転生した鍛冶師の娘 〜鍛冶師の常識？それって何？〜

#31

「《呪縛》、《黒楔》、《闇雨》、《魔炎拳》ーー！！」

次から次へと、魔族の使う闇魔法を連続で繰り出すユウキ。

一切の隙を与えず、〝魔竜〟はただひたすらににダメージを受け続けていた。

「おらおらあおらあ！！どうしたどうした！？その程度か〝魔竜〟さんよぉ！！」

ドスッドスッドスッドスッ、と連続して《魔炎拳》をぶつけ続ける。

体格差があろうとも、《魔気吸収》で魔気を吸収し、《魔炎拳》で吸い上げた魔気を放出する一連の動きは一つの型になっており、ユウキの戦闘力を圧倒的に底上げしていた。

そして、それを可能にしたのが〝上限色覚〟によるものである。

「どうしてユウキさん、あんなに〝魔竜〟の動きが読めるんでしょうか？」

「確かに……いくら何でも……これじゃあ丸で《予知能力》だよね？」

実は〝上限色覚〟には他にもいくつか作用する効果がある。

その最たる例は〝魔気の視覚化〟であろう。

本来魔気は目に見えず、訓練を重ねなければ見えないものなのだが、〝上限色覚〟にはそれを見る力がある。

故に、〝魔竜〟が攻撃する際の僅かなモーションなどから魔気の動きを捉え、正確に位置を入れ替えたりして攻撃と防御のループを可能にしたのだ。

もう一つはこれもまた大きな要因ではあるが、〝動体視力〟の大幅な向上だろう。

本来目に追えない動きなども〝上限色覚〟状態であれば容易に感知することができる。

これが素早い〝魔竜〟の裏を掻き続けられた秘訣と言っても差し支えない。

しかし……この力には弱点がある。それがーー

「ちぃーー！時間が足りねぇ！！〝上限色覚〟は体に大きな負担がかかる……お師匠やおやっさん程、俺の〝上限色覚〟の持続時間は長くねぇ……！！何としても切れる前に倒さねぇとーー！！」

クルッと反転し、〝魔竜〟の懐へ行き《魔気吸収》で魔気を一気に吸い上げる。

攻撃を《幽霊化》で避け、《黒楔》で足止めをする。

時間がかかるが足止め中に《呪縛》を使い動きを完全封殺したところで、《闇雨》でダメージを与えつつ、デバフ効果によって防御力を落とし、《上限色覚》による魔気の流れから弱点を炙り出し《魔炎拳》でクリティカルダメージを与える。

これにより確実に〝魔竜〟はHPをすり減らしていった。

「ハァ……ハァ……、マジでコイツ体力えぐすぎだろ！？……ハァ……ハァ……」

額に脂汗をかいて苦悶の表情を浮かべるユウキ。

現に〝魔竜〟はユウキに対してまだ余裕を残しているような体制を保っていた。

（このままじゃユウキさんが死んじゃう！！どうすれば……私に何がーー！？）

そんなポピィの願いも叶わず、〝その時〟は不意に訪れた。

ザシュッーー！！

「っーー！！」

一瞬動きの鈍くなったユウキに対して、かぎ爪が肩をかすめる。

大量の血しぶきが、ポピィの瞳に鮮烈に映った。

「あ……ああ、あああ……」

そして、もう一度。

ザシュッーー！！

今度は軽く腕を切る程度だったが、徐々にユウキの体力はすり減らされていく。

スタッスタッと、ユウキは高台へと移動し、〝魔竜〟から離れて止血をした。

「ハァ……マジでやべぇな……コイツ。化けモンすぎるだろ！？」

かつてユウキが在籍していた〝勇者パーティー〟《天賦の隊》にいた時でさえ、これ程の相手と対峙した事は無かった。

そんな格上相手に、たった一人、Eランクの冒険者が務まる戦いではないーー否、Sランカーでも一人で対処できる程の者がこの世にどれだけいるだろうか？

しかし、事態は考えうる限り最悪の方向へと進んでいく。

ユウキが〝魔竜〟から離れた事で、〝魔竜〟はターゲットをポピィもセシリアへと移動したのだ。

「あ……ああ、こっちへ向かってきます！ポピィさん！！」

「セシリアちゃん！逃げて！！今の私達じゃあーー」

と、目の前に現れる〝魔竜〟。

ズガッーー

「うっーーがはっ……！！」

〝魔竜〟の尻尾による攻撃で、セシリアは彼方へと吹き飛ばされる。

「セシリアちゃん！！」

そう叫ぶポピィを前に、〝魔竜〟は凶悪なかぎ爪を振り落としたーー！！

「う……っ！ポピィさん！！」

「っーー！！」

死の間際ーー、一瞬。

『だから！ユウキはわたしとか、他の人を守れる《なんでもできる人》になるの！！』

ザシュッーー！！

ポピィを守る形で、ユウキはかぎ爪をギリギリの所で塞いだ。

自身の腹を貫通され、自・身・が・身・代・わ・り・と・な・る・事・で・ーー！

「あ……ああ、ユウキ……さん」

「……へっ、な～にシケた顔……してやがる……」

ブハッーー、と大量に血を吐くユウキ。

明らかに致死量を超えている。

このままでは助かりはしないだろう。

「いいか……ポピィ……ハァ、ハァ、なんであのお師匠が……オメェに無茶させようとしたか、なんとなくだか、今のオレにはわかる……」

だめ……これ以上喋ったら！

「オメェはな……気づかねぇ内に、色んな奴を巻き込む〝素質〟がある」

もう一度〝魔竜〟がかぎ爪を振り下ろす！

「にゅにゅい～！！（やめろ～！！）」

カキンッーーとスライムが立ち向かうが、あまりにもレベルが違いすぎる。

かろうじてかぎ爪はポピィ達を逸れたが、スライムははるか遠くへと吹き飛ばされていった。

「スライムちゃん！！」

涙ぐみながら、ユウキを支えるポピィ。

「いいか……よく聞け！もし……もしもオメェが、理不尽に飲み込まれそうな時や、目の前にいる奴が許せねぇって思ったらーー」

もう一度、〝魔竜〟はポピィ達を睨みつける。

「思いっきり〝怒れ〟！腹の底にあるもん全部ぶちまけろ！！そしたらオメェは……絶・対・に・負・け・ね・え・！！」

ふわっーーと、ポピィの視界が真っ赤に染まる。

怒り……悲しみ……憎しみ……絶望。

もうこんなのはたくさんだ！

守られる存在なんて、まっぴらだ！！

誰も失いたくない……誰も苦しんでほしくない……

ただ幸せに生きていて欲しいーー！

もう……〝こんな世界〟まっぴらだ！！

自分の命くらい、他の大事な人の命くらい、全部守ってやる！！

もう何も失わない！絶対に！！

そう生きるって、決めたんだ！私は！！

「うわああああああああああああああああああっ！！！！！」

ポピィはスライムが弾き飛ばされ、自分のすぐそばに落ちた短剣を拾い上げる。

「お・前・ら・なんか絶対に許さない！！！」

「ポピィさん…………瞳の色が、……髪が……」

ポピィが短剣を左・手・に持ち替えた直後ーー〝魔竜〟のかぎ爪が振り下ろされる。

そしてーー

カキィィィィィィィィィンッーー

パリィッーー

ポピィの剣戟が、〝魔竜〟を弾き飛ばした。