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第二章 修行
【十】報酬(弥助)
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弔い酒をした翌日、俺は飲まされすぎて動けなくなっていた。師匠も酒は強かったが、小太郎殿はそれ以上の酒豪。
終始ご機嫌に昔の才蔵師匠も糞生意気な小童であったと、俺の知らない師匠の話を色々としてくれた。才蔵師匠が独り立ちしてからというもの、弟子も取らずこの洞窟で数十年という年月を過ごしていたということから、久しぶりにできた、からかい甲斐のある話し相手にご機嫌だったのだろう。
『お、小童め!ようやく起きたか。もう日が暮れてしもうたぞ?全く、初対面の人物相手に途中で寝てしまうとは…本当に緊張感のない奴じゃのう?ワシが敵なら命はなかったぞ?』
「もう夕刻とは…小太郎殿が強すぎるのですよ?俺は師匠とはいい勝負していましたから…うぅ、気持ち悪い…」
『まぁよい、お主も昨日一日で色んな経験をして疲れておったしな。今日はゆっくり休むがよい。修行は明日から始める!ワシはお主が雑魚共相手に闘っておるのを見ておったが、体術に関しては及第点と言ったところじゃな。後は三日月を使いこなし、敵の奇襲に気づくことができる察知能力を身につければ、そこそこは使えるようになるじゃろ。弱い心も鍛え直し雑念を捨て"無"になるのじゃ。さすれば、自分以外の気配を直ぐに察知できるようになるはず。』
なるほど、少し見ただけだというのにここまで的確な分析をしてくれているとは…ただの酒好きの老人ということではないらしい。
『ん?お主今、ただの酒好き”じじい”じゃなかったのかと思っておったじゃろ?この小童め。』
「そ、そんな、滅相もございません!小太郎殿の観察眼に感服しておっただけであります!それより、闘いを見ていたのですか?」
『ん?んんん、あ、あー。し、城の方から何やら不穏な空気を感じたから、て、偵察に出ておったのじゃ。』
突然言葉に詰まりだし、空を見ながら素知らぬ顔を始めた小太郎殿。なんだ?何かやましい事でもしていたのか?分かりやすすぎるぞ…
「小太郎殿、どうしたのですか?口調が先程までと違い冷や汗をかいているようですが…」
『んんーー?あ、あれじゃ…き、昨日は新月じゃったから…城に…さ、酒を調達しにいこうとしておったら急に煙が立ち込めだして…酒蔵に着いたはいいものの、ワシの大事な酒に引火して激しく燃えておるし…才蔵のことが気になって城内を巡っておったら敵忍に見つかり追いかけ廻されて外に逃げ出したのじゃよ。で、帰宅途中に偶然お主が闘っておるのを見かけたというわけじゃな。ハハッ。あ、今お主、ワシのことを火事場泥棒と思ったじゃろ!?いつも新月の夜には酒を貰いに行くと才蔵と約束しておったのじゃ…この洞窟の奥は城の地下通路と繋がっておるからな。』
なるほど、下界とは繋がりがなさそうなのに小太郎殿の蔵の中は酒が豊富に取り揃えられていた。まさかその理由に師匠が関わっていたとは…
「なるほど、そういう事でしたか。師匠が新月前になるとソワソワとしていた場面を何度か目撃したことがありました。城無き今、酒の調達も困難を極めまするな。どうするおつもりですか?」
ニヤニヤと笑いながら、
”その言葉を待っておった!”
という顔をして口を開いた小太郎殿。
『おぉ、そうじゃのぉ?ワシはお主に修行をつけてやるとは言ったが、まさか報酬も無しにお願いしようと思っておったわけでもないじゃろ?お主が小童とはいえ、その辺の常識は持ち合わせておるとワシは考えたから引き受けたのじゃ。お主への修行はやってやる!一回の稽古に付き、一升瓶一本持って参れ!』
こうして、酔いどれじじい、いや小太郎殿と契約を交わした俺は、一升瓶と引き換えに修行を付けてもらえることとなった。
終始ご機嫌に昔の才蔵師匠も糞生意気な小童であったと、俺の知らない師匠の話を色々としてくれた。才蔵師匠が独り立ちしてからというもの、弟子も取らずこの洞窟で数十年という年月を過ごしていたということから、久しぶりにできた、からかい甲斐のある話し相手にご機嫌だったのだろう。
『お、小童め!ようやく起きたか。もう日が暮れてしもうたぞ?全く、初対面の人物相手に途中で寝てしまうとは…本当に緊張感のない奴じゃのう?ワシが敵なら命はなかったぞ?』
「もう夕刻とは…小太郎殿が強すぎるのですよ?俺は師匠とはいい勝負していましたから…うぅ、気持ち悪い…」
『まぁよい、お主も昨日一日で色んな経験をして疲れておったしな。今日はゆっくり休むがよい。修行は明日から始める!ワシはお主が雑魚共相手に闘っておるのを見ておったが、体術に関しては及第点と言ったところじゃな。後は三日月を使いこなし、敵の奇襲に気づくことができる察知能力を身につければ、そこそこは使えるようになるじゃろ。弱い心も鍛え直し雑念を捨て"無"になるのじゃ。さすれば、自分以外の気配を直ぐに察知できるようになるはず。』
なるほど、少し見ただけだというのにここまで的確な分析をしてくれているとは…ただの酒好きの老人ということではないらしい。
『ん?お主今、ただの酒好き”じじい”じゃなかったのかと思っておったじゃろ?この小童め。』
「そ、そんな、滅相もございません!小太郎殿の観察眼に感服しておっただけであります!それより、闘いを見ていたのですか?」
『ん?んんん、あ、あー。し、城の方から何やら不穏な空気を感じたから、て、偵察に出ておったのじゃ。』
突然言葉に詰まりだし、空を見ながら素知らぬ顔を始めた小太郎殿。なんだ?何かやましい事でもしていたのか?分かりやすすぎるぞ…
「小太郎殿、どうしたのですか?口調が先程までと違い冷や汗をかいているようですが…」
『んんーー?あ、あれじゃ…き、昨日は新月じゃったから…城に…さ、酒を調達しにいこうとしておったら急に煙が立ち込めだして…酒蔵に着いたはいいものの、ワシの大事な酒に引火して激しく燃えておるし…才蔵のことが気になって城内を巡っておったら敵忍に見つかり追いかけ廻されて外に逃げ出したのじゃよ。で、帰宅途中に偶然お主が闘っておるのを見かけたというわけじゃな。ハハッ。あ、今お主、ワシのことを火事場泥棒と思ったじゃろ!?いつも新月の夜には酒を貰いに行くと才蔵と約束しておったのじゃ…この洞窟の奥は城の地下通路と繋がっておるからな。』
なるほど、下界とは繋がりがなさそうなのに小太郎殿の蔵の中は酒が豊富に取り揃えられていた。まさかその理由に師匠が関わっていたとは…
「なるほど、そういう事でしたか。師匠が新月前になるとソワソワとしていた場面を何度か目撃したことがありました。城無き今、酒の調達も困難を極めまするな。どうするおつもりですか?」
ニヤニヤと笑いながら、
”その言葉を待っておった!”
という顔をして口を開いた小太郎殿。
『おぉ、そうじゃのぉ?ワシはお主に修行をつけてやるとは言ったが、まさか報酬も無しにお願いしようと思っておったわけでもないじゃろ?お主が小童とはいえ、その辺の常識は持ち合わせておるとワシは考えたから引き受けたのじゃ。お主への修行はやってやる!一回の稽古に付き、一升瓶一本持って参れ!』
こうして、酔いどれじじい、いや小太郎殿と契約を交わした俺は、一升瓶と引き換えに修行を付けてもらえることとなった。
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