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権力系ホモ★グリス王国編

6000記念 ガレの優雅な日常

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かしらであるガレ・プリストファーの1日は、大抵が日の出と共に始まる。
部下の俺、コナー・トランズが起こしに行く時には、もう着替えも髭剃りも済ませている事がほとんどだ。
前にコージさんが泊まられた時、お頭がチクチク髭の生えたで顔で頬擦りした所、『ガレがじょりじょりしてる~!』と大変喜ばれたそうなので、ジャックとか言う冒険者のように、生やす事も検討しているらしい。
コージさんの為ならば、お頭はなんだってするのだ。

「おはようございます、お頭」
「おう、おはようさん」
「本日は9時からお仕事です」
「あ~、ウルゲナの頭と話付けなきゃな」

シャツはボタンを3つ外し、深い紫のベストはキッチリ。
1度血が付着すると中々落ちないから、予備はいっぱいクローゼットに仕舞ってある。
少し伸びた髪を後ろでまとめ、前髪をバッグに撫で付けて、お頭の身支度は完成だ。
今日も朝から色男。こんな人に迫られて堕ちないコージさんが不思議である。

中規模盗賊団、ウルゲナの頭との会談について話ながら、お頭とリビングへ向かう。
前にいた地下遺跡の拠点とは違い、ここは普通の屋敷だから、住める団員の数も決まっている。
広い食堂は豪華なリビングへと変わり、設備が整ったので食事も豪華になった。
朝食からチキンソテーを食べられるなんて、幸せだ。

俺はキッチンにいる料理人に、バリダというチキンソテーをオーダー。お頭を見ると、特に考えもせず即決していた。
お頭は決まったものは食べない。好き嫌いがないので、毎日気分のままメニューを頼み、必ず完食する。
仕事の進捗によって、まったく食べない日もあれば、逆に朝からピザ3枚を食べたりするので、料理人は常に万全の準備で朝食を作る。
ちなみに今日は結構まともで、ハムとレタスのサンドイッチと、青豆のスープ。それとコーヒーを注文して、窓側の特等席に座った。

「報告」
「はい」

お頭が開いた本から目を離さずにそう言うと、次の瞬間には窓辺に隠密の団員が足を掛けていた。昨晩、コージさんの見守り担当だった団員だ。
相変わらず、どこにいるかも分からない黒ずくめ。

「ギルドから帰宅された後、ルーク・アラウザと入浴。互いに洗い合いをした後、リビングのソファで『三大種族』を読了。23時にリイサス・ラックの部屋で就寝。7分前に起床しました。本日の予定クエストは『北東の貯水湖に巣食うゴクリ10体の討伐』です」
「性的接触は」
「ルーク・アラウザと口付けが9回。リイサス・ラックと口付けが7回。臀部の接触はルーク・アラウザとの入浴中に複数回。性行為は確認しておりません」
「ご苦労」

お頭の労いの言葉を聞いた団員は、また次の瞬間には姿を消した。
サンドイッチとスープ、コーヒーが運ばれてくるが、お頭の眉間には深いシワが。
こうやって毎朝嫉妬するんだから、もう聞かなきゃ良いのに。そう言ってみても、『コージのすべてを把握しておかなきゃ気が済まねェ』と、毎朝毎朝、ギルマスとあの参謀の話を聞いては不機嫌になるのだ。
まったく難儀なお方だ。早く拐って閉じ込めてしまえば良いものを、『嫌われたくない』なんて理由で躊躇している。
確かにコージさんの可愛い笑顔が損なわれるのは避けたいが、お頭ならコージさんを騙して記憶をすり替えるのも簡単なはず。
どうして実行しないのか、俺には分からない。

「北東の貯水湖…っつぅことは、馬車か。昼に発っても帰りは遅くて18時…。……昼飯と夕飯には会えるか…。オイ、ヴァンツェ」
「へい」
「聞いてたな? 俺は17時まで予定がある。11時には1度帰ってくるが、ギルドでコージと飯を食ってまた仕事だ。コナーとミゲルは俺に同行。残りの奴はコージの護衛に行くから、テメェ1人でここ護ってろ」
「へい」
「頑張れよー入団1ヶ月!」
「俺の部屋勝手に入んなよ!!」

留守を任されたヴァンツェに、数人の野次が飛ぶ。ヴァンツェは巨体を揺らして『入んねーよ!』と言い返し、食事に戻った。
間もなくしてお頭がサンドイッチを飲み込み、俺もバリダを完食。そのタイミングでミゲルがリビングに入ってきて、俺の隣に座った。

「おはようございます…」
「おせーぞミゲル。つか顔色わるッ」
「うぅ……、すみません…。ちょっとアレ作るのに熱中してしまって…」
「あぁ、アレな。威力は?」
「死にはしません」
「よーしよくやった」
「あざっす……」

運ばれてきたコーヒーを一気に飲み干し、ミゲルは顔を両手でパァンと叩いた。
ミゲルは手先が器用だから、お頭からよく小道具の制作を頼まれている。昨夜も殺傷力の低い、無力化用の小道具を作っていたらしいが…、『死にはしない』って相当遊んだな、コレ。

「ウルゲナ…、どうします? 見逃す気はないんでしょう?」
「まぁな。この国で強盗殺人をされちゃア、こっちの面子もなァ。国民が外出を控えれば俺らの獲物もいなくなる。殺しは止めさせねェといけねェな」
「拒否した場合は」
「殺せ」
「はい」

俺達、『死神の吐息』がここまで規模を成長させた理由。
それは、滅多に殺人を行わなかったから。

基本的に民間人は殺さない。民間人を殺せば、王国騎士団が出てくる。治安も悪くなり、他の盗賊団も入ってくる。それは避けたい。
ウルゲナ盗賊団は、3千人程度の団員を持つ中規模盗賊団。新参者が多く、こちらの暗黙のルールも分かっているか微妙なところ。
そのウルゲナ盗賊団だが、この国で殺人を行うのだ。騎士団からして見れば、『死神の吐息』も『ウルゲナ盗賊団』も区別が付かない。
このままでは、王国騎士団に死神の吐息まで目を付けられてしまう。

今回は、それを回避する為の会談だ。
ウルゲナ盗賊団の頭は、ウチのお頭より少し年上の、所謂インテリというヤツだ。何度か会ったが、すましていて気にくわない。
お頭に対して媚を売る様子が見受けられるが、同時に慇懃無礼さも感じる。内心、お頭を引きずり下ろして自分がその立場になろうと、虎視眈々と狙っている事も、丸分かりだ。
だが将来有望である事は確かなので、お頭は問答無用で殺さない。公私混同を嫌うからだ。

……まぁ、コージさん案件を除いて、だけど…。

今日の会談も正直憂鬱だが、お頭は今日で話を付けると言っているし、我慢する他ないかな。
終わればコージさんに会いに行けるんだ。もふもふされたいから、真面目に頑張ろう。



「んじゃ、頼んだぞヴァンツェ」
「へい。行ってらっしゃいませ」

ヴァンツェの見送りを受け、馬が走り出す。場所は騎士団駐屯跡地。ずいぶん前の聖魔大戦で、ボロボロに大破した廃墟の地下だ。
馬を走らせて30分。到着した時には、既にウルゲナ盗賊団の団員が待ち構えていた。
頭の躾がなっていないようで、ニヤニヤと俺達を見て笑っている。
ウチの団員なら、会談相手にそんなナメた真似した途端、詫びとして会談相手に差し出されてしまうのに。
過去、同じような事をして相手に差し出された団員が、猪に犯されて食われた事例もある。
それほど、死神の吐息では教育を徹底しているのだが。
まったく、このウルゲナ盗賊団は……。既に格の違いがハッキリしたな。
きっと、俺達が3人だけだから、油断しているんだ。

お頭が鼻っ面叩き潰してくれる事を祈って、俺は馬を降りて地下へ歩き出した。
後ろにお頭。その後ろにミゲル。
暗い階段を降りて、前の大戦で被爆を免れた地下室に進む。こんな場所じゃ被爆は逃れても蒸し焼きだろうな、なんて思いながら、相手の団員の人数と位置を記憶して、万が一の時に効率良く処理出来るよう、頭の中でルートを構築。
特別気にしなきゃいけない奴がいれば、お頭が『鑑定』して俺達に知らせる。
今のところ合図がないという事は、雑魚ばかりなんだろう。
奥の重厚な鉄の扉の向こうには、所々焦げた部屋に相応しくない、綺麗な黒いソファと黒いテーブルが置いてあった。

「あぁ~ガレ・プリストファーさん。お久しぶりですねぇ。いやはや、『死神の吐息』の拠点の1つが聖騎士団に襲撃されたと知り、とても心配していたんですよ! ご無事でなによりです! 重症を負った、なんて噂もありましたが、最近は小さな子供に夢中だとか…」
「よぉアルクェイド。あいっかわらず良く回る口だなァ。お前の為に教えといてやるが、その子供に関して何か言おうもんなら問答無用で敵対だぜ? お利口してな」
「それは…、そうでしたか。失礼しました。子供に関しては口をつぐみましょう」
「良い子だ」

胡散臭い笑顔で出迎えたのは、ウルゲナ盗賊団の頭、アルクェイド・ドストラ。まだ30代らしく、盗賊団の頭にしては理知的で若々しい。
まぁ、頭脳も若さもお頭には敵わないがな!
カリスマ性でも単純な力でも劣っているアルクェイドは、ここでは利口にするしかないのだ。
年下のお頭に『お利口』、『良い子』、なんてあからさまに馬鹿にされても、憤慨した素振りは見せずにアルクェイドはニッコリと笑う。
アルクェイドはお頭に取り入る事が目的なので、お頭が親切に教えてくれた『NGワード』をわざと言って、怒らせたりはしないだろう。

「さて、アルクェイド。本題に入ろうか。お前らが飽きもせずに繰り返している殺人だが…、止める気は?」
「その件なのですが…、えぇ、止める気はありますとも。現在も部下へ指導をしているのですが、中々……」
「ほぉ。いきなり心変わりか? それとも『死神の吐息』の拠点を『聖騎士団』にリークして互いに潰し合って貰おうっつぅ当てが外れたから、急遽方針を変えたのか?」


空気が凍った。

アルクェイドの背後に控えていたウルゲナ盗賊団の男がナイフを引き抜き、お頭と目が合って死んだ。
アルクェイドはいきなり死んだ部下に狼狽して、真っ青になりながらお頭を見る。
それでも笑顔を保つのは、この男の意地だろうか。

俺とミゲルは平然と剣を抜く。
あの、聖騎士団との戦いがコイツのせいだと言うのなら、生かしておく理由はない筈だ。
あの戦いで、『死神の吐息』からは20人程度の犠牲が出た。
盗賊団とはいえ、仲間意識くらいある。

仇ならば、取ってやりたい。

「コナーミゲル。ステイ。まだだ」
「い、一体なにを…」
「いや俺はお前を信用してるからさ。当然もう知ってるよな。だが…念のために教えるとな、俺ら今、聖騎士団の連中と仲良しこよししてんだわ。まぁ…、一時停戦みたいな?」
「オーディアンギルドで共に食事を…」
「そうそう、よく調べてんな」

コージさんの願いで成り立つ停戦。
コージさんがそれを望まなくなった瞬間、ギルドは血の海になる。
今だからこそ、共に酒を飲むくらいには仲良いが、元は何年も殺し合いを続けた相手だ。
『死神の吐息』にも『聖騎士団』にも、ここ数年で既に100人以上の犠牲者が出ている。
特に『聖騎士団』は、俺ら暗黒属性をこんな底辺にまで追い詰めた張本人だ。
そう簡単に忘れられる恨みではない。

だが、今はコージさんがいる。コージさんの笑顔の為に、誰も彼もが剣を仕舞い、魔法を封じて、同じ飯を食っている。
なんとも気味が悪いが、その副産物として、今回のリークは明らかになった。

「俺はてっきり、捕虜が拠点場所を吐いたんだと思っていたんだがな。直接カイル・マンハットに聞いたところ、どうも外からリークがあったらしいんだわ」
「…………」

ここに来た時と変わらない、高めのトーンで淡々と喋るお頭。一方のアルクェイドは脂汗が目立ち、声も段々低くなっている。
どちらが優勢なんて、明らかだろう。

「『ドラキュラ』さんから懇切丁寧に、拠点の場所と人数、拠点の構図の説明まであったらしいぜ?」
「……奇っ怪な、名前ですね」
「あぁまったく。Draculaドラキュラなんて酷くお粗末なアナグラムだよなぁ。そうだろ、Alucardアルクェイド。逆さまにしただけなんだぜ?」
「……………………」

あぁなるほど。DraculaとAlucard、確かに逆さまだ。

これで言い逃れは出来ない。
もう行動して良いだろうか。もう殺して良いだろうか。いやいや、まだ許可は降りていない。我慢我慢……。

うつむいて眉を歪めるアルクェイドに、お頭はフッと笑った。
死んだウルゲナ盗賊団の男の死体に近付いて、腹にナイフをブスッと刺す。シチュー鍋をかき混ぜるように、ナイフで死体のはらわたをかき混ぜて、お頭が遊ぶ。
それを見たアルクェイドは、その狂気に震えるが、別にお頭はアルクェイドを怖がらせる為にぐるぐるザクザクやっている訳じゃない。
本当に、ただ遊んでいるだけだ。
アルクェイドが黙ってしまったから、詰まらなくなったのだろう。

ぐちゅぐちゅ

「うわコイツ肺黒ッ。墨でも塗り込んでんのか……」
「………趣味、悪いですよ」
「はははそれほどでも」
「…………私を殺すつもりですか」
「は? あー、んー…いや別に」
「……………?」

お頭の言葉に、アルクェイドが顔を上げて首を傾げた。
ミゲルが剣を仕舞った事を確認して、俺も仕方なく剣を仕舞う。
仇は討ちたいが、お頭の意向であれば殺す訳にはいかない。
部屋にいたウルゲナ盗賊団の連中も、凍った空気が徐々に溶けるのを感じたのか、一斉に息を吐いた。

「まぁ…死にかけたし? 部下は結構死んだし? 拠点は1つ潰れたし? 損失も多かったが……、俺はあの時、聖騎士団が押し掛けてきてくれたお陰で、アイツに出会えた。この世で唯一無二の子供だ。誰よりも何よりも重い命を持っている、真の魔性。聖騎士団が押し掛けて来なければ、惑わしの霧が発生しなければ、腹を斬られて死にかけていなければ、出会えなかった。だから感謝こそすれ、恨むなどありえない」
「………………そうでしたか」
「あぁ。だからそんなに警戒すんなよ。つーか、今日の議題は『ウルゲナ盗賊団の殺人について』だろ? 勿論、止めてくれるよな?」
「…えぇ」

ずっと驚いたままのアルクェイドにお頭は畳み掛け、言質を取った。
後は正式な書類を交わし、問題は解決だ。
時刻は10時06分。コージさんと昼食を共にするには、まだ間に合う時間。
予め用意していた書類をお頭に渡して、アルクェイドがサインをした事を見届けて、お頭が席を立つ。
ミゲルが書類を受け取り、これで午前の仕事は終わった。
これでウルゲナ盗賊団がまだ殺人を行おうものなら、否応なしに殲滅が始まる。

仕事が終わったので、地上へ上がろうとアルクェイドに背を向けると、アルクェイドがお頭を引き留めた。

「あの、どうすれば」
「あん?」
「どうすれば貴方のように? 部下をどうやってそんなに」
「あー……、そっか。お前は頭初心者だったな」

仕事の新人のワガママを聞くように、お頭が振り返った。
アルクェイドから見れば、お頭は同業者として大先輩。圧倒的な経験と統制力で『死神の吐息』を、5万人の盗賊を支配下に置いている、伝説的な先輩だ。
ちなみに、コージさんは『ジャミーズJr.から見たアラシ的な存在なのかな…』と言っていた。
どういう事かは分からない。

「……んー、まぁ、最初は恐怖による統制だな。恐怖で従順にさせた後、理想の上司として振る舞えば、ナメられる事はねェ。だが、最も重要なのは信念だ」
「信念…。死神の吐息の、『暗黒属性の救済』のような…?」
「おう。だから俺は暗黒属性の奴らから慕われているし、団員も増えやすい。外れ者が選びやすい信念を掲げるんだな」

『期待してんぜ』と声を掛け、今度こそお頭は部屋を出た。
俺とミゲルもそれに続き、扉から階段を上がる。
相手は1人死んだが、まぁ良い方だろう。
殺し合って返り血が付けば、シャワーで時間が取られてしまう。
お頭は予定にないものでコージさんとの時間を奪われる事が、大嫌いだ。血塗れでコージさんに会う訳にもいかないし、予定通りに進んで良かった。
でもあとひとつ、大きな仕事が残っている。もう少し、頑張ろう。



********************



「あっガレ!」
「ようコージ! 今日もヒヨコみてぇに可愛いな。んー、ふわふわ」
「ヒヨコじゃねーもん! ………撫でんのが嫌とは言ってない。もっと」

開口一番に失礼な事を抜かしやがったガレに、頭をわしゃわしゃなでなでされて、俺はヘロヘロだ。
……だから嫌とは言ってないだろ。

ニッコニコのガレにされるがままの俺。髪はボサボサだけど、いつもの事だから気にしない。気にした所でガレは手を止めないから。
ガレのおっきな手に頭と顔を撫でくり回されていると、特徴的なふさふさオレンジの耳が見えた。
そう。ガレの後ろから現れたのは、バンダナを巻いたミゲルさんと、もふもふお耳が素敵な狐さん…。

あ~愛しのもふもふぅーーーッ!!

「確保ーー!!」
「きゅーーーーんっ!! きゅう……♡」

ぼふんっ

俺が耳をもふった瞬間、人型から狐型になっちゃった狐さん。
はぁ、相変わらずキュートなお姿…。毛艶が麗しいしぷにぷにのお鼻が最高……。尻尾もふさふさ。もう可愛いの化身だ。
もふもふ堪能ターイム!
手始めにお腹を吸わせて頂きましょうかね、ふへへ。

吸ぅーーーーーーー……

「はわわ……、きゅう、きゅうん…」

ガレとルークさんの嫉妬の視線に晒されながら、狐さんのもふもふぽかぽかなお腹に顔を埋めてスンスン吸う。
あぁここが楽園なんだ…。

「おーいコージ! お楽しみのところ悪いがよ、飯はどうするんだ?」
「あっワーナーさぁん! えっと、えっと、俺、チーズポットパイが食べたいです!!」
「おう!! とびっきり美味いの作ってやるからな!」

そばかすが素敵なワーナーさん、ニッカリ笑顔で快く引き受けてくれた。大好きです、兄貴。
昼時のクッソ忙しい時間帯なのに、俺の飯はいつもワーナーさんが1人で作ってくれている。
俺もセイの魔法特訓で疲れちゃったし、午後のクエストに備えてエネルギーチャージは超重要だ。
いや~、感謝しかありませんな!

「んで、お前らはどうするんだ? 食ってくんだろ?」
「あぁ。雉のロースト、丸々1羽。ソースとチップスも頼むぜ」
「はいはいローストフェザントな。ブレッドソースで良いか?」
「おう。部下の分のソースもな」
「1羽とソース3人前で銀貨9……、まいど」

ワーナーさんが言い終える前に、ガレが金貨1枚と銀貨3枚をズイッと差し出した。その中に、チップも入っている。
態度はデカいが太っ腹。
だからガレは、オーディアンギルドでも普通に受け入れられた。

「んじゃ、コージの分を超特急で作ってくるな!」
「ありがとうございますっ!」

とんがりお耳も素敵なワーナーさんを、手を振って見送って、俺は席に座った。
膝の上にはトロトロな狐さん。ミゲルさんが羨ましそうに眺めていたので、手招きして一緒に撫でる。
『うう、大人としての威厳が……、きゅう…』なんて呟いてる狐さんはスルーして、ひたすらもふもふ。
途中、嫉妬したルークさんがのっしのっしやって来たから、ヘロヘロ狐さんをミゲルさんにパスして、ルークさんのお耳をもふもふ。
ホントは熊姿になって欲しいけど、体が大き過ぎるから、机の移動が大変なんだよな。

「クッソ獣人羨ましい……」
「アイツら剥製にしてやりてぇ」

いつの間にかいたリイサスさんと、腕を組んで立っているガレが、なんだかグチグチ言ってる。
あんまりにもグチグチ言うので、俺は仕方なくグルグル鳴くルークさんの耳を手放して、2人に抱き付いた。
はぁ~、俺ってば優しい~。世にも恐ろしいヤンデレ2人の機嫌を取ってるんだから、ノーベル平和賞とか貰っても良いと思う。

「うふふ、コージくんからハグしてくれるなんて!」
「そうそう、平等に撫でて平等に癒されろ」

リイサスさんが感極まったように、俺をぎゅっと抱き締め返した。ガレは俺に濃いワインレッドの艶々な髪を撫でさせて、無茶な事を言う。
もふもふ達ならとにかく、万人が認めるようなイケメンを撫でたって、癒されはしない。劣等感で頬っぺたをつねってやりたくなるくらいだ。

「リイサスさんとガレじゃ別に癒されない…」
「んだと? なら俺が癒されてやる」

ちょっと訳の分からない理屈で、俺の頭に顔を埋めてスーハースーハー深呼吸し出したガレ。
前にリイサスさん、後ろにガレというイケメンサンド。2人が上等な白パンなら、俺は萎びたレタスだ。

スンスンスンスン……

んむ~…。吸われるのは慣れてるから構わないけども、頭皮はムズムズする。
というか、最近じゃ皆から吸われすぎて、いつかカニバリズム的な展開にならないか心配だ。
俺、食べてもきっと美味くない…。

「はぁ~…。石鹸とミルクと香ばしいチーズの匂い……、あ? チーズ?」
「おう。チーズポットパイだ」

萎びたレタス状態の俺を助けてくれたのは、やっぱり兄貴のワーナーさん! そしてその手には大きなポットパイ!

キターーー! 寒い日のお供!! ポカポカトロトロチーズポットパイ!!
数あるパイの中でも、俺の大好物! ミートパイと良い勝負だけど、冬はやっぱりこれですよな~!!
ワーナーさんのポットパイは世界一で、じゃがいもや人参なんかの野菜は勿論、きのこと鶏肉も入ってるんだ。その上にとろけたチーズをたぁっぷり使っているから、濃厚さが半端ない。
舌の上で踊るクリーミーなトロトロシチューと、ホロホロになるまで煮込まれた野菜達。人参は甘くて、じゃがいもはホクホク。柔らかくてモチモチな鶏肉。それを覆う濃厚3種のチーズ。そしてその旨味を閉じ込めるような、サクサクふわふわなパイ生地。
うん、やっぱり世界一。俺、もうワーナーさんのポットパイがないと生きていけないと思うわ。

「コージ、チーズ増し増しポットパイ、熱いうちに食ってくれ!」
「はわわワーナーさぁん!! 今食べに行きます! はいリイサスさん離して。ガレもスンスン止めて。ポットパイが俺を待っている」
「行かせるか」
「冷めちまえ」

アホな事を言った2人に軽めの拳骨を落として、俺は席に座りスプーンを握った。
ワーナーさんがニコニコ笑顔で見守る中、俺はサクサクなパイをスプーンで突き破り、中のチーズと香りとシチューの湯気を顔に受けた。
はぁ、もう幸せ。よだれが溢れそう。

「全ての食物に感謝と祝福を! いっただっきまぁーす!!」




********************




コージさんがリスみたいになっているのを、いち早く食べ終わったお頭がじぃっと観察している。
お頭の視線が、飲み屋のボンキュッボンのお姉ちゃんを見るエロ親父のソレだ。食事するコージさんを見ているだけなのに、視線が不健全。
でも、お頭の視線も分からなくもない。
コージさんは、どんな料理もとても美味しそうに食べるし、熱い料理は少しエロく食べる。赤い頬をもっと真っ赤に染めて、はふはふ食べる。
それが恐ろしく可愛くて、正直股間にくる。
俺はコージさんをで見ていないのに、それでも酷く煽られてしまう。
コージさんは無意識だから、余計にたちが悪い。

これ以上、食事をするコージさんは目に毒だと判断して、まだ雉肉を噛み千切っているミゲルに視線を向ける。
宿敵である聖騎士団のスパイではあったが、今では本当に死神の吐息の団員として動いている。仲違いもしたけれど、コージさんの尽力で仲直り出来た。

狐姿の時にもふもふしてくる手が、少しいやらしい手付きな気がするのは……多分、気のせいだ。

「ごちそうさまでした!」

元気な愛らしい声に振り向くと、コージさんがポットパイを完食したようだった。
頬に付いたパイの欠片をお頭が舐め取り、コージさんの食事をずっと見守っていたドワーフの料理人が、コージさんの額にキスをして、食器を下げる。
コージさんがポンポコお腹をさすって、ウキウキに立ち上がった。
この後はクエストだ。北東の貯水湖へゴクリ退治に向かうらしい。
俺達は仕事があるので、これでコージさんとは1度お別れになるが、まぁすぐに会えるだろう。

平和な食事の時間は終わりだ。裏切り者を炙り出す。準備は済んだから、爪を研いで待っておこう。




********************




ー北東の貯水湖ー



男が木々の間から少年を見詰める。手には縄と睡眠草を持ち、少年の周囲の男共が離れるのを待つ。
貯水湖の脇の人工床に立つ少年は、男に気付いていない。両脇に立つ2人の男に笑い掛けて、警戒心の欠片も見られない。
男は少年を眠らせて拘束した後に乗せる馬車を確認して、追って来るであろう2人の男を撒く為の小道具も、ポケットの中で握って確かめた。
男にとって、練りに練った計画である。何があっても失敗出来ない。
両脇の男はA級冒険者とB級冒険者との情報だ。厄介ではあるが、撒けぬ相手ではない。この2人が少年のクエストに同行する当番になるまで、男はずっと待ち続けた。
少年を拐う事が出来たなら、男の将来は安泰だ。少年の価値から考えて、金貨数億枚はくだらない。
男には家庭の事情というものがある。どうしても大金が必要だった。

「………………」

じっと息を潜めて、その時を待つ。
少年が魔法を放つ瞬間。男達は巻き込まれぬよう、離れる筈だ。その瞬間を狙う。
睡眠草は通常のものより数段強力なものを用意した。一瞬で意識を奪える、認可されていない代物だ。

少年が男2人に結界のようなものを張った。いよいよである。
男は震えを圧し殺し、いつでも地面を蹴られるように体勢を整える。
そして、少年が貯水湖の中心にいるゴクリに向かって強力な電雷魔法を放ち─────

男はその場に倒れ込んだ。

全身に走る激痛に悲鳴も出せない。
まるで錆び付いたノコギリでゆっくりと切られるような、最上級とも言える苦痛が身体中に響き渡る。
声も出せずにのたうち回る男の側に、また別の男が3人立っていた。


「オイオイオイオイ散歩か? 俺はお前に留守番を頼んだはずなんだが……。随分と呑気だなぁヴァンツェくんよォ」
「お゛……お゛か゛し゛ら゛………」

男の頭上でニッコリと綺麗に微笑んだ色男…ガレ・プリストファーが、男が盗み出したはずの書類の山を片手に、男を足蹴にする。
激痛でモヤの掛かった頭で、男は嵌められた事に気が付いた。
スパイとして『死神の吐息』に忍び込んでいた男は、全ての団員がいない今日の午後を狙って、少年を拐おうと計画していた。
だが、ガレは男の正体に気付いていた上で、わざと今日狙わせるように指示していたのである。

「いてぇだろ、ソレ。ミゲルお手製の神経毒だ。激痛の後に麻痺が来るから、もうちょい耐えてな。後でたぁっぷり吐いて貰うぜ?」

そう言って、ガレは盗まれた書類の確認作業に移った。
男は団員の1人…ミゲルの足元に横たわる御者の死体を見付け、すべての計画の失敗を悟り、背筋が凍る。
しかし永遠とも思える激痛の中、意識を保つのは難しく、視界がぼやけてきた。それを見計らい、団員の1人のコナーが、男に近付いた。

「お前もバカだよな。お頭がどれだけコージさんに執着しているか、この1ヶ月で充分に分かってただろ」

『それでも、大金が必要だった』。そう言おうとした男は、次のコナーの言葉で頭が真っ白になり、目の前は真っ黒になった。

「お前の嫁と子供、もう死んだよ。2人に罪は無いから、苦しませはしなかったけど」


絶叫しようとした男は、ガレにうなじを踏み付けられて、そのまま意識を失った。



********************



バシャッ

「起きな」

お頭がヴァンツェに水をぶっかけて、強引に起こした。
かなりの冷水だったが、ミゲル特性の神経毒がまだ効いているのか、お頭が踏み付けた傷が響いているのか、最愛の家族を喪ってショックなのか、ずっと呻いている。

「……………………」
「起きたか? 起きたな。よーし、さっさと終わらせたいからさっさと答えろよ」

虚ろな目で空中を見詰めるヴァンツェ。半開きの口から、よだれが垂れている。
拷問も尋問も慣れきったお頭は、放心気味のヴァンツェを置いてけぼりにして、抜歯鉗子をカチカチ鳴らした。

「誰の差し金だ? コージはとにかく『死神の吐息』の情報引っ張ったのは、売れるメドがあるからだろ。ウチの情報を欲しがるのなんて同業者ぐらいだが、よくもまぁ忍び込んだもんだ。……で、お前を忍び込ませた同業者だが」

ヴァンツェはおそらく素人だろう。
子供が病気で大金が必要だったらしいし、そこに付け込んでヴァンツェを死神の吐息に送り込んだようだ。
嫌なやり方である。顔の知られていない堅気を使う奴らは多いが、こういう結末を生みかねない。

「……………なぜ、妻と息子まで……」
「お前がコージを狙って死んだと家族が知れば、お前の家族がコージを狙うかも知れない。そして復讐は必ず連鎖する。遺恨を残さない為には、最初から関係者を全て消す他にないだろ。個人的な恨みはないが、こればかりはどうしようもない」

そう、どうしようもないんだ。
お頭もこの男も、必要だからそれをするまでで、悪意があった訳ではない。
これが個人単位ならまだ良いが、国や人種で復讐の連鎖が続くと、目も当てられなくなる。残酷だとは思うが仕方がないのだ。

「早く喋れば、早く嫁さんと子供の元へ逝かせてやるよ。ほら、お前を送り込んだ奴らは?」
「………誰が教えるかよ…。家族を殺した奴に…」
「……………はぁ~…」

バギャアアアァァァァァ………ン

お頭が困ったように眉を歪めて、手元のガラスの灰皿をヴァンツェの縛られている壁に叩き付けた。
ヴァンツェの顔スレスレで灰皿が砕けた為、散ったガラスがヴァンツェの顔に細かな傷を作る。
何の躊躇もせず、『当たっても構わない』というような動作に、ヴァンツェも肝が冷えた所だろう。
俺も1度、入団前にされた事がある。どれだけ反抗的な態度を取っていても、本能的に『あ、これ逆らっちゃダメなヤツだ』と分かってしまうもんだ。

「いやー、俺って意外と短気なんだよ。困ったなァ。短気な俺イライラしちゃいそうだなァ。いや~~~困った困った」

まったく困った様子のないお頭が、綺麗な形の眉をハの字に歪めてヴァンツェに言った。
コージさんには絶対に向けない、仕事用の完璧な笑顔である。
それを見てヴァンツェは青い顔を更に真っ青にして、泣きそうな顔でポツリと呟いた。

「……………アルクェイド・ドストラ…。『ウルゲナ盗賊団』だよ…。上手く行けば、子供を助けられるって……、そう言われて」
「ほーん、やっぱりか。まぁ良いさ。もうじき…」
「失礼します」

お頭がニヤニヤと顎を擦っていると、団員の1人が地下室に入ってきた。ウルゲナ盗賊団の同行を見張っていた仲間だが、どうやら、お頭の思惑通りに行ったらしい。

「『ウルゲナ盗賊団』の頭、アルクェイド・ドストラが部下に殺されました。威圧的に振る舞ったところ、反感を買ったようです」
「ぷっ! わははwwwマジで恐怖で統制しようとしたのかwwww」

あの男、見掛けより間抜けだったらしい。力の無い奴が恐怖で統制しようとしたって、成功する筈がないのに。
お頭の言葉を鵜呑みにして、お頭のように振る舞った結果、忠誠心の薄い部下に殺されたようだ。

民間人の殺害を抑止するアルクェイドが死んで、『ウルゲナ盗賊団』はこれからも人を殺すだろう。
だがトップが死んだからと言って、俺達と交わした書類が無効になる訳ではない。
次に『ウルゲナ盗賊団』が民間人を殺した時、『死神の吐息』が『ウルゲナ盗賊団』を殲滅させる。
違反したからには死んでもらわねばならない。3回まわってワンじゃ済まないのだ。

これらはすべて、敵を一掃する為にお頭が企てた事であった。
アルクェイドを焚き付けて、生意気な態度を取らせて部下に殺させる。
失敗しても、スパイであるヴァンツェがコージを狙う所を押さえて、ゲロらせれば『ウルゲナ盗賊団』を滅ぼす理由になる。
理由付けせずに滅ぼしても良かったんだが、他の盗賊団や海賊団から警戒されては、仕事に支障が出てしまう為、わざわざクソ面倒臭い真似をしてでも、『死神の吐息』が『ウルゲナ盗賊団』を滅ぼす理由が必要だった。

こちらとしては交渉などの『分かり合うための努力』を行ったので、体裁的にも問題はないだろう。

「あと見張っとけ。民間人を1人でも殺そうものなら、自然の食物連鎖に放り込んでやれ。ちなみに人間を食うのは上位魔獣の肉食系が主だぜ」
「はい」

お頭の指示を受けて、立ち去った仲間。
これで、『ウルゲナ盗賊団問題』は完全に解決した。後はヴァンツェを始末して、ウチの番犬にでも食わせれば今日の仕事も終わり。
心置きなく、コージさんに甘えられる。

さて、今日はどうしようかな。ブラッシング、お願いしてみようかな。



********************




「きゅん! コージさぁん!」

腕を広げたコージに対して、トットコトットコ走ってモフッとコナーが抱き付いた。コージもコナーが抱き付いてきてくれた事に感激して、もふもふ蕩けている。
あのクソ狐、ひと仕事終わった解放感からか、思いっきり甘えてやがる。
どう見ても猫を被っているが、コージはそんな事に気付いていない。
引き剥がそうとコナーの首根っこを掴めば、コナーはトーン高めの声で『きゅ……』と鳴き、コージは『コラッ! ガレ意地悪しない!』と俺を咎めた。

「……………」
「……あぁもう分かったよ。ほら、ガレもこっちこい」

ぶう、と分かりやすく頬を膨らませれば、優しくてアホで単純なコージは、簡単にキスを許してくれる。
プルプルふわふわな柔らか唇に自分の口を重ねて、ギルドのド真ん中で俺はコージの口内を存分に味わった。
冒険者どもが注目しているのが分かるが、そんな事で止めはしない。幸い、ルークやロイ、聖騎士団長もいないので、堪能し放題だ。

ちゅ、ちゅ、くちゅ

「んむ…むむ……、はふ…」

まだまだ程度の浅いディープキス。セックスの時は、これと比べ物にならないくらい熱いキスをするので、コージもまだ余裕そうだ。
邪魔が入らない2人きりは本当に久しいので、調子に乗ってコージの後頭部に手を当てて、より深く絡もうとする。
コージのふわふわな眉がピクリと動き、長さ控えめなピョコピョコまつ毛が揺れた。閉じていた薄い瞼がパッチリ開かれ、いつもの3割増しで潤んだ茶色の瞳が、動揺した様子で俺を見る。
『こんな真っ昼間からギルドのド真ん中でガチキスとか正気か?』って感情がひしひしと伝わってくるが、そんな事は気にしない。
コナーを撫でていた手が離れ、俺の胸板を軽く押す。後頭部に回した右手に力が入り、左手をコージの腰に回した。
完全に密着して、勃ち上がった息子をコージの腹に押し付ける。
しばらくはされるがままだったコージだが、抵抗が本格的なものになってきた所で、俺は渋々手を離した。

「ぜぇ…はぁ…、苦しいぞスケベ!」
「悪い悪い。いや~、今日俺らな、大仕事してきて疲れてんだよ~。な、コナー」
「あ、はい。頑張りました。だからあの、コージさん…、その、お忙しいようでしたら結構なんですが…、えっと……、ブラッシングを」
「喜んで!」

ブラシを加えてコージに甘えだしたコナーに嫉妬するが、流石にやり過ぎたので、恐らくもうキスはしてくれないだろう。
だが、大好きな奴と部下が戯れているのを黙っている見ていられる程、俺はデキた男じゃないので、コナーを抱くコージごと抱き上げて、俺ら『死神の吐息』が運び込んだソファに、ボスンと座る。
背後から俺がコージを抱いて、コージがコナーを抱く三段ものになった。
コージも密着するのは好きらしいので、三段抱っこに文句はないようだ。

「ただいまコージくん! 今日ね、コージくんの好きそうな本が……、オイなにイチャイチャしてんだ離れろ」

猫なで声でギルド広場に入ってきたリイサスが、三段抱っこの俺達を見て、ドスの効いた声を出した。
本職の俺らより迫力ありそうな声と顔に、ソファの後ろのテーブルで水を飲んでいたミゲルが『え、こわ……』と情けない事を言う。

「あ、リイサスさん。お帰りなさぁい」
「うん、ただいま! でね、コージくんが読んでたらいけないから、一応キープだけしてきたんだけど、明日の午後にでも一緒に街に行かないかな? その、出来れば2人きりで、とか」
「最近リイサスさん忙しそうでしたもんね、俺も行きたいです!」
「やった! じゃあ決まりね! つーかお前はいつまで引っ付いてんだ離れろよ」

コイツ感情起伏激しいな…、なんて思っていたら、リイサスもソファに座り込んできて、ギュウギュウになってしまった。
狭いし暑いし好きでもねェ男とこんな至近距離ってのは気に食わんが、スキンシップ大好きなコージがちょっと嬉しそうに『へへ』と笑ったので、仕方なく我慢してやる。

自分でも、随分と優しくなったものだと思う。
コージの為に、コージの周辺の奴らには手を出さなくなった。
俺が『ギルドの奴らに手を出さない』と確信しているルークやリイサスも、俺達に気を許している部分はある。
例えば、コージの護衛について。
コージを守り抜ける、俺の力への信頼だ。俺がコージを傷付けないと確信して、アイツらは俺達が2人きりになる事を許している。
その信頼に応える訳じゃあないが、期待分の仕事はしてやるつもりだ。

「という事で俺も邪魔するわ」
「すんな! せっかく2人きりのデートなんだぞ!?」
「知るかバーカバーカ」

子供のような挑発に、リイサスは怒って俺の腕からコージを奪った。
コージが俺に『もぉ~意地悪すんなよ』と唇を尖らせて言ったので、ここは一旦引いてやろう。

明日は大きな仕事も入ってないし、絶対に邪魔してやる。
ついでに、俺もデート出来たら良いんだが…。取り敢えず乱入して、コージを会員制の魔導具店にでも連れて行ってやろう。
露店の食べ歩きをしても良いし、カフェでスイーツを味わっても良い。

あぁ、楽しみだ。





********************




はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです。


いつも通り遅れてすみません。
頂いたコメントでは修学旅行が多かったんですが、ツイッターアンケートではガレの優雅な日常が多かったので、今回は取り敢えず優雅(?)な日常を書きました。
頭良い人を書くってプレッシャーですね。ガレが頭良く見えなかったら、それは私がバカなだけです。
次に何かしらの記念を書く時は修学旅行を書きます。
コメント及び投票して下さった方々。ありがとうございました!






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