死についての情報を話してくれることはないが、どうやら今回の仕事を完璧に遂行することで自身の目的が達成されるというようなことを言っていた。

『佐助、クシナ様はひどく動揺した様子でしたが…作戦はうまくいっているのですよね?貴殿を信用して本当に大丈夫なのでしょうね?』

奥方を落ち着かせ眠らせた後、険しい顔をして部屋から出てきた晴明殿。確かに、姫と左京がこちらへ到着したと言う知らせもまだ届いていない。そして、小屋へと迎えに行かせた忍達が誰一人戻ってきていない事も気にかかっていた。もしかすると、城の残党に殺られた可能性もある…。

「拙者が暁城を出てすぐに、左京と接触し姫を生け捕りにした姿は確認済でありまする。そろそろ連絡が来る頃かとは思いますが心配な様でしたら今から様子を見に行って参ります。」

拙者の頭の中を読み取るように、鋭い眼光がこちらに向けられ冷や汗が出る。
晴明殿に右京の人格を引出し左京と対話させていることを話してはいない。まさか…姫を誘拐したのは右京であったが、こちらへと向かい始める頃には左京へと戻っていたはず…。拙者を裏切り、姫を逃がしてしまっているという可能性が頭を過る。

やはり迎えに行くべきか…晴明殿に頭を下げ宿を出た刹那、遠くの方から凄い速さで近寄ってくる人物の気配を確認した。

「これは…左京ですね…」

気配は一人の様子…姫は連れていないのか…とにかく話を聞くことにしよう。

「これはこれは左京、お待ちしておりましたよ?おや?姫の姿が見えないようですが…どういうことか、説明してもらえますか?」

『申し訳ありませぬ…右京が姫を連れていたのかどうかも私にはわからないのです。小屋で目覚めた私は一人きりでした。目覚めた後、城の様子を確認しに行き、城の残党がいないか付近を探しました。しかしそれは見つからず、作戦はうまくいったのだと思っていたのですが、河川敷で冥国の忍達の死体を見つけたのです。人数は四名、きっと姫を迎えにきた忍達だと思ったので荷物を漁り、地図を見つけ此処へと辿り着いた次第にあります。』

真っ直ぐにこちらへと
向けられた視線に翳りはない。

「…なるほど、貴殿の言葉に嘘はないように見受けられる。左京、才蔵はどうなったか知っていますか?」

才蔵師匠という言葉を聞き、一瞬ピクリと体を動かした左京だったが、特に表情を変えることも無く淡々と話を続けている。

『才蔵…?あぁ、城の忍頭のことですね。姫を捜索中も城周辺で見かけることはありませんでした。余りの惨劇に恐れを為して逃げたのでしょうか?』

「ふふふ、才蔵は右京の手にかかり死んだようですよ?つまり、貴殿が殺したも同然ということです。弥助とかいう忍びが埋葬し、咽び泣いているのを確認しましたからね。」

『…そうでしたか。佐助殿のお役に立てたようで光栄にございまする。これから私はどのように動いたら宜しいでしょうか?姫の捜索が先決かとは思いますが…』

「そうですね、姫の捜索が第一です。一人では大変でしょうから冥国の忍を一人手配します。異論はないですよね?」

『我が師匠は佐助殿のみ、この命に換えても姫を探し出し任務を遂行する事をお約束致します。』

片膝をつき、忠誠を誓う左京。
左京も忍びとしてここ数年で格段に腕を上げているのは事実。感情を表に出さない修行もこなしてきている為、絶対に嘘を申していないという確証はないが、ここは信じているフリをして見張りをつけ泳がせる他はない…。

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