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権力系ホモ★グリス王国編
限界イケメンぶちギレ案件
しおりを挟む『絶対幻覚じゃない!』『幻覚だっつってんだろ!』って言い合う冒険者さん達と盗賊さん達を横目に、テクテクとルークさんの執務室へ歩いて行く。
クエスト受注スタッフのシーガルさんに行き先を伝えたので、騒ぎを聞き付けたワーナーさんやジャックさんが俺を探しに来ても、シーガルさんが執務室に案内してくれる筈だ。
ひとまずはリイサスさんに会いに、執務室にGO。ガレは盗賊さんが呼んで来てくれるだろう。
なんか憂さ晴らしに魔物をボコって、今は解体所にいるらしいし。
ギルドの広場を通って裏に行くと、2階に続く木製の広い螺旋階段がある。ギシギシと音を立てるソレを上れば、そこは1階より落ち着いた雰囲気のフロアだ。
基本的に普通の冒険者が入れるのは2階まで。
1階の表部分はギルドの広場で、冒険者の人達がクエストを受注したり酒を飲んだりご飯を食べたりする。
1階の裏部分は解体所。第一から第三解体所まであって、クエスト完了が殺到した時や、大物の魔物が捕れた時は全部使う。
………でも、セキがヒュドラを倒した時は、3つの解体所だけじゃ足りなくて、結局外でも解体したんだよな…。
設計した人も、まさかヒュドラが運ばれてくるとは想定しなかったんだと思う。
ギルドの2階は、仮眠室と教室と会議室。あと応接室とシャワーもある。冒険者と汗の臭いは切っても切れぬ縁なので、エチケットとして定期的にシャワーを浴びるよう、ギルドからは注意しているらしい。
え、教室は何に使うのかって? 教室では講習会が開かれているんだ。C級以上の冒険者は『級』が上がるごとに試験を受けなきゃいけないから、その対策とか。あと……大型魔族の討伐クエストは、必ず何十人単位で参加になるから、討伐に当たっての指示とか……。まぁ結構使うんだよ。
ギルドの3階は、剥ぎ取った魔物の素材やポーション、貸し出し用の武器や防具も保管してある。ここはスタッフさんしか入らないけど、どの部屋も棚がギッチリミッチリらしい。
ギルドの4階は、ギルドマスターやサブマスの執務室。あとは金庫と書庫かな。
金庫には、政治とかでしか使わない白金貨っていうお金が貯められている。つまりプラチナだな。白金貨は、1枚で100万円ぐらいの価値があるらしい。でも一般的なお店じゃ使えないので、俺が気にする必要はない。
書庫では、オーディアンギルドに関する資料が積み上げられている。1度入らせて貰ったけど、埃っぽかった記憶しかない。
俺が普段、入り浸っているのはルークさんの執務室だ。羽ペンをカリカリ動かすルークさんの隣で、お行儀良く本を読んでたりする。
ジャックさん達は『もはやコージくんの部屋』、みたいな認識らしい。んで、俺らはその部屋に向かっている。
4階までふぅふぅ言いながら上って、ワインレッドのふかふか絨毯が敷かれた廊下を歩く。シックな調度品を横目に進んで、1番奥のダークブラウンのドアをルークさんが叩いた。
コンコン
『誰だ』
「私だ」
『……? えっ!?』
部屋の中で、リイサスさんの驚いた声が聞こえた。そこは『お前だったのか』って言って欲しかったけど、このギャグは知らないと思うから良いや。
バタッバタバタッガチャンッ
「ルーク!?」
そうやって慌てて出てきたリイサスさんは、茶髪がボサボサで、若干のクマが出来ていた。いつものイケメンが台無しである。普段はキッチリしているYシャツも胸元がはだけて、なんか…すっげぇボロボロだ。
ルークさんの背後から顔を出して、リイサスさんをじぃっと見ていたら、リイサスさんも俺を見付けた。
目が合って3秒。……10秒。…………30秒。
「………………?」
「…リイサス?」
「リイサスさん?」
「………? …………………………?」
…うーん、固まってる。石だ。
リイサスさんったら、俺の目を見て、鉄のドアノブに手を掛けた変な体勢のまま、動かない。
リイサスさん、それ腕キツくない?
「………あぁ、くそ。なんで俺、こんな、こんな幻覚見たって何の解決にもならないってのに……。落ち着け、冷静になれリイサス・ラック…。確かにこの現状を即時解決出来るのはコージくんぐらいしかいないが、それだって幻覚なんか見ても仕方がないだろう………! 落ち着け俺。現実を見ろ。今いない子を頼ったって……、うぅ…くそぅ……」
「あらら相当参ってる。リイサスさーん…」
「ウソだろ、幻聴まで! 今朝も夢で見たばっかりだってのに……。あーもうダメだ。働き過ぎた。一旦寝よ」
「リイサスさん!」
「ま、待ちたまえリイサス」
俺達を無視してドアを締めようとしたリイサスさんに、俺とルークさんが慌てて声を掛ける。
なんだか大変そうみたい。とりあえず部屋に入れてもらって、事情を聞かないとな。でもまずは幻覚じゃないって信じて貰おう!
「本物ですよ! 本物のコージっす! こっちは本物のルークさんと、本物の王国魔導師団長!」
「………ほんもの? ほんものは今、王城でルークやロイ達と一緒にいるはずだよ。あぁやっぱり意地でも付いて行けばよかった。そしたらこんな思いしなくて済んだのに………」
「一体、何があったのだね? 君でも対処出来ないようなトラブルかね?」
「なんでルークの幻覚まで話し掛けてくるんだ……。まぁ幻覚でもアドバイスくれればいいや…。南西にアウルムの街があるだろ、あの金鉱山で有名な」
「うむ」
「街の外壁を保つ魔石が壊れたんだ。コージくん達がここを発った翌日にソレ発覚して、押し寄せる魔物相手に、ウチにも冒険者の派遣依頼がドシドシ来た。こっちもなるべく派遣していたんだが、魔石がどうしても見付からないらしくて、とうとうウチに『魔石を立て替えで買ってくれ』って……。確かに今、オーディアンギルドは潤っているけどさ、魔石を立て替えってあり得ないだろ。どんだけ高額だと思ってんだよ」
「それは……、そうか。そんな事が」
「あとそう! 女神教だ。女神教の連中が『魔を匿う下劣で卑しい獣共。悔い改めなさい』って一昨日いきなり乗り込んできて、怒り狂ったウチの獣人の冒険者と聖騎士団がドンパチ始めやがって……」
「!?」
「被害は?」
「女神教が8人死んだ。こちらの被害はテーブルと椅子くらいだ。死体は盗賊が持って行った」
俺達と一緒に執務室に入ったリイサスさんが、革張りのソファにドサッと座った。目の前のローテーブルは、羊皮紙と判子と羽ペンとインクですごくゴチャゴチャしている。
やっぱり俺を幻覚だって思っているのか、普段は俺に教えないような事をペラペラと喋っている。ホント、超疲れているようだった。
そこでヴァロが俺の頬っぺたを、いきなり指先でつるんと撫で上げた。
背後からの積極的な行動にビックリしたけど、おかげでリイサスさんの目の色が変わる。
「獣人を差別していて、聖騎士団の対立宗教で、盗賊を敵視している『女神教』…。【アルカ十字団】共通の敵って感じだね」
ヴァロが言葉を発して、とうとうリイサスさんは眠そうな目をバチッと開けた。マツゲのバサッて音が聞こえてきそうで、ちょっとムカつく。
お疲れのところ申し訳ないけど、正直引っこ抜いてやりたい。
「……あれ? もしかして幻覚じゃない?」
「いえーす」
「………本物のコージくん?」
「ハグします?」
「…え? コージくん?」
「うん。そうだって」
「キスして良い?」
「……ちゅっ」
「アッ今のミルクの匂いした。絶対コージくんだ。舌入れさせて」
「…………ちゅー」
段々と正気を取り戻してきたリイサスさん。いつもだったら拒否る要求も、こんなにボロボロなリイサスさんにお願いされたら断れない。良心がチクチクしちゃう。
だから俺は背伸びをして、リイサスさんの首に両腕を回した。
今日は1時間程度しか居られないし、ご褒美キスくらいしてあげよう。
ルークさんは俺とリイサスさんと一緒に住んでいる。キスも日常茶飯事だし、怒りはしないと思う。
…問題はヴァロだ。
俺が他の男とキスをして、一体どんな反応を見せるのか……。
「……………………」
ヴァロは黙って俺達のキスを見詰めていた。
眼鏡の奥の目を細めて、薄い唇をニィ…と吊り上げた冷たい笑顔を浮かべ、片足でコツコツと地面を叩いて、俺達を見詰めていた。
うん、どう見てもイライラしている。完全に不機嫌だ。ちょー怖い。
でも邪魔する気はないのか、俺達から2メートル離れた場所に立ってるだけ。それが逆に怖さを煽っているけれど、ここでディープキスを拒否っても、リイサスさんがショックを受ける。
ごめんけど、ヴァロには我慢してもらおう。
ちゅっ、じゅるる…はむっもむもむ…
「んん……、むぅ、んちゅ」
「はぁっ、コージくんのちっちゃな舌…、すごく久しぶりだっ…」
容赦なく俺の口の中をベロベロ舐めて、唾液を流し込んでくるリイサスさん。
離れていたのはほんの数日だけど、城に行くまでは毎日毎日、朝昼晩でずっとキスをしていたので、キスはもう挨拶みたいなもの。
王城では、ルークさんやカイル、ロイとセキとはキスをしていた。でもやっぱり超絶技巧のリイサスさんやガレ、ジャックさんとキスしていないと、落ち着かない。………ちょっとだけど。
ワーナーさんは色々ウブだから、キスもまだ頬っぺただけだ。ウチの兄貴は世界一可愛いドワーフです。
ちゅる、ちゅっ、じゅうううっちゅっちゅっ…ピチャ…くちゅっくちゅっ
中々終わらないキス。ヴァロの冷笑はどんどんと深みを増して行くし、ルークさんの忍耐もそろそろマズい。俺の唇も腫れる気がする。
でも、ちょっと胸を押しても、倍の力でキスされる。これはアカン。逃げられん。
背中と後頭部に回されているリイサスさんの腕が、俺の尻に伸びる前にどうにかしなければならない。
そう思っていた時、救世主が現れた。
ドタドタドタドタッガツンッガチャンッ
「「コージ!!!」」
執務室にスライディング入室してきたのは、ガレとワーナーさんだった。
ワーナーさんはスライディングの勢いを殺し切れず、そのままローテーブルに激突。乗っていた羊皮紙の束やバサバサ崩れ落ちたけど、気にせずに起き上がる。
………ぶつけた足、大丈夫?
「……本物のコージだ」
「な、え。は…? なん、で」
「ガレもワーナーさんも久しぶりー! つっても3、4日か」
俺の目前まで迫り、体中をペタペタ触ってくるガレとワーナーさん。キスを邪魔されたリイサスさんは、なんだか不満げだ。
『1週間は滞在のはずだろ?』『もう帰ってきたのか?』『会いたかった』『抜け出してきた?』『馬車も使わずにどうやって?』『リイサスとキスしていたな』『処遇は決まったのか?』『そこにいるメガネの男は誰だ?』『カイルとロイと古龍sはどこに?』『俺もキスしたい』
……と、まぁ色々な事が目から伝わってきますが。面倒なので順に説明していこうと思う。
だからガレはちょっと落ち着け。
俺の頬っぺたを離せ。腰に腕を回すな。服の下に手を滑り込ませるな。
あっ! 乳首を摘まむな!
********************
「────という訳で、かくかくしかじかなんですよ」
「そうかそうか。城の要人をほとんど惚れさせて、空間転移魔法で一時帰宅と。何考えてんだコラ。犯すぞ」
「ごめんちゃい」
「許さん」
「ぎゃー!」
ソファを立ち、ローテーブルを跨いで襲おうとしてくるガレと、必死の攻防。
力…、力強い。負けちまう。リイサスさんヘルプ。
と思って隣を見るも、リイサスさんはルークさんと書類を見ながら、何か真剣にお話している。
あ、これ助けてくれない雰囲気だ。
「それで、アウルムの街の対応だ。外壁に大きな穴が出来て、魔物が寄って来ている。市民は中央部に緊急避難中。騎士と兵士と派遣の冒険者が必死に凌いでいるが、それもいつまで持つか……」
「うちのギルドから何人出ているんだね」
「D級が78人、C級が30人、B級が12人、A級が4人」
「そんなにも」
「食糧支援に料理人が3人。医療支援に職員が5人。計142人」
「侵攻度は」
「3時間前の報告だと28%だ。占領ラインは40%。そうなれば街を捨てて逃げるしかない」
「あの金鉱山を捨てるのか!」
「本当にギリギリなんだろうよ。魔石さえ見付かれば、すぐにでも魔導師達が壁を修復するが、肝心の魔石がどこにもない。超希少だからな」
「それで、我々にも探して欲しいと」
「ウン。だが魔石なんてそう簡単にあるものじゃないだろ。王国騎士団と王国魔導師団への派遣要請は断られて、みんな血眼だ」
うぉぉ…。なんかスッゴい大変そうだ。大人の話にはあんまり口出したくない。
そう思ってガレとワーナーさんとわちゃわちゃ戯れていると、リイサスさんがクマでどんよりした顔を、ヴァロに向けた。
室内を彷徨いて調度品を眺めていたヴァロが、視線に気付いて愛想笑いをする。
「アンタ、王国魔導師団長なんだろう。なんで要請を断った。情報は入っていた筈だ」
「ウチはウチで大変でして」
「……その割には暇そうだ」
「何せ古龍が3体まとめて押し寄せて来たので、万が一の時の王都防衛の為に、どうしても離れられなかったんですよ」
「コージくんの話だと、古龍加護宣言が成された今、王都防衛の必要はない。すぐにアウルムの街に行ってくれよ。騎士も兵士も冒険者も、みんな疲弊してる。アウルム金鉱山が潰れれば、グリス王国にとっても痛手だろ」
「僕はコージの側にいなければならないので。あぁでも、王国騎士団は動いてる筈ですよ。編成から移動で何日掛かるか分からないですが……」
「それじゃあ遅いッ! クソ、あと1日持つか分からないってのに……!!」
頭を抱えて叫んだリイサスさん。
そのアウルムっていう街、本当に大ピンチみたいだ。魔石さえあれば、壁を修復出来るらしいけど……。
よーし、じゃあここら辺でコージくんが助けてあげますか!
元はと言えば、俺らがこんなタイミングで王都に行ったのが悪いんだし。
俺とセキセイオウが王都に行ったタイミングと、アウルムの街の外壁が壊れるタイミングが重なったから、王国騎士団も王国魔導師団も駆け付けられなかったんだよな……。
ごめんなさい。アウルムの皆さん。今から何とかするので、許してください。
俺は首から下げた紐の先を握って、リイサスさんの服を引っ張った。
「リイサスさんリイサスさん」
「ん、なんだい?」
「ぷれぜんとふぉーゆー」
「何かくれるのかい? ん? あれ、なにこれ。魔石? ハ? 魔石? ませき!?」
「はい。あげます」
「いやあげますじゃなくて」
「ぜひ使ってください」
「待て。話を聞く。座れ。ルーク説明しろ」
「私はネコチャンのネクタイを貰った」
「説明しろっつってんだよ!!!!!!!」
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