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第三章 覚醒

【二十三】窮地(才蔵)

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左京が右京へと交代した頃合いを見て尾行を始める。奴は一度外へ向かった後に城主夫妻の部屋へとやってきた。奥方に手をかけた姿を見て飛び出そうとしたが何か様子がおかしい。暫く見ていると二人は人気の無い納屋へと移動してしまった。そして始まった奥方様と右京の密談。しかも、奥方様は右京に自分が母親だと告げてしまっている…。

奥方様まで絡んでおったとは、これはいよいよ一大事になってきたぞ…やはり信頼のおける弥助に話し、助けを求めておくべきか?この状況では、ワシ一人で全てを解決するのは難しい…しかし約束を破ってしまっては左京の身に危険が及ぶ…とにかく今出来ることをするしかないようじゃな。

着物に血糊や防具を仕込み、闘いに備えていると突然けたたましい警報音が城の中に響き渡った。冥国の忍部隊が到着したようだ。

暁国忍頭の誇りに懸けて出来ることをするまでじゃ!弥助の部屋へと向かっていると警報音を聞いた弥助は既に部屋から飛び出してきていた。我が弟子の中でも忍術の才能に満ち溢れ他者への優しさをも兼ね備えた弥助。ワシの後を継ぐのはお主しかおらん!
どうか、生き延びてくれ…


「…弥助は奥方様を探せ!
    わしは姫の元へと向かう!」

弥助へと指示を出し、一目散に姫の寝室へと向かった。右京の狙いは姫を連れ去ること、それがわかっている以上、弥助よりも自分が行ったほうが倒せる確率が上がると思った。途中襲ってきた、冥国の忍達は優秀ではあるもののワシの足元にも及ばぬ雑魚ばかり。数には手間取ったが、ほぼ無傷で姫の寝室へとたどり着くことができた。ここまでは合格と言ったところか。問題は右京…。左京が最近メキメキと腕を上げていたことを感じていたが、右京は自制心がない分、左京よりも容赦のない攻撃を仕掛けてくることだろう。部屋の様子を探ろうと襖に手をかけようとした刹那、中から剣が突き刺さってきた。間一髪で避けることができたが、当たっていたら間違いなく致命傷を負っていただろう。

「こらこら何者じゃ、歓迎が過ぎるぞ?老い先短い年寄りにもう少し優しくできぬのか?」

『何を白々しいことを言っているのですか、師匠。殺気がこちらまで流れ込んできておりますぞ?』

やはり、右京が既にきておったか。
ワシが右京の存在を知っているということは隠しておいたほうがよさそうじゃな…。

「おや?その声は、左京か?もう助太刀にきてくれておるとは流石ワシの愛弟子、気がきくのぉ!姫は無事か?」

用心をしながら襖を開くと、ニヤリと笑いながらこちらをみている右京が立っていた。その隣には手足を拘束され、口を布で縛られた姫が横たわっている。

「ひ、姫?!左京よ…
これはどういうことなのじゃ?」

『どういうこと?見たままですよ?この部屋には他に敵の姿も無いでしょう?少しでも師匠達の到着を遅らせたかったので、下の階に多めに忍達を配置していたのですが、やはり使い物にならなかったようですね~。流石は我が師匠、お見事です。』

「ワシのことを褒めてくれるとは珍しいな。しかし、いつになったらその剣は納めてくれるのかの?まさか、ワシと戦うつもりか?」

『ふふふ、私の邪魔をするのであれば致し方ない…いつまでも己の方が上だと思っていたら痛い目に合いますよ?』

やはり戦闘は避けられぬか…
行くぞ、三日月!!
今宵の空の様に漆黒の刀身を持つ三日月。この三日月の刀身を見て、生きて帰った者はほぼ皆無。かつての愛弟子であったとしても、この三日月を引き抜いた以上、全力で戦わなければ姫を取り戻すことはできないだろう。

「どうしても話を聞かぬと言うのじゃな?仕方がない…ワシは暁国の忍頭!国を護る為ならば愛弟子であろうと容赦はしない!覚悟致せ!」

利き腕を狙った渾身の一太刀目は残念ながら躱されたが、間髪入れずに振り上げた三日月を今度は右京の左腕めがけて、振り下ろす。これは、手応えありか?赤い血が滴り落ちている右京。どうやら、少しではあるが腕に傷を負わすことができたようだ。 傷を負いながらも右京は楽しそうに笑っていた。

それにしても…この状況では闘いながら姫を奪い返すというのは至難の業。よし、次にヤツが攻撃してきたら血糊を少し破って油断させてやるかの。

『やはり、城の腑抜けた雑魚忍者達とは格が違うようですね。こちらも姫を見張りながらというのは難しそうだ。直ぐに地獄へと送って差し上げましょう。』

先程とは別人の様な速度で斬りかかってきた右京に、三日月で立ち向かうが止めるのが精一杯で攻撃に移ることができない。容赦の無い攻撃の数々に予想以上の実力をつけていることを思い知らされる…

左京に対する慈愛の気持ちがどうしても剣を鈍らせてしまうワシとは違い、右京に躊躇いは皆無…これはかなり厳しい状況だ。そして姫の方へと目線を移した刹那、今までで一番の衝撃が体へと走ってきた。

『おや?闘いの最中余所見をするとは…やはり師匠は甘い考えのお人のようですね?』

着物の中に仕込んでいた血糊が吹き出した。防具のお陰で致命傷は避けられたものの、片膝を付く有様…。…まさかここまで腕をあげておるとは…。次の攻撃がこないことを確認し姫を抱き上げ始めた右京。脳裏に、敗戦の二文字が見え隠れし始めた刹那、最も頼りになる奴の気配を感じた。

来たか、弥助。後は頼んだぞ…。
三日月も、久しぶりの真剣勝負に
本来の"姿"を取り戻しつつあるわぃ…。
”三日月よ、あいつの元へ行くのだぞ”刀に手を置き語りかけると、三日月の紋章が答えるように光を放った。

「師匠!いったいこれは…?どうなされたのでありますか?貴方ほどの忍が何故この様な姿に…いったいどれほどの敵が、襲ってきたのでありましょうか?」

部屋へと飛び込んできた弥助は目の前に倒れたワシと拘束された姫の姿を見て、大変動揺した様子だった。更に話を聴き、顔色が見る見るうちに青ざめていく。右京の存在を知らないとはいえ、兄弟子のこの様な行動に、心優しい弥助は深く傷ついておることであろう…。しかし、この状況を利用しないわけにはいかぬ。出来ればこれは使いたくなかったのじゃがな…勝てる見込みの少ない今、これを行わずに奴らとの闘いには勝てぬであろう。右京と闘いだした弥助の陰でワシは最後の賭けに出た。
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