【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ

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お役目

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 清めるってそういうこと?
 体くらい自分で洗えますけど!という俺に、ジュリアスは使い方がわからないだろう、とご丁寧に全身洗ってくれた。
 え、なんでそんな嬉しそうなの?介護志望なの?
 と思っていたら、な、中まで、指を入れて・・・。
「え、いやいや、そんなこと!しないとダメなんですか!」
「お腹を壊してしまうから」
「いや、じ、自分で・・・」
「やり方がわからないだろう?私でない方がよければ人を呼ぶが」
「え、いや、その――」
「ほら、力を抜いて。大丈夫だ、何も怖いことはない。入ったものを出すだけだ」
 怖いとかじゃなくて。その出すのが問題――
「んあっ・・・」
 変な声が出る。変なところ触るから。中で動かすから!
「いい子だから。んー、って力をいれてごらん。ほら、そう・・・」
 もうパニックだ。大きな体で抱え込まれて動きを封じられて、それでもそんなに優しくささやかれたら・・・もう、言うとおりにするしか。
「う・・・うぅ・・・」
 もう嫌だ。涙が出てくる。
「アスラ・・・」
 困ったように形の良い太い眉を下げて、かがむように視線を合わせて。答えようと口を開いた瞬間、唇を重ねられる。
「うっ・・・ん」
 違う、キスして欲しいわけじゃ。そう思って胸を押すと、思いのほかすぐに唇は離れていった。
「すまない。つい・・・」
 つい、キスするんですかあなたは。
 裸で抱き合ってキスしたらまた変な流れになりそうじゃないか。
 先ほどの交わりを思い出すと顔に血が集まるのを感じる。それでも変な雰囲気にしたくなくて、ジュリアスを睨むように見た。
 変なことをしないで、と。
「アスラ・・・」
 ジュリアスは困ったようなため息交じりの声で俺の名前を呼んだ。
「誘っているわけじゃないよな。やめてくれ、抑えられなくなる。今日の分はもう渡したというのに」
 絶句だ。
 とんだ言いがかりだ。誘う?
 二の句が継げなくて口をパクパクとしている俺をよそに、ジュリアスはぐい、と身体を離した。
「だめだ。よくない。さっさと出よう」
「うわっ、冷た!」
 急にシャワーから水を出してジュリアスは頭からかぶっている。その飛沫がこっちまで飛んできた。
 ジュリアスは無言で俺の腕をひき、タオルで包んで、そのままさっきの部屋まで運ばれる。
 また介護だ。

 椅子に座らされ、新しくなったまたガウンのようなものを着せられ、髪を拭かれる。
 見るとベッドは早くも整えられており、机には湯気の立ったティーポットがあった。
 すごい早業。人の気配なかったけど。
 されるがままに身を任せ、カップにお茶が注がれるのをゆっくりと飲む。
 あ、おいしい紅茶。落ち着くー。
「アスラ」
 ジュリアスは俺の横に座り、手を取った。
 向かい合わせじゃないんだ、と思うけど、細かいことは言わない。話を進めるのが先だからな。
「こうしてあなたの手を取る日が来るなんて」
 はあ、と熱い息とともに唇を手の甲に落とされる。
「――ジュリアス」
「ああ、名前を呼ばれるんて」
「ねえ、話を進めてくれないかなあ」
 つい本音が漏れる。
 ジュリアスはそれでもどこか嬉しそうに、目を細めてこっちを見てくる。
 なんなのこの人。
「すまない。――それでアスラ、記憶がないと言っていたが・・・何も覚えていない?」
「えっと・・・何もってことは、ないんだけど」
「では、ここで暮らしていた時のことは?」
「その辺は、ぜんぜん」
「ふむ・・・」
 ジュリアスはじっ、と俺を見つめてくる。
 真面目な顔で美形にじっと見られると、落ち着かない。
「あなたは至高の君だから。病や怪我をすることは普通、ない」
「しこうのきみ・・・」
「この世で最も魔力を受け取り浄化する力が大きい。別次元といってもいい」
 あ、急に話がついていきづらくなったぞ。
「そもそも魔力を浄化するもの自体希少な中、これほど膨大な魔力を、しかも私のような特異な魔力をすべてうけとれるのはあなたしかいない。そんな強大な力をもつあなたに、不測の事態が起こったとは考えられない」
「ええと・・・?」
 話についていけなくて質問をしたつもりが、
「つまり、それはあなた自身の意思によるものだということだ」
 さらに話を進められた。
 ちょっと待って。前提が分かってないから。何も覚えてないわけじゃないって言ったのが悪かったのかな。でも覚えてるのはこの世界のことじゃないんだよ。
 どこから戻ったらいいのか。
 さらに言い進めようとするジュリアスを俺はすかさず片手で制した。
 そしてひとつずつ、質問に答えるようにお願いした。
 ジュリアスは根気強く説明に付き合ってくれた。

 ジュリアスからの話によると、彼は膨大な魔力を持って生まれ、それは人の器には収まらないほどで。やがては身を焼き尽くし国も亡ぼすといわれていた。
 そこへ献上されたのが俺、アスラ。魔力を浄化する力のある一族の中でも、ジュリアスほど強大な力を浄化できるのは、アスラだけ。まるでジュリアスがいることをわかって神が使わしてくれたようだと、それはもう小さなころから2人が一緒になるのは決まっていたらしい。
 国のためにジュリアスは力を使い、それをアスラが癒す。しかもその方法は、あんな行為・・・。
 そこにアスラの意思はなかった。

「なるほど・・・」
「アスラ。あなたは何も覚えていないんだな。魔力のことも、ここの暮らしも」
 俺が質問した内容で、基本的な事を全然覚えていないことが分かったんだろう。
「まるで別の人のようだ。でも・・・あなたはアスラだ。魂が同じでなければ魔力も変わる。私の魔力をしっかりと浄化したあなたはまぎれもなく、アスラだ」
「といっても・・・」
 この俺の記憶は、じゃあ何だろう。
 別の人間としか思えないんだけど。
「とにかく、今日はもう遅い。明日、詳しいことは調べてみよう。あなたの身体に残った痕跡から使われた魔法をたどってみれば、何かわかるだろう」
「うん・・・」
 考えてもわからないけど、考えるしかできない。
 混乱する俺をジュリアスはまた抱きかかえた。
 ん?また抱っこ?
 と思っている間に、さっとベッドに入り、すっぽりと腕の中に納められ、布団をかけられる。
「・・・・・ん?」
「早く寝ないと夜が明ける。あなたも疲れただろう」
「え、うん・・・そうだね」
「おやすみ、アスラ」
 ちゅ、と自然な流れて額にキスを落とされる。
「おやす・・・え?一緒?――一緒に寝るの?」
「記憶もないのに一人では不安だろう」
 不安?そうかな。え、でも一人で寝たほうが落ち着くような・・・。
 思ったが、こんなに当然のように勧められると何から訂正したものかと戸惑う。
 ジュリアスはぎゅっとアスラを抱きしめると、はあ、と深く息をついた。
「アスラ。何も心配しなくていい。私が守るから。アスラ・・・」
 温かい大きな腕に抱かれ、何度もそうささやかれると、そうか、大丈夫なのかと思うようになる。
 とりあえず、身体は疲れているので、まずは寝ることにした。
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