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ハローおホモ達★ギルド入会編
涙の後の絆
しおりを挟むその後、俺は泣いて泣いて泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったらしい。
目を覚ました時、外は既に夕日がサヨナラの時間帯で、隣にはリイサスさんとオッサンがベッド脇に座って何かを話していた。
知らない天井だ。オッサンもいるし、どうやら俺、まだギルドにいるっぽい。分かった途端に心の中で盛大なため息を吐いた。
これで家に連れ戻されていたら、必死こいて脱走したのが台無しだったから。
良かった。ここまでの努力は、無駄にならずに済んだ。ホッとして、知り合いの名前を呼んでみる。
「りいさすさん……」
「…! コージくんッ!!」
「…ふあぁ……。……おはよーございます。あ、お帰りなさい」
「え? あ、あぁ、ただいま」
「…あれ、ルークさんは? それに…ガルムは? もう倒したんですか…?」
寝起きの閉じがちな瞼を擦り、上体を起こす。リイサスさんは泣きそうな顔で俺をギュッと抱き締め、オッサンは俺が目を覚ましたことに胸を撫で下ろして話し始めた。
「ルークさんには隣の部屋で頭を冷やしてもらってるぜ。…記憶の無いイタイケな子供を無理矢理連れ戻し、性暴力をはたらいて監禁しようとした。どんな理由があれ、それはやっちゃいけない犯罪だ」
「いたいけ……」
「ほんの1時間前まで、眠る君の横で怒ったり悲しんだり落ち込んだりで忙しなかったけどよ。帰って来たリイサスさんに一喝されて、冷静さを取り戻したみてぇ。今頃、罪悪感で胃でも痛めてんだろ」
イタイケかなぁ、俺。そう見られてること、喜ぶべきか悲しむべきか。でも、ルークさんが反省してくれてるようで良かった良かった! これで尻の危険は遠退いたし、また気兼ねなくもふもふ出来る!
いやマジ。あのもふもふは中毒性があるんだって! あぁっ愛しのもふもふー! もう15時間以上もふってない! 手先が震えるよぅ! 禁断症状が~~!
まぁ冗談だけど。冗談だけど冗談じゃないです。今の俺はもふもふに生かされていると言っても過言ではない…(過言)
「そうだったんですか…。それで、リイサスさんは? なんか帰ってくるの早くないですか? てっきり夜まで…」
「全力で帰って来たんだよッッッ!!!!」
ギャンッ! とより一層強く俺を抱き締めて、ズリリリリッと頬が削れる勢いの頬擦り。首の動きが激しすぎて残像が見える。俺の頬からも煙が出そう。ももももちつけリイサスさん。ぺったんぺったん。
「き、君がギルドにひとりで来たって…! ルークと一悶着あったって聞いて慌てて帰って来たんだよ!」
「えっガルムは」
「そんなのどうだって良いだろ! 後ろ足斬ってきたし多分アイツらだけで大丈夫!」
ありゃ…。討伐途中ですっ飛んで帰って来ちゃったらしい。なんか、お仕事の邪魔したみたいで申し訳ないなぁ。
「ごめんなさい、ご心配をおかけしました」
「いや…、いや。どう考えても俺たちが悪い。君がギルドに行きたがってた事は知っていたのに、いざ連れてきて他の奴等に奪われることが怖かったんだ。君は誘拐犯同然の奴らから逃げ出したにすぎない…」
「自覚あったんだ……」
「うん、あった。本当にすまない…」
分かっててあの軟禁してたんかこの人…。
でも、リイサスさんは反省しているようだ。肩を落として、両手で俺の手首をギュッと握ってる。
うーん、落ち込んでる大の大人ってなんでこんなに可愛いんだろな? そんな怯えた子犬みたいな目で見詰められちゃ、許すしかないよ、もう。
あぁ~……ダメだな~俺。甘いな~! こんなんだからルークさんたちもセクハラを止めないってのに……。
自覚はある。俺は大概甘い。レイプもセクハラも軟禁も許しちゃうんだから、相当だ。
だって、リイサスさんもルークさんも、落ち込んだ顔が可愛くて仕方ないんだ。いつも〝大人〟って感じでカッコいいのに、俺がプンプンすると子犬みたいになっちゃうから。
子犬モードの時にねだられたら、キスでもしちゃいそう。そのまま「君とセックスしたい……」なんて言われた日には、セッセだって許しちゃいそう……。困りものだ。
「これから改善するよ。約束する。もう二度と、君の意思に見て見ぬフリをして軟禁したりしない」
「リイサスさん…」
それってつまり、俺の意思をしっかり確認した上での軟禁はするってことかな。
そう疑うくらいには卑屈になった俺でした。だって大人ってすぐ揚げ足取るもん。軟禁生活の最中に「キスもうやだ!」って言ったら、口の回りベロンベロン舐められたもん!
だからあんまり信じてないのだ。これからも多分セクハラは続く。
んー…でも〝これから〟かぁ。どうすっかなぁ。思いっきり「介入者」って言っちゃったし、もう下手に誤魔化さない方が良い気がしてきた。俺もずっと秘密を抱えてるのはキツいしなぁ。
……。…うん、ちゃんと言おう。俺が異世界人だって。
俺の能力も、ふたりならきっと悪用しないはず。そんできっと、冒険者になれるって認めてくれるはずだ。
よぉし、そうと決まれば隣の部屋のルークさんを呼んで……。
…………………って、オッサン! そうそう、オッサンにも助けられたんだし、いつまでもオッサン呼びのままじゃダメだよな。ということでレッツ鑑定!
《名前:ジャック・ケイザー
種族:人間
レベル:47
年齢:45
性別:オス
属性:神聖属性
職業:B級冒険者
スキル:オートガード
好きなタイプ:無垢な少年
オーディアンギルド所属。冒険者たちのまとめ役で、顔が広い上に人望が厚く、周囲から頼りにされている。12歳~18歳を好む同性愛者。調子の良い楽観主義。クエストを受けてはその日暮らしの生活がほとんど。》
うげげ、やっぱホモだったかー。しかもショタコンかー。
変態認定したけど、この砕けた口調とか、軽いノリは気が合いそうだ。
「改めましてコージ・アヤマです」
「あ。そうか挨拶がまだだったな。ジャック・ケイザー。オーディアンギルド本部の冒険者たちの代表格みたいなことをやってる。自慢じゃあないが顔は広いから、何かあればすぐに頼ってくれ!」
「ありがとうございます! さっき、ルークさんから庇ってくれたの、スゲー嬉しかったです!」
「俺ぁコージくんの味方だよ。断言しても良い」
優しい面持ちでそう言ってくれるジャックさん。ジーンってしたけど、俺の年齢ってこの人のタイプど真ん中なんだよなぁ…。うーむ、尻の油断はしないでおこう。
「コージくんも起きたし、今ルークを呼んでくるよ。で、君の言っていたらしいカイニュシャの事、説明してくれよな?」
俺を安心させるように微笑んで言い、リイサスさんが隣の部屋に向かった。
うん、リイサスさんとルークさんには説明するって決めたから、ちゃんと全部話そうと思う。チートとかも含めて。
でも、妊娠の部分は別。だって言ったら最後、マジで孕むまでヤられる気がするから…。
あ、でもジャックさんたちにはどう説明しよう。悪い人じゃなさそうだけど、全部を打ち明けるにはまだ早い気がする。でも「ジャックさんの前じゃ言いたくないです」とも言えないしなぁ……。
……これはもう、アレしかない。あの言い訳しか……!
名付けて、記憶が断片的に戻ってきました作戦~!!
え、なに? 安直過ぎる? …うっせぇ。
安直でも結構良い作戦なんだよ!
まず今から「ウッ…これは俺の記憶…!?」みたいなことをして、ジャックさんに納得してもらう。次に家でリイサスさんとルークさんに、改めて本当のことを話す。最後に魔法やスキルについて、事情を知ってもらった上でご指導頂く!
フゥ↑、カンペキ! 流石コージくんだな…。自分の天才っぷりに脱帽だな……。
ドッドッドッドッドッ
ガッチャーンッッ!!!!
「コージくん!!」
ひとつの狂いもない完璧()な計画を思い付いて自画自賛に耽っていると、大型二輪車のエンジン音みたいな足音のあと、ルークさんが部屋に突っ込んできた。
スゲー音したけど、ドア壊れてない?
さっきまで超怖かったルークさん、ジャックさんの言った通り、冷静になったっぽい。真っ青で汗だくな姿からは怒りを感じず、俺はちょっと安心した。だってやっぱ怖かったんだもん。
ホッとして「ルークさん!」と声を掛ければ、ルークさんはベッドに駆け寄って、俺をぎゅぅぅぅっと抱き締める。はち切れんばかりの大胸筋が俺の顔を圧迫し……。
圧死、再び。
「ぐええぇぇぇっ」
「コージくんコージくんコージくん……!!」
「ルークざっ…、ぁっ、つ、潰れるっ! 潰れちゃうぅっ…!」
「アアッ、すまないっ!!」
ルークさんが慌てて力を抜いた。でも手を離さないあたり、「もう絶対逃がさない」という強い意志が見て取れて、内心冷や汗を流す。
あ…でも熊耳垂れてる! この機会を逃してなるものか! もっふー!
ふにっ…
「!?」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ……
「あッ、コージくん…! ぐ、あ、あぁぁぁあ……」
俺に耳をもふもふされ、顔を赤くして座り込むルークさん。
俺もある意味執着してるよな~。この魅惑のもふもふに。熊耳の魅力を知った今、市販の毛皮で満足出来る体じゃなくなっちゃってる。
それでも良いって思えるのは、ルークさんの耳をもふもふすると何も考えられなくなるからだ。
「…コージくん」
「うーわ、コージくんすげぇぇ…。ギルマスの耳モフってら」
リイサスさんとジャックさんが、羨ましそうな目で俺とルークさんをジッと見る。
そんな悲しげな目をされたって、俺のもふもふは渡さないぞ!
「もふぅぅぅ…!」
「こっ…、コージく…! ぬっ…うぅぅッ……! 耳は、う、後で…!」
おおそうだった。まずは説明が先だよな。
快感に耐えるように目を固く瞑ったルークさんの耳から手を離し、俺は真面目な顔を作った。
ここにはジャックさんもいるから、記憶が断片的に戻ってきました作戦の第一段階を実行するとしますか!
第一段階、『今はとにかく適当言って誤魔化す!』
「……じ、実は、さっきルークさんの怒った顔を見たとき…男の顔が、思い浮かんだんです。誰かは分からなかったけど、そいつが『介入者』って奴で、俺が記憶を失った原因だってのは理解出来ました。それがとても辛くて……」
ぐすん、と両手で目を覆い、泣き真似をする俺。途端に、真横のルークさんから絶大な怒気を感じた。横に下ろされた拳がキツく握られ、きっと『介入者』にぶちギレMAX激おこプンプン丸なんだろう。
隣のリイサスさんとジャックさんが引くぐらい怖い。
ドアの外で「ギャアッ!」て声がしたのは気のせいだと思う。多分様子を見に来た冒険者さんとかがルークさんのマグマみたいな怒気に反応したんだろうけど、俺は何も知りません。ごめんよ、名も知らぬ男の人。
「介入者……、その者が、君を苦しめているのだね」
「へ? あ、はい…」
嘘じゃない。介入者のせいで、俺の人生がハチャメチャファンタスティックなことになったのは、間違いないからだ。実際苦しんだし。おもに尻が。
素直に騙されてくれたルークさん、殴り飛ばしてやると言わんばかりに、拳を胸の前に持ってきた。
「許せん。仇は必ず」
「あっ、もう大丈夫ですから! もう動けますから! 悲しくもないですし! 仇とか、ほんと、大丈夫なんで!」
「む。そうかね…?」
そうですそうです! 確かに介入者にはムカついてるけど、それはそれ、これはこれ。神様(トロフィー)に抗う力を持った奴と、敵対させる気なんてこれっぽっちもありません!
「…ね、コージくん。今日はひとまず帰ろうよ。疲れただろ? 思い出したことに関しては、家でゆっくり聞くよ」
「え、あ…」
「また明日、ギルドに連れて来てあげるからさ」
微笑みを浮かべたリイサスさんが、俺の右手を両手で握って言った。
うーん。帰るってことに異論はない。もう夜だし、俺お腹空いちゃったし。思えば朝ご飯も昼ご飯も食べてない。ぺこぺこりんだ。
でも、一個だけ気がかりがある。ルークさんとリイサスさんが、本当にまた連れて来てくれるかってこと。
改善するって言ってくれたけど、2人の気が変わったらまた家から出してくれなくなるかも…。
そんな心配をしたのが顔に出たのか、リイサスさんは苦笑して隣のジャックさんを指差した。
「心配しないで。俺が言っても信用出来ないかも知れないけど、どうせジャック含めたみーんなが君を待ってるだろうからさ。もう軟禁も監禁も出来ないよ」
「おーう! 明日コージくんが来なかったら、ギルドの奴ら集めてリイサスさんの家に突撃するから、安心してくれ!」
ワイルドに笑って胸をどんっ、と叩くジャックさん。
自分らのボス(ルークさん)に正面から歯向かってでも、俺を庇ってくれた人の言葉は違うな…。めっちゃ信用出来る。俺ジャックさん大好き!
「ありがとうございます! そうなったら俺、自力で逃げますね!」
「そんなお姫様拐った魔族みたいな扱いしなくても!」
「えぇ? 実際にコージくん閉じ込めたんだから、あながち間違いじゃないでしょーよ。アンタはともかく、ギルマスの顔怖いんだから」
「む……」
ちょっと傷付いたように顔をしかめて、ルークさんが自分の頬を触る。リイサスさんが「確かに」と隣で笑った。
否定してあげたいけど、ぶっちゃけ怖い。固い毛質の前髪で眉毛が見えないから、表情が分かりにくくて怖い。魔族ってのは言い過ぎかもだけど、ハリウッドで悪役は務まると思う……。
とすると、俺はお姫様? ヤだなぁ。オーバーオールの配管工のが良いや。
***************
はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです。
お気に入り数が、なんと、900超えたんですよ。
見たときビビって、これは早く更新せねば…、となりました。ありがとうございます。感激です。
………………これは、1000も夢ではない……?
いや、まさか!そんなまさか……、ごくり。
大変長らくお待たせしてしまい、すみませんでした。
これからもよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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