【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ

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魔導士と

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魔導士のいるところというからもっと怪しげな場所かと思ったら、普通に大学の研究室みたいなところだった。たくさんの本に囲まれていろんな人が研究しているみたいだ。
 その一番奥の部屋に入ると、若い男がひとり笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは。珍しい組み合わせだね」
 白髪かと思ったら銀髪だった。不思議な色に光っている。
「アスラ。王宮魔導士の長、レイブンだ」
 ついまじまじと見つめてしまうと、レイブンはまたにこりと笑った。笑うとジュリアスより若く見える。色が白く細い体は当たり前だがジュリアスと大きく違う。
「アスラ様。どうかされましたか?」
「あ、ごめんなさい。――不思議な、きれいな髪の色だなと思って」
 俺が言うとレイブンはわずかに目を見開いた。そしてジュリアスをちらりと見て、また俺の方を見る。
 まずかったのかな?
「・・・すみません。失礼なことを」
「あ、いえいえ。そんなことはありません。アスラ様が何をされても失礼ということはないんですよ。違うのです。初めてお会いした時にも同じことを言われたので、少し驚いて・・・懐かしい気持ちになってしまったのです。私の方こそ、申し訳ありません」
 そうなんだ。もちろん覚えてないけど。
「それで、魔力の痕跡を見てほしいというのは・・・この、アスラ様のご様子と関係が?」
「ああ。昨夜から記憶をなくしているようで・・・」
「記憶を、ねえ」
 促されるままに向かいの席にジュリアスと並んで座る。
「ではちょっと見てみましょうかね。アスラ様、お手をお借りしても?」
「あ、はい」
 言われてさっと両手を出すと、レイブンがそっとその手を包み込む。
 じっと見つめられるので俺も見つめ返す。眼鏡の奥にあるレイブンの目は金の目だ。不思議な色だ。引き込まれそうになる。
「たまんねえな」
 ん?空耳かな。
「おい!」
 ジュリアスが二人の手を引き離したので、はっと目がそれる。
「レイブン、貴様・・・」
 ジュリアス、青筋浮いてる。
「いや、ちょっと待って。ごめんって。だって、歩く凶器だった昔でもさ、目が離せない美少年だったじゃん。隠れて見てるだけでもたまんなかったのに。こんな・・・おとなしく手を出してくれてさ。あ、まずい、鼻血でそ・・・」
 レイブンはよくわからないことを言いながら鼻と口を押えている。
 大丈夫か?いろんな意味で大丈夫じゃないよな。
 俺は不安になってジュリアスを見上げた。
「ジュリアス・・・」
 怖いんだけど、この人。
 ジュリアスはわかってくれた。昨日からの付き合いだけど、なんだか頼もしく思える。
「よしよし、アスラ。気持ち悪かったな。別のやつに頼もうか?」
 レイブンが慌てて立ち上がった。
「ちょっと!なにそれ!うらやましっ・・・記憶障害からの刷り込み!?ずる!!」
「うるさい」
 ジュリアスは片手で俺を抱えてレイブンから距離をとったかと思うと、レイブンの頭にこぶしを振り下ろした。ゴツン、といい音が鳴った。
「だ、大丈夫・・・?」
「えっ、なに天使!?」
 ずい、と身を乗り出すレイブンからさらに距離をとるようにジュリアスは俺を背後に隠した。
「アスラ、近寄るな」
「悪かったって!ちゃんとみるから、ほら!アスラ様をこっちに」
「アスラ、どうする?やめるか?」
 やめていいのか?でもそれじゃここまできた意味がないよな。
 俺は恐る恐る、とジュリアスの陰から顔を覗かせた。
「変なこと、しない?」
「うっ!!」
 レイブンは今度は胸を押さえて突っ伏した。
 何なのもう。
「おいレイブン」
「これは危険だね。変な扉開いちゃうよ。ジュリアス様、その子外に出したらいけませんよ」
 早口で何を言ってるかよくわからない。
「わかってるから、真面目にやれ。やらないなら他を当たる」
「やります、やりますよ。ワタシがやった方がいいでしょう」
 レイブンはごほん、と咳払いをして俺に向き直った。顔を覗かせる俺の頭上に手をかざし、ウォン、と空気の鳴る音がする。
 ちょっと怖くなってジュリアスの服をぎゅっと掴んでしまう。
「大丈夫ですよ、そのまま、そのまま・・・ふむ」
 レイブンは真面目な顔で思案している。そうしていれば賢い学者に見えるのに。
「はあ・・・これは」
 何か分かった風だ。伺うように見ると、真剣な顔がまた、にま、と緩んでいる。
「んー、わかりそうなんだけど。ちょっと遠いですね。アスラ様、ちょっとワタシにもそうやってくっついていただいて――」
 カチャ。
 何の音かな。あ、ジュリアスが剣をちょっと抜いてる。右手で俺を庇ってるのに左手で。右利きなのに器用だなあ。
 と思ってると、一歩レイブンの方へ身を乗り出そうとして。
 がばっとレイブンが両手を挙げて離れた。
「ごめんなさい。つい」
 どうしようもないな、この人。
「片手がなくとも研究はできるな?」
 ジュリアスは収まらないようでまだ怒気をはらんだ視線を向けている。殺気というやつかな。
 争いの予感に手を離すと、ジュリアスの服が少し皺になってしまっていた。まずいまずい。すごい高級そうな上着なのに。
 そう思って皺を伸ばす。すりすり・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 2人の会話が途絶えた妙な空気に、ふと顔を上げる。
 顔を手で覆っているジュリアス。感極まった様子でまた鼻と口を抑えているレイブン。
 この欧米のオーマイガット的なリアクション、慣れないなあ。
「はー。これは荒れますよ、城中が」
「構わない。私が処理する」
 城が荒れる?まずい結果だったのだろうか。
「あの・・・レイブン、さん」
 呼ぶとレイブンはびくりと体を反応させた。
「い、ややや、あの、アスラ様!?今ワタシの名前呼びました?ふわ、感動・・・じゃなくて、どうか呼び捨ててください。敬称なぞつけられたら、腰が抜けます」
「え?・・・はぁ」
 さん付けくらいで大袈裟な。むしろさんつけた方が距離できると思うんだけど。
「はあ・・・危険ですね。その尊い御身で今のように奉仕されたりしたら・・・ああ、鼻血出る」
 ご奉仕って。今?皺伸ばしただけじゃん。
「レイブン」
 もう疲れてきた。何なのこの人たち。本題に入るまでの脱線、みんなこんなひどいの?
「何か分かったんですか?」
 もう無視して話を進めることにした。
「ごほん。――はい、記憶はもう、アスラ様の中にはないですね。消去よりずっと、手の込んだ魔法です。初めから無かったことになってます。なので、記憶が戻ることはないでしょう」
「初めから、無かったことに」
「消去とどう違うんだ」
「あったものを消したんじゃなくて、初めから無かったことになってます。肉体の記憶が僅かに残滓としてあるのみですね。その片鱗ではかき集めることももう不可能でしょう」
 つまり記憶はもう戻らない、と。それはわかったが、まだよくわからない。そんなアスラの顔をみて察したのか、レイブンは椅子に座るように促した。
「簡単にいうと、生まれる前に記憶の時間を戻したんですね。消すのではなく、無かった時に移動した。消しただけであれば同程度の魔力操作ができるものなら戻せますが、時を戻して無かったことになってしまうと、これはもう、初めから無かったようなものです。もう取り戻せません」
 とりあえずとても複雑で戻らないということだな。
 うん、理解した。
 ジュリアスを見上げると、彼は固い表情で考え込んでいた。戻らないとと聞いてどう思っているのか、その表情からは読み取れない。
「しかし見る限り、赤子という様子でもないので・・・ううん、生まれる前の、もう少し前のところまで戻したようですね」
「生まれる前の前・・・?」
「いわゆる、前世です」
 ジュリアスと目が合った。
「輪廻転生の、以前ということか」
「そうですね。いやあ、神の領域ですよもう。信じられない!――もう少し調べるとその術式が見えてくるかな、なんて・・・」
 チラリと伺うようなレイブンの視線はジュリアスによって一蹴された。
「ご苦労だったな。――アスラ、帰ろう」
 立ち上がって手を差し出してくるジュリアスと不満げなレイブンを交互に見る。いいのか?これで解決なのか?
「残念ですねえ」
「ちゃんと仕事してると、今度の予算会議で口添えしてやる。それで十分だろう」
「はあ、まあ・・・」
 レイブンも立ち上がって、じっとこちらを見てくる。
 変な研究者としての顔はなく、真剣な顔でこちらも居住まいを正す。
「あの、ありがとうございました。お世話になりました」
 レイブンは苦笑した。
「至高の君にそう言われたら、もう何も言えないです。――突然のことで、混乱されていると思います。困ったことがあったらすぐ仰ってくださいね。身命を賭して、お仕えいたします」
「それは私がする。が、忠誠は受け取っておこう」
「はいはい」
 二人の間に入るのは諦めた、というようにレイブンは胸に手を当て、やれやれと呟く。それでもジュリアスを見る目はどこか優しくて、いい仲なんだろうなと思えた。
「ジュリアス様」
 俺の手を取り出ようとしたところを呼び止められ、ジュリアスは視線だけ向けた。
「良かったと思います。心から」
「・・・・・・」
 ジュリアスは眉を寄せた。
 難しい顔をしている。
「アスラ様。ジュリアス様をどうか、よろしくお願いします」
「あ、はい」
 よろしくってあれのことかな。恥ずかしくなって熱を感じるのと同時に、ジュリアスが俺を覆い隠すように立ち塞がりながら部屋を出た。
 レイブンにちゃんと挨拶もできないまま、また鼻と口を覆った姿を目の端にとらえると同時に扉は閉じられた。
「よかったのかな、挨拶もしなくて」
 ジュリアスに問いかけると
「その白い首筋まで赤く染まって、良くない。詰め襟の服を用意させよう」
 また意味不明なことを言っているので、スルーして部屋に帰ることにした。
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