上 下
156 / 160
権力系ホモ★グリス王国編

無神経ってどうすればいいの?叩けば治る?

しおりを挟む
 
 
「かくかくしかじか」
「……その、初任給? 俺にプレゼントする為に、宝石を買って? 魔石を作って? ペンダントに? コージくんが直接?」
「はい」
「え? いやいや。渡したくないんだけど」

禍々しく光る赤黒い魔石をギュッと握って、リイサスさんがソファに寝転がる。
あらら、と思って顔を覗き込めば、そこには頬っぺたを膨らませて拗ねる24歳児がいるだけだった。
……え、冷静に考えると凄いな………。あのリイサスさんが拗ねてる……。

「だってコージくんが俺に! 初めてのプレゼントだぞ!? 俺の為に作ったものを、なんで俺が譲らなきゃ!」
「リイサス、君の気持ちはよく分かる。しかし今は一刻の猶予もない。その魔石に、アウルムの街の人々の生活と金鉱山が掛かっているのだ。魔石ならまた作って貰えば良いだろう?」
「じゃあルークもその猫のネクタイ、一緒に捨てろよ」
「それとこれとは話が別だ」
「クソが!!」

説得にかかったルークさんの頭を、リイサスさんがバシンと叩いた。
いや、うん。ルークさんも酷いな。また買ってあげるから、一緒にネクタイも捨ててあげれば良いのに。

デカい体を丸めてペンダントを守るリイサスさんに、俺は屈んで顔を覗き込む。
リイサスさんは俺にイケメンを利用した『イケメン攻撃』を仕掛けてセッセに持ち込もうとするから、俺も自分の可愛い(って皆は言う)この顔を利用して、説得してやろう!……という算段だ。

「リイサスさーん」
「……ヤだ」
「お願いですよぅ」
「…………ヤだ」
「今から魔石を作るってなると、数時間は掛かっちゃうんですよぅ」
「…………………でも、ヤだ」
「リイサスさぁん……」
「………………………でも」
「なら、こうしろ」

両手をギュッと握ったおねだりポーズ。だけど薄い唇をツンと尖らせたリイサスさんは、中々言うことを聞いてくれない。
さっきまでの、アウルムの街の被害について苦心していた様子が嘘みたいだ。
恐るべき俺のプレゼントパワー。我ながら怖い……。自分の魅力がおかしいのか、リイサスさんの執着っぷりがおかしいのか。いや、どう考えてもリイサスさんの執着だな。
俺が悪いのか? いいや、悪くない……。

そうやって駄々っ子リイサスさんに苦戦していると、俺に加勢したガレが、素晴らしい提案をしてくれた。

「おいリイサス。お前は今すぐ魔石をアウルムの街まで持って行け」
「イヤだっつってんだろ。これはコージくんが俺のために作ってくれたんだから、俺のだ」
「そうだ。それで良い。お前は魔石を貸しに行くだけだ」
「………貸す?」
「所有権はお前にある。割高の使用料を1日ごとに取り続け、その間に代わりの魔石を探させりゃあ上等だ」
「………………」
「これなら、魔石はお前のものであり続ける。更に言えば、個人で所有する魔石の入手ルートを尋ねられた時、大切な奴から貰ったという事実をふんわり匂わせることも出来る。上まで話が広まれば、大切な奴っつぅのがコージだって分かる奴には分かるだろう。コージの話だと、空間転移魔法のこと、国王や宰相は既に知ってるんだろ?」

お? お、おぉ~、見事な妥協案。さっすがガレ!
リイサスさんの願いも叶えて、お金も巻き上げて、自慢も出来る一石三鳥! これならリイサスさんも異論ないだろ!

リイサスさんもガレの案に納得したのか、ソファからむくりと起き上がった。レア中のレア、駄々っ子タイムはもう終わりらしい。

「……まぁ、それなら」
「うむ。そう決まったならすぐに行きたまえ。今も我がオーディアンギルドの冒険者達がアウルムの街で戦っている。ついでにポーションも持って行ってあげなさい」
「…………あぁ。……コージくんは、これから?」
「あと20分くらいしたら、またお城に戻ります。何かあったらお手紙くださいね。いつでも帰って来ますから!」
「……じゃあ20分後に出発するね」
「………。そっかぁ」

俺の服の袖をギュッと握って、リイサスさんがそう言った。あと20分だし、まぁこのくらいは良いでしょう。準備もあるだろうからね。
それよりも、俺はワーナーさんに構いたい! ワーナーさん久しぶり~!!

「うぅ、コージぃ~!」
「ワーナーさぁん!!」

はぐりんちょ。すりすりぎゅ~っ!

ワーナーさんの良い香りのするコック服に抱き付いて、ワーナーさんのたくましい腕に抱き返される。
ギルドの運営管理や利益のことを考えず、ただただ美味しいものを作ってきたワーナーさんの側は、やっぱり安心するんだよな。打算とか絶対無いって信じられるからね!
いや、ルークさんやガレも、俺のこと打算的に利用しようとは思ってないんだろうけど?
ワーナーさんの圧倒的『陽』感が好きなんだよなぁ……。兄貴~って感じで!

「会いたかったぜ~!!」
「俺もぉ~!!」

ぎゅう……

団子みたいにピッタリミッチリくっついた俺とワーナーさん。そんな俺らと、平然とアウルムの街について話してるルークさんとリイサスさんとガレを見て、ヴァロが首を傾げた。

「……? 【アルカ十字団】の幹部は非常に嫉妬深いと聞いていたのですが、彼は例外なのですか?」
「ん? どういうことですかな?」
「コージと引っ付き虫になってる料理人の彼です。先ほど、リイサス・ラックがコージとキスしていた時は、ギルドマスターも盗賊頭も忌々しげにリイサス・ラックを睨んでいたと思うのですが、料理人の彼にはそのような視線は向けないので、疑問に感じまして」
「あー………」

ヴァロの質問に、ルークさんとガレが顔を見合わせて、すぐ悩むように天井を見上げた。答えにくい質問なのかな。でも、ヴァロの疑問ももっともだ。言われてみればそうだし、俺も気になる。
確かに最近、みんなからワーナーさんに向けられる嫉妬が、少なくなってた気がするんだ。俺が誰かとイチャイチャしてたら、息をするように邪魔するみんなが、ワーナーさんの時だけは邪魔してこない。最初の頃、ワーナーさんとバチバチに睨み合って、クビにまでしようとしていたルークさんもだ。
嫉妬してないのか、何か理由があって邪魔するのを我慢してるのか……。

「うぅん、何と言えば……」
「彼はライバル視するまでもないと?」
「え。ギルマス達、俺のことそんな風に思ってたのか……?」
「いや、待てワーナー。違うんだ」

ショックを受けたような顔で、赤毛の眉をハの字に歪めるワーナーさん。そんな悲しい顔をしてほしくなくて、俺がギッとルークさんを見ると、ルークさんは慌ててヴァロの仮説を否定した。
それに続いて、ガレが目線だけワーナーさんに向けて言う。

「お前には飯があるだろ。お前の飯は美味い。ぶっちゃけ、ウチの団員はお前の飯に惚れてんだよ。コージとお前の仲を邪魔して、飯の質を下げられるような真似は絶対にゴメンだからな」
「うむ。ガレ・プリストファーの言う通りだ。ワーナー、君はコージくんと不埒な接触をしていない。だから我々は見逃している」

あー…。あー、なるほど! 俺が未だにワーナーさんとキスもセッセもしてないから、まぁいいよって見逃してくれてるのね!
ワーナーさんが慎重派だから、俺に手出し出来てないだけなんだけれど、それなら納得だな!
……でもなぁ。俺、ワーナーさんとセッセしたい訳じゃないしなぁ。望まれれば? まぁ? OKしてあげても良いけど?
今のワーナーさんの進め具合を見るに、あと数年は掛かるかなぁ。

「…………? 不埒なことをしてないというのは、彼はコージの恋愛対象外という?」
「え゛っ。こ、コージ、俺のこと、男として見てないのか……?」
「ウソウソウソウソ!! ちょっとヴァロ、ワーナーさん泣かせんなよ!」
「すまないね。どうしても疑問に思ってしまって。昔からこういう性格なんだ。疑問に思ったことはすぐに理解しないと気が済まないんだよ。……あぁ、ところで彼が【アルカ十字団】幹部にいる理由と、その必要性は? ただの料理人だろう?」
「追い討ちかけんな!」

ひっど。ビックリした 。ヴァロ超酷い! しかも今の一連の質問、意地悪じゃなくて本当に疑問に思って聞いてきてるのが1番ヤバい! 無意識に傷付ける天才か?

「必要性とかないの! 俺がワーナーさん好きだから側にいてもらうの!」
「…? コージが好きな人は、みんな無条件で幹部入りかい? それは少し無防備なんじゃないかな……」
「うぐぐ……!」

せ、正論~! 正論なだけに腹立つ~!! 何も言い返せねぇ~!!
だってさ、ワーナーさんが【アルカ十字団】の幹部になったのだって、なんか成り行きみたいなところあったし? 幹部の理由を合理的に説明しろって言われても困るんだよ!

「見たところ、料理の腕が良いという以外に突出した点は無さそうだけど……」
「料理バカで悪かったな………」
「料理なら王室料理長もいるだろう? ディアドラ・ロドリゲス料理長も、コージを気に入っているようだし。彼でなくても良いんじゃないかな」
「ヴァロさ、よく腹黒とか性悪って言われない?」

えー……。ビックリ通り越して逆にスゲェよ。悪意なく本人の目の前で『この人ホントに必要?』って聞けんの、色んな意味で怖い。え、怖くない?
ヴァロの人間性って一体……。あ、半分魔女の血か。いやでも、それって人格に関係あんのかな。単にヴァロがヤベー奴な気もする。

一方、初対面のヴァロに超絶失礼なことをぶちかまされたワーナーさん、顔がムギャッてなってる。言い返したいけど言い返せないっぽい。
そういう時は殴ると良いよ! あ、俺手伝おうか!? その気取ったメガネ、吹っ飛ばしてやれ!
……と思ったら、ルークさんが熊耳をピコピコ動かして、ヴァロに声を掛けた。

「魔導師団長殿」
「はい?」
「ワーナーは南の大規模ドワーフ村村長の息子です。身分はハッキリと分かっていますし、コージくんを満足させるだけのスキルがあります。何よりコージくんが大変懐いている。特に問題はないかと」
「おや。南の大規模……というと、ゴロンロード村ですか。ほぉ、あの気難しい魔工学ばかりドワーフ族から料理人が。しかも村長の子息が……」

ヴァロが右手を口元に持ってきて、顎をスリってしながらワーナーさんをジィと見る。見詰められたワーナーさんは、たじたじで俺をギュッと抱き締めた。

そう、ワーナーさんはドワーフの中でもかなり特殊だ。
本来、ドワーフ族は魔法と工学が融合した、武器とか鎧とか家とか橋とか城とかを作る、魔工学っていう分野に特化していて、鍛冶屋や建築屋が多いんだ。職人にならなかったドワーフは、鉱夫として働いていたりする。
つまり、ドワーフは魔工学に関わる仕事に就くのが一般的。ドワーフの村長ともなると、それはそれは立派な職人さんだったんだろう。
それで、ドワーフ職人っていうのは大体が世襲なんだ。子供は成人するまで魔工学を学び、15歳になると親の元で修行を開始する。それが当たり前で、反発なんて出来ない。例えるなら、歌舞伎役者かな?
そんな中、『料理人になりたい!』って村長の息子が言い出した。それがワーナーさん。
当然、バッシングの嵐だったそうだ。親戚一族から猛反対を受けたワーナーさんは、村長であるお父さんを一発ぶん殴って、村を飛び出して来ちゃったらしい。
そうして拾われたのが、ここオーディアンギルド。料理学校には行ってないらしいし、本当に料理の才能があったってことだな。

うんうん、中々にワイルドな人生だよな! そういう生き方、ちょっと憧れちゃうぜ!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

【報告】こちらサイコパスで狂った天使に犯され続けているので休暇申請を提出する!

しろみ
BL
西暦8031年、天使と人間が共存する世界。飛行指導官として働く男がいた。彼の見た目は普通だ。どちらかといえばブサ...いや、なんでもない。彼は不器用ながらも優しい男だ。そんな男は大輪の花が咲くような麗しい天使にえらく気に入られている。今日も今日とて、其の美しい天使に攫われた。なにやらお熱くやってるらしい。私は眉間に手を当てながら報告書を読んで[承認]の印を押した。 ※天使×人間。嫉妬深い天使に病まれたり求愛されたり、イチャイチャする話。

悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

紡月しおん
BL
美園 律花。 それはとあるBL乙女ゲーム『紅き薔薇は漆黒に染まりて』の悪役令息の名である。 通称:アカソマ(紅染)。 この世界は魔法のあるファンタジーな世界のとある学園を舞台に5人のイケメンを主人公が攻略していくゲームだ。 その中で律花は単純に主人公と攻略イケメンの"当て馬"として動くが主人公を虐めるような悪いことをする訳では無い。ただ単に主人公と攻略イケメンの間をもやもやさせる役だ。何故悪役令息と呼ばれるのかは彼がビッチ気質故だ。 なのにー。 「おい。手前ぇ、千秋を犯ったってのはマジか」 「オレの千秋に手を出したの?ねぇ」 な、なんで······!! ✤✤✤✤✤ ✤✤✤✤✤ ✻ 暴力/残酷描写/エロ(?) 等有り がっつり性描写初めての作品です(¨;) 拙い文章と乏しい想像力で妄想の限りに書いたので、読者の皆様には生暖かい目で見て頂けると有難いですm(*_ _)m その他付け予定タグ ※タグ付けきれないのでこちらで紹介させて頂きます。 ・ヤンデレ(?)/メンヘラ(?)/サイコパス(?) ・異世界転生/逆行転生 ・ハッピーエンド予定 11/17 〜 本編ややシリアス入ります。 攻略対象達のヤンデレ注意です。 ※甘々溺愛イチャラブ生活&学園イベント(ヤンデレ付き)はまだまだ遠いです。暫く暗い話が続く予定です。 ※当作はハッピーエンドを予定しています。

処理中です...