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第三章 覚醒

【十六】気配(小太郎)

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「おぉ、これはこれは!誰かと思えば久しぶりじゃのぉ佐助よ、こんな所で散歩でもしておるのか?」

背後に立ち、話しかけると佐助は体を捻りながら飛び上がりワシの間合いの外、離れた場所へと着地した。

『 これはこれは、こんな何も無い場所で奇遇ですな小太郎殿。お元気そうで何よりでございまする。』

最後に会ったのは弥助達を連れてきた時か。
その当時と比べると髪は整えられており、着物も高価な物を身につけているようだ。あの時とは比べ物にならない高貴な生活をしているのだろう。孤独を愛し、群れや人に教えを乞うことを嫌っていた孤高の忍者、猿飛佐助。己の利益の為であれば善悪関係なく仕事を受けるという思考部分でよく才蔵とぶつかりあっておったな。

「おぉ、ワシの心配をしてくれるとは、お主も大人になったのぉ!もうすぐ才蔵も到着する頃じゃ、昔みたいに三人で仲良くしようではないか?」

『おや?小太郎殿。才蔵がここへ来るのですか?またまたご冗談を、その様なつまらぬ嘘をついて、私を試そうとでもしているおつもりですか?それとも、可愛い弟子の死が受け入れられずに幽霊でも見えておいでか?無敵を誇った風魔小太郎ともあろう方が…老いとは恐ろしいものですな。』

あの場にいなかったはずなのに、才蔵が死んだことを知っているのか。やはりこいつも一連の騒動に加担していると見て間違いない。

「そう、厳しいことを言うでない。それはそうと、お主の弟子なのであろう?左京と言う忍は。若き日のお主に瓜二つと、風の噂で聞いたぞ?…年寄りの空耳なら聞き流すが何せ悪い噂。私利私欲の為なら手段を選ばずに任務を遂行する、そんな心根の腐った忍はお前しか知らぬのでな?まさか味方を潜ませてはおらぬよな?隠居じじぃ相手に、二対一で仕掛けてくるなどと言う卑怯な真似をするでないぞ?はっはっは!」

『 左京?何を仰るかと思えば…私は小太郎殿と二人で久しぶりに話をしてみたくなったから参っただけですよ?こんな所で今、潰しあってもお互い何の得にもなりませぬ故。しかし、私の知る小太郎殿はここまで饒舌でしたかな?もしかして小太郎殿のほうこそ、味方の到着を待っておられるのでは?』

対面してから決して縮まることの無い距離。本気を出したらワシは勝てるのであろうか?いや、良くて相討ちか…この数十年の間、一線で戦い続けてきた佐助と洞窟に引きこもり酒ばかり飲んでいたワシ。こやつが確実に力をつけていることは間違いない。しかも左京を洗脳する話術を持ち合わせておるとなれば大変厄介なやつじゃな。弥助と弥生に会わせる前になんとか片をつけたいが…

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ん?この気配…お千代部隊がきたか…
佐助に視線を移すと、腰の剣に手をかけて辺りを見回し始めた。ワシでもやっと気付いた気配を、既に察しておる。

『 小太郎殿?どうかなされたか?そう殺気を出されるな。久しぶりにお相手したいところではあるが、周りに集まってきたあの方達も含めて相手をするとなると、流石に私一人では少しばかり荷が重い。無傷では済ませてくれそうにもありませぬしな。また近いうちにお目にかかる日が来るであろう。その日までご自愛下さいませ小太郎殿!せいぜい己の甘さを悔いるがいい。さらばじゃ!』

煙幕を放ち、瞬時に姿を消した佐助。
お千代部隊がくるのがもう少し遅れていたならば、ワシも無傷ではすまなかったな…
いやはや、厄介な奴らを敵に回したものだ。一刻も早く弥助が"アレ"を使いこなせる様にならねば、この先想像以上に厳しい戦いになるかもしれぬ…
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