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庭師と花
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アンドレア・バースはとても愛されて育った子供だった。
なかなか子供に恵まれず、やっとできた伯爵家の一人娘。
平和な王国の、穏やかな気候に恵まれた伯爵家の、仲の良い両親の間に生まれた子だった。
幼い頃は伯爵領で愛に囲まれて育ち、10を過ぎると首都の屋敷で教育を受けながら淑女として花開きつつあった。
美しい金髪、透き通る青い瞳。
人形のような姿に、バースの宝石と噂された。
社交界はアンドレアが登場するのを、今か今かと待ち望んでいた。
そんな時。アンドレアの両親は突然の事故でこの世を去った。
あまりの突然のことに、屋敷も領地も、全ての機能を停止したかのようだった。
そして不幸は続く。
バース家の商船が、航路中消息を絶ったのだ。
商品の補填、乗組員の補償、それらは軽く領地の3年分の収入を超した。
それに加えて、例年にない不作続き。
領地を多く手放して、残ったのは首都にある屋敷のみとなった。
「お嬢様…このお屋敷を売ってしまっては、お嬢様はどこでお暮らしになるのです。なりません」
執政官はそう言った。しかしアンドレアは譲らなかった。
「だめよ。乗組員への補償を行わないままでは、バース商会は閉められないわ。お父様の名を、最後に汚して終わりたくないもの」
それに何より、自分と同じように親や夫を失った家族に。せめて暖かい食事は取れるようにしてやりたい。
もうすぐ寒い冬が来る。
備えのない領民が飢えることなど、決して両親は許さない筈だ、
きっと、よくやったね、アンドレア、と言ってくれる。
このアンドレアに救いの手を差し伸べたのは、60にもなろうという侯爵家の隠居した老人だった。
まだ残る借金を全て返済し、アンドレアを後妻として迎えたいという条件。
断ることはできなかった。
年老いた夫は家督を息子に譲り、領地で穏やかな余生を美しい妻と共に過ごしたい、というのだった。
涙の中見送られ、アンドレアは伯爵領を去った。
そうして10年。
――戻ってきた。
アンドレアは不思議な感覚だった。
10年前と同じ、朽ちていない伯爵領の屋敷である。
侯爵は伯爵領と屋敷を買い戻し、維持してくれていた。
夫の死と共にアンドレアは侯爵家の一切に関与しないという誓約書を交わし、ここへ戻ってきたのだった。
10年ぶりの我が家。
何も変わっていないように見えて、あの頃とは違う。
使用人も、壁紙も調度品も。
両親の思い出が期待していたほどは思い出されず、アンドレアは落胆していた。
アンドレアはまだ28だった。この寂しさの残る館で未亡人として何をして過ごせばいいのか。
何も思いつかなかった。
バルコニーに差す夕陽が眩しくて、庭のダリアがよく見えなかった。好きな花でも見て気分を変えようかと、ちょっと散歩するわ、とだけ言いおいて、そのままバルコニーから庭へ繰り出す。
雑草ひとつない整備された庭。
大輪に咲き誇る花を一輪、そういえばどんな香りだろうとふとしゃがんで手を伸ばした時だった。
ぬっと、影が差した。
力仕事を生業としてきた男らしく、筋肉質な巨体に、よく日に焼けた身体。
見上げると、庭師のハンスだ。
「ハンス?」
呼ぶと、ハンスは少し驚いたように目を見開いた。
白いシャツに、サスペンダーで吊るされた薄茶色のズボン。丸くつばのない帽子。典型的な下男の服装だ。伯爵家では庭師でも下男でも白いシャツを着せる。汚れたら何度でも着替えるように、執事のこだわりらしい。
立ち上がってみても、自分は彼の胸ほどの背もなかった。
「まだ作業していたの?」
「あ、いえ…」
「まあ」
今度はアンドレアが目を見開いた。
「あなた、そんな声だったの」
幼い時はまだ顔を合わせれば言葉を交わしていたのに、いつのまにか声を聞いた記憶がない。淑女教育が始まってからは何かと忙しく、顔を合わせたこともほとんどなかった。
驚いて開く口を軽く手で押さえてからそう言うと、アンドレアはふわりと笑う。
「昔と声が随分違ってて、驚いてしまったわ。それもそうよね、あなたと話したのはもう10年以上前のことだもの」
「俺の……」
言いかけてハンスはハッと口をつぐんだ。眉間に皺を寄せて、視線を落とす。
どうして何も言わないのかしら?
アンドレアは不思議そうな目をハンスに向けた。
次の言葉を促されているようで、ハンスは絞り出すように、ポツリと言う。
「わたしのことを、ご存じでしたか」
とても低音の、ぞくりとするほど良い声だった。アンドレアはその声をもっと聴いてみたいと思った。
「知っているに決まっているじゃない。一緒にこの庭で遊んだでしょう?私の2つ上のハンス。美しい鳥の巣を教えてくれて、秘密の道を教えてくれた。そうそう、植木の迷路を作ってくれたこともあったわね」
「作ったのは、師匠です」
ああ、やっぱり良い声だ。昔の面影などどこにもないこの男が、記憶の子供と同じ人物だと言うのにとても違和感を覚える。それでも、胸の奥から湧き上がる懐かしさと親しみは隠しようがなかった。
「お、おじょうさま」
そう言って、小さな体を精いっぱい伸ばし、がちがちに緊張して頭を下げていたのは、まだアンドレアの両親も健在の頃だ。自分より小さかったあの子が、少し見ないうちにこんなに大きくなるとは。
昔の懐かしい人物を見つけたことでアンドレアは少し息を吹き返したような気持ちがした。
「そう……レスターね。彼は元気なのかしら」
「元気にしています」
ハンスには親がいない。5つの時に先代庭師の一人であったレスターに引き取られ、仕事を仕込まれて働いている。親がいない子はそうして手に職をつけるものが多いが、ハンスは早めのスタートだった。
「夜にも手入れをしているの?」
「いえ、片付けていたところで」
見れば、少し離れたところに作業道具らしきものがある。
「影が動いたので、なにかと思い…失礼いたしました」
「そんなこと言わないで。久しぶりに会えて、とても嬉しいわ。ねえ、この花、私が一番好きな花。満開ね」
「お好きだと、お聞きしたので」
アンドレアは喜びで胸が温かくなった。こんな素直な温かみは久しぶりに感じることだった。
ダリアが好きだと、一番好きな花だと伝えたのはまだ5つか6つの頃だろう。ハンスはそれを覚えていて、自分が屋敷を出て、また戻ってくるまで十年、ずっと庭を守ってアンドレアの好きな花を増やしてくれていたのだ。
「覚えていてくれたのね」
ハンスは答えない。わずかに首を振る程度だ。あまり喋らない性格なのだろうか。喋るたびに、眉間に皺が刻まれる。もともとほりの深い顔に、眉間を寄せるとますます強面になる。それでも恐ろしさを少しも感じないのは、昔の記憶があるからだろうか。
アンドレアの後を必死でついてきたハンス。ドレスが汚れないようにと、触れることも遠慮していた小さなハンス。
「ハンス」
「はい」
「最近目覚めが悪くて。良い香りの花を届けてくれるかしら?」
「何がよろしいですか」
「そうね。優しい香りがいいわ」
あなたみたいに、と言う言葉を飲み込んだ。そう言うほどには、自分は今のハンスを知らない。
「メイドに届けておきます」
「あら、あなたが届けてくれないの?」
「自分は…お屋敷には」
「昔みたいに、届けてほしいわ。ほら、小さい時はよく、選んだ花をくれていたじゃない」
ハンスは戸惑った顔をしていた。険しい顔が戸惑いに揺れているのは見ていてとても面白かった。
「あれは、子供の…したことで」
庭で剪定した後、まだ綺麗だった花を1輪遊んでいる時に持ってきただけだ。アンドレアの部屋には常に美しい花たちが生けられていると、ハンスはもう知っている。
「じゃあ、今度は大人の花を選んでちょうだい。そうね、明日の朝がいいわ。朝露を含んだ花なんて、素敵」
「ご主人様…」
困った顔でハンスが次の言葉を出せずにいるのへ、アンドレアは重ねた。
「屋敷へ入りづらいなら、ここのバルコニーから入ったら良いわ。私はだいたいこの部屋にいるから、合図してちょうだい」
「そんな」
「せっかく屋敷の主人になって帰ってきたんだもの、それくらいの我儘は許されても良いと思わない?」
翌朝アンドレアは小さくガラスをたたく音に目を覚ました。
ハンスは約束通り、アンドレアに朝露の乗った美しい花を持ってきてくれた。
アンドレアはハンスを部屋に招き入れた。
ハンスはもちろん固辞していたが、強引に腕を引かれ誘い込まれる。
ハンスが気後れするのに対しアンドレアはおかしそうにくすくすとわらう。
以前の品行方正な淑女であったアンドレアとの変化にハンスはただ混乱していた。
10年前までは、花開く前の豪華な蕾のように淑やかでおとなしい女の子はもういないのか。
いや、もしかしたらハンスが知らないだけでアンドレアはそういったところがあったのかもしれない。
アンドレアは花の香りを楽しみながら、ハンスに視線をやった。
その魅惑的な視線にハンスは体が固まった。森に棲む妖精に魅入られたらこうなるんじゃないだろうか。
しばらく時間が流れた。
アンドレアは花を置いて、ハンスの目の前に立った。
ゆっくりとハンスの身体に腕を回した。
ハンスは取り憑かれたように動けなかった。
ハンスの固い胸板に体を預け、アンドレアはゆっくりと深呼吸をした。
「ああ、わたし、やっと帰ってきた気がするわ」
ハンスは何も言わなかった。それでもその肌を伝わる熱と鼓動が伝わってくる。
「抱いて」
長い沈黙の後、短く発した言葉に、グッと喉を鳴らす音がする。
挑むような瞳に対し、もうハンスの瞳も揺るがなかった。
大きな体をかがめて、後頭部、サラリと髪の合間に手が差し込まれる。首ごと大きな手で包まれて、唇を重ねてくる。
触れるような軽い口づけは一瞬。すぐに貪るような激しい口づけに変わる。
「っふ…、は」
苦しくなって、少し離れようとしても微動だにしない。ガッツリと首筋と、いつのまにか腰にも手をまされていた。
逃げるわけないのに、巨躯にすっぽりと包まれる。安心感のような気持ちと同時に、僅かにひるむ恐怖心。けれどそれはすぐに差し込まれた舌の熱さにかき消された。
少し乾いた唇とは対照的に、ハンスの舌は熱く濡れていてアンドレアの口内をゆっくりと蹂躙した。
熱く獣のような口づけだった。
体の奥から急速に火が灯るのがわかる。
夜着をするりとはだけさせ、肩が露出する。
ハンスの手がす、っと肩から胸へと滑り移動する。
分厚い手だ。痛いほどにガサガサとして、大きな手だった。その手が胸の突起に触れると、びくりと体が反応する。
やんわりと揉まれながら、ゆっくりと先端にも刺激を与えられる。
「ん…」
思わず漏れ出た声に、ハンスの口付けはやんだ。代わりに欲情した目を向けられ、当てられたように自分も下腹部が熱くなるのを感じる。
ハンスは身をかがめ、露わになった片方の乳房に舌を這わせた。何度も舌を絡めせいで彼の唇は既に濡れて光っている。
濡れた舌が突起を掠るたび、体がびくりと反応する。
もう片方の胸はまだ隠れているものの、そこに差し込まれた手がぎゅっと摘みながら撫で回す。荒れた手で触られる刺激が堪らなくて、つい太腿に力が入る。
「ハン、ス…」
もう立っていられない、と言葉にならない声に、彼はすぐに反応した。軽々とアンドレアの体を持ち上げると、寝台に横たわらせる。
するすると絹の夜着の紐を解いて、アンドレアの身体は露わになった。
首から肩、鎖骨から胸――腰からお腹――。ハンス手が体を撫で回す。アンドレアはたまらなくて閉じた内腿を曲げて力が入った。ハンスの手の分厚くのがさついた感覚は今まで経験したことのない感覚。
口を開けば何か言ってしまいそうで、アンドレアは両手で口を覆った。
ハンスはそれを無言で見つめた後、そっと立てた膝に手をかける。
「はっ…ぁ」
開かれ、下着だけのそこが露わになると、羞恥心で声が漏れる。ハンスはその声には反応せず、そっと下着に手を差し込んだ。
ぬっと顔が近づいてきて、また口づけを交わした。太い眉は今も寄せられていて鋭い眼もいつもと同じ。でも目の周囲が赤らんで、欲情を匂わせている。
それを見るとアンドレアも一気に体温が上がる気がするのだ。
舌を絡めている間に、下着に侵入した手が、敏感な突起を探るように刺激する。既に濡れていたそこは自身の滑りを借りてすぐに超絶な快感を生み出した。
もう片方の手は休みなく体を這っている。ハンスの手があまりに存在感がありすぎて、全身くまなく犯されているような気になる。
太い指が中へと入ってくる。いつのまにか下着も取り払われ、そこは遮るものもなく侵入を許した。
「んんっ……うぅ」
久しぶりに暴かれるその敏感な部分への刺激に、思わず声が漏れた。
「苦しいですか」
苦しい、と言ったらどうするのだろう。涙目になって見上げるが、息も荒く余裕のないハンスの顔がある。
「平気、よ」
太い指がゆっくりと動く。もう片方の手は胸を揉みしだき、その快感で中が更に濡れて行く気がする。
「ハンス……なにか、言って」
無言に耐えきれずに声を絞り出すと、ハンスは耐えるように声を絞り出した。
「美しいです、お嬢さま」
「ん……」
くちゅ、と音が聞こえてくる。中をかき回すように、探るようにゆっくりと指が動く。
「こんな滑らかな肌は初めてです。手に吸い付くようです」
言いながら肌を滑るハンスの手。
アンドレアは自分もハンスの肌に触れたくなって、彼のシャツのボタンを外した。
シャツの中も日焼けした肌。そして、硬い筋肉が胸も腹も覆っている。手を滑らせて胸板から背後へ手を回す。
自分の体温も上がっていたけれど、彼の体のほうがずっと熱かった。
硬い皮膚に抱きつくと、グッと身体に力が入ったのがわかる。
「くすぐったい?」
「いえ……」
3秒ほど耐えるように目を閉じたハンスは、息を吐き、さっと服を脱いだ。
まだ早朝であるため蝋燭はついたままだった。その明かりに照らされた筋肉が扇情的に見えて、アンドレアはつい魅入ってしまう。
「きれいな身体ね」
ハンスは少し目を見張った。
「お嬢さまがそれを…」
「まあ――っ」
思わず下半身を見て、アンドレアは口元に手をやった。
「あなた、なんて……大きいの」
ぎし、とベッドを鳴らし、ハンスがアンドレアに被さるように近づく。
「お嬢さまに触れたら、男は皆こうなると思います」
「いえ、そんな……入るかしら」
ハンスのそれは、今まで見た中で群を抜いて大きく反り立っていた。
「平気です。入るまで、ゆっくり解しますから」
「えっ、あ……」
話そうとする口を塞がれ、舌を絡め取られる。それに夢中になって答えようとすると、すっと離れて行く。ハンスはそのまま体をずらし、足の間に顔を埋めて……。
ぬるり、とした感触に思わず飛び上がり、逃げそうになって――ぐっと両手で太ももを掴まれる。
「や、ハン…ハンス!そんなっ、やあ……!」
敏感な突起を転がされ、吸われて、気持ちいいやら恥ずかしいやら、頭の中が真っ白になった。チカチカと星が飛ぶ。天井が回る。
ビクビクと体が跳ね、ようやくハンスの頭が離れた時には息も絶え絶えで。
それに息つく暇もなく、再び中にハンスの指が侵入してきた。今度は抵抗なくぬっ、と入る。ハンスの舌は今度は胸、首筋へと移動する。乳首をぎゅっと摘まれるが、すっかり欲情に傾いた身体にはどれも強烈な快感だった。
やがて中に入った指が、たまらない箇所を刺激する。身体の反応でハンスはすぐにそこを見抜き、繰り返し刺激した。
指を増やされ、首筋を舐められ、グチュグチュと音が室内に着替えるほどになって、アンドレアは回していたハンスの背中に思わず爪を立てた。
「ふ、う……ぅ、ハンス、ハン、す…もう、お願い」
「まだ少しきついです」
「つらいの……もう、駄目、お願い」
ハンスは一瞬考えるように止まり、おもむろに体を起こした。
アンドレアを抱き抱え、ハンスの体にもたれかからせる。
「ふう、う……ん」
後ろから手を回し愛撫を続ける。
「一度達して下さい。楽になるかは……分かりませんが」
「えっ、や、あ、ああっ―――!!!」
突然、襲い来る強烈な快感。座るような体制だからか、先ほどよりピンポイントで敏感な部分に当たる。
動きが激しくなり、ただ達するように強い刺激を与えられて――。
あっさりと、アンドレアは達した。
頭がぼうっとして、息が上がる。
快感に涙が出てくる。
再び横になって、アンドレアが、ぎし、と体を重ねる。
足の間に筋肉質な体が割り込む。
霞がかっていた頭がすこし冴え、僅かに体が強張る。
ぴと、と存在感のありすぎる熱いものが、入り口に当てられた。
「大丈夫です、お嬢さま」
ふう、と熱情に侵された熱い息を吐き、ハンスは耳元で低い声で囁いた。
「痛くしません。お願いします…」
怖くないといえば嘘になる。でも、この欲望を受け止めたい。
「大丈夫、痛くてもいいの。いれて……」
そのセリフが終わる前に、ぐぐ、とハンスのそれが分け入ってくる。
圧迫感が、すごい。でもそれは、やっときた、といった充足感に似た感覚だった。
もどかしく空虚だった部分に、埋められて行く、大きな、熱い……。
「ふう、う……はぁっ」
あまりの圧迫感に声を出さずにはいられなかった。それでも、それが苦痛ではなく、快感に浮かされた嬌声であるのを感じて、ハンスは更に分け入ってくる。
「うぅ……お、おく…」
そんな奥まで、という圧迫感だった。
どこまで、と思い見下ろした。
幸いというか、ハンスのそれは全部入ったようだった。
「入っ、た……のね」
「はい。ここに……」
つう、と入口に指をそわされ、体が跳ねる。
「お嬢さまの中……絡みついてきます」
言われて意識すると、思わず力が入る。自分でもぎゅっと絞めてしまったのが分かり、赤面する。
「くっ……それ、は、誘っているのですか」
「ちがっ……だってハンスの、すごい……存在感なんだもの。この、中にある形、くっきりわかるほど……あ、ああ!」
ぐぐ、と押され、言葉は悲鳴に近い声に変わった。
「ハンス、お願い、まずはゆっくり……」
「それは…難しいです」
「そう、よね……わかってるんだけど。――ここで動かれると、私、このままだと……ハンスのそれ、すごくて。どうなってしまうのか……ふう、ああ!!」
また言い終わる前に少し抜かれ、ずん、と突かれる。
「やあ!あ、ああ―――!!」
そこからは言葉は出せなかった。
ずん、ずん、と激しく突かれる。水音が響き、ぱん、ぱん!と激しい音が響く。
奥、おくに当たる――!!
ぱくぱくと口を開けるしかできない。
「お嬢さま、そんなに、締められると……もちません!先まで……入口が、吸い付いてきて……」
ハンスが少し動きを緩めて、苦しげに呻く。
アンドレアの目には涙が浮かんでいた。
「もういい、いいから、ハンスも――!!もうだめ、私、おかしく、なっちゃ……」
それを聞いてハンスは何も言わずに動きを激しくした。
「あ、あ。だめ、そこだめ…なに、か、出る…でちゃ……いや、や、ああっ、ふあぁあ―――」
激しく打ち付けられ、目の前が真っ黒になって、真っ白になって、チカチカして――。
あまりの快感に、悲鳴に近い嬌声が上がる。
一瞬意識が遠のきかけるほどだった。痺れるほどの快感。
水音が大きくなり、下半身が濡れそぼる。
ビクビクと達した体が痙攣するところへ、熱いものが放たれるのを感じる。
ハンスの汗ばんだ背中に血が滲むほど強く爪を立ててしまったのも、濡れた寝具を見てあまりの羞恥心で目を覆ったのも――。
考える前にハンスのそれはまた昂りを盛り返し。
「お嬢さま……」
欲望に濡れた目を向けられ、息も絶え絶えにアンドレアは頷くしかなかった。
結局、日が中天に差し掛かるまでアンドレアが気付いただけでも3度、ハンスの欲望は放たれた。アンドレアが達したのはその倍はあったと思う。
最後は意識が朦朧としていて、正直あまり覚えていない。
目を覚ましたのは遅い昼ごはんの頃だった。
ノックの音を遠くに聞き、アンドレアが身じろぎをすると、枕が動いた。――いや、ハンスの胸板だった。硬いと思ったら。
「――帰らずにいてくれたのね」
「ご無礼かとは思いましたが、その。手が……」
「あ――」
確かに、アンドレアの腕はしっかりとハンスの体に絡みついている。
「お起こしするかと思い、体を拭いている途中に」
なるほど、体を拭いている途中て絡みつかれ、そのまま添い寝してくれたということか。
アンドレアは重い体を動かして起きようときて――軋むような痛みに止まった。
「お嬢さま」
「ハンス、あなたはなんともないの?」
「はい」
飄々とした顔。
確かにそれだけ鍛えていたらなんともないのだろう。腕の太さだけでも、3倍くらいあるのではないだろうか。
「すごいわね。私ももう少し鍛えないとダメね」
声まで掠れている。
「湯を張って参ります」
「入れてくれるの?」
しばし固まってから、ハンスはゆっくりと頷いた。
「侍女を入れるよりも私でよろしいのでしたら、清めさせてもらいます」
「いいわね。まだ一緒にいたいもの」
面食らったような顔をして、ハンスはわずかに顔を赤らめている。巨体に厳しい顔つきの彼がこんな顔をするとは。
「抱き抱え、お身体を清めます。よろしければお身体のマッサージも」
「まあ、それは楽しみ!じゃあ、軽食も食べさせてもらおうかしら」
「はい」
ハンスはそっとシーツをアンドレアにかけ、ベルを鳴らした。
軽く衣服を纏う背中に、無数の爪痕が痛々しかったが、特に痛がるそぶりもない。
身体は気だるくとも、満たされた時間だった。
アンドレアはこの10年を振り返って、ようやく安息の時を得たのだと思えた。
なかなか子供に恵まれず、やっとできた伯爵家の一人娘。
平和な王国の、穏やかな気候に恵まれた伯爵家の、仲の良い両親の間に生まれた子だった。
幼い頃は伯爵領で愛に囲まれて育ち、10を過ぎると首都の屋敷で教育を受けながら淑女として花開きつつあった。
美しい金髪、透き通る青い瞳。
人形のような姿に、バースの宝石と噂された。
社交界はアンドレアが登場するのを、今か今かと待ち望んでいた。
そんな時。アンドレアの両親は突然の事故でこの世を去った。
あまりの突然のことに、屋敷も領地も、全ての機能を停止したかのようだった。
そして不幸は続く。
バース家の商船が、航路中消息を絶ったのだ。
商品の補填、乗組員の補償、それらは軽く領地の3年分の収入を超した。
それに加えて、例年にない不作続き。
領地を多く手放して、残ったのは首都にある屋敷のみとなった。
「お嬢様…このお屋敷を売ってしまっては、お嬢様はどこでお暮らしになるのです。なりません」
執政官はそう言った。しかしアンドレアは譲らなかった。
「だめよ。乗組員への補償を行わないままでは、バース商会は閉められないわ。お父様の名を、最後に汚して終わりたくないもの」
それに何より、自分と同じように親や夫を失った家族に。せめて暖かい食事は取れるようにしてやりたい。
もうすぐ寒い冬が来る。
備えのない領民が飢えることなど、決して両親は許さない筈だ、
きっと、よくやったね、アンドレア、と言ってくれる。
このアンドレアに救いの手を差し伸べたのは、60にもなろうという侯爵家の隠居した老人だった。
まだ残る借金を全て返済し、アンドレアを後妻として迎えたいという条件。
断ることはできなかった。
年老いた夫は家督を息子に譲り、領地で穏やかな余生を美しい妻と共に過ごしたい、というのだった。
涙の中見送られ、アンドレアは伯爵領を去った。
そうして10年。
――戻ってきた。
アンドレアは不思議な感覚だった。
10年前と同じ、朽ちていない伯爵領の屋敷である。
侯爵は伯爵領と屋敷を買い戻し、維持してくれていた。
夫の死と共にアンドレアは侯爵家の一切に関与しないという誓約書を交わし、ここへ戻ってきたのだった。
10年ぶりの我が家。
何も変わっていないように見えて、あの頃とは違う。
使用人も、壁紙も調度品も。
両親の思い出が期待していたほどは思い出されず、アンドレアは落胆していた。
アンドレアはまだ28だった。この寂しさの残る館で未亡人として何をして過ごせばいいのか。
何も思いつかなかった。
バルコニーに差す夕陽が眩しくて、庭のダリアがよく見えなかった。好きな花でも見て気分を変えようかと、ちょっと散歩するわ、とだけ言いおいて、そのままバルコニーから庭へ繰り出す。
雑草ひとつない整備された庭。
大輪に咲き誇る花を一輪、そういえばどんな香りだろうとふとしゃがんで手を伸ばした時だった。
ぬっと、影が差した。
力仕事を生業としてきた男らしく、筋肉質な巨体に、よく日に焼けた身体。
見上げると、庭師のハンスだ。
「ハンス?」
呼ぶと、ハンスは少し驚いたように目を見開いた。
白いシャツに、サスペンダーで吊るされた薄茶色のズボン。丸くつばのない帽子。典型的な下男の服装だ。伯爵家では庭師でも下男でも白いシャツを着せる。汚れたら何度でも着替えるように、執事のこだわりらしい。
立ち上がってみても、自分は彼の胸ほどの背もなかった。
「まだ作業していたの?」
「あ、いえ…」
「まあ」
今度はアンドレアが目を見開いた。
「あなた、そんな声だったの」
幼い時はまだ顔を合わせれば言葉を交わしていたのに、いつのまにか声を聞いた記憶がない。淑女教育が始まってからは何かと忙しく、顔を合わせたこともほとんどなかった。
驚いて開く口を軽く手で押さえてからそう言うと、アンドレアはふわりと笑う。
「昔と声が随分違ってて、驚いてしまったわ。それもそうよね、あなたと話したのはもう10年以上前のことだもの」
「俺の……」
言いかけてハンスはハッと口をつぐんだ。眉間に皺を寄せて、視線を落とす。
どうして何も言わないのかしら?
アンドレアは不思議そうな目をハンスに向けた。
次の言葉を促されているようで、ハンスは絞り出すように、ポツリと言う。
「わたしのことを、ご存じでしたか」
とても低音の、ぞくりとするほど良い声だった。アンドレアはその声をもっと聴いてみたいと思った。
「知っているに決まっているじゃない。一緒にこの庭で遊んだでしょう?私の2つ上のハンス。美しい鳥の巣を教えてくれて、秘密の道を教えてくれた。そうそう、植木の迷路を作ってくれたこともあったわね」
「作ったのは、師匠です」
ああ、やっぱり良い声だ。昔の面影などどこにもないこの男が、記憶の子供と同じ人物だと言うのにとても違和感を覚える。それでも、胸の奥から湧き上がる懐かしさと親しみは隠しようがなかった。
「お、おじょうさま」
そう言って、小さな体を精いっぱい伸ばし、がちがちに緊張して頭を下げていたのは、まだアンドレアの両親も健在の頃だ。自分より小さかったあの子が、少し見ないうちにこんなに大きくなるとは。
昔の懐かしい人物を見つけたことでアンドレアは少し息を吹き返したような気持ちがした。
「そう……レスターね。彼は元気なのかしら」
「元気にしています」
ハンスには親がいない。5つの時に先代庭師の一人であったレスターに引き取られ、仕事を仕込まれて働いている。親がいない子はそうして手に職をつけるものが多いが、ハンスは早めのスタートだった。
「夜にも手入れをしているの?」
「いえ、片付けていたところで」
見れば、少し離れたところに作業道具らしきものがある。
「影が動いたので、なにかと思い…失礼いたしました」
「そんなこと言わないで。久しぶりに会えて、とても嬉しいわ。ねえ、この花、私が一番好きな花。満開ね」
「お好きだと、お聞きしたので」
アンドレアは喜びで胸が温かくなった。こんな素直な温かみは久しぶりに感じることだった。
ダリアが好きだと、一番好きな花だと伝えたのはまだ5つか6つの頃だろう。ハンスはそれを覚えていて、自分が屋敷を出て、また戻ってくるまで十年、ずっと庭を守ってアンドレアの好きな花を増やしてくれていたのだ。
「覚えていてくれたのね」
ハンスは答えない。わずかに首を振る程度だ。あまり喋らない性格なのだろうか。喋るたびに、眉間に皺が刻まれる。もともとほりの深い顔に、眉間を寄せるとますます強面になる。それでも恐ろしさを少しも感じないのは、昔の記憶があるからだろうか。
アンドレアの後を必死でついてきたハンス。ドレスが汚れないようにと、触れることも遠慮していた小さなハンス。
「ハンス」
「はい」
「最近目覚めが悪くて。良い香りの花を届けてくれるかしら?」
「何がよろしいですか」
「そうね。優しい香りがいいわ」
あなたみたいに、と言う言葉を飲み込んだ。そう言うほどには、自分は今のハンスを知らない。
「メイドに届けておきます」
「あら、あなたが届けてくれないの?」
「自分は…お屋敷には」
「昔みたいに、届けてほしいわ。ほら、小さい時はよく、選んだ花をくれていたじゃない」
ハンスは戸惑った顔をしていた。険しい顔が戸惑いに揺れているのは見ていてとても面白かった。
「あれは、子供の…したことで」
庭で剪定した後、まだ綺麗だった花を1輪遊んでいる時に持ってきただけだ。アンドレアの部屋には常に美しい花たちが生けられていると、ハンスはもう知っている。
「じゃあ、今度は大人の花を選んでちょうだい。そうね、明日の朝がいいわ。朝露を含んだ花なんて、素敵」
「ご主人様…」
困った顔でハンスが次の言葉を出せずにいるのへ、アンドレアは重ねた。
「屋敷へ入りづらいなら、ここのバルコニーから入ったら良いわ。私はだいたいこの部屋にいるから、合図してちょうだい」
「そんな」
「せっかく屋敷の主人になって帰ってきたんだもの、それくらいの我儘は許されても良いと思わない?」
翌朝アンドレアは小さくガラスをたたく音に目を覚ました。
ハンスは約束通り、アンドレアに朝露の乗った美しい花を持ってきてくれた。
アンドレアはハンスを部屋に招き入れた。
ハンスはもちろん固辞していたが、強引に腕を引かれ誘い込まれる。
ハンスが気後れするのに対しアンドレアはおかしそうにくすくすとわらう。
以前の品行方正な淑女であったアンドレアとの変化にハンスはただ混乱していた。
10年前までは、花開く前の豪華な蕾のように淑やかでおとなしい女の子はもういないのか。
いや、もしかしたらハンスが知らないだけでアンドレアはそういったところがあったのかもしれない。
アンドレアは花の香りを楽しみながら、ハンスに視線をやった。
その魅惑的な視線にハンスは体が固まった。森に棲む妖精に魅入られたらこうなるんじゃないだろうか。
しばらく時間が流れた。
アンドレアは花を置いて、ハンスの目の前に立った。
ゆっくりとハンスの身体に腕を回した。
ハンスは取り憑かれたように動けなかった。
ハンスの固い胸板に体を預け、アンドレアはゆっくりと深呼吸をした。
「ああ、わたし、やっと帰ってきた気がするわ」
ハンスは何も言わなかった。それでもその肌を伝わる熱と鼓動が伝わってくる。
「抱いて」
長い沈黙の後、短く発した言葉に、グッと喉を鳴らす音がする。
挑むような瞳に対し、もうハンスの瞳も揺るがなかった。
大きな体をかがめて、後頭部、サラリと髪の合間に手が差し込まれる。首ごと大きな手で包まれて、唇を重ねてくる。
触れるような軽い口づけは一瞬。すぐに貪るような激しい口づけに変わる。
「っふ…、は」
苦しくなって、少し離れようとしても微動だにしない。ガッツリと首筋と、いつのまにか腰にも手をまされていた。
逃げるわけないのに、巨躯にすっぽりと包まれる。安心感のような気持ちと同時に、僅かにひるむ恐怖心。けれどそれはすぐに差し込まれた舌の熱さにかき消された。
少し乾いた唇とは対照的に、ハンスの舌は熱く濡れていてアンドレアの口内をゆっくりと蹂躙した。
熱く獣のような口づけだった。
体の奥から急速に火が灯るのがわかる。
夜着をするりとはだけさせ、肩が露出する。
ハンスの手がす、っと肩から胸へと滑り移動する。
分厚い手だ。痛いほどにガサガサとして、大きな手だった。その手が胸の突起に触れると、びくりと体が反応する。
やんわりと揉まれながら、ゆっくりと先端にも刺激を与えられる。
「ん…」
思わず漏れ出た声に、ハンスの口付けはやんだ。代わりに欲情した目を向けられ、当てられたように自分も下腹部が熱くなるのを感じる。
ハンスは身をかがめ、露わになった片方の乳房に舌を這わせた。何度も舌を絡めせいで彼の唇は既に濡れて光っている。
濡れた舌が突起を掠るたび、体がびくりと反応する。
もう片方の胸はまだ隠れているものの、そこに差し込まれた手がぎゅっと摘みながら撫で回す。荒れた手で触られる刺激が堪らなくて、つい太腿に力が入る。
「ハン、ス…」
もう立っていられない、と言葉にならない声に、彼はすぐに反応した。軽々とアンドレアの体を持ち上げると、寝台に横たわらせる。
するすると絹の夜着の紐を解いて、アンドレアの身体は露わになった。
首から肩、鎖骨から胸――腰からお腹――。ハンス手が体を撫で回す。アンドレアはたまらなくて閉じた内腿を曲げて力が入った。ハンスの手の分厚くのがさついた感覚は今まで経験したことのない感覚。
口を開けば何か言ってしまいそうで、アンドレアは両手で口を覆った。
ハンスはそれを無言で見つめた後、そっと立てた膝に手をかける。
「はっ…ぁ」
開かれ、下着だけのそこが露わになると、羞恥心で声が漏れる。ハンスはその声には反応せず、そっと下着に手を差し込んだ。
ぬっと顔が近づいてきて、また口づけを交わした。太い眉は今も寄せられていて鋭い眼もいつもと同じ。でも目の周囲が赤らんで、欲情を匂わせている。
それを見るとアンドレアも一気に体温が上がる気がするのだ。
舌を絡めている間に、下着に侵入した手が、敏感な突起を探るように刺激する。既に濡れていたそこは自身の滑りを借りてすぐに超絶な快感を生み出した。
もう片方の手は休みなく体を這っている。ハンスの手があまりに存在感がありすぎて、全身くまなく犯されているような気になる。
太い指が中へと入ってくる。いつのまにか下着も取り払われ、そこは遮るものもなく侵入を許した。
「んんっ……うぅ」
久しぶりに暴かれるその敏感な部分への刺激に、思わず声が漏れた。
「苦しいですか」
苦しい、と言ったらどうするのだろう。涙目になって見上げるが、息も荒く余裕のないハンスの顔がある。
「平気、よ」
太い指がゆっくりと動く。もう片方の手は胸を揉みしだき、その快感で中が更に濡れて行く気がする。
「ハンス……なにか、言って」
無言に耐えきれずに声を絞り出すと、ハンスは耐えるように声を絞り出した。
「美しいです、お嬢さま」
「ん……」
くちゅ、と音が聞こえてくる。中をかき回すように、探るようにゆっくりと指が動く。
「こんな滑らかな肌は初めてです。手に吸い付くようです」
言いながら肌を滑るハンスの手。
アンドレアは自分もハンスの肌に触れたくなって、彼のシャツのボタンを外した。
シャツの中も日焼けした肌。そして、硬い筋肉が胸も腹も覆っている。手を滑らせて胸板から背後へ手を回す。
自分の体温も上がっていたけれど、彼の体のほうがずっと熱かった。
硬い皮膚に抱きつくと、グッと身体に力が入ったのがわかる。
「くすぐったい?」
「いえ……」
3秒ほど耐えるように目を閉じたハンスは、息を吐き、さっと服を脱いだ。
まだ早朝であるため蝋燭はついたままだった。その明かりに照らされた筋肉が扇情的に見えて、アンドレアはつい魅入ってしまう。
「きれいな身体ね」
ハンスは少し目を見張った。
「お嬢さまがそれを…」
「まあ――っ」
思わず下半身を見て、アンドレアは口元に手をやった。
「あなた、なんて……大きいの」
ぎし、とベッドを鳴らし、ハンスがアンドレアに被さるように近づく。
「お嬢さまに触れたら、男は皆こうなると思います」
「いえ、そんな……入るかしら」
ハンスのそれは、今まで見た中で群を抜いて大きく反り立っていた。
「平気です。入るまで、ゆっくり解しますから」
「えっ、あ……」
話そうとする口を塞がれ、舌を絡め取られる。それに夢中になって答えようとすると、すっと離れて行く。ハンスはそのまま体をずらし、足の間に顔を埋めて……。
ぬるり、とした感触に思わず飛び上がり、逃げそうになって――ぐっと両手で太ももを掴まれる。
「や、ハン…ハンス!そんなっ、やあ……!」
敏感な突起を転がされ、吸われて、気持ちいいやら恥ずかしいやら、頭の中が真っ白になった。チカチカと星が飛ぶ。天井が回る。
ビクビクと体が跳ね、ようやくハンスの頭が離れた時には息も絶え絶えで。
それに息つく暇もなく、再び中にハンスの指が侵入してきた。今度は抵抗なくぬっ、と入る。ハンスの舌は今度は胸、首筋へと移動する。乳首をぎゅっと摘まれるが、すっかり欲情に傾いた身体にはどれも強烈な快感だった。
やがて中に入った指が、たまらない箇所を刺激する。身体の反応でハンスはすぐにそこを見抜き、繰り返し刺激した。
指を増やされ、首筋を舐められ、グチュグチュと音が室内に着替えるほどになって、アンドレアは回していたハンスの背中に思わず爪を立てた。
「ふ、う……ぅ、ハンス、ハン、す…もう、お願い」
「まだ少しきついです」
「つらいの……もう、駄目、お願い」
ハンスは一瞬考えるように止まり、おもむろに体を起こした。
アンドレアを抱き抱え、ハンスの体にもたれかからせる。
「ふう、う……ん」
後ろから手を回し愛撫を続ける。
「一度達して下さい。楽になるかは……分かりませんが」
「えっ、や、あ、ああっ―――!!!」
突然、襲い来る強烈な快感。座るような体制だからか、先ほどよりピンポイントで敏感な部分に当たる。
動きが激しくなり、ただ達するように強い刺激を与えられて――。
あっさりと、アンドレアは達した。
頭がぼうっとして、息が上がる。
快感に涙が出てくる。
再び横になって、アンドレアが、ぎし、と体を重ねる。
足の間に筋肉質な体が割り込む。
霞がかっていた頭がすこし冴え、僅かに体が強張る。
ぴと、と存在感のありすぎる熱いものが、入り口に当てられた。
「大丈夫です、お嬢さま」
ふう、と熱情に侵された熱い息を吐き、ハンスは耳元で低い声で囁いた。
「痛くしません。お願いします…」
怖くないといえば嘘になる。でも、この欲望を受け止めたい。
「大丈夫、痛くてもいいの。いれて……」
そのセリフが終わる前に、ぐぐ、とハンスのそれが分け入ってくる。
圧迫感が、すごい。でもそれは、やっときた、といった充足感に似た感覚だった。
もどかしく空虚だった部分に、埋められて行く、大きな、熱い……。
「ふう、う……はぁっ」
あまりの圧迫感に声を出さずにはいられなかった。それでも、それが苦痛ではなく、快感に浮かされた嬌声であるのを感じて、ハンスは更に分け入ってくる。
「うぅ……お、おく…」
そんな奥まで、という圧迫感だった。
どこまで、と思い見下ろした。
幸いというか、ハンスのそれは全部入ったようだった。
「入っ、た……のね」
「はい。ここに……」
つう、と入口に指をそわされ、体が跳ねる。
「お嬢さまの中……絡みついてきます」
言われて意識すると、思わず力が入る。自分でもぎゅっと絞めてしまったのが分かり、赤面する。
「くっ……それ、は、誘っているのですか」
「ちがっ……だってハンスの、すごい……存在感なんだもの。この、中にある形、くっきりわかるほど……あ、ああ!」
ぐぐ、と押され、言葉は悲鳴に近い声に変わった。
「ハンス、お願い、まずはゆっくり……」
「それは…難しいです」
「そう、よね……わかってるんだけど。――ここで動かれると、私、このままだと……ハンスのそれ、すごくて。どうなってしまうのか……ふう、ああ!!」
また言い終わる前に少し抜かれ、ずん、と突かれる。
「やあ!あ、ああ―――!!」
そこからは言葉は出せなかった。
ずん、ずん、と激しく突かれる。水音が響き、ぱん、ぱん!と激しい音が響く。
奥、おくに当たる――!!
ぱくぱくと口を開けるしかできない。
「お嬢さま、そんなに、締められると……もちません!先まで……入口が、吸い付いてきて……」
ハンスが少し動きを緩めて、苦しげに呻く。
アンドレアの目には涙が浮かんでいた。
「もういい、いいから、ハンスも――!!もうだめ、私、おかしく、なっちゃ……」
それを聞いてハンスは何も言わずに動きを激しくした。
「あ、あ。だめ、そこだめ…なに、か、出る…でちゃ……いや、や、ああっ、ふあぁあ―――」
激しく打ち付けられ、目の前が真っ黒になって、真っ白になって、チカチカして――。
あまりの快感に、悲鳴に近い嬌声が上がる。
一瞬意識が遠のきかけるほどだった。痺れるほどの快感。
水音が大きくなり、下半身が濡れそぼる。
ビクビクと達した体が痙攣するところへ、熱いものが放たれるのを感じる。
ハンスの汗ばんだ背中に血が滲むほど強く爪を立ててしまったのも、濡れた寝具を見てあまりの羞恥心で目を覆ったのも――。
考える前にハンスのそれはまた昂りを盛り返し。
「お嬢さま……」
欲望に濡れた目を向けられ、息も絶え絶えにアンドレアは頷くしかなかった。
結局、日が中天に差し掛かるまでアンドレアが気付いただけでも3度、ハンスの欲望は放たれた。アンドレアが達したのはその倍はあったと思う。
最後は意識が朦朧としていて、正直あまり覚えていない。
目を覚ましたのは遅い昼ごはんの頃だった。
ノックの音を遠くに聞き、アンドレアが身じろぎをすると、枕が動いた。――いや、ハンスの胸板だった。硬いと思ったら。
「――帰らずにいてくれたのね」
「ご無礼かとは思いましたが、その。手が……」
「あ――」
確かに、アンドレアの腕はしっかりとハンスの体に絡みついている。
「お起こしするかと思い、体を拭いている途中に」
なるほど、体を拭いている途中て絡みつかれ、そのまま添い寝してくれたということか。
アンドレアは重い体を動かして起きようときて――軋むような痛みに止まった。
「お嬢さま」
「ハンス、あなたはなんともないの?」
「はい」
飄々とした顔。
確かにそれだけ鍛えていたらなんともないのだろう。腕の太さだけでも、3倍くらいあるのではないだろうか。
「すごいわね。私ももう少し鍛えないとダメね」
声まで掠れている。
「湯を張って参ります」
「入れてくれるの?」
しばし固まってから、ハンスはゆっくりと頷いた。
「侍女を入れるよりも私でよろしいのでしたら、清めさせてもらいます」
「いいわね。まだ一緒にいたいもの」
面食らったような顔をして、ハンスはわずかに顔を赤らめている。巨体に厳しい顔つきの彼がこんな顔をするとは。
「抱き抱え、お身体を清めます。よろしければお身体のマッサージも」
「まあ、それは楽しみ!じゃあ、軽食も食べさせてもらおうかしら」
「はい」
ハンスはそっとシーツをアンドレアにかけ、ベルを鳴らした。
軽く衣服を纏う背中に、無数の爪痕が痛々しかったが、特に痛がるそぶりもない。
身体は気だるくとも、満たされた時間だった。
アンドレアはこの10年を振り返って、ようやく安息の時を得たのだと思えた。
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