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第二章 修行

【九】提案(弥助)

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俺の話が終わったところで、今まで沈黙を続けていた小太郎殿が口を開く。

『まずは、何故お主がここにおるのか…。それはだな、背後に忍んでおった敵の気配にも気付けず不意打ちを受け気絶した上に、とどめを刺されそうになっておった小童の前に、ワシが偶然通りかかったからじゃ。偶然な!お主、腕は足らぬが運だけは良かったということじゃのぉ。その上、お主が握っていた刀が愛弟子の"三日月"とはなんたる幸運!それが目に入っておらんかったら、ワシはお主がどうなろうと知った事ではなかったわい。ワシ最後の愛弟子である才蔵の刀を持っている奴を見捨てる訳にはいかぬしな。それにしても食事前の運動にもならぬような雑魚共だったが、お主、本当に弱いのぅ。』

話しだした小太郎殿の表情は変わり、先程までの涙はどこにやら…俺の失態を思い出し小さく震えながら笑っていた。しかも俺がやられてしまった相手のことを雑魚呼ばわりとは、なんと意地の悪い…。この、老いぼれめ!!

『ん?今、ワシのことを老いぼれと申したか?その、老いぼれに救われたひ弱な小童め!』

「え!」

あまりの切替の速さに、驚愕し心の中で悪態を付いていたつもりであったが声に出ていたのか?
まさか、心の中を読まれて…いる?

『心の中を読まれた?とか考えておるじゃろ~、お主の顔に全部書いてあるぞ?』

ハハハっと笑いながらこちらに指をさして大笑いしている小太郎殿。師匠も凄い人ではあったが、この老いぼれ…いや老人はそれを凌駕する人物だ…心の切替え方も含め、見習わないといけないことは多々ありそうだ。師匠無き今、左京を倒すには、この方に弟子入りを申し込み再度修行し直す道以外残されてはいないだろう。終始揶揄われ、楽しそうに話をする小太郎殿に癇癪を起こしそうになってはいたが、全ては己の力不足が招いた事態。ここは我慢して頭を下げるしかない…

「小太郎殿、私は悔しゅうございます。国の一大事に何も出来なかったばかりか、師匠の力にもなれず失ってしまう始末。もう二度と同じ思いはしたくありませぬ、助けて頂いた上にこのようなお願いをするのは誠にかたじけのうございますが、私に修行をつけて貰えないでしょうか?今のままでは左京に勝てないことも身に染みてわかりました。」

小太郎殿の目を見つめ、真剣に話をしてみる。小太郎殿は笑うのを止め、自分の髭を撫でながらこちらの方をじっと見つめていた。

『弥助よ、ワシは才蔵を最後の弟子と決めておった。その三日月もワシが才蔵に授けたものじゃしな。才蔵も最後までお主を育てあげることが出来なかったことを悔いておると思う。…ワシの修行は才蔵ほど甘くはない、本当に覚悟はできておるのか?途中で音を上げるようなことがあれば三日月は取り上げて永遠に無き物とする。それでもかまわぬか?』

「覚悟の上であります!さ、師匠!いや…私の師匠は才蔵師匠のみ、小太郎殿!早速始めましょうぞ!」

『お主は父親に似て、せっかちな奴じゃのぉ。今が何時かわかっておるのか?もう日も落ちておるというのにこれからやる訳がなかろう!酒の時間じゃ!奥の倉から酒を持ってこい!愛弟子の弔い酒じゃ、小童お主も付き合え!』

手の平で、犬をあしらう様に部屋を追い出され言われた場所へと酒を取りに行く。
ん?先程小太郎殿は、”父親に似て”と申していたような…俺の父親をしっているのか?
戻ってくると、机の上には盃が三つ用意され三日月が上座に置いてあった。先程の父親の話は凄く気になってはいたが、本日は師匠の弔いの場。明け方まで弔い酒は続き気づくと洞窟の入口からは朝日が差し込んでいた。
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