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#18
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「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!無理無理無理無理むりぃ~!!!」
茶のダンジョンB2階層ーー開始1分で、ポピィは絶望の淵に立っていたーー。
「何この緑のおじさんの群れーー!怖すぎるんだけど!?しかもなんでユウキさんは襲われずに私ばっかり狙われるの~?ねぇどうして!教えてユウキさん!怖いよ~!!」
「な~にがおじさんだ、ゴブリンも見た事ねぇのか?」
鬼鬼と言われて罪悪感を感じ始めたのか、スライムを抱えて預かるユウキ。
しかし言われた分はしっかりやり返すとでも言うように、鬼らしくポピィの援護をせずにただ傍観しているーー。
「へっーー初級魔術である〝潜伏〟スキルを使えば一敵から補足されにくくあるーー常識だぜ?」
「きゅいゆい~(卑怯者~)」
抱えるスライムにジト目されながらも、潜伏を解く気配の無いユウキ。
ゴブリンどころか魔物さえ普段見ることのなかったポピィには、少々酷なものがあった。
「これがゴブリン!?ゴブリンってもっと小さく無かったっけ!?わたしの見た絵本では膝丈くらいしかサイズ無かったよーー?」
自身と対して身長差の無いゴブリンを相手に、ただひたすらに逃げ惑うポピィ。
その様子をケラケラと笑いながら、ユウキはポピィに問いかける。
「そもそもお前ーーあれだけお師匠の前で〝やってみせます!〟って啖呵切ってたじゃねぇか?短剣持ってるんだから戦えよ?」
「短剣ーー!」
ポピィは腰に手を携え、短剣を抜くそぶりを見せるーーと、
「無理無理無理無理無理無理無理無理ーー!!絶対無理~!!」
ふと後方に見えてしまった緑のおじさんーーもといゴブリンの群れを前に、涙目ながらただひたすらに逃げ惑うポピィであったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「御前様、本当によろしかったので?」
オールバックの騎士の男ーーグレイスが、黄金の髪の女性ーーカーヴェラに問いかける。
「何がだい?」
カーヴェラは眼鏡をかけて本を読んでいる。
別に特段視力が悪いわけでは無いが、眼鏡をつけて本を読むと集中できるらしい。
「ユウキにポピィを任せてーー確かに適任だとは思いますが、いくらなんでも時期尚早では?」
パタンッーーと本を閉じ、カーヴェラはグレイスの方へ椅子の方角を向ける。
「確かに……な。君の言うことは理解できる。だが、こ・れ・で・い・い・ーー。確かに今回ポピィが成長するのは大切な事だが、それと同様に今回はあ・る・大・切・な・事・がもう一つテーマになっているのだよーー」
カーヴェラは髪と同色の、黄金の瞳をグレイスに向ける。お淑やかで、穏やかな美しいその瞳を向けられれば誰でも思わず緊張してしまうだろう。
「ご……御前様ーー?」
「……………ぶっーー!」
案の定緊張で固まってしまったグレイスに向けて、クスクスと笑い出すカーヴェラ。
「わ、笑い事ではありませんーー!全くもう……貴女という人は……それで、もう一つのテーマとは一体なんなのですか?」
赤面した表情で取り乱すグレイスに、また笑い出しながらも、一息ついてカーヴェラは続ける。
「あいつはーーユウキは、心・に・傷・を・負・っ・て・い・る・ーー。だから、それを癒してあげたいんだ」
「っーー!」
思い当たる節があるのか、真剣な表情を取り戻すグレイス。
「わたしや、お前。ドロシーにアシュリー……この屋敷にいる奴じゃあ、おそらくあいつの〝心の傷〟は治せないーー。あいつが傷ついている事を知っている奴じゃあ、ダメなんだ……」
どこか悲しげに、寂しげに、虚空を見つめるように、カーヴェラは続ける。
「今のあいつに必要なのは、気遣って優しく接してやれる奴でも、無神経に傷つける奴でも無い……、何も知らないーーけれど、誰に対しても優しく接してやれる奴。あいつが傷ついていることを知らずに、知らず知らずのうちにあいつを癒してやれる奴ーーそう言う奴なんだ。だから、今回ユウキはポピィにーー、ポピィはユウキに、互いに必要なものを与え合えるあいつらで行かせる事がベストだと考えたーー。ポピィが、あいつに何が起こったのかを知る前にな……」
独白したカーヴェラのーー、心の内を前に絶句するグレイス。
「あいつは……ユウキはまた、立ち直る事ができるでしょうか?ーー」
手を挙げ、お手上げというようにふるふるとクビを振るカーヴェラ。
「さあな……エリがいてくれれば心強いんだけどーーて言ってもあいつがいたら余計にまた閉じこもるだろうな。エリは心配性だからーー。まぁ、今回はポピィを信じるしか無いさーー」
きっとあいつならなんとかしてくれるーー。
《伝説の魔法使い》の新人への期待は、思ったよりも大きいものだったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぜぇ……ハァ……ぜぇ……ハァ……ここなら大丈夫でしょう!!」
高台を取り、ギリギリゴブリンが登ってこれない所に登り立つポピィ。
対してゴブリンは、ポピィの真下で群れをなしてぎゃいぎゃいと騒いでいたーー。
「お前いい加減戦えよな、いつまで経っても帰れないじゃんーー」
「うぅ~うるさいうるさい!ユウキさんは強いからいいかも知らないけどわたしはモンスターと戦った事なんて無いんですよ!ちゃんと覚悟をしてから殺生に挑まねばーー」
はぁ~、と集中力を高めるポピィーー。
「ハァ~……こりゃまた時間がかかるなーー」
ユウキが寝転んで様子見をしようとした……その瞬間ーー。
「あ、しまっーー」
足を踏み外し、武器を構えたゴブリンの群れの中に落下するポピィ。
「っーーやべぇ!!ポピィーー!!」
潜伏を解いて、ダッーーとゴブリンの元へと走り出すユウキ。
しかし、距離がありすぎるため、間に合わない。
(しまったーー!なんで油断してたんだ!あいつはまだ素人……戦えるわけ無いのにーー!)
ボトッ、とゴブリンの群れの中心に落下してポピィは気づく。
死だーー。もう何度も味わった、あの気配ーー。
死神がべっとりとまとわりつくような恐怖感……。
「あ……ああ、わたし……」
目を白黒するばかりで、体が言うことを聞かない。
「ポピィーーー!!!」
「ニィーー」
ゴブリンの群れがポピィに襲いかかるーー。
(またわたしはーー何もできないのだろうか?)
『ねえちゃん!』
唄ーー。
『ポピィーー!』
ヒュイーー。
『まぁ……せいぜい頑張りなさい』
アシュリーさんーー。
『ポピィ殿なら、きっとできる』
グレイスさんーー。
『我が友よーー武運をいのるぞ……!』
ドロシーさんーー。
『ハァ……しゃあねぇなあ……』
ユウキさんーー。
『『ポピィーー強く生きるのよ(生きるんだぞ)』』
父さん……母さん……
それに…………
『大丈夫さーー。君は、天・に・愛されているーー』
カーヴェラさんーー!!!
「わたしはまだ、ここで死ねないーー!!」
ギリッーーと、歯噛みし、短剣を取り出すポピィ。
その刹那ーー。
シュババババババッーー
「「「ギュエエエエエエッッッ」」」
何が起こったのかーー。
一瞬でおよそ15匹程の群れのゴブリンを切り裂き、倒したのだーー。
討伐ランクEランクーーされど、一体ならばだ。
これだけの数であればB~Aランク相当の脅威度に相当するゴブリンの数を、ただの一度も戦った事の無いただの鍛・冶・師・が倒したのだーー。
「ポ……ポピィーー」
正直ユウキすらも、かなりポピィの命が危うい状況だと思っていた。
ただひたすらに、間に合えとーーそれだけが、唯一ポピィを助けられる道だと、藁をもすがる思いで走っていたのだ。
それがどうだろうか?
たった一人で立ち向かい、たった一人で倒し切るその〝勇気と覚悟とその強さ〟を持った、目の前にいる赤い髪の少女。
気づけばそこには、ゴブリンの返り血で赤く染まったポピィのーー剣・士・の姿がそこにあったーー。
茶のダンジョンB2階層ーー開始1分で、ポピィは絶望の淵に立っていたーー。
「何この緑のおじさんの群れーー!怖すぎるんだけど!?しかもなんでユウキさんは襲われずに私ばっかり狙われるの~?ねぇどうして!教えてユウキさん!怖いよ~!!」
「な~にがおじさんだ、ゴブリンも見た事ねぇのか?」
鬼鬼と言われて罪悪感を感じ始めたのか、スライムを抱えて預かるユウキ。
しかし言われた分はしっかりやり返すとでも言うように、鬼らしくポピィの援護をせずにただ傍観しているーー。
「へっーー初級魔術である〝潜伏〟スキルを使えば一敵から補足されにくくあるーー常識だぜ?」
「きゅいゆい~(卑怯者~)」
抱えるスライムにジト目されながらも、潜伏を解く気配の無いユウキ。
ゴブリンどころか魔物さえ普段見ることのなかったポピィには、少々酷なものがあった。
「これがゴブリン!?ゴブリンってもっと小さく無かったっけ!?わたしの見た絵本では膝丈くらいしかサイズ無かったよーー?」
自身と対して身長差の無いゴブリンを相手に、ただひたすらに逃げ惑うポピィ。
その様子をケラケラと笑いながら、ユウキはポピィに問いかける。
「そもそもお前ーーあれだけお師匠の前で〝やってみせます!〟って啖呵切ってたじゃねぇか?短剣持ってるんだから戦えよ?」
「短剣ーー!」
ポピィは腰に手を携え、短剣を抜くそぶりを見せるーーと、
「無理無理無理無理無理無理無理無理ーー!!絶対無理~!!」
ふと後方に見えてしまった緑のおじさんーーもといゴブリンの群れを前に、涙目ながらただひたすらに逃げ惑うポピィであったーー。
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「御前様、本当によろしかったので?」
オールバックの騎士の男ーーグレイスが、黄金の髪の女性ーーカーヴェラに問いかける。
「何がだい?」
カーヴェラは眼鏡をかけて本を読んでいる。
別に特段視力が悪いわけでは無いが、眼鏡をつけて本を読むと集中できるらしい。
「ユウキにポピィを任せてーー確かに適任だとは思いますが、いくらなんでも時期尚早では?」
パタンッーーと本を閉じ、カーヴェラはグレイスの方へ椅子の方角を向ける。
「確かに……な。君の言うことは理解できる。だが、こ・れ・で・い・い・ーー。確かに今回ポピィが成長するのは大切な事だが、それと同様に今回はあ・る・大・切・な・事・がもう一つテーマになっているのだよーー」
カーヴェラは髪と同色の、黄金の瞳をグレイスに向ける。お淑やかで、穏やかな美しいその瞳を向けられれば誰でも思わず緊張してしまうだろう。
「ご……御前様ーー?」
「……………ぶっーー!」
案の定緊張で固まってしまったグレイスに向けて、クスクスと笑い出すカーヴェラ。
「わ、笑い事ではありませんーー!全くもう……貴女という人は……それで、もう一つのテーマとは一体なんなのですか?」
赤面した表情で取り乱すグレイスに、また笑い出しながらも、一息ついてカーヴェラは続ける。
「あいつはーーユウキは、心・に・傷・を・負・っ・て・い・る・ーー。だから、それを癒してあげたいんだ」
「っーー!」
思い当たる節があるのか、真剣な表情を取り戻すグレイス。
「わたしや、お前。ドロシーにアシュリー……この屋敷にいる奴じゃあ、おそらくあいつの〝心の傷〟は治せないーー。あいつが傷ついている事を知っている奴じゃあ、ダメなんだ……」
どこか悲しげに、寂しげに、虚空を見つめるように、カーヴェラは続ける。
「今のあいつに必要なのは、気遣って優しく接してやれる奴でも、無神経に傷つける奴でも無い……、何も知らないーーけれど、誰に対しても優しく接してやれる奴。あいつが傷ついていることを知らずに、知らず知らずのうちにあいつを癒してやれる奴ーーそう言う奴なんだ。だから、今回ユウキはポピィにーー、ポピィはユウキに、互いに必要なものを与え合えるあいつらで行かせる事がベストだと考えたーー。ポピィが、あいつに何が起こったのかを知る前にな……」
独白したカーヴェラのーー、心の内を前に絶句するグレイス。
「あいつは……ユウキはまた、立ち直る事ができるでしょうか?ーー」
手を挙げ、お手上げというようにふるふるとクビを振るカーヴェラ。
「さあな……エリがいてくれれば心強いんだけどーーて言ってもあいつがいたら余計にまた閉じこもるだろうな。エリは心配性だからーー。まぁ、今回はポピィを信じるしか無いさーー」
きっとあいつならなんとかしてくれるーー。
《伝説の魔法使い》の新人への期待は、思ったよりも大きいものだったーー。
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「ぜぇ……ハァ……ぜぇ……ハァ……ここなら大丈夫でしょう!!」
高台を取り、ギリギリゴブリンが登ってこれない所に登り立つポピィ。
対してゴブリンは、ポピィの真下で群れをなしてぎゃいぎゃいと騒いでいたーー。
「お前いい加減戦えよな、いつまで経っても帰れないじゃんーー」
「うぅ~うるさいうるさい!ユウキさんは強いからいいかも知らないけどわたしはモンスターと戦った事なんて無いんですよ!ちゃんと覚悟をしてから殺生に挑まねばーー」
はぁ~、と集中力を高めるポピィーー。
「ハァ~……こりゃまた時間がかかるなーー」
ユウキが寝転んで様子見をしようとした……その瞬間ーー。
「あ、しまっーー」
足を踏み外し、武器を構えたゴブリンの群れの中に落下するポピィ。
「っーーやべぇ!!ポピィーー!!」
潜伏を解いて、ダッーーとゴブリンの元へと走り出すユウキ。
しかし、距離がありすぎるため、間に合わない。
(しまったーー!なんで油断してたんだ!あいつはまだ素人……戦えるわけ無いのにーー!)
ボトッ、とゴブリンの群れの中心に落下してポピィは気づく。
死だーー。もう何度も味わった、あの気配ーー。
死神がべっとりとまとわりつくような恐怖感……。
「あ……ああ、わたし……」
目を白黒するばかりで、体が言うことを聞かない。
「ポピィーーー!!!」
「ニィーー」
ゴブリンの群れがポピィに襲いかかるーー。
(またわたしはーー何もできないのだろうか?)
『ねえちゃん!』
唄ーー。
『ポピィーー!』
ヒュイーー。
『まぁ……せいぜい頑張りなさい』
アシュリーさんーー。
『ポピィ殿なら、きっとできる』
グレイスさんーー。
『我が友よーー武運をいのるぞ……!』
ドロシーさんーー。
『ハァ……しゃあねぇなあ……』
ユウキさんーー。
『『ポピィーー強く生きるのよ(生きるんだぞ)』』
父さん……母さん……
それに…………
『大丈夫さーー。君は、天・に・愛されているーー』
カーヴェラさんーー!!!
「わたしはまだ、ここで死ねないーー!!」
ギリッーーと、歯噛みし、短剣を取り出すポピィ。
その刹那ーー。
シュババババババッーー
「「「ギュエエエエエエッッッ」」」
何が起こったのかーー。
一瞬でおよそ15匹程の群れのゴブリンを切り裂き、倒したのだーー。
討伐ランクEランクーーされど、一体ならばだ。
これだけの数であればB~Aランク相当の脅威度に相当するゴブリンの数を、ただの一度も戦った事の無いただの鍛・冶・師・が倒したのだーー。
「ポ……ポピィーー」
正直ユウキすらも、かなりポピィの命が危うい状況だと思っていた。
ただひたすらに、間に合えとーーそれだけが、唯一ポピィを助けられる道だと、藁をもすがる思いで走っていたのだ。
それがどうだろうか?
たった一人で立ち向かい、たった一人で倒し切るその〝勇気と覚悟とその強さ〟を持った、目の前にいる赤い髪の少女。
気づけばそこには、ゴブリンの返り血で赤く染まったポピィのーー剣・士・の姿がそこにあったーー。
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