上 下
19 / 31

#19

しおりを挟む
「ふんふふんふふ~ん♪」

「ずいぶんノリノリだな、姉ちゃんーー」

聖国の中でも最重要区ーー聖都・《ホーリア》の一角で、ある一つの姉妹が歩いている。

そして姉妹が通る後ろでは、その姿を目を惹かれる町の者たちがザワザワと騒いでいた。

「ねぇねぇ!ルカちゃん!今聖都では〝クラウディア・アイス〟が流行ってるんだって~。朝に取れたばかりのミルクで作るアイスクリーム……想像するだけでほっぺが落ちるわぁ~!」

金色のふわふわとした長い髪、水色の大きなくりくりっとした目、白いシルクのワンピースを着てリボンの付いた白い帽子を被る少女ーーアリスの姿は、まるで散歩を楽しむ天使のようだった。

天使が散歩をしていれば、当然周りの者たちは目を惹かれるであろう。現に老若男女問わず全員が、街を散歩するアリスに目を奪われていた。

「あれが……〝黄金の血〟を持った世界最高の《回復師》……Sランク冒険者の《親愛の聖女》ーーアリス様……!!」

「す……すげえオーラだ……お美しい……」

「まるで天使だ……ああ、主よ。彼女に一目見ることができる今日の祝福に感謝します!」

次第に人目が集まり、少々面倒くさそうに隣の少女が呟く。

「ハァ……ったく、少しは自分が注目されてる事ぐらい自覚しろよな……?それにオレだってヒマじゃねぇってのに、そんな事で連れ出して……」

黒髪ショート、アリスと同様水色のつり目の少女ーールカがぶつくさと文句を言っている。

と、その視線が自分にも向けられているとつゆしらずに。

「あっちが世界最高の《付与術師》にしてSランク冒険者、《福音》のルカ様かーー!?」

「やべぇ、いいもん見ちまったーー!俺、今日死んでも文句ねぇわ!」

「姉妹揃ってSランクとかやばすぎるだろ!?しかも《回復師》《付与術師》共にSランクはこの世にあの二人しかいないってのに!」

ザワザワと騒ぎが広まっていく聖都のその一角で、そんな賞賛は二人の耳にも入っていなかった。

「ほらほら~、そんな事言わないの!みんなもアイスを食べに来たのかな?それに、たまには息抜きしなきゃでしょ~?ルカちゃん!ほら……はい!あ~ん!」

いつの間に買ったのか、今にもとろけそうなアイスクリームをルカの口に突っ込むアリス。

「むぐぅっ!?むぅ…………まぁ、…………悪くない」

「でしょ~!あ~ん!ーーん~!おいしい~♪」

ほっぺたに手を当てて満面の笑みを浮かべるアリス。

周囲で卒倒する人間が続出するのを不思議そうに眺めながら、アリスはふとーー〝何か〟を感じとる。

「…………どうした?ねえちゃん……?」

アイスをペロペロと舐めながら、ルカが問うーー。

するとーー、

「ねぇ…………感じた?」

「……何が?」

意図が読めず、珍しく不思議そうにするルカ。

しかし、アリスはどこか遠くを眺めながら、笑顔のまま続ける。

「〝何かが目覚めた〟ーー。そんな感じがしたんだ!私……感じた!!ルカちゃん!きっとこれは〝運命〟だよーー!ははっ♪」

くるりっ、と一回転して、一瞬遅れてワンピースのスカート部分が風にゆられてふわりと舞う。

「これは〝天啓〟だよ!きっと、私の運命の人なんだーー!男の子なら~……恋仲ーーかな?女の子なら~、大親友!……うん!間違いなくこれはお告げだよ!ルカちゃん!」

「は、はぁ……」

(聖女職は稀に〝天啓〟を聞くって言うもんなーー。何が何だかオレにはわかんねぇや……)

ルカの訳わからず具合に全く気がないまま、一人で天を仰ぎ、そよ風を仰ぎながら。

「待ってて〝運命〟の人ーー!絶対に会いに行くからね!」

聖都の日差しに照らされたーーそう言ったアリスの笑顔は、まるで太陽のように満面の笑みなのであったーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




茶のダンジョンーーB2階層にて、ユウキは一定の警戒状態を保ちながら、ポピィの側で座っている。

(オレがあの時……守ってやらなきゃならなかったーー)

数十分前に起きた、ゴブリンを一気に殲滅したというーーポピィに起きた急激な〝変化〟に戸惑うユウキ。

しかしそれ以上に、自身の詰めの甘さを悔やんでいた。

(〝現役時代〟の俺ならーーいや、そんなのは関係ない……。妹・弟・子・であるこいつを危うく見殺しにする所だった……)

「すまねぇな……ポピィ」

謝りながら、ポピィの額に手を当てるユウキ。

急な動きの変化に耐えきれなかったのか、あの後すぐにポピィはその場で気を失っていた。

「みゅんみゅん(大丈夫?)」

心配そうに側で見守るスライムの頭に手を置き、ユウキは呟く。

「大丈夫だーー心肺にも異常はねぇし、魔気にも異常はねぇ。ちょっと休めばすぐに起きる」

「みゅい(ユウキが)」

「俺がーー?」

じっと見つめながらユウキに問いかけるスライム。

しかしそんなスライムをあしらうように、ユウキはーー。

「はっ!この程度どうって事ねぇよ……俺を誰だと思ってやがる…………ーーっ!?そうだ!……ここだけの話、俺の正体を教えてやろうか?」

「みゅい(何?)」

ひそひそと、スライムに語りかけるユウキ。

「俺はなーー〝魔王の息子〟ーーなんだぜ!?」

「…………みゅぎい!?(本当!?)」

突然の告白に、スライムは大きく目を見開いた。が、

「……………………ふっーー…………………残念ウソでしたぁーーー!!!」

あっかんべぇ~、とスライムをからかうユウキ。

固まるスライムを見て、この反応待ってましたとばかりにめちゃくちゃ煽り立てる。

「……………………みゅ~ぎぃ~(だましたな~)」

わなわなと震えながら、我慢しきれなくなったスライムがユウキに突進する。

ボコッバコッボコッバコッーー

「な……なんだよお前ー!?ちょっとからかっただけだろ!?」

「みゅ~い~(そういう問題じゃない!)」

ボコッバコッボコッバコッー

「お前モンスターのくせにいっちょまえに主人に逆らいやがってーー!」

「にゅいやぃ(主人はポピィであってユウキは主人じゃないもん!)」

ボコッバコッボコッバコッ

そんな砂煙の立つ大ゲンカをしている中ーー

「…………ねぇ、これ今どう言う状況?」

騒がしい二人の喧騒を見ながら、ゆっくりとポピィが起き上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...