上 下
20 / 31

#20

しおりを挟む
「「ポピィ(にゅい)ーー!!」」

ケンカの手を止め、起き上がってポピィに視線を向ける二人。

何故二人してボロボロなのかーー状況の処理に頭の追いつかないポピィは、首を傾げながら思考を整理する。


……………………。


「ーーで、それでケンカしてたの?全くユウキさんったら…………」

一通りの説明を聞き、再び頭を悩ませるポピィ。

しかし、どこか安堵したような顔をして、

「まあ…………二人とも仲良くなってたみたいでよかったけど」

「「どこが(にゅにゅい)ーー!?」」

「息ピッタリじゃん…………」

ハモり合う二人を見て、クスクスと笑うポピィ。対する二人は、睨み合いながらもケンカをするそぶりは無かった。

「でーー、本題に戻るけど……一体何があったんだよ?急に短剣使い出したけど……?さっきの〝あれ〟は間違いなく素・人・の・動・き・じ・ゃ・無・か・っ・た・ぞ……」

「…………正直、私も何があったかハッキリ覚えてないのーー。」

ふとーー、朧げながらの記憶を探りながら呟くポピィ。

「ゴブリンに囲まれて……〝やばい……!わたし、死んじゃう……!〟って思ったら急に頭が真っ白になって……気づいたら体が勝手に動いてた……っーーそういえば!」

「っ!何か思い出したのか!?」

「何だろう……どこかで同じような感覚があった気が……そうだーー!あの日、あの時、家が燃やされて、みんなが殺されたあの日ーー確かに体が勝手に動く〝あの感じ〟だーー!間違いない!!」

ふと、脳裏にあの日の光景が思い浮かぶーーが、

「でもやっぱりそれ以上は思い出せない……かな」

あはは、と苦笑いしながら頬を掻くポピィ。

ユウキも腕を組みながら、思考を巡らせていた。

「頭が真っ白になって……ねぇ~……なぁ、それと一つ気になったんだけどよ~。お前って右・利・き・だよな?お師匠の屋敷でメシ食ってた時もナイフ右手で使ってたし、短剣も右手で取りやすいようにセットしてあるしーー」

ポピィの腰を指差しながら問いかける。

「うん…………右利きだけど……それがどうかしたの?」

何かを訝しむように考えるユウキ。やがてーー、

「やっぱりおかしいよな……だってあの時、咄嗟の出来事にも関わらずお前、わ・ざ・わ・ざ・左・手・で短剣を取って戦ってたじゃねえか?」

「ーー!!」

その言葉に、何かを思い出したようにポピィは口に手を当てる。

「確かに……まるで自・分・じ・ゃ・な・か・っ・た・みたいな感じがした……でも、一体どうして?」

未だにゴブリンを切り裂いた感覚が微かに残る左手をじっと見つめる。

確かにあの時の自分は、ま・る・で・自・分・が・自・分・じ・ゃ・無・い・ような感覚があったーー。

しかしそんな気がしたポピィは、余計な心配をさせたく無いと密かに秘密にするのであったーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



数時間後ーー。

「本当に大丈夫か?」

茶のダンジョンーーB3階層へと下る階段を降りる中、ユウキがポピィに問いかける。

「大丈夫ーー!いっぱい休ませてもらったし、少し気分も落ち着いて来たから!」

ぐっと両手を握りしめて元気アピールをするポピィ。

無理をしているようでは無いと判断したため、ユウキはそのまま先頭を下って行く。

「そっか……気分が悪くなったら言えよ。」

(って…………これじゃホントに兄妹みてぇじゃねえか?全く…………)

妹・弟・子・であって妹・ではないーー。そう一線を引く事で、どう言うわけかユウキはポピィと一定の距離を置こうとしていた。

「ありがとうございます!やっぱりユウキさんは何だかんだで優しいんですね!」

「…………何だかんだは余計だけどな」

と、そこまで言ってようやくB3階層に降り立つ一向。

しかし少し様子が変なのだと、ユウキが一瞬遅れて気づく。

「おかしいな……B3階層ならコボルトがいるはずなんだが……」

「コボルトって、黄色い獣さんですか?」

「にゅいい~(暴れん坊のね)」

様子がおかしいのだ。B3階層にはコボルトどころか、モンスターが一匹も存在しなかった。

しかし、考えたところで原因に心当たりは無い。

「まあいっか……!いねえもんはしゃあねえ。このままB4階層まで降りるぞ」

「わかった……(にゅい~……)」

(まあ、茶のダンジョンはB5階層まであるし……何も無かったらなかったで周りに気遣う事なくコイツに修行させてやれるか…………)

この時、一向は気づいていなかった…………この茶のダンジョンが普通ではないーー〝何か〟がいるダンジョンだと言う事にーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



B・6・階・層・ーー。

当たりは瘴気に満ちており、まるで〝奈落の底〟にいるかのような、吐き気のする地獄のような場所。

そこには今にも吐きそうな程、顔色の悪くなった一般の冒険者一向があった……。

「お……おい、おかしいだろ?茶のダンジョンはB・5・階・層・までだろーー?何でB・6・階・層・があるんだよ?」

「ね、ねぇ……早く戻ろうよ……?そもそも何で一階層変わるだけでこんなに内装が違うのよ?絶対おかしいわよこのダンジョン!!」

軽くパーティー調整でもするつもりだったのか……赤黒い内装のダンジョンに迷い込んだーーリーダーと思しき金髪の少年と、紫色の髪とローブの女の冒険者が泣き叫ぶ。

「でも……階段から降りて行き止まりだと思ったら急に落ちたんだぞ!?しかもこの深さ……とても自力じゃのぼれねぇよ!」

不安になっている《防御職》思しき人物は、声を荒げながらおそるおそる歩みを進めて行く。

そして、ーー

「いいかセシリア、俺たちが三人で行くからお前は戻って助けてを呼んで来い!……こんな状況下で助かる可能性は絶望的だが、もし仮に他の冒険者がB5階層にいたらほんの僅かだが、助かるかもしれない……俺たちは進む、もし何も問題が無かったら必ず迎えに行くから…………頼む」

決死の覚悟を決めた、冒険者のパーティーリーダーと思しき男ーーレックスが女の《魔法使い》セシリアに問いかける。

「嫌……嫌だよ!怖いよ!みんなで戻った方が絶対いいよ!だって…………」

「セシリア……君は《魔法使い》だ。《魔術師》よりも上の存在だ。そんな貴重な、これからを担う卵である君が死んではいけない……少なくともここに来るまでモンスターは出てこなかった……間違いなく戻るルートの方が安全なはずだ」

「だったらーー」

レックスは手を差し出して、セシリアの発言を静止する。

「もし君の声に反応してモンスターが近づいてくるなら、僕らはそれを止めないといけない。必ず君だけは地上に戻して見せるーーだよね、二人とも?」

その言葉を聞いて、《防御職》ゼルと《槍使い》アレンが頷く。

「心配すんなよーー。お前はまだCランク、対して俺たちは修羅場を潜り抜けたBランクだ。このくらいの危機なんて、いくらでも潜り抜けてきたーー」

「いっても一つしかランクは変わらないがな……まあ、どちらかと言うと経験の差が大きいか……。Cランクになって浅いお前と、既にAランクのレックスやもうすぐAランクの俺たちとでは、確かに恐怖に対する危機意識は違う。心配は無い、必ず生きて帰るさーー」

そう言って余裕のそぶりを見せるゼルとアレン。

嘘だ。二人共見れば微弱だが震えている。

しかしそこまで言う三人を、セシリアに止める事はできなかったーー。

「わかったわ……必ず助けを呼んでくるから!だからそれまで絶対に死なないでねーー!」

ダッーーと踵を返して走るセシリア。

そんな姿を見守りながら、

「必ずセシリアは助けを呼んでくる……だから、何としてでも生き延びるんだ!二人共!!」

「「ああーー!!(当然!!)」」

〝異質〟な瘴気を放つB・6・階・層・ーー。

しかし、今のポピィ達にはこれから起きる試練を知る由も無かったーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...