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「……それで?」
一緒に乗り込んだ軽トラックの中で鉱が私にたずねる。
「なんか用事あって来たんじゃねぇのか?」
「ああ。う、うん」
私はゆっくりと重い口を開く。
「み、瑞穂に……あ、」
鉱は運転をしてながら「瑞穂に? なに?」と聞いてきた。
「わ……私、瑞穂にあ、あ……」
喉が張り付いたように後に続く言葉が出ない。
「うん、瑞穂に?」
鉱は前を見たまま、身体をこちらに寄せてくる。
「……な、なんでもない! ごめん」
……また。私は逃げてしまった。言えない。
どうして? いつまでこんななの?
やっぱり私は自分が嫌いだ。
「そっか……」
鉱はそれ以上何も聞かずにいてくれた。
仕事の調整をして2月の最初の休みに桜を見に行く。
小学校に行くと、母によって根回しされていた用務員の人がすぐに、校庭の桜へと案内してくれる。
桜の木の下まで行くと、お願いしますと言って戻って行った。
ちょうど、音楽の時間なのか。子供特有の高い歌声がする。
……これ、校歌だ。懐かしい。卒業式の練習かな?
耳を震わせる校歌に、遠い日の自分たちの歌声が重なっていく。
あれから20年。……もう、20年も、たっている。
……今更、だよね。瑞穂。
ハッと我に返り、ボンヤリしている時間はない。と私は軽く頭を振って作業を開始する。
グルリと周りつつ、大まかに全体を目視する。
上の方に母が言うもじゃもじゃ、てんぐ巣病特有の絡まった枝の塊が何個かある。
お正月休みの時に見た通り。
近くで見ても幹や根にも目視でわかる異常はない。
木槌で幹を何か所か叩いてみた。音にも異常はない。
やっぱり初期のてんぐ巣病みたい。
ふう、と軽い息をはき、良かったと太い樹を撫でる。
私は太い幹にロープを通して、クライミングの要領で樹をのぼって行った。
もう慣れたとは言え、ひとりで作業するのは少々不安。
何度も安全確認して、慎重に病巣まで登りきる。
細かく枝分かれした部分の基部のコブから切る。ガイドラインに沿って枝をゆっくりと地面に落としていく。
切り落とした箇所には、特別なペーストを塗った。
それを全部のてんぐ巣病のある枝に行って、私は樹の上で一息つく。
もう、歌声は聞こえなくなっていた。
結構、時間かかっちゃったな……。
澄み渡った青い空を眺める。遠くには雪をかぶった山々、目を閉じて深呼吸をする。
冷たい風が肺を満たしていく。
チャイムが心に直接響いてくる。
寂しい。
私はこの学校がなくなるのが、とても寂しい。
うんん、瑞穂と仲直り出来ないまま卒業したのが……。
廃校になる母校の校舎へと視線を移す。
3階の端の教室、薄いカーテンが風にわずかに揺れている。
あんなこといわなきゃ……あの教室でもっと沢山楽しい思い出が出来たはず。
溜息をつく。
感傷的になりすぎている。とりあえずやる事やっちゃおう。
再び樹へ目を向けると、小さい缶が虚に挟まっているのに気が付いた。
「あれ? これって……」
手に取ると所々剥げて、錆びている掌くらいの缶だ。
茶色く変色した元は可愛らしいピンクの入れ物。
これ……見覚えがある。
一緒に乗り込んだ軽トラックの中で鉱が私にたずねる。
「なんか用事あって来たんじゃねぇのか?」
「ああ。う、うん」
私はゆっくりと重い口を開く。
「み、瑞穂に……あ、」
鉱は運転をしてながら「瑞穂に? なに?」と聞いてきた。
「わ……私、瑞穂にあ、あ……」
喉が張り付いたように後に続く言葉が出ない。
「うん、瑞穂に?」
鉱は前を見たまま、身体をこちらに寄せてくる。
「……な、なんでもない! ごめん」
……また。私は逃げてしまった。言えない。
どうして? いつまでこんななの?
やっぱり私は自分が嫌いだ。
「そっか……」
鉱はそれ以上何も聞かずにいてくれた。
仕事の調整をして2月の最初の休みに桜を見に行く。
小学校に行くと、母によって根回しされていた用務員の人がすぐに、校庭の桜へと案内してくれる。
桜の木の下まで行くと、お願いしますと言って戻って行った。
ちょうど、音楽の時間なのか。子供特有の高い歌声がする。
……これ、校歌だ。懐かしい。卒業式の練習かな?
耳を震わせる校歌に、遠い日の自分たちの歌声が重なっていく。
あれから20年。……もう、20年も、たっている。
……今更、だよね。瑞穂。
ハッと我に返り、ボンヤリしている時間はない。と私は軽く頭を振って作業を開始する。
グルリと周りつつ、大まかに全体を目視する。
上の方に母が言うもじゃもじゃ、てんぐ巣病特有の絡まった枝の塊が何個かある。
お正月休みの時に見た通り。
近くで見ても幹や根にも目視でわかる異常はない。
木槌で幹を何か所か叩いてみた。音にも異常はない。
やっぱり初期のてんぐ巣病みたい。
ふう、と軽い息をはき、良かったと太い樹を撫でる。
私は太い幹にロープを通して、クライミングの要領で樹をのぼって行った。
もう慣れたとは言え、ひとりで作業するのは少々不安。
何度も安全確認して、慎重に病巣まで登りきる。
細かく枝分かれした部分の基部のコブから切る。ガイドラインに沿って枝をゆっくりと地面に落としていく。
切り落とした箇所には、特別なペーストを塗った。
それを全部のてんぐ巣病のある枝に行って、私は樹の上で一息つく。
もう、歌声は聞こえなくなっていた。
結構、時間かかっちゃったな……。
澄み渡った青い空を眺める。遠くには雪をかぶった山々、目を閉じて深呼吸をする。
冷たい風が肺を満たしていく。
チャイムが心に直接響いてくる。
寂しい。
私はこの学校がなくなるのが、とても寂しい。
うんん、瑞穂と仲直り出来ないまま卒業したのが……。
廃校になる母校の校舎へと視線を移す。
3階の端の教室、薄いカーテンが風にわずかに揺れている。
あんなこといわなきゃ……あの教室でもっと沢山楽しい思い出が出来たはず。
溜息をつく。
感傷的になりすぎている。とりあえずやる事やっちゃおう。
再び樹へ目を向けると、小さい缶が虚に挟まっているのに気が付いた。
「あれ? これって……」
手に取ると所々剥げて、錆びている掌くらいの缶だ。
茶色く変色した元は可愛らしいピンクの入れ物。
これ……見覚えがある。
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