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後日談1
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「ん、んんっ・・・やあっ――」
靄がかかったような頭の奥で、自分のものとは思えない嬌声が聞こえる。
普通なら顔を覆いたくなるほどに恥ずかしいそんな声も、今は気にしていられなかった、
「も、もう・・・ぃやっ」
終わりにして、と言おうとしたのにそれは言葉にならなかった。ジュリアスの少し硬い指が、ぎゅっと俺の胸の突起をつまんだから。
今夜も執拗に責め立てられ、気が付けば空は白み始めている。
おやすみのあいさつに、と不意打ちのようなキスから始まった熱の昂ぶりと、そこからの激しい交わり・・・。もう俺の中には、何度放たれたかもわからないジュリアスの精があふれており、俺の方ももう何も出るものはない、と硬さを失っているのに、だらだらと透明の液体だけ流れている。
体力も限界だった。そんな息も絶え絶えの俺に、ジュリアスは濃厚な口づけでさらに呼吸を苦しくさせる。
苦しくてつらくて、涙ににじんだ目尻にジュリアスの熱い舌が這った。
「ああ、ここも甘い・・・」
初めから今まで麻薬に侵された様な交わりだった。魔力の相性が良いほど体液の交換でもたらされる快感が大きいらしく、ジュリアスとのそれはまさにこの世のものとは思えないもの。本能に働きかける欲望を生じ、まさに恍惚だった。
「アスラ。つらいのか?かわいそうに」
やっと終わる。そんな期待を持った瞬間、ぐるりと背中を向けさせられ、そのまま後孔にまだ猛々しいものが挿入された。
「う、うううっ、ああ――!!」
信じられない。あれだけ出して、まだこんなに硬いなんて。
「アスラ。大丈夫、このまま、少し休憩しよう。動かないから」
動かないなら抜いてくれ!せめて抜いてから休んでくれ!!
もう声も出ないため心の中で叫ぶが、ジュリアスはふう、と息を吐くとサイドテーブルの水を口に含み、アスラに口づけで与えた。
「んっぐ、は、あ・・・ジュリアス、お願い、もう・・・無理」
身じろぎするだけで、ぐちゅ、と音が漏れる。後ろはもうジュリアスのもので満たされているのに、そんな音がするのがたまらなく恥ずかしい。
「そうだね、いい加減終わりにしようか。――はあ、幸せすぎる」
そういってぎゅっと後ろから抱きしめられる。挿入されたままジュリアスの膝に乗る形になっているのに、それでもまだジュリアスの顔は肩の上にある。彼の吐息が肩にかかり、びくりと身体が揺れる。
「ふっ・・・はは、締まったね。感じるの?こそばかった?ああ、白い肌が、真っ赤に花咲いて・・・」
そういいながら肩にチロチロと舌を舐め動かす。そのたびに俺の中が、ぎゅ、っとジュリアスのものを締め付け、そのせいで余計昂ぶりを増す。
「アスラ、そんなにぎゅ、ぎゅってされると・・・すぐ出てしまいそうだ。本当にアスラはここも健気で、愛らしい」
「そんな、つもりじゃ・・・」
「このままだと私ばかり気持ちいいから・・・」
何を言っているんだ、この男は。見てなかったのか俺が出したあれを。
反論の言葉も探せないまま、ジュリアスの手がお腹と胸の突起にするするとたどり着く。
胸はぐりぐりと優しかったり強かったり刺激され、時々爪でカリ、と引っ掻きながら通り過ぎる。そうされるたびに、後ろをぎゅっと締めてしまいジュリアスがふう、と悩まし気な声を上げる。
「熱くて、ぎゅうぎゅうして・・・ああ、アスラ。ここがもう溶けてしまいそうだ」
ぐっと、お腹の手に力を入れられる。ぐぐ、と押されて、快感の片隅で。切迫した強い衝動を感じた。
「・・・・・・・!?」
「ふふ・・・アスラ。ここからも、私の形が分かる。こんなところまで入ってる」
ぐりぐり、と腹の上から入っているそれを確かめるように押し動く。
「――じゅ、ジュリア、ス・・・?それ、だめ」
今までの快感に流される言葉ではなくて、本当に切迫した声が出た。その真剣さが伝わらないはずないのに、ジュリアスの声はからかうような風で。
「それって、こっち?」
ぎゅっと、胸をつままれ、びくりとはねる。つま先までびりっと電流が走ったような快感に声もあげられなかった。
「それとも、こっち?」
はねたタイミングと併せてお腹を押されて、全身に緊張が走った。
「ジュリ・・・ス、やめて。それ、だめ。本当に、だめなとこ押してる」
「だめじゃないよ。だってここを押すと、アスラ、一番締まる。ぎゅうぎゅう蠢いて、私のものを飲み込んで・・・早く出せと追い立てられるようだよ」
「いや、っや、だめだめだめだめ――・・・・・!!」
嫌だ、絶対だめだ。反射的に暴れようとするとジュリアスの手が一層強まった。手をのけようとして持っても、その武骨な手はびくともしない。逆にぐうっと押され、中で押し上げるジュリアスのものとに挟まれるように、一番敏感な部分を押しつぶされる。その周辺も強く押されて・・・。
ぷしゃっ――――――
とんでもない解放感とともに、俺の先端から、透明な液が飛散した。
後ろをぎゅうっと締め付けて中のものをより強く感じる。それが更に怒張し、熱いものが放たれるのを感じる。
「う。ああぁぁぁぁっ・・・」
声が抑えられず獣のような声が出た。余韻がいつまでも続いて、びくびくと身体が痙攣する。
ずるりとジュリアスのものが抜かれてもまだ余韻は続いていた。
過ぎた快感に目を白黒させているアスラを、ジュリアスはそれは愛おし気に抱きしめた。
「今のは長かったね。可愛い・・・」
「お、俺・・・も、もらし――」
今更隠しても仕方ないというのに、少し冷めてきた頭がとんでもない羞恥心にパニックになり、身体を丸めるしかなかった。
そんなアスラの後頭部、首、背中とジュリアスは順に口づけをやる。
「漏らしてないよ。気持ちいいと出るんだから、普通だよ。出してくれてうれしい」
言っていることが気持ち悪い。
呆然とそう思った瞬間、我慢の限界が来たのか、俺の意識はぷっつりと途切れた。
俺って意志の弱い人間だったんだなー。
はあ。
思わずため息がこぼれる。
というのも、ここ最近の自分の行動を振り返って、色々と思うことがあるからである。
急激な環境の変化に悩む暇なんてないままに、俺の新生活はスタートした。
城の中の別棟にあたる場所がジュリアスとアスラの現在の棲家になっている。使用人の数は最低限、とジュリアスは言っているが、前世の記憶で生きている身としては、お世話されるのに何かと抵抗がある。
あと、誰も彼も眼差しが、なんていうか・・・あつい。濃い。頼んでないのにあれもこれもやろうとするし、声をかければ大袈裟に反応するし。それこそ、腹を切れと言われたら従うんじゃないのかという勢いだ。
正直、あの教祖になったような接されようは、ちょっと怖いし、疲れる。
中でもその最たる信者は・・・。
「アスラ?どうした」
そう言って俺の頬を撫でる、手。
とにかく日常的にスキンシップが多いんだよな。
この恐ろしく顔のいいジュリアスと俺との関係は何かといえば、仕事仲間?だよな。ではなぜこんなに甘い雰囲気で手やら顔やら髪やらを触るのかというと・・・なんでなんだろうな。
そりゃあ、ちょっと俺もなし崩しに、やらなくていいのにやってしまったことは認める。
いやでも体液を交換したら発情してしまうからな。不可抗力だ。どうしても抗えないものかというと、まあ、どうしてもってことはないけど。いや、とても難しい。
そんな時にあのきらきらした顔で、好き好き言われたら、そりゃあさ。流されるよね。
今日は庭園のガゼボでティータイムをしている。四季があるのは日本と同じで、今は春。心地よい風が通り過ぎる。
俺はティーカップに入った紅茶を飲み干した。
「あのさ・・・」
「なんだい」
間髪入れず返事が返ってくる。
「仕事しなくていいの?」
「アスラが記憶を失って大変な時に、仕事なんてしていられないだろう」
「いや、でも生活に問題はないし、別にジュリアスがいなくても――」
思ったままを言ったのに、目に見えて落胆している。
「そう言うと思ったけどね・・・。さみしいよ、アスラ。私たち、やっと愛を確かめ合っ――」
「ちょい!」
聞いていられなくて、俺はジュリアスの唇をふさいだ。
今愛を確かめ合ったって言った?あれは確かめ合ったことになるんだろうか。
そりゃ、流されて、何度かその行為に至っている。それもかなり濃厚って思いもある。でもそれはジュリアスのスタイルだから、濃いのであって、いくら言っても聞いてくれない。そしてそれをなんだかんだ、受け入れてしまうというか、本気で拒否できない俺が悪いんだろうか。
何かを拒否した時のジュリアスの顔は、正直かわいそうすぎて、見ていられないと思ってしまう。
そもそも何日おきにアレが必要だとか、詳しい説明をまだ受けてないんだよね。それがまずい。
いっそそれを聞いて、必要最小限にしようと話し合おうか。高頻度にあんなことしてたら、身が持たない。なにより精神メンタルももたない。
この人本当にうまいんだよな。気が付くといつの間にかそういう甘い雰囲気になってる。怖い人だよ。
ちゅ、とジュリアスが俺の手を取って手首にキスを落とす。
ぞわっとしたのは不快感であって、感じたのではない。っ、絶対に。
「アスラ・・・こんなところで、今日は積極的だね」
「いやいやいや、待って。何が?本当に意味が分からないんだけど」
「アスラのその美しい手が私の口を襲ったら、私も我慢ができないよ」
「やめて。変な言い方するのやめて」
頭を抱えてから、ふう、と大きく息を吐く。
落ち着け、俺。
「あのさ。ちょっと確認しておきたいんだけど」
「ああ。何でも聞いてくれ」
ジュリアスは記憶を失ったアスラに、今日まで根気強く様々なことを教えてくれている。
「あの、例のさ・・・魔力の浄化って、どれくらいの頻度で必要なのかな、って」
ジュリアスは少し驚いたように眉を上げ、んん、とせきばらいをした。こころなしか頬を染めている。この顔を可愛いと思ってしまう時点で俺も相当やばいんだけど、まあこんなところで急に言われたらびっくりするよな。
「ごめん急に」
「いや、大丈夫だ。――アスラ。私はいつでも大丈夫だからね。アスラがやりたいときに声をかけてくれれば。そうだ、言いづらいなら合図を決めようか。アスラは奥ゆかしいから――」
「うん、ちがうな」
予想外の勘違いに、俺は一気に気持ちが覚めていくのを感じた。違うかった。この人のおかしさをなめてた。
なんで俺がやりたい話になってんだよ。
「ちがう?」
「うん。ずっと浄化しなかった場合、どれくらいでつらくなるのか聞いておきたいんだ」
ここはあえて事務的に行くことにした。幸いにもジュリアスは切り替えてくれる。いや、常時真剣なのかもしれない。それはそれで危ない奴だな。
「そうだな。どの程度の魔力を使うかによるかな。魔物の襲撃があれば討伐に出かけて、その時には一気に状態は悪くなるかもしれない。普段は結界の維持などに使っているので、まあ、そうだな・・・1週間もつかな」
「1週間・・・」
「ああ、でも日ごろからこうして触れ合ったりしていると、少し和らぐからもう少ししなくても平気かもしれない」
あ、もしかしてよく触ってくるのはそのせいか。
楽になるためっていうんなら、まあ、しょうがないかなあ。
そういわれるとこうして手をすりすりと握られても、まあ仕方ないかと思う。
そろそろティータイムもお開きか、といった時。
足音が聞こえ、一人の男がやってきた。
この別邸は厳しく人の出入りが制限されているので、知らない人が来るのは珍しい。自然とそちらに目が行く。
金の髪に、アメジストのような紫の眼が遠目でもわかる。
ジュリアスが素早く反応して立ち上がり、ガゼボを降りた。俺もそれについていく。
「何か用か」
そこまで厳しく誰何する声音ではないため、顔見知りなんだろう。ジュリアスより少し背が低いくらいで同じくらいの年齢に見える。こちらも恐ろしく整った顔だ。
「やあ。散歩の途中でね」
ジュリアスにこんなに堂々とした態度をとる人も珍しい。レイブンのように旧知の仲なんだろうか。
「そうか。今日は暇なんだな」
「そうなんだよね。最近長期休暇を申請した人がいたから忙しかったんだけど、やっとひと段落して。庭の花でも見ようかなって」
「それで、わざわざ別・邸・の・庭園まで、何の用だ」
ジュリアスは俺の前に立つ。ちょっと、君巨体なんだから。何も見えないんだけど。
「たまにはいつもと違う花を愛でようと思って」
うん、いいんじゃない?なんでこっちみるのかわからないけど。
ジュリアスはなんで黙ってるんだろう。後ろからだと表情が見えない。
「おお。ちょうどティータイムの時間だね。ご一緒してもいいかな」
「終わったところだ」
「またまたあ。私から呼ぶの、嫌かなと思って遠慮してるんだからさあ」
ジュリアスは煩わしい、といった表情を隠そうともせず半歩横にずれた。ジュリアスがちらりとこちらを見たから表情が見えた。
「アスラ。弟だ」
「久しぶりだね。――いや、初めましてと言ったほうがいいかな」
弟・・・つまり、国王!
ぎょっとして固まった。
国王ってもっと、マントみたいなのを羽織ったり冠乗せたりしてないものなの?いや、そりゃあんなの着てたら汚れるし重いし大変そうだけど。ジュリアスより軽装に見える。普通にシャツに上着を羽織っているだけだけど、言われてみると気品が漂うような・・・?そこまでジュリアスと似ているというわけではないが、髪の色だけはそっくりだ。
それで、国王への挨拶ってどうすればいいんだ。
「アスラ。気にすることはない」
ジュリアスは俺の肩を抱き寄せ、ちゅ、と頭にキスを一つ落とす。
「ちょっと離れたところに同居している親戚のおじさんとでも思っていろ。――今後そう顔を合わせることもないだろう」
「おじさんって・・・もっと他に紹介の仕様があるでしょう。聞いたよ。使用人をかなり減らして、遠ざけてるって」
「減らしていない。厳選しているところだ」
やれやれといったように肩をすくめ、国王は俺を見てにこやかに笑った。あ、優しそうな雰囲気の人だ。大理石でできたガゼボの椅子に座って、俺たちにも席を促す。すごい慣れた手つきだ。いつも一番に座っている人の動きだ。
ぼうっと見ていて、はっとする。
「あ、お茶、入れましょうか?えっと・・・国王陛下」
作法を知らないがおもてなししないとという気持ちになる。
「ヴィクトーと呼んでくれていいよ」
にこ、と笑いかけられる。そうするとジュリアスに似ている。つられてこちらも笑みがこぼれる。
「はい。ヴィクトー様。アスラです。えっと、ご存じかと思いますけど・・・改めて、お願いします」
格式ばった挨拶はわからないから気を遣ってくれたんじゃないかな。きっとそうだ。いい人だこの人。
単純かもしれないけど、一気に好感度が上がる。
「あ・・・お茶冷めてしまってるかな」
どうしようかな、と思ってヴィクトーを見ると、額に手を当ててうなだれている。
それは何というポーズだろう。
疲れてるのかな?仕事帰りで。
「大丈夫ですか?えっと・・・」
「はあ・・・これは困ったな。困ったよ兄上!」
「うるさい、わかってる」
「え?え・・・」
「ああ――違う意味で歩く凶器になりそうだ」
歩く凶器。それレイブンも言ってた。昔の俺の事か。
ヴィクトーは手を挙げて合図を送ると、どこからか使用人がお茶を持ってくる。気配を感じなかったけど、控えていたらしい。
「アスラ、もう少し慣れるまではこの別邸から出ないほうがいいよ。当面兄上に出てもらわないとならない案件もなさそうだしね。――ああ、でも本宮には遊びに来てほしいな。妻と子にまた会ってやってくれ。家族なんだから、遠慮はいらないよ」
「はい」
「その時は兄上と一緒にね」
勧められてお茶を飲むと、ほのかな甘みに顔がほころぶ。
「あ、おいしい・・・」
「うっ・・・」
ヴィクトーのうめき声が聞こえる。
「アスラ。何か欲しいものない?おじさんがなんでも買ってあげ――」
「帰れ」
そこからは早かった。何やら文句を言う国王に対し、無礼じゃないかというレベルでジュリアスは体を押しやり追いだそうとした。ちょっと、やめなよと言う俺にこれだけは聞けないとさらに怒るし。ヴィクトーはへらへらと楽しそうにしているし。
最後に諦めたように席を立ってから、
「わかった、帰るよ、帰るって。――アスラ、また来るね。兄上をよろしく頼む。本当に、よかった・・・」
その言葉が心底兄を思いやっているようで、なんだか俺まで気持ちが温かくなった。ジュリアスのつらい日々を知っているからこそなんだろうな。俺に会いに、これを言いに来たのかな。
めっちゃいい弟じゃん。
ジュリアスを見上げるとうっとうしそうにやっと帰った、と呟いている。
「仲いいんだね」
これには片眉を上げて変な顔をする。珍しい顔だ。
「変な事言ったかな」
「いや、そういう表現は、初めてされてびっくりしただけだ」
兄弟で王位争いみたいなこと?見た感じは仲良し兄弟みたいだけど。
「そうだな。お互いの幸せを願うくらいには、いい関係だ。王位をあっさり代わると言ってくれたのは感謝している」
「俺、以前はヴィクトー様にも、その・・・」
罵声浴びせたり色々してたのかな。記憶がないから恥ずかしがりようもないけど、なんとなく気になった。でも何と言っていいのかわからなくて言いよどむ。
「いや、すれ違う程度でほとんど交流はなかった。――だがアスラ。あなたは過去のことは気にしなくていいんだ。言ったでしょう」
「でも、俺がやったことだったら。・・・気にしないわけにいかないよ。俺が忘れてるのに、みんな傷ついたままでしょ。それなのに知らんぷりってものさ。かといって、知らないのに謝るのも変な話のような。――難しいね」
ジュリアスがぎゅっと抱きしめてくる。いつの間にかそのぬくもりは安心できるものになっていた。
「アスラ。あなたは今のあなただけだ。消えた過去の罪まで背負おうとしないでほしい。何度も言うが、あなたがここに存在するというだけで、この国の祝福なんだ、もっと胸を張ってほしい」
「うん・・・」
「どうしても気にするというなら」
ジュリアスがちゅ、と唇を重ねてくる。
「もっと私を気にしてほしい」
「ちょ、ここ・・・ん、む・・・」
外でやめてと口を開いたつもりが、何を思ったかその開いた隙に舌を挿し込まれる。そのまま優しく撫でるように、ゆっくりと味わうように動かれて、どんどん力が抜けていく。
胸を押しやろうとしてもそもそもびくともしないし、力も出ない。
「アスラ。ああ、甘い。どうしたらいい。食べてしまいたい」
息も荒く、ジュリアスの舌が首筋を這い、もう立っていられなくなったおれはジュリアスに密着して腰だけで支えられている。そうすると立ち上がりかけたお互いのものを嫌でも感じた。
「アスラ。ああ、可愛い」
舌を這わされたところはたまらなく熱く、耳朶を甘噛みされて小さく悲鳴が上がる。
「ひゃっ・・・あ、やめ・・ジュリ――ア、ふぅ!」
制止の声によってなのか、ジュリアスは耳を噛むのをやめた。しかし再び唇に戻ってきて、また口づけを交わされる。
どのくらいそうしていたのかわからない時間だった。
もう体がすっかり熱くなって、どちらの息づかいかわからなくなってくる。ようやく顔が離れて、間近に灰色の瞳と目が合った。
「アスラ。こんなに目を潤ませて、赤い唇で・・・どうしたらいい」
はあはあと、荒い息遣いがジュリアスの興奮を伝える。
俺だってもう、限界だ。この熱をどう処理すればいいか、知っている。それでも今日は、今日こそは、どうしてもはっきりさせておきたかった。なのに急にこんな。
涙が滲み出てきた。
「う、ジュリ・・・ス」
目に見えてジュリアスが慌てる。
「あ、アスラ?どうした、どこか痛いのか」
「ひど・・・ひどいよジュリアス」
体の熱と相まって、もう自分がどんな顔で何を言っているのかも分からない。
泣いてしまった俺をジュリアスが必死で宥め、俺はただもうどうしていいかわからないまま泣きじゃくってしまった。
俺が落ち着いて泣き止むまでジュリアスがこの世の終わりみたいな顔をして右往左往するのを見ながら、俺はこの時初めて、時間を経過すれば熱が収まってくれるのだということを知った。
「ごめん・・・すごい恥ずかしい」
俺の部屋。
あれから俺はジュリアスに抱えられ、部屋に連れてこられて、ひたすら抱っこでよしよしされた。
「あれさ・・・情緒不安定にするんじゃないかな」
泣いた理由をつけたくて、恥ずかしさをやわらげたくて言ったことだったがジュリアスは乗っかってくれた。
「一種の酩酊状態だから、そうだな。なると思う」
今なら何でも、何を言っても、はいそうですねと言いそうな勢いだ。
「そもそもさ、俺はやめてって言ったのに」
「それはきこえなかっ・・・いや、すまない」
「外ですることじゃないよね」
「ああ、そう・・・だな」
思ってないのに言っている返事だ。
「前から言おうと思ってたんだけど」
今しかない。はっきりさせておこう。
「その・・・すぐキスするの、やめてくれないかな。それされるともう何も考えられなくなって、結局その・・・あれ、しちゃうでしょ」
ジュリアスは心底驚いたようで目を見張っていた。
そうか。俺が嫌だなんて微塵も思ってなかったんだな。ノリノリと思われてたのかな。
「1週間はしなくていいって言ってたけど、ほら、俺たち毎日のようにやってたじゃん。必要ないのにやる必要はないかなって、思って」
言葉を選んで言うものの、難しいな。流されて最後までやっちゃってるだけに。
ジュリアスの反応をうかがいたいのに、彼は固まったまま微動だにしなかった。
「ジュリアス?」
返事もない。
「あ、もちろん、ちゃんと浄化するから。心配しないでね」
元気づけようと言ったが、ジュリアスは少しも動かないままだった。さっきより顔色が悪い気がする。
「まさか・・・アスラ、あなたは、つまり、浄化の時のみがいい、と?」
「うん」
よかった。わかってくれた。
ほっとしたため、つい食い気味に返事してしまった。
ジュリアスの灰色の瞳が余裕なく揺れている。動揺している。
「あ、アスラ・・・まさか――あなたは、私との交わりは好きではない・・・?」
「好き!?えっと好きか・・・嫌いかで答えないとだめ・・・?」
そんな風に言われたら、嫌ですともいえない。嫌々やってるなんて言われたら、つらい過去を思い出させるし、それは嫌だ。そもそも嫌というわけではない。
しかし好きかと言われると、そこは疑問だ。過ぎた快楽はやっぱりつらいし、恥ずかしい。慣れてないんだ。
ジュリアスは口元を抑え、一歩下がった。
「いや、いい・・・。答えなくていい」
そのまま数歩下がり、ガタン、と椅子にぶつかる。
「すまない。私は、てっきり・・・」
ジュリアスのくぐもった声が聞こえる。
え、ちょっと待って。そんなにショックだった?何か誤解してない?
「ジュリアス?」
「いいんだ!」
手で制され。俺はちょっとびっくりして止まる。大きな声を出されるのは珍しい。
「私は先走ってしまっていたのか。あなたは優しすぎるから・・・私は、また間違いを・・・」
この世の終わりのような顔になっていっている。その顔を見た途端、しまった、失敗したと胸が締め付けられる。
「ジュリアス。ごめん。そうじゃなくて――」
「すまない」
きっぱりと、しっかりした声で言われる。
拒絶にも似た声だ。目も合わせてくれない。
「あなたが謝る必要はない。――謝らないでくれ」
ジュリアスが入り口に向かった。その背中を追いかけようとして、なんと声をかけるか迷っている間に。
「夕食まで、少し・・・頭を冷やしてくる」
そういってジュリアスは部屋を出ていった。
今まで片時も離れようとしなったのに、あっさり。
追いかけるべきか?でも、なんて言おうか。勘違いだった?いったい何の。
とりあえず必要な量を行おうと言いたかったのは本心だし、そこを訂正しても言ったことは取り消せない。
何がすれ違っているのかもよくわからないから何と言っていいのかわからない。
とにかく傷つけたのは確かだが。
胸に重い石でも詰まったような感覚に、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
靄がかかったような頭の奥で、自分のものとは思えない嬌声が聞こえる。
普通なら顔を覆いたくなるほどに恥ずかしいそんな声も、今は気にしていられなかった、
「も、もう・・・ぃやっ」
終わりにして、と言おうとしたのにそれは言葉にならなかった。ジュリアスの少し硬い指が、ぎゅっと俺の胸の突起をつまんだから。
今夜も執拗に責め立てられ、気が付けば空は白み始めている。
おやすみのあいさつに、と不意打ちのようなキスから始まった熱の昂ぶりと、そこからの激しい交わり・・・。もう俺の中には、何度放たれたかもわからないジュリアスの精があふれており、俺の方ももう何も出るものはない、と硬さを失っているのに、だらだらと透明の液体だけ流れている。
体力も限界だった。そんな息も絶え絶えの俺に、ジュリアスは濃厚な口づけでさらに呼吸を苦しくさせる。
苦しくてつらくて、涙ににじんだ目尻にジュリアスの熱い舌が這った。
「ああ、ここも甘い・・・」
初めから今まで麻薬に侵された様な交わりだった。魔力の相性が良いほど体液の交換でもたらされる快感が大きいらしく、ジュリアスとのそれはまさにこの世のものとは思えないもの。本能に働きかける欲望を生じ、まさに恍惚だった。
「アスラ。つらいのか?かわいそうに」
やっと終わる。そんな期待を持った瞬間、ぐるりと背中を向けさせられ、そのまま後孔にまだ猛々しいものが挿入された。
「う、うううっ、ああ――!!」
信じられない。あれだけ出して、まだこんなに硬いなんて。
「アスラ。大丈夫、このまま、少し休憩しよう。動かないから」
動かないなら抜いてくれ!せめて抜いてから休んでくれ!!
もう声も出ないため心の中で叫ぶが、ジュリアスはふう、と息を吐くとサイドテーブルの水を口に含み、アスラに口づけで与えた。
「んっぐ、は、あ・・・ジュリアス、お願い、もう・・・無理」
身じろぎするだけで、ぐちゅ、と音が漏れる。後ろはもうジュリアスのもので満たされているのに、そんな音がするのがたまらなく恥ずかしい。
「そうだね、いい加減終わりにしようか。――はあ、幸せすぎる」
そういってぎゅっと後ろから抱きしめられる。挿入されたままジュリアスの膝に乗る形になっているのに、それでもまだジュリアスの顔は肩の上にある。彼の吐息が肩にかかり、びくりと身体が揺れる。
「ふっ・・・はは、締まったね。感じるの?こそばかった?ああ、白い肌が、真っ赤に花咲いて・・・」
そういいながら肩にチロチロと舌を舐め動かす。そのたびに俺の中が、ぎゅ、っとジュリアスのものを締め付け、そのせいで余計昂ぶりを増す。
「アスラ、そんなにぎゅ、ぎゅってされると・・・すぐ出てしまいそうだ。本当にアスラはここも健気で、愛らしい」
「そんな、つもりじゃ・・・」
「このままだと私ばかり気持ちいいから・・・」
何を言っているんだ、この男は。見てなかったのか俺が出したあれを。
反論の言葉も探せないまま、ジュリアスの手がお腹と胸の突起にするするとたどり着く。
胸はぐりぐりと優しかったり強かったり刺激され、時々爪でカリ、と引っ掻きながら通り過ぎる。そうされるたびに、後ろをぎゅっと締めてしまいジュリアスがふう、と悩まし気な声を上げる。
「熱くて、ぎゅうぎゅうして・・・ああ、アスラ。ここがもう溶けてしまいそうだ」
ぐっと、お腹の手に力を入れられる。ぐぐ、と押されて、快感の片隅で。切迫した強い衝動を感じた。
「・・・・・・・!?」
「ふふ・・・アスラ。ここからも、私の形が分かる。こんなところまで入ってる」
ぐりぐり、と腹の上から入っているそれを確かめるように押し動く。
「――じゅ、ジュリア、ス・・・?それ、だめ」
今までの快感に流される言葉ではなくて、本当に切迫した声が出た。その真剣さが伝わらないはずないのに、ジュリアスの声はからかうような風で。
「それって、こっち?」
ぎゅっと、胸をつままれ、びくりとはねる。つま先までびりっと電流が走ったような快感に声もあげられなかった。
「それとも、こっち?」
はねたタイミングと併せてお腹を押されて、全身に緊張が走った。
「ジュリ・・・ス、やめて。それ、だめ。本当に、だめなとこ押してる」
「だめじゃないよ。だってここを押すと、アスラ、一番締まる。ぎゅうぎゅう蠢いて、私のものを飲み込んで・・・早く出せと追い立てられるようだよ」
「いや、っや、だめだめだめだめ――・・・・・!!」
嫌だ、絶対だめだ。反射的に暴れようとするとジュリアスの手が一層強まった。手をのけようとして持っても、その武骨な手はびくともしない。逆にぐうっと押され、中で押し上げるジュリアスのものとに挟まれるように、一番敏感な部分を押しつぶされる。その周辺も強く押されて・・・。
ぷしゃっ――――――
とんでもない解放感とともに、俺の先端から、透明な液が飛散した。
後ろをぎゅうっと締め付けて中のものをより強く感じる。それが更に怒張し、熱いものが放たれるのを感じる。
「う。ああぁぁぁぁっ・・・」
声が抑えられず獣のような声が出た。余韻がいつまでも続いて、びくびくと身体が痙攣する。
ずるりとジュリアスのものが抜かれてもまだ余韻は続いていた。
過ぎた快感に目を白黒させているアスラを、ジュリアスはそれは愛おし気に抱きしめた。
「今のは長かったね。可愛い・・・」
「お、俺・・・も、もらし――」
今更隠しても仕方ないというのに、少し冷めてきた頭がとんでもない羞恥心にパニックになり、身体を丸めるしかなかった。
そんなアスラの後頭部、首、背中とジュリアスは順に口づけをやる。
「漏らしてないよ。気持ちいいと出るんだから、普通だよ。出してくれてうれしい」
言っていることが気持ち悪い。
呆然とそう思った瞬間、我慢の限界が来たのか、俺の意識はぷっつりと途切れた。
俺って意志の弱い人間だったんだなー。
はあ。
思わずため息がこぼれる。
というのも、ここ最近の自分の行動を振り返って、色々と思うことがあるからである。
急激な環境の変化に悩む暇なんてないままに、俺の新生活はスタートした。
城の中の別棟にあたる場所がジュリアスとアスラの現在の棲家になっている。使用人の数は最低限、とジュリアスは言っているが、前世の記憶で生きている身としては、お世話されるのに何かと抵抗がある。
あと、誰も彼も眼差しが、なんていうか・・・あつい。濃い。頼んでないのにあれもこれもやろうとするし、声をかければ大袈裟に反応するし。それこそ、腹を切れと言われたら従うんじゃないのかという勢いだ。
正直、あの教祖になったような接されようは、ちょっと怖いし、疲れる。
中でもその最たる信者は・・・。
「アスラ?どうした」
そう言って俺の頬を撫でる、手。
とにかく日常的にスキンシップが多いんだよな。
この恐ろしく顔のいいジュリアスと俺との関係は何かといえば、仕事仲間?だよな。ではなぜこんなに甘い雰囲気で手やら顔やら髪やらを触るのかというと・・・なんでなんだろうな。
そりゃあ、ちょっと俺もなし崩しに、やらなくていいのにやってしまったことは認める。
いやでも体液を交換したら発情してしまうからな。不可抗力だ。どうしても抗えないものかというと、まあ、どうしてもってことはないけど。いや、とても難しい。
そんな時にあのきらきらした顔で、好き好き言われたら、そりゃあさ。流されるよね。
今日は庭園のガゼボでティータイムをしている。四季があるのは日本と同じで、今は春。心地よい風が通り過ぎる。
俺はティーカップに入った紅茶を飲み干した。
「あのさ・・・」
「なんだい」
間髪入れず返事が返ってくる。
「仕事しなくていいの?」
「アスラが記憶を失って大変な時に、仕事なんてしていられないだろう」
「いや、でも生活に問題はないし、別にジュリアスがいなくても――」
思ったままを言ったのに、目に見えて落胆している。
「そう言うと思ったけどね・・・。さみしいよ、アスラ。私たち、やっと愛を確かめ合っ――」
「ちょい!」
聞いていられなくて、俺はジュリアスの唇をふさいだ。
今愛を確かめ合ったって言った?あれは確かめ合ったことになるんだろうか。
そりゃ、流されて、何度かその行為に至っている。それもかなり濃厚って思いもある。でもそれはジュリアスのスタイルだから、濃いのであって、いくら言っても聞いてくれない。そしてそれをなんだかんだ、受け入れてしまうというか、本気で拒否できない俺が悪いんだろうか。
何かを拒否した時のジュリアスの顔は、正直かわいそうすぎて、見ていられないと思ってしまう。
そもそも何日おきにアレが必要だとか、詳しい説明をまだ受けてないんだよね。それがまずい。
いっそそれを聞いて、必要最小限にしようと話し合おうか。高頻度にあんなことしてたら、身が持たない。なにより精神メンタルももたない。
この人本当にうまいんだよな。気が付くといつの間にかそういう甘い雰囲気になってる。怖い人だよ。
ちゅ、とジュリアスが俺の手を取って手首にキスを落とす。
ぞわっとしたのは不快感であって、感じたのではない。っ、絶対に。
「アスラ・・・こんなところで、今日は積極的だね」
「いやいやいや、待って。何が?本当に意味が分からないんだけど」
「アスラのその美しい手が私の口を襲ったら、私も我慢ができないよ」
「やめて。変な言い方するのやめて」
頭を抱えてから、ふう、と大きく息を吐く。
落ち着け、俺。
「あのさ。ちょっと確認しておきたいんだけど」
「ああ。何でも聞いてくれ」
ジュリアスは記憶を失ったアスラに、今日まで根気強く様々なことを教えてくれている。
「あの、例のさ・・・魔力の浄化って、どれくらいの頻度で必要なのかな、って」
ジュリアスは少し驚いたように眉を上げ、んん、とせきばらいをした。こころなしか頬を染めている。この顔を可愛いと思ってしまう時点で俺も相当やばいんだけど、まあこんなところで急に言われたらびっくりするよな。
「ごめん急に」
「いや、大丈夫だ。――アスラ。私はいつでも大丈夫だからね。アスラがやりたいときに声をかけてくれれば。そうだ、言いづらいなら合図を決めようか。アスラは奥ゆかしいから――」
「うん、ちがうな」
予想外の勘違いに、俺は一気に気持ちが覚めていくのを感じた。違うかった。この人のおかしさをなめてた。
なんで俺がやりたい話になってんだよ。
「ちがう?」
「うん。ずっと浄化しなかった場合、どれくらいでつらくなるのか聞いておきたいんだ」
ここはあえて事務的に行くことにした。幸いにもジュリアスは切り替えてくれる。いや、常時真剣なのかもしれない。それはそれで危ない奴だな。
「そうだな。どの程度の魔力を使うかによるかな。魔物の襲撃があれば討伐に出かけて、その時には一気に状態は悪くなるかもしれない。普段は結界の維持などに使っているので、まあ、そうだな・・・1週間もつかな」
「1週間・・・」
「ああ、でも日ごろからこうして触れ合ったりしていると、少し和らぐからもう少ししなくても平気かもしれない」
あ、もしかしてよく触ってくるのはそのせいか。
楽になるためっていうんなら、まあ、しょうがないかなあ。
そういわれるとこうして手をすりすりと握られても、まあ仕方ないかと思う。
そろそろティータイムもお開きか、といった時。
足音が聞こえ、一人の男がやってきた。
この別邸は厳しく人の出入りが制限されているので、知らない人が来るのは珍しい。自然とそちらに目が行く。
金の髪に、アメジストのような紫の眼が遠目でもわかる。
ジュリアスが素早く反応して立ち上がり、ガゼボを降りた。俺もそれについていく。
「何か用か」
そこまで厳しく誰何する声音ではないため、顔見知りなんだろう。ジュリアスより少し背が低いくらいで同じくらいの年齢に見える。こちらも恐ろしく整った顔だ。
「やあ。散歩の途中でね」
ジュリアスにこんなに堂々とした態度をとる人も珍しい。レイブンのように旧知の仲なんだろうか。
「そうか。今日は暇なんだな」
「そうなんだよね。最近長期休暇を申請した人がいたから忙しかったんだけど、やっとひと段落して。庭の花でも見ようかなって」
「それで、わざわざ別・邸・の・庭園まで、何の用だ」
ジュリアスは俺の前に立つ。ちょっと、君巨体なんだから。何も見えないんだけど。
「たまにはいつもと違う花を愛でようと思って」
うん、いいんじゃない?なんでこっちみるのかわからないけど。
ジュリアスはなんで黙ってるんだろう。後ろからだと表情が見えない。
「おお。ちょうどティータイムの時間だね。ご一緒してもいいかな」
「終わったところだ」
「またまたあ。私から呼ぶの、嫌かなと思って遠慮してるんだからさあ」
ジュリアスは煩わしい、といった表情を隠そうともせず半歩横にずれた。ジュリアスがちらりとこちらを見たから表情が見えた。
「アスラ。弟だ」
「久しぶりだね。――いや、初めましてと言ったほうがいいかな」
弟・・・つまり、国王!
ぎょっとして固まった。
国王ってもっと、マントみたいなのを羽織ったり冠乗せたりしてないものなの?いや、そりゃあんなの着てたら汚れるし重いし大変そうだけど。ジュリアスより軽装に見える。普通にシャツに上着を羽織っているだけだけど、言われてみると気品が漂うような・・・?そこまでジュリアスと似ているというわけではないが、髪の色だけはそっくりだ。
それで、国王への挨拶ってどうすればいいんだ。
「アスラ。気にすることはない」
ジュリアスは俺の肩を抱き寄せ、ちゅ、と頭にキスを一つ落とす。
「ちょっと離れたところに同居している親戚のおじさんとでも思っていろ。――今後そう顔を合わせることもないだろう」
「おじさんって・・・もっと他に紹介の仕様があるでしょう。聞いたよ。使用人をかなり減らして、遠ざけてるって」
「減らしていない。厳選しているところだ」
やれやれといったように肩をすくめ、国王は俺を見てにこやかに笑った。あ、優しそうな雰囲気の人だ。大理石でできたガゼボの椅子に座って、俺たちにも席を促す。すごい慣れた手つきだ。いつも一番に座っている人の動きだ。
ぼうっと見ていて、はっとする。
「あ、お茶、入れましょうか?えっと・・・国王陛下」
作法を知らないがおもてなししないとという気持ちになる。
「ヴィクトーと呼んでくれていいよ」
にこ、と笑いかけられる。そうするとジュリアスに似ている。つられてこちらも笑みがこぼれる。
「はい。ヴィクトー様。アスラです。えっと、ご存じかと思いますけど・・・改めて、お願いします」
格式ばった挨拶はわからないから気を遣ってくれたんじゃないかな。きっとそうだ。いい人だこの人。
単純かもしれないけど、一気に好感度が上がる。
「あ・・・お茶冷めてしまってるかな」
どうしようかな、と思ってヴィクトーを見ると、額に手を当ててうなだれている。
それは何というポーズだろう。
疲れてるのかな?仕事帰りで。
「大丈夫ですか?えっと・・・」
「はあ・・・これは困ったな。困ったよ兄上!」
「うるさい、わかってる」
「え?え・・・」
「ああ――違う意味で歩く凶器になりそうだ」
歩く凶器。それレイブンも言ってた。昔の俺の事か。
ヴィクトーは手を挙げて合図を送ると、どこからか使用人がお茶を持ってくる。気配を感じなかったけど、控えていたらしい。
「アスラ、もう少し慣れるまではこの別邸から出ないほうがいいよ。当面兄上に出てもらわないとならない案件もなさそうだしね。――ああ、でも本宮には遊びに来てほしいな。妻と子にまた会ってやってくれ。家族なんだから、遠慮はいらないよ」
「はい」
「その時は兄上と一緒にね」
勧められてお茶を飲むと、ほのかな甘みに顔がほころぶ。
「あ、おいしい・・・」
「うっ・・・」
ヴィクトーのうめき声が聞こえる。
「アスラ。何か欲しいものない?おじさんがなんでも買ってあげ――」
「帰れ」
そこからは早かった。何やら文句を言う国王に対し、無礼じゃないかというレベルでジュリアスは体を押しやり追いだそうとした。ちょっと、やめなよと言う俺にこれだけは聞けないとさらに怒るし。ヴィクトーはへらへらと楽しそうにしているし。
最後に諦めたように席を立ってから、
「わかった、帰るよ、帰るって。――アスラ、また来るね。兄上をよろしく頼む。本当に、よかった・・・」
その言葉が心底兄を思いやっているようで、なんだか俺まで気持ちが温かくなった。ジュリアスのつらい日々を知っているからこそなんだろうな。俺に会いに、これを言いに来たのかな。
めっちゃいい弟じゃん。
ジュリアスを見上げるとうっとうしそうにやっと帰った、と呟いている。
「仲いいんだね」
これには片眉を上げて変な顔をする。珍しい顔だ。
「変な事言ったかな」
「いや、そういう表現は、初めてされてびっくりしただけだ」
兄弟で王位争いみたいなこと?見た感じは仲良し兄弟みたいだけど。
「そうだな。お互いの幸せを願うくらいには、いい関係だ。王位をあっさり代わると言ってくれたのは感謝している」
「俺、以前はヴィクトー様にも、その・・・」
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「いや、すれ違う程度でほとんど交流はなかった。――だがアスラ。あなたは過去のことは気にしなくていいんだ。言ったでしょう」
「でも、俺がやったことだったら。・・・気にしないわけにいかないよ。俺が忘れてるのに、みんな傷ついたままでしょ。それなのに知らんぷりってものさ。かといって、知らないのに謝るのも変な話のような。――難しいね」
ジュリアスがぎゅっと抱きしめてくる。いつの間にかそのぬくもりは安心できるものになっていた。
「アスラ。あなたは今のあなただけだ。消えた過去の罪まで背負おうとしないでほしい。何度も言うが、あなたがここに存在するというだけで、この国の祝福なんだ、もっと胸を張ってほしい」
「うん・・・」
「どうしても気にするというなら」
ジュリアスがちゅ、と唇を重ねてくる。
「もっと私を気にしてほしい」
「ちょ、ここ・・・ん、む・・・」
外でやめてと口を開いたつもりが、何を思ったかその開いた隙に舌を挿し込まれる。そのまま優しく撫でるように、ゆっくりと味わうように動かれて、どんどん力が抜けていく。
胸を押しやろうとしてもそもそもびくともしないし、力も出ない。
「アスラ。ああ、甘い。どうしたらいい。食べてしまいたい」
息も荒く、ジュリアスの舌が首筋を這い、もう立っていられなくなったおれはジュリアスに密着して腰だけで支えられている。そうすると立ち上がりかけたお互いのものを嫌でも感じた。
「アスラ。ああ、可愛い」
舌を這わされたところはたまらなく熱く、耳朶を甘噛みされて小さく悲鳴が上がる。
「ひゃっ・・・あ、やめ・・ジュリ――ア、ふぅ!」
制止の声によってなのか、ジュリアスは耳を噛むのをやめた。しかし再び唇に戻ってきて、また口づけを交わされる。
どのくらいそうしていたのかわからない時間だった。
もう体がすっかり熱くなって、どちらの息づかいかわからなくなってくる。ようやく顔が離れて、間近に灰色の瞳と目が合った。
「アスラ。こんなに目を潤ませて、赤い唇で・・・どうしたらいい」
はあはあと、荒い息遣いがジュリアスの興奮を伝える。
俺だってもう、限界だ。この熱をどう処理すればいいか、知っている。それでも今日は、今日こそは、どうしてもはっきりさせておきたかった。なのに急にこんな。
涙が滲み出てきた。
「う、ジュリ・・・ス」
目に見えてジュリアスが慌てる。
「あ、アスラ?どうした、どこか痛いのか」
「ひど・・・ひどいよジュリアス」
体の熱と相まって、もう自分がどんな顔で何を言っているのかも分からない。
泣いてしまった俺をジュリアスが必死で宥め、俺はただもうどうしていいかわからないまま泣きじゃくってしまった。
俺が落ち着いて泣き止むまでジュリアスがこの世の終わりみたいな顔をして右往左往するのを見ながら、俺はこの時初めて、時間を経過すれば熱が収まってくれるのだということを知った。
「ごめん・・・すごい恥ずかしい」
俺の部屋。
あれから俺はジュリアスに抱えられ、部屋に連れてこられて、ひたすら抱っこでよしよしされた。
「あれさ・・・情緒不安定にするんじゃないかな」
泣いた理由をつけたくて、恥ずかしさをやわらげたくて言ったことだったがジュリアスは乗っかってくれた。
「一種の酩酊状態だから、そうだな。なると思う」
今なら何でも、何を言っても、はいそうですねと言いそうな勢いだ。
「そもそもさ、俺はやめてって言ったのに」
「それはきこえなかっ・・・いや、すまない」
「外ですることじゃないよね」
「ああ、そう・・・だな」
思ってないのに言っている返事だ。
「前から言おうと思ってたんだけど」
今しかない。はっきりさせておこう。
「その・・・すぐキスするの、やめてくれないかな。それされるともう何も考えられなくなって、結局その・・・あれ、しちゃうでしょ」
ジュリアスは心底驚いたようで目を見張っていた。
そうか。俺が嫌だなんて微塵も思ってなかったんだな。ノリノリと思われてたのかな。
「1週間はしなくていいって言ってたけど、ほら、俺たち毎日のようにやってたじゃん。必要ないのにやる必要はないかなって、思って」
言葉を選んで言うものの、難しいな。流されて最後までやっちゃってるだけに。
ジュリアスの反応をうかがいたいのに、彼は固まったまま微動だにしなかった。
「ジュリアス?」
返事もない。
「あ、もちろん、ちゃんと浄化するから。心配しないでね」
元気づけようと言ったが、ジュリアスは少しも動かないままだった。さっきより顔色が悪い気がする。
「まさか・・・アスラ、あなたは、つまり、浄化の時のみがいい、と?」
「うん」
よかった。わかってくれた。
ほっとしたため、つい食い気味に返事してしまった。
ジュリアスの灰色の瞳が余裕なく揺れている。動揺している。
「あ、アスラ・・・まさか――あなたは、私との交わりは好きではない・・・?」
「好き!?えっと好きか・・・嫌いかで答えないとだめ・・・?」
そんな風に言われたら、嫌ですともいえない。嫌々やってるなんて言われたら、つらい過去を思い出させるし、それは嫌だ。そもそも嫌というわけではない。
しかし好きかと言われると、そこは疑問だ。過ぎた快楽はやっぱりつらいし、恥ずかしい。慣れてないんだ。
ジュリアスは口元を抑え、一歩下がった。
「いや、いい・・・。答えなくていい」
そのまま数歩下がり、ガタン、と椅子にぶつかる。
「すまない。私は、てっきり・・・」
ジュリアスのくぐもった声が聞こえる。
え、ちょっと待って。そんなにショックだった?何か誤解してない?
「ジュリアス?」
「いいんだ!」
手で制され。俺はちょっとびっくりして止まる。大きな声を出されるのは珍しい。
「私は先走ってしまっていたのか。あなたは優しすぎるから・・・私は、また間違いを・・・」
この世の終わりのような顔になっていっている。その顔を見た途端、しまった、失敗したと胸が締め付けられる。
「ジュリアス。ごめん。そうじゃなくて――」
「すまない」
きっぱりと、しっかりした声で言われる。
拒絶にも似た声だ。目も合わせてくれない。
「あなたが謝る必要はない。――謝らないでくれ」
ジュリアスが入り口に向かった。その背中を追いかけようとして、なんと声をかけるか迷っている間に。
「夕食まで、少し・・・頭を冷やしてくる」
そういってジュリアスは部屋を出ていった。
今まで片時も離れようとしなったのに、あっさり。
追いかけるべきか?でも、なんて言おうか。勘違いだった?いったい何の。
とりあえず必要な量を行おうと言いたかったのは本心だし、そこを訂正しても言ったことは取り消せない。
何がすれ違っているのかもよくわからないから何と言っていいのかわからない。
とにかく傷つけたのは確かだが。
胸に重い石でも詰まったような感覚に、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
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