上 下
20 / 68
第三章 覚醒

【十九】仕事(右京)

しおりを挟む
我が目覚めてからもうすぐ丸二年、佐助が言っていた通り、左京は忍者としての腕を大幅に上げ身体も見違えるほどに引き締まってきていた。余程精神力が強いのか、何度試みても新月の日以外に奴を乗っ取ることは難しいが、月に一度、我は佐助の闇の仕事を手伝い、殺戮を繰り返すことで閉じ込められている間の鬱憤を晴らしていた。

『 今日も見事な仕事ぶりでしたよ右京。そろそろ大きな仕事に手をつけようかと思っていますが、手伝ってくれますか?これがうまくいけば、貴殿は自由を手にすることも出来るかもしれませんね。』

「大きな仕事か、今の我にとっては容易い事。一体何をしようと言うのだ?」

『 次の新月の日、暁国の城に攻め入り姫を連れ去ってくるのです。反抗してくる者達は始末してしまって構いません。貴殿にとっては造作もないことでしょう?まさか城を護ってくれるはずの忍びの中に裏切り者がいるなどと考えている輩は今の平和ボケした暁国にはいないでしょうからね。』

不敵な笑みを浮かべながら、凄く楽しい事を思いついたかのように饒舌に語っている、この佐助という男。忍びとしての腕前も然ることながら我も唸るほどの冷徹で無慈悲な物事の考え方には感服する。敵にはしたくない奴だな。

「暁国には、お主の友人もおるのだろう?全く自分の利益の為なら手段を問わない冷酷さ、我も見習わねばならぬな。それよりも、姫は連れ去ってどうするのじゃ?殺さなくてよいのか?」

『 姫には少し用がありますので、生きたままいつもの小屋へと連れてきて下さい。次の新月の亥の刻、冥国からも忍部隊を派遣致しますので貴殿はそれに紛れて任務を遂行してくださいね。あ、奥方様を外に逃がすことも忘れずに。』

「承知した、これが終われば我は晴れて自由の身ということでいいのか?よし、全力で片付けるまでじゃ。」

『任務が成功し、あのお方の元へと姫と共に向かうのです。さすれば貴殿は自由の身と成れることでしょう。まずは任務を成功させる事が先決です、解りますね?』

この月に一度しか出てこれないという煩わしい呪いが解けるというのであれば、何だってしてやろう。あの方とは、前に佐助が申しておった陰陽師のことか?まぁよい、今の我にとっては容易い任務だ。

佐助と別れ城に戻ると、太陽の気配がする直前まで城内の動線を確認し、紙に書き写し左京の引き出しの中にそれを忍ばせた。もしかすると左京が見るかもしれないが、まぁよい。あいつがそれを見たところで、何か行動を起こすことはないだろう。
そろそろ夜明けか…徐々に酷くなる動悸を抑えながら布団に入り、我はまたひと月の長い眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

信長最後の五日間

石川 武義
歴史・時代
天下統一を目前にしていた信長は、1582年本能寺で明智光秀の謀反により自刃する。 その時、信長の家臣はどのような行動をしたのだろう。 信長の最後の五日間が今始まる。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

証なるもの

笹目いく子
歴史・時代
 あれは、我が父と弟だった。天保11年夏、高家旗本の千川家が火付盗賊改方の襲撃を受け、当主と嫡子が殺害された−−。千川家に無実の罪を着せ、取り潰したのは誰の陰謀か?実は千川家庶子であり、わけあって豪商大鳥屋の若き店主となっていた紀堂は、悲嘆の中探索と復讐を密かに決意する。  片腕である大番頭や、許嫁、親友との間に広がる溝に苦しみ、孤独な戦いを続けながら、やがて紀堂は巨大な陰謀の渦中で、己が本当は何者であるのかを知る。  絡み合う過去、愛と葛藤と後悔の果てに、紀堂は何を選択するのか?(性描写はありませんが暴力表現あり)  

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

処理中です...