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第二章 修行
【十四】秘密(弥生)
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冥国大名の接客中に現れた曲者(弥助兄さん)騒ぎにより、また姫を拐われてしまった。弥助兄さんが何故この茶屋へと辿り着いたのかという話や、この数年間の事を聞き事態の深刻さに寒気を覚える。
「……という感じでここに到着したのじゃ。お主も一人で姫を今日まで護るのは大変だったじゃろう。とにかく一度、水月へと戻り出発の挨拶をしようと思う。」
姫の事は凄く心配であるし先を急ぎたいが、弥助兄さんがお世話になった方々ということであれば、何か力になってくれるかもしれない。私達がここで過ごしていた数年の間に、弥助兄さんにも色々なことがあったみたいだ。久しぶりの再会を喜ぶ間もなく、足早に水月へと向かった。店の前に到着すると、背の高い私と同じ歳くらいの女性が手を振りながら弥助兄さんの名前を呼んでいる。弥助兄さんは、満更でもないような表情を浮かべ、にやけていた。まさか、この女性に会うためにきたのか…?
『 弥助殿、うまくいったみたいですね!ってあれ?この方は姫様では…ないですよね…?』
私達が近づくと、女性は馴れ馴れしく弥助兄さんの両手を掴み、笑顔で話し始めた。
「おぉ、お華殿。先程は助かった!ここにいるのは妹の弥生だ。姫に付き今日まで一緒に行動しておったみたいじゃ。」
『 あ、あなたが弥生さんなのね?さっき弥助殿が私の事を”弥生”ってよんだのよ?全く女性の名前を間違えるなんて、酷いと思わない?』
”はは、そ、そうですね…”
弥助兄さんと、この女性はどのような関係なのだろうか…私は気になりすぎて軽い愛想笑いを返すことしかできなかった。
『 なんじゃ?店の前で騒がしいのぉ…おや?弥助もう戻ったのか?』
突然現れた背の低い老婆に皆の視線が移ると同時に、お華と呼ばれていた女性は表情を切替えて素早く老婆の後ろへと移動し、従えるように立っている。
この身のこなし、この人も…くノ一なのか?
「はい、それが…一瞬の隙を
つかれ姫がまた行方不明に…」
『 なんじゃと?とにかく、中に入れ。』
店内の一室へと通されて、老婆を中心に座りこれまでの経緯を説明することにした。
『 …なるほどな、とにかく恐山へと急がねばなるまい。きっと姫もそこへと連れて行かれているはずじゃ。ここから先は険しい道のりになるな…途中までお華達に案内させるとしよう。山の五合目ほどの所にワシらの隠れ寺がある、小太郎はそこにおるはずじゃ、そこで合流し一緒に頂上を目指すがよい。』
「お千代殿、頂上には何があるのですか?」
弥助兄さんが質問をすると、老婆は厳しい顔をして一つため息をついた。
『 そこに恐らく、今回の黒幕の根城があるはずじゃ。正直あいつらには関わりたくないからワシらも滅多なことがない限り、山に登ることはない…小太郎が関わっておる故、無視する訳にもいかぬからな。娘よ、弥生と申したか?力不足になると思うならここで待っておってもいいのだぞ?』
突然話を振られ、慌てて顔を上げる。
私はそんなに頼りなさそうなのか?
これまで姫様を一人で護って支えてきた私がここで、事が解決するのを何もしないで待つなどという選択肢はない。
「いいえ、私も城のくノ一としての誇りがございます。何としても灘姫様を取り戻し、祖国復興に力添えする所存。お気持ちだけありがたく頂きます。」
私の言葉を聞き、老婆は満足した顔をして頷いていた。お華殿達が旅の準備の為に退出し、弥助兄さんと二人残された私はある質問をする事にした。
「弥助兄さん?お華殿の事が
好きなんですか?」
顔を真っ赤にして、目を開きこちらを向いている弥助兄さん…図星だな。
「や、弥生よ!兄を
からかうとはなんと不躾な!」
「先程、お千代殿が仰ていましたよね?ここから先は険しい道のりだと…おなごに現を抜かしているようでは姫様を取り戻せませぬ!しっかりしてくださいませ!!」
私から出た厳しい言葉に、正気を取り戻したのか緩んだ表情が元に戻ったようだ。
『 お二人とも、お待たせしました!
早速寺へと向かいましょう!』
お華殿を見て、また表情が緩み始めた弥助兄さんに不安を覚えながら店を出る。そして歩きだそうとした刹那突然お千代殿に名を呼ばれ、手招きをされた。
「どうかされましたか?」
すると、お千代殿は小声でニヤニヤとしながら思いがけない言葉を口にした。
『 …心配するな、お華は男じゃ!
面白いから、弥助には内緒じゃぞ?』
「え!!」
どうやら私の心配事は一つ減ったようだ。
二人に追いつくと、お華殿は私の方を振り返り弥助兄さんに気づかれないように”ひ・み・つ”と呟いていた。
「……という感じでここに到着したのじゃ。お主も一人で姫を今日まで護るのは大変だったじゃろう。とにかく一度、水月へと戻り出発の挨拶をしようと思う。」
姫の事は凄く心配であるし先を急ぎたいが、弥助兄さんがお世話になった方々ということであれば、何か力になってくれるかもしれない。私達がここで過ごしていた数年の間に、弥助兄さんにも色々なことがあったみたいだ。久しぶりの再会を喜ぶ間もなく、足早に水月へと向かった。店の前に到着すると、背の高い私と同じ歳くらいの女性が手を振りながら弥助兄さんの名前を呼んでいる。弥助兄さんは、満更でもないような表情を浮かべ、にやけていた。まさか、この女性に会うためにきたのか…?
『 弥助殿、うまくいったみたいですね!ってあれ?この方は姫様では…ないですよね…?』
私達が近づくと、女性は馴れ馴れしく弥助兄さんの両手を掴み、笑顔で話し始めた。
「おぉ、お華殿。先程は助かった!ここにいるのは妹の弥生だ。姫に付き今日まで一緒に行動しておったみたいじゃ。」
『 あ、あなたが弥生さんなのね?さっき弥助殿が私の事を”弥生”ってよんだのよ?全く女性の名前を間違えるなんて、酷いと思わない?』
”はは、そ、そうですね…”
弥助兄さんと、この女性はどのような関係なのだろうか…私は気になりすぎて軽い愛想笑いを返すことしかできなかった。
『 なんじゃ?店の前で騒がしいのぉ…おや?弥助もう戻ったのか?』
突然現れた背の低い老婆に皆の視線が移ると同時に、お華と呼ばれていた女性は表情を切替えて素早く老婆の後ろへと移動し、従えるように立っている。
この身のこなし、この人も…くノ一なのか?
「はい、それが…一瞬の隙を
つかれ姫がまた行方不明に…」
『 なんじゃと?とにかく、中に入れ。』
店内の一室へと通されて、老婆を中心に座りこれまでの経緯を説明することにした。
『 …なるほどな、とにかく恐山へと急がねばなるまい。きっと姫もそこへと連れて行かれているはずじゃ。ここから先は険しい道のりになるな…途中までお華達に案内させるとしよう。山の五合目ほどの所にワシらの隠れ寺がある、小太郎はそこにおるはずじゃ、そこで合流し一緒に頂上を目指すがよい。』
「お千代殿、頂上には何があるのですか?」
弥助兄さんが質問をすると、老婆は厳しい顔をして一つため息をついた。
『 そこに恐らく、今回の黒幕の根城があるはずじゃ。正直あいつらには関わりたくないからワシらも滅多なことがない限り、山に登ることはない…小太郎が関わっておる故、無視する訳にもいかぬからな。娘よ、弥生と申したか?力不足になると思うならここで待っておってもいいのだぞ?』
突然話を振られ、慌てて顔を上げる。
私はそんなに頼りなさそうなのか?
これまで姫様を一人で護って支えてきた私がここで、事が解決するのを何もしないで待つなどという選択肢はない。
「いいえ、私も城のくノ一としての誇りがございます。何としても灘姫様を取り戻し、祖国復興に力添えする所存。お気持ちだけありがたく頂きます。」
私の言葉を聞き、老婆は満足した顔をして頷いていた。お華殿達が旅の準備の為に退出し、弥助兄さんと二人残された私はある質問をする事にした。
「弥助兄さん?お華殿の事が
好きなんですか?」
顔を真っ赤にして、目を開きこちらを向いている弥助兄さん…図星だな。
「や、弥生よ!兄を
からかうとはなんと不躾な!」
「先程、お千代殿が仰ていましたよね?ここから先は険しい道のりだと…おなごに現を抜かしているようでは姫様を取り戻せませぬ!しっかりしてくださいませ!!」
私から出た厳しい言葉に、正気を取り戻したのか緩んだ表情が元に戻ったようだ。
『 お二人とも、お待たせしました!
早速寺へと向かいましょう!』
お華殿を見て、また表情が緩み始めた弥助兄さんに不安を覚えながら店を出る。そして歩きだそうとした刹那突然お千代殿に名を呼ばれ、手招きをされた。
「どうかされましたか?」
すると、お千代殿は小声でニヤニヤとしながら思いがけない言葉を口にした。
『 …心配するな、お華は男じゃ!
面白いから、弥助には内緒じゃぞ?』
「え!!」
どうやら私の心配事は一つ減ったようだ。
二人に追いつくと、お華殿は私の方を振り返り弥助兄さんに気づかれないように”ひ・み・つ”と呟いていた。
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